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  • 理科 / 物理

生徒実験による探究的な学びの実現を目指して

神奈川県立川和高等学校
中島 一紀

2026.04.15

1.はじめに

物理の学習においては,実験こそが「主体的・対話的で深い学び」につながるのものである。実験から学べることには,問題集や参考書にはない真実や発見があるかもしれない。このことを生徒に伝えるために実践している授業例の一つとして,高校物理の学習で重要な「運動の法則」を理解するための実験を紹介する。

2.生徒実験「運動の法則」

実験の方法は【ワークシートと提出用レポート】で詳しく示している。まずは,実験に使用した器具を写真で紹介する。

力学台車の走行距離を確保するために,糸をとおす精密定滑車は2つ使用した。机に近い側の定滑車はあらかじめ木材に固定してクランプでセッティングできるようにしておくと実験の準備が容易になる。また,力学台車に載せるおもりには,市販のアンクルウェイトを購入して使用した。この実験では,正確に500 gや1 kgの質量である必要はないため,理科のカタログ品よりも安く入手できる。

学校の予算が少なく,実験器具が買い揃えられないことが理由で実験による学びをあきらめなければいけないという状況は,公立学校の理数教育で最優先に改善されるべき課題であると思う。こういった実験準備におけるノウ・ハウを共有することにも意味があるだろう。

さて,この実験で工夫していることには,次のようなものがある。

 

(1) グラフを描く

滑車にとおした糸に吊るした分銅にはたらく重力を用いて,台車を運動させる。このとき,物体系にはたらいていた力と生じた加速度,総質量の関係について,記録テープの打点から解析する。

実験Aでは<物体系の総質量が一定の条件>で測定を行い,実験Bでは<糸に吊るす分銅の数が一定の条件>で測定を行う。それぞれの実験結果を読み取るためにグラフを描くことが,考察のポイントに気付かせる工夫である。数値のみの実験データを見ていても気付けないことが,グラフを描くことで見えてくるという経験を生徒に実感させたい。

 

(2) 物理量と単位の関係

実験レポートにおける表やグラフ中の物理量については,国際純正応用物理連合 (IUPAP) が推奨する記法[1]を用いて,「物理量と単位の関係」を正しく示すように指導している。

公益社団法人の物理オリンピック日本委員会が主催する「物理チャレンジ」(高校生や中学生を対象とした,国際物理オリンピックに派遣する日本代表選考を兼ねた全国規模の物理コンテスト)において,第2チャレンジの実験問題の中に「物理量の記法に関する注意事項」[2]としてわかりやすく示されているため,参考にしてもらいたい。

個人的には,教科書や問題集等におけるの図表の表記についても,国際純正応用物理連合 (IUPAP) が推奨する記法に統一することで,物理の初学者が「物理量と単位の関係」に矛盾を感じることなく学習を進められるようになるのではないかと考えている。理数教育の発展のためにも,各出版社には国際的に整合性のある表記への改善を期待したい。

 

(3) 実験中の指示

本校は50分授業の時間割であるため,この実験は時間割変更の手続きをして2時間連続の授業として実施した。板書例や授業中のようすは写真のとおりである。

実験方法について,生徒同士が議論する場面を大切にしたい。実験器具を触って,動かしてみて学べることもあるはずだ。データの記録に失敗する経験も必要だろう。実験中の教員による生徒への指示は「そのセッティングでいいの?」といった問いかけに留めるように気を付けている。

実験データを記録するだけであれば1コマ分の授業でも実施は可能であるが,その後の記録テープの解析やデータの共有で気付いたことを生徒同士が話し合える時間を授業中に確保できると,主体的で対話的な学びの場面が生まれる。ここでも,教員による生徒への指示は「その視点は面白そう,調べるにはどうすればいい?」といった問いかけに留めることで,自由な発想で実験による学びを楽しんでもらいたい。

3.評価の手法

レポート作成で気を付けてほしい項目をまとめた【評価シート】をCAN-DO-LISTの形式で示した。生徒が評価項目の達成をセルフチェックすることで,レポートの内容が一定以上のレベルで仕上がるため,この方法には効果を感じている。

また,評価シートをレポートと一緒に提出させて,各項目を教員がチェックして評価の基準に使用している。これは,複数の教員で同じ科目の授業を担当し,それぞれが同じ実験を実施して講座の生徒の実験レポートを評価するときに,評価基準にブレが生じないようにした工夫である。さらに,教員が評価項目で✕のチェックを付けた内容については,レポート添削時にコメントしなくても生徒に伝えることができるというメリットもある。

実験レポートの内容は,〔思考・判断・表現〕の観点での評価資料として活用している。基本的には,評価シートの項目を丁寧に確認しながらレポートを書き上げることができれば,A評価以上になるように基準を設定しているため,生徒は実験のレポート作成に対して意欲的に取り組むことができている。生徒にはA評価の基準をクリアした上で,より良いレポートとなるように様々な視点で考察にチャレンジしてもらいたい。

4.レポート講評とレポート見本

実験後に提出される生徒の実験レポートの内容を確認し,考察の視点や手法を評価しながら適切なアドバイスをコメントする作業には,かなりの時間と労力を必要とする。

生徒には,実験で得られた結果に対して,誤差の要因などを考察することで深い学びにつながるようにレポートの内容を指示している。実験レポートを書き上げるまでの生徒の努力に対して誠意をもって添削したいと考えていても,レポートの内容によっては同じコメントをすることも多い。そこで,考察の視点や手法と良いレポートの考察例,深い学びにつながるような関連研究などを【レポート講評】にまとめて紹介することにした。

レポート講評によって,この実験から学べることを生徒に伝えられるようになり,生徒のレポート添削にかかる時間を軽減することができている。

また,生徒実験を実施する前の予備実験データを用いてレポート見本を作成し,レポート返却時に提示することにしている。レポート見本は,生徒に気付いてほしかった有効数字の処理や考察のポイントなどを踏まえて作成したものであるため,生徒が自らのレポートを見直すときに参考になる。

生徒が実験の経験を積むたびに提出されるレポートの内容が向上し,指摘するミスが少なくなっていくことは嬉しい変化である。

5.レポートの再提出

生徒には,返却されたレポートの評価シートの項目を再度チェックして,レポート講評やレポート見本を参考にレポートを再提出することを認めている。ただし,自分の最初の考察を書き直してしまうと実験による学びの過程を記録として残せなくなるため,別紙などに新しい視点での考察をまとめるように指示している。

成績評価を気にする生徒の再提出が多い印象であり,この方法で期待している効果を感じることは多くはないが,評価シートでB評価となった生徒がレポート作成の礼儀作法を学ぶ機会としての意義もある。

6.おわりに(謝辞)

今回紹介した生徒実験「運動の法則」の内容は,私が1都3県(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)の教員人事交流制度により埼玉県立大宮高等学校で勤務した2年間に,吉崎潤先生にご教授いただいたものである。実験のレポート講評による考察例の紹介や深い学びへ誘導する仕掛けは,とても参考になった。

添削後に返却されたレポートと見比べながら熱心にレポート講評を読み込む生徒の姿勢には,『生徒実験による探究的な学び』の可能性を感じている。生徒が興味・関心をもった自然現象に対して,科学的に探究する手法を学ぶことが理数教育において必要とされることであろう。

本稿をお読みいただいたことで,授業実践の参考にできるものが一つでもあれば嬉しく思う。また,啓林館のホームページにおける物理授業実践記録で,生徒実験による探究的な学びの一例を紹介できたことが,理数教育への貢献につながることを願っている。

 

【資料】
生徒実験「運動の法則」のワークシートと提出用レポート
生徒実験「運動の法則」の評価シート
生徒実験「運動の法則」のレポート講評

【参考文献】
[1] The International Union of Pure and Applied Physics (2010). SYMBOLS, UNITS, NOMENCLATURE AND FUNDAMENTAL CONSTANTS IN PHYSICS. https://iupap.org/wp-content/uploads/2021/03/A4.pdf. 2026年2月15日.

[2] 公益社団法人 物理オリンピック日本委員会 (2025). 物理チャレンジ2025 実験問題 2025年8月22日(金). https://www.jpho.jp/challenge/media-download/960/058f0737a1e2be15/PDF/. 2026年3月24日.

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