1.はじめに
生徒に正解を早く手渡すことよりも,一つの問いの前で立ち止まり,他者の考えに触れながら自分の理解を少しずつ組み替えていく時間を大切にしたいと考え,LMS(学習管理システム)上で共に学ぶ英語の授業に十数年来取り組んでいる。きっかけは,ある生徒がLMSに自分の考えを書き込むことをためらった出来事だった。理由を尋ねると,「正解かどうかわからない意見を,クラス全員の前にさらすのが怖い」という答えが返ってきた。教師だけに提出する答案であれば誤りは教師と自分の間にとどまるが,LMSに投稿すれば未完成な考えが同級生の目にさらされてしまう。生徒にとって投稿は,自身の学びの機会である前に,級友から評価されるリスクを伴う行為だったのである。
この経験から,授業を「生徒同士がLMS上で考えを交わし合う協働学習」と,「生成AIを使って個々のペースで取り組む自律学習」の二つの軸で組み立て直した。両者は目的も進め方もまったく異なるため,あえて明確に使い分けている。本稿では,この二つの学び方の具体的な姿と,両者がどのように生徒の変化を支えているかを紹介したい。
2.LMSを使った協働学習 ― 生成AIを使わない場
本実践は,高等学校の英語コミュニケーションⅠ〜Ⅲの授業で,1~3年生,各クラス30名前後を対象に,通年にわたって行っている。授業は「教師がLMSに課題を投稿する」「生徒が個人で考える」「グループで相談する」「グループの解答をLMSに投稿する」「クラス全体で読み比べ,教師と生徒が問い合う」という流れを基本形としている。
扱う題材は,検定教科書の英文解釈,和訳の妥当性の検討,大学入試問題の解法説明など,日々の授業で扱う小さな問いである。たとえば「多国籍企業のアフリカでの事業拡大は現地経済にとって良いことだという主張に反論せよ」といった課題を出すと,生徒は英語で,あるいは日本語を交えながら,互いの意見を積み重ねていく(図1)。ここで生徒が向き合っているのは生成AIの回答ではなく,クラスメートの主張である。

図1 LMS上での討議:多国籍企業をめぐる課題に対する生徒同士の意見交換
検定教科書に沿った例としては,『ELEMENT Ⅱ』Lesson 1「The Culture Map」で複数の国を高コンテクスト・低コンテクストの軸でランキングし,その理由をLMS上で議論する課題や,Lesson 2 “Stay Hungry, Stay Foolish” の実践がある(図2・3)。後者は教科書では抜粋・要約のため,スティーブ・ジョブズのスピーチ映像を視聴したうえで「教科書にはなかった情報を聴き取ってクラスと共有しよう」という課題を出す。生徒は「ジョブズは養子である」といった情報を各自で拾い上げ,コメント欄で共有し合う。さらに「がんの宣告を受けたのち,周囲の医師たちが泣き出したのはなぜか」と,行間を読む力を試す問いも投げかける。教科書を出発点にしながら,教科書だけでは終わらない気づきを持ち寄る場として機能している。

図2・3 『ELEMENT Ⅱ』Lesson 1「The Culture Map」・Lesson 2「Stay Hungry, Stay Foolish」: 教科書にない情報を動画から聴き取り,議論・意見共有する活動(LMS)
もう一つの柱が,検定教科書の担当箇所を生徒自身が教壇に立って解説するピア・ティーチング型活動である。担当する生徒は授業前に本文の構造や背景知識を調べ,説明資料をLMSに投稿したうえで授業に臨む(図4)。他の生徒は聞き手にとどまらず,質問者,補足者,別解の提案者として参加する。説明者は一時的にメンターの役割を担うが,質問に答えられなければ,逆に質問した生徒から学ぶ側に回ることもある。この立場の入れ替わりが,教室全体で理解をつくり直す時間を生んでいる。

図4 生徒が教壇に立つピア・ティーチング型活動:担当グループが投稿した説明資料
この協働学習の場面には,生成AIを一切持ち込んでいない。生徒同士が互いの誤読や着眼点に,何にも媒介されず直接触れる機会を確保したいと考えているためである。
3.生成AIを活用した個別の自律学習
放課後や家庭学習の時間には,生成AIを活用して筆者自身が構築した学習支援ツール「英語自律学習コーチ」を導入している(図5)。生徒の習熟度や学習ニーズに応じて個別に学習を進められるよう,教材の提示,課題へのフィードバック,学習記録などの機能を組み込んでいる。生徒は英検レベルや興味・関心に応じた教材で個別に学習し,学習ログを蓄積していく。生徒が提出する学習ログは,学習リンク・英検レベル・リプロダクション評価・学習時間・その日の気づき・システムへの改善リクエストの6項目からなる(図6)。教師は学習リンクから個々の学びの現状を確認し,その後の授業づくりに活かすことができ,またシステムへの改善要望は必要に応じてシステムの仕様設計を見直す材料になっている。



図5 自律学習コーチでの実際の学習例:4コマ漫画のリプロダクション課題と生徒の手書き提出,AIからのフィードバック(学習リンクから個々の学びの全容が確認できる)

図6 学習ログの一覧(生徒から提出される6項目に及ぶ「英語自律学習コーチ」の学習記録)
英作文については,模試や大学入試の出題傾向と一般的な評価観点を参考に筆者が設計した,英文を評価・添削する専用の生成AIシステムを用いている。京都大学や大阪大学などを対象とした大学別模試の英作文と,全国模試の英作文について,それぞれの形式に応じて評価・添削を行う。なお,AIが示す得点や評価は学習上の参考とするものであり,実際の模試や大学入試における公式の採点結果を再現・保証するものではない。
生徒はこれを紙の振り返りシートと組み合わせて使っている。模試の問題や授業での英作課題に対する自分の解答をシステムに入力し,AIが示した評価や減点理由を「形式・条件」「文法・表現」「内容・論理」の観点ごとに自分の言葉で書き出す。そのうえで,AIが示した解答例をそのまま書き写すのではなく,指摘を踏まえてもう一度自分の手で英文を作り直す「リライト」を課している。
ある生徒の振り返りシート(図7・8)では、初回の参考評価が10/23点だったのに対し、リライト後は20/23点となっている。生徒は当初、課題で求められた反論が十分にできていなかったことや、文法・表現上の問題点を自ら分析した。さらに、AIが誤りと判断した表現についても、意味が同じではないかと疑問を投げかけ、評価の妥当性を問い直している。こうした過程を経て英文を書き直し、次回に向けて冠詞の抜けや設問の条件を正確に読み取ることなどを課題として挙げている。ここには、AIの添削結果を受け取るだけでなく、生徒自身がその内容を吟味し、答案を改善する一連の学習過程が表れている。
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図7 英作文添削システムの振り返りシート(初回):AIの評価をもとに減点理由を分析し,自ら の疑問点を問い直す
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図8 同振り返りシート(リライト):自分で英文を書き直し,参考評価が10/23点から20/23点 に変化した過程と次回への教訓
生成AIとのやり取りでは,必ず一度は「その判断の根拠は何か」「別解が成り立つとすればどんな条件か」と問い返すことを求めている。AIの出力を完成品としてではなく,次の問いを生むための材料として扱うことで,AIに従うことと,AIとの対話を通じて自分の判断の根拠を取り戻すことの違いを体感してほしいと考えている。ここで培われた根拠を確かめる姿勢はLMS上でグループの考えを検証する土台になり,逆に,グループでの対話から生まれた疑問は次の自律学習に持ち帰られる。二つの学び方は,互いに行き来しながら一つの学びを形作っている。
4.生徒の変化
もっとも印象的だったのは,LMSへの投稿に対する生徒の捉え方に変化が見られたことである。導入当初,投稿は生徒にとって,自分の答えが正しいか間違っているかをクラス全員の前で判定される場だった。しかし,グループで相談し根拠を添えて投稿し,他のグループの答えを読んで見直すという経験を重ねるうちに,投稿は「完成した答えを見せる場」から「学びの途中を見せ合う場」へと変わっていった。
この変化は,LMSの投稿を時系列で読み比べるとよくわかる。導入初期(2024年7月)の記録では「一番ミスが少なそうだった」「日本語として読みやすい」といった,訳文を受け取った印象に基づくコメントが目立った。ところが同じ形式の活動を続けた11月の記録では,「itは形式主語では/無生物主語の訳」「asは譲歩とmoreの比較対象の明確化」というように,他者が検証できる文法的根拠に基づくコメントへと変化が見られる(図9〜11)


図9〜11 LMSコメントに見られる変化(図9:導入初期7月/図10・11:11月)
2年生を対象とした授業アンケート(集計対象93件)では,「AIとの対話によって新しい疑問や問いが生まれた」「一つの正解だけではないことを考えるようになった」といった項目を含む「AI活用」と「問い・思考」の観点が平均3.9程度ともっとも高かった(図12・13)。一方,「協働学習」の観点は平均3.5程度であった(図14)。ただし,この観点については,LMS上での意見共有や相互のフィードバックを対象として回答するよう生徒に説明しており,日常的に行っているペアやグループでの議論や学び合いは評価に含まれていないので,この数値を協働学習全体に対する評価として捉えることはできない。項目別に見ると,他者からのフィードバックを役立てることに比べ,自ら他者へフィードバックすることへの評価が低く,LMS上での双方向の学び合いには改善の余地がうかがえる。一方、自由記述に寄せられた「英作文を匿名で生徒に公開できるシステムが欲しい。上手い人の勉強法などを参考にしたいから」という要望は、AIとの対話だけでは満足せず、友だちの実際の学びを見たいという欲求を生徒自身が持っていることを示している。数値だけで実践の成否を語るつもりはないが,AIの活用や問いを深める学習について生徒が肯定的に捉えていることは,本実践の方向性を考える一つの手がかりになっている。

図12 授業アンケート「AI活用」の回答分布(生成AIを授業に導入した年度の1学期末に実施。
「1=全くそう思わない」から「5=とてもそう思う」までの5段階)

図13 授業アンケート「問い・思考」の回答分布(5段階)

図14 授業アンケート「協働学習」の回答分布(5段階)
*図12~14のアンケートは,2年生を対象として生成AIを授業に導入した2026年度の1学期末に実施したものである。五つの観点にわたる全20項目の回答分布と,選択式の回答だけでは捉えきれない生徒の自由記述については,文末のリンクから詳しく見ることができる。数値に表れた傾向と生徒自身の言葉を併せて参照いただき,本実践の成果と課題を多面的に捉える資料としていただければ幸いである。
5.おわりに
もちろん課題も残っている。これまで正解だけで評価されてきた生徒ほど,未完成な考えを共有することに強い抵抗を感じるため,学びのプロセスを重視する評価基準を授業を通じて繰り返し示していく必要がある。また,AIが流暢に説明するほど,生徒はそれを無条件に正しいものとして受け取りやすくなるため,答えだけを求めるのではなく常に問いを大切にする姿勢,回答を検証する具体的な手法を授業の中に組み込み続けたいと考えている。
私が目指しているのは,全員が同じ正解にそろって伸びていく教室ではない。生徒一人ひとりが異なる問いを持ち寄り,それを排除せず交わし合いながら,自分だけの問いを磨いていけるような教室である。生成AIによる個別の伴走と,LMS上での生徒同士の直接の対話。この二つを両輪として,これからも授業をつくり変えていきたい。
※本稿に掲載した生徒の学習記録やLMS画面等については,必要な掲載許諾を得るとともに,個人が特定されないよう処理を施している。また生成AIの利用にあたっては,個人情報等を入力しないよう指導するなど,情報の取扱いに配慮している。
※図4で紹介した,生徒が教壇に立つピア・ティーチング型活動の担当グループが投稿した説明資料は以下のリンクで実例が確認できる。ぜひ参照いただきたい。
■ 生徒作成授業ファイル❶(Lesson7 Section1)
■ 生徒作成授業ファイル❷(Lesson8 Section4)
【参考文献】
・啓林館 英語コミュニケーション教科書 ELEMENT Ⅰ
・啓林館 英語コミュニケーション教科書 ELEMENT Ⅱ





























































