1.はじめに
長崎県の公立高校で長年勤務しているが,生徒の英語の力を伸ばすことができず,苦悩が絶えない日々が続いている。そのような状況でも,せめて生徒が参加して意味がある授業を作りたいともがいている。もちろん,英語運用能力は,一朝一夕で身につくものではないが,日々の授業が英語学習を進める原動力となったり,苦手としている生徒の心理的バリアが少しでも薄くなったりするような授業づくりを目指している。
これまで,多くの素晴らしい先生方や,生徒達との出会いがあったが,CLIL志向の授業に挑戦してみようと思った大きなきっかけは白井龍馬先生(福岡教育大学<令和7年度現在>)との出会いである。白井先生の模擬授業に参加し,自身が英語を楽しく学びながらも,語学としてだけではなく知的にも鍛えられている感覚を有し,大人ながら,ワクワクしながらその研修会に参加をすることができた。この経験からCLILに興味を持ち,CLILの手法を検定教科書で用いてみようと考え,現在多くの実践を積み重ねている。うまくいかないことも多く,いまだに何か目覚ましい成果をあげているとは言い難い。その中でも生徒が積極的に授業に取り組む姿を多く見ることができるようになった。本稿を通じて,一人でも多くの方の授業がより豊かになる思考のきっかけとなれば幸いである。
2.CLILと検定教科書
和泉(2024)では「CLILとはContent and Language Integrated Learningの略称で,言葉の教育と内容の教育を統合して行うことによって,双方の学びを豊かにすることをねらった教育アプローチ」としており,日本語では「内容言語統合型学習」と言われている。詳しくは,専門書を読んでいただきたいが,検定教科書を用いたCLIL授業になるため,各課のまとめ学習として,教材に関連した抽象概念を取り上げ,教材で出てきた表現や英語の構造をさらに定着させることを狙いとした,Soft-CLILと分類されるアプローチに挑戦をしている。このアプローチは言語学習に向いているとされている。
検定教科書は,多くの時間をかけて複数の有識者により執筆されているため,英語の質や内容の確かさ等が安定している反面,文章の数が不足していたり,発展的な内容が薄くなったりするという課題もあるのではないだろうか?勤務校ではELEENTⅡを採用しているが,多様な生徒がいるため,教科書だけでは物足りない生徒から教科書の内容を理解することに多くの時間を必要とする生徒まで幅広い。令和7年度は,特に教科書の内容を補完し,さらに英語の運用能力を高める学習機会を作る授業としてSoft-CLILの授業を構成した。検定教科書の言語材料とその質の安定性,及び多くの生徒の興味関心を引こうとする素材の力を借り,さらに言語的にも内容的にも豊かにするために以下のような抽象概念を設定した。
(抽象概念の例)『ELEMWNT Ⅱ』の場合(各課のタイトル:抽象概念の順)
Lesson 2 Stay Hungry, Stay Foolish: Happen-stance theory
Lesson 3 How Did Pink Become “Girl’s Color” in America: 流行の興亡
Lesson 4 Life in a Jar: Activists
Lesson 5 Predictably Irrational: Ethical Consumption
Lesson 6 A Long Way Home: Identity Crisis
Lesson 7 Putting iPS Cells into Practice: Bioethics
3.授業展開例(『ELEMENT Ⅱ』 Lesson 5 “Predictably Irrational”)
CLILの授業を展開する上で,まず大切となるのが「4つのC」と呼ばれるものの設定である。同時に,「具体と抽象」や「PPP」といったキーワードを頭に置きながら授業や教材を作成するように心掛けている。
〇「4つのC」の設定
Lesson5のSoft-CLILの授業を行うにあたって,以下のように4つのCを設定した。

〇授業展開例(※授業で使用したワークシート)
1時間目/2時間
・スモールトーク “If we have another Reiwa rice-panic, what would you do?”
・抽象概念“ethical consumption”の導入 Listeningにて実施。
・T/F問題や教師が挙げる実例から,ethical consumptionの内容理解を深める。
・Ethical consumptionに関するDiscussion
2時間目/2時間
・1時間目のDiscussionの続き
・Ethical consumptionに関するessay writing
・相互評価
〇授業をしてみて
・スモールトーク
この活動は,授業にスムーズに入っていくことを目的としているため,内容的負荷を下げるために,3つの選択肢を示した。それぞれについて生徒は,その選択の理由を含めて英語で意見を交換した。CLILの授業では言語負荷と内容負荷が同時にかからないように工夫する点も心掛けている。
生徒発言例:I will stop eating rice because I can live eating bread or noodles.
I will keep buying same quality rice because I can’t imagine life without delicious rice.
・抽象概念”ethical consumption”の導入
Ethical consumptionの講義調の説明文を英語で作り,AI音声を使いリスニング教材を作成した。1度目は概要だけ取らせ,2度目以降はワークシートの空所補充を使い,理解を促した。
・T/F問題や教師が挙げる実例
ここでは,概念の理解を深めるために,T/F問題で内容の確認をしたり,実例と概念のポイントを照らし合わせることで,今後の活動で生徒が考えていくethical consumptionの実践についてつながりやすくなるようにしたりした。
・Ethical consumptionに関するdiscussion
身近なことで,ethical consumptionになりそうなことを,導入した抽象概念からまずは個人で考え,その後facilitatorを中心としたgroup discussionをおこなった。最後の意見をshareする場面では,facilitatorが各班で話した内容をまとめた。
生徒発言例:We should buy products whose best-before date is close in order to prevent us from causing food loss.
・Essay writing
架空の雑誌にethical consumptionをお勧めする記事を英語で書くというタスクを設定した。その際には,理解した定義や,discussionの内容を反映できるようにデザインをした。
4.生徒のEssay
( ほぼ原文のまま )
(生徒A) Have you ever thought of where a product you’re going to buy is produced, by whom and whether its price is fair or not? If you start to think about these things, your arm reaching for what you want would stop. This is the very beginning of “ethical consumption.”
Ethical consumption means choosing products and services in a way that is good for people, society, and the Earth. One of these examples is fair trade which is a way of buying and selling products that makes certain that the people who produce the goods receive a fair price. If you buy a fair trade products, working children in a developing country could be close to their future, going to school. Imagine your small act makes children smile. You would feel happier than when you can get a discount. Actually, this is science-based fact. Giving others’ own time or money gives us an emotional boost. Chemicals such as dopamine, oxytocin, and endorphins are released when we do something to help other people. While they satisfaction from receiving a benefit is temporary, the satisfaction form helping others is consistent.
Practicing ethical consumption would enrich your feeling. Next time you go shopping, think about what is ethical for the world.
(生徒B) Do you know that you can do something good by just changing what you do while shopping? That is ethical consumption. It is a way to consume something for people, society, or the environment, not just for saving your money. For example, there are vending machines for donation. Drinks in the machines are a little bit expensive, but we can donate money for people suffering from illness. You don’t have any extra money to donate, do you? Then, you have only to bring your eco-bag when shopping. It is good for the environment because fewer plastic bags will be used. Also, that would be your benefit, because you never have to look for room to stock plastic bags which you used only once and throw away.
(生徒C) Now, we have many environmental issues. One of means to solve them is “Ethical Consumption.” Do you know “Ethical Consumption”? It means when you get or buy something, to choose items in a way that is good for people or the Earth. Do you look a pen which you’ll buy carefully? Most people may not, but I know eco-friendly pens. They are made form reused plastics, so if we buy them, we can help reduce plastic trashes around the world. I think that knowing about eco-friendly products is the first step to ecological. I wish people who read this article have some interest about Ethical Consumption.
5.現在の授業の作り方
ここまで読んでいただいた方の中には,このようなことが果たしてできるのか不安に思われる方もいらっしゃることではないだろうか。初めて挑戦することは,簡単にはいかない。私自身も多くの方と話をしたり,AIとやりとりをしたりしながら,授業を作っている。主には以下のような手順で授業の展開を考えるようにしている。
① 抽象概念を設定する
② タスクを設定する
③ 「4つのC」を設定し妥当性を確認する
④ 評価の方法を決める
この4つは,3.でリンクを貼っている授業ワークシートと見比べていただけると,その意図をくみ取っていただけるのではないだろうか。①の抽象概念の設定には毎回時間がかかるが,教科書本文のテーマやキーワードを突破口にしながら多くの方々のお知恵を借りながら設定をしている。②のタスクの設定では,エッセイの寄稿や,インタビュー記事の作成,ディベートといったものを設定し,学んだことを使って表現をする機会を作っている。③では,特にHOTS(高次思考力)を考えながら授業デザインがCLIL的になっているかを確認するようにしている。HOTSには,「分析」,「評価」,「創造」がある。「分析」を使えば,導入した抽象概念と教科書本文の内容等が合致するのか(Lesson 5では,高濱が提示した例がEthical consumptionと言えるのか)を考えることができ,「評価」を使えば,教科書内容等や自分の考えがどのように見えるのか(Lesson 4では歴史上の人物等の他者をactivistの概念を用いて,activistと言えるのかを評価する)を考えることができる。④では,自己評価欄等を作ることで,自他の評価を認知し,次へのステップにつなげることができる。
この手順はCLIL初心者として少しでも安定的にCLILの授業を作るのに役立っている。CLILだけではなく授業づくりはいくら時間をかけても終わりが見えず,いくら考えても何かが足りなかったり,多すぎたりするのではないかと不安も多い。そのような際に,こういった手順を持つことは一つの判断基準として自分の心を支えてくれている。
6.CLILの授業の効果検証
福岡教育大学の白井龍馬先生にSoft-CLILの授業を行う前にpre-writingを,行ったあとにpost-writingを行い,その結果を比較検証する調査を行っていただいている。主な結果として,産出される英文の「流暢さ」と「内容」の項目について向上が挙げられる。また,これらの効果が授業後2週間たったdelay-writingでも保持されていた。逆に,「複雑さ」と「正確さ」に課題があったため,Lesson6では無生物主語を言語ターゲットとして明確に設定する授業も設定した。その後,あちこちの場面でenableといった動詞や,動作の名詞化の使用がみられるようになった。これらのことは,Soft-CLILの授業の可能性を実感すると同時に,教員による狙いの設定が生徒の学習を左右するため,その重要さを再確認することともなった。
また,生徒にもCLILの授業への意識調査を行った。6つの選択肢質問と2つの自由記述質問をおこなった。
〇質問事項(回答総数38)
質問1 CLILの授業で扱ったテーマ(内容)を理解することができた。
質問2 CLILの授業で扱った身近なことや社会の問題について,自分で考えることができた。
質問3 英語を,文法や単語の勉強だけでなく,「考えるための道具」として使えた。
質問4 英語で自分の考えを伝えることに,少し自信がついた。
質問5 CLILの授業を通して,英語を学ぶことへの興味が高まった。
質問6 これからも,このような授業を受けてみたいと思う。
質問7 CLILの授業で「よかった」「面白い」と感じたことを書いてください。
質問8 CLILの授業で「難しい」「大変だった」と感じたことを書いてください。

質問7については,他者との交流や共同を通じて,学習が高まったことや,英語表現の幅が広がったという声に加えて,自己理解や社会課題への意識が高まったとする回答が多くあった。
質問8については,自己の英語力不足や,普段考えないことへの思考への困難さをあげる生徒が多かった。
上記の結果からも,CLILが内容学習も語学学習にも効果があり,学習者の学習モチベーションを上げる大きな可能性を確認することができたといえるのではないか。実は,同じアンケートを英語を苦手と感じる生徒が多いクラスで実施してもほぼ同様の結果が得られたことも,興味深く,CLILの奥深さを感じることができた。もちろん,全ての生徒が満足をしているわけではなくまだまだ改善の余地はあるが,CLILの可能性について少しでも皆様に伝われば幸甚である。
7.終わりに
これまで,CLILの手法を取り入れて1年を超えて授業を組み立てる機会を作ることができた。受信だけではなく発信の機会を多く作ることで,これまでになく生徒の英語技能の上達を感じることが多くなった。Lesson6のでは,言語の設定として無生物主語を設定し,多くのインプットを与え,アウトプットが自然とできるタスクを設定した。その一か月後に,ある生徒がディスカッション中に”This will allow us to ~”と無生物主語を用いた表現を自然と用いており,学習した内容をアウトプットとして用いている場面を目の前にしたときは何とも言い難い喜びを感じることができた。また,校内の考期考査や実力考査でも,CLIL志向の授業を実施したクラスの成績の伸びが,他のクラスよりも大きいことも最終的に確認された。まだまだ,課題も多いがこれからも生徒の英語運用能力が高まるきっかけとなる授業づくりを追い求めていきたい。
【引用文献・参考文献】
池田真 (n.d.). 『教育現場でのCLIL活用のポイント』:増進堂・受験研究社
池田真・和泉伸一・渡部良典 (2011). 『CLIL(内容言語統合型学習:上智大学の新たなる挑戦 第1巻』上智大学出版
池田真・和泉伸一・渡部良典 (2016). 『CLIL(内容言語統合型学習:上智大学の新たなる挑戦 第3巻』上智大学出版
和泉伸一 (2016). 『フォーカス・オン・フォームとCLILの英語授業:生徒の主体性を伸ばす授業の提案』アルク
和泉伸一 (2024). 『実践例に学ぶ!CLILで広がる英語授業』大修館
上山晋平 (2022). 『英語トリオディスカッション指導ガイドブック』明治図書
小橋雅彦 (2021). 『若い英語教師のための教材研究入門』大学教育出版
鈴木祐一 (2024). 『あたらしい第二言語習得論』研究社





























































