1.はじめに
滋賀県立彦根東高等学校は彦根城の外堀の中に位置する,県内有数の伝統校であり,令和8年に創立150周年を迎える。本校では,土曜日に教員が独自の講座を開講する「稽古館(けいこかん)」と題した取り組みを行っている。稽古館という名称は,本校の前身である彦根藩藩校の名に由来するものである。本稿では,この稽古館において実施した,生成AIを活用した英語のスピーキングとライティングを統合した実践について報告する。
2.実践のねらい
本実践のねらいは,主に次の2点である。
1.スピーキング活動とライティング活動を統合して行うことで,英語における発信力を総合的に育成すること
2.生成AIを英語学習に活用する具体的な方法を,生徒と共有して,生徒が自宅学習においても生成AIを効果的に活用できるようにすること
第一に,英語による発信力の育成を目的として,1つのトピックについて,音声でのやり取りと英作文を行った。生成AIと音声でやり取りした内容をもとに書くという流れを設けることで,トピックに関する語彙などを学び,「何を書けばよいかわからない」というライティング初期段階の負担を軽減することを意図した。 第二に,生成AIを日常的に使用する生徒は増えているものの,学習の中でどのように使うのが効果的かといった具体的な活用像を十分に持っていない生徒も多い。そこで本実践では,生成AIを英語学習の中にどのように位置付け,活用できるのかを,生徒自身が体験的に理解することを目的とした。
3.活動の概要
本実践では,生成AIの音声対話機能を用い,生徒が英語でのやり取りを行った後,その内容を基にライティング活動へとつなげた。活動の核となるのは,「音声で考えを整理し,その内容を踏まえた上で書く」という一連の流れである。
① 生成AIとの音声対話
まず生徒は生成AIと英語で音声によるやり取りを行った。使用したトピックは,「効果的な勉強方法」「新年の目標」など,生徒自身の経験や考えをもとに話しやすいものとした。 音声対話に入る前に,生成AIに対して次のような役割設定プロンプトを提示し,入力させた。
【プロンプト例】
You are a friendly English conversation partner.
Please ask me simple follow-up questions and help me explain my ideas clearly.
Please speak in short, simple sentences at CEFR A2 level.
Today’s topic is: [ここにトピックを入れる].
このように役割を明示することで,生成AIが一方的に話すのではなく,生徒の発話を引き出す形で対話が進むようにした。このプロンプトを送信したあと,音声対話を起動させることで,生成AIにこの役割を持たせたままやり取りを行うことができる。 上記のプロンプトで生成AIが話しすぎて聞き取れないという問題はかなり解消されるが,それでも音声でのやり取りに不安を感じる生徒もいるため,聞き返しや言い直しができるフレーズを事前に共有した。以下は,実際に生徒に提示した例である。
【聞き返すとき】
Could you say that again?
I couldn’t understand that part.
【考える時間がほしいとき】
Let me think for a moment.
【言い直すとき】
What I want to say is …
Let me say it in another way.
【表現を確認したいとき】
Is this expression natural?
How can I say this in English?
これらのフレーズを提示することで生徒は対話を継続しやすくなった。
②音声対話の振り返り
生成AIとの音声対話は自動的に文字起こしされるため,生徒はその内容を画面上で確認することができる。音声での対話の後,この文字起こしされたテキストを以下の点に注目して振り返った。
- 自分が伝えたかった内容はどこか
- うまく言えた部分はどこか
- うまく言えなかった部分はどこか
- 同じ内容をもう一度話すとしたらどう言い直すか
この振り返りでは,辞書を活用したり,教師と対話したりしながら,より良い表現を考える時間も確保した。音声でのやり取りが一過性の活動で終わらず,特定のトピックに関する語彙や表現,そして切り口を学び,次のライティング活動への橋渡しとなるよう意識した。
③ ライティング活動への接続
振り返りの後,生徒は音声対話で扱った内容を基に,短い英作文を書く活動を行った。テーマや構成は音声対話の内容を踏まえて設定した。英作文を書くときは,AIに翻訳させることを禁止し,生成AIとのやり取りで学んだ表現や生徒自身が持っているリソースを最大限活用させた。ライティング後は,添削プロンプトを生徒に共有し,その出力を見ながら振り返りを行った。
④ 活動全体を通して
このように,「音声で考える → 振り返る → 書く」という流れを設計することで,生徒は「何もない状態から書く」のではなく,「AIと壁打ちして出てきた内容を整理して書く」ことができるようになった。その結果,英作文へのハードルが下がり,かつ,より多角的で掘り下げた内容の文章を書くことに繋がった。
4.生徒の反応
生徒からは,「話した内容をそのまま使えるので書きやすかった」「いきなり書くよりも気持ちが楽だった」といった肯定的な声が聞かれた。生成AIとの音声でのやり取りは文字起こしされるため,後から内容を振り返りやすい点も有効であった。うまく伝えられなかった部分を確認・整理することで,復習や改善につなげる様子も見られた。単なる思考の壁打ちにとどまらず,表現を学ぶ場としても機能していたと考えられる。 また,生成AIの活用方法についても,「このような使い方があるとは知らなかった」という反応が見られ,英語学習と生成AIの活用が結び付いた様子がうかがえた。授業外の講座であったことから,比較的時間にゆとりがあり,活動の意図や生成AIを使うときのポイントを提示しながら進めることができた。
5.まとめ
本実践では,生成AIとの音声によるやり取りを起点としてライティング活動へとつなげることで,スピーキングとライティングを分断せず,統合的に学びを深めることができた。また,生徒が生成AIの活用方法を実際に体験する機会としても有効であった。 ただし,活用方法を紹介したとしても,それを家庭学習の中で継続的に実践することは容易ではない。そのため,今後は授業の中で帯活動のように繰り返し取り入れ,生成AIの日常的な活用を目指していくことが重要であると考えている。





























































