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  • 探究活動

生徒のキャリアを育てる錦丘の探究活動の取り組み

石川県立金沢錦丘高等学校
青柳 陽介

2026.10.01

1.はじめに

本校は,明治32年(1899年)創立の石川県第二中学校を前身とし,県立金沢第二中学校を経て,昭和38年(1963年)に金沢錦丘高等学校として新設されました。平成16年(2004年)併設型中高一貫教育校として県内初の県立金沢錦丘中学校が併設され,今年度創立63年を迎えました。「大きな心と強い意志を持ち,学問に熱心であれ」という意味の校訓「弘毅篤学(こうきとくがく)」のもと,「高い志を育み,豊かな心と知性,健やかな身体を培い,地域や国家,国際社会の持続可能な発展に貢献できる人材を育成する」を教育目標としています。近年では「探究を軸としたキャリア教育」を合言葉に,生徒が主体的に自分のキャリアについて考える機会を数多く設けた教育活動を展開しています。昨年度より,総合的な探究の時間,キャリア教育,図書館運営の業務を統合した「探究未来課」が設置され,生徒の「なりたい自分」や夢の実現をサポートしています。

2.本校の探究的な学びを通して身に付けさせたい力について

探究学習は非認知能力(社会情動的スキル)を育成するという観点での親和性が指摘されています。本校では非認知能力を,探究活動を含む全ての学校教育活動を通じて生徒に身に付けさせたい力と位置づけ,21の資質・能力に細分化し,生徒と共有しています。(資料1)各々が1つでも自分の強みを発見したり,意識的に特定の力を伸ばし,発揮しようとすることができるよう,あえて網羅的に数多くを提示しています。それぞれの詳細は生徒専用ウェブサイトに専用ページを開設し,いつでも閲覧し確認できるようになっています。さらにこれらをThinking(考える力),Communication(コミュニケーション力),Leadership(リーダーシップ)の3つに分類することで,特に3年次に職業選択や社会における自身の役割について考え,進路選択に生かせるようにしています。生徒が21の非認知能力と3つの分類を通して自分の強みを知ることで,人生を豊かに自分らしく生きてほしい(本校ではCareer Well-beingと呼称しています)という思いが込められています。

資料1

3.総合的な探究の時間のカリキュラム再編と探究未来課の設置

2022年度より3年間,本校は一般財団法人三菱みらい育成財団からの助成(カテゴリー1)を受け,新学習指導要領の本格実施に合わせて,総合的な探究の時間のカリキュラムの再編などに取り組んできました。以前より本校では防災教育や地域探究活動を積極的に実施していました。一方で,それぞれの行事や取り組みがやや散発的で,生徒が目指す姿が何なのか,教師にも生徒にも分かりづらい面がありました。そこで,まず初めに前述した資料1の非認知能力を,身につけさせたい力として明文化したうえで,それらをピクトグラム化(本校美術部作成)し,誰にとってもわかりやすい目標として設定しました。また,学校評価ともリンクさせ,アセスメント調査を年2回実施し,生徒の実態把握に生かしています。                                                                        次に,これまで行ってきた探究活動に関係する事業を年間行事計画の中で有効に活用できるよう,日程を見直しました。一見地味な作業ですが,年間行事を検討する段階で,当年度の課題を確認しておき,次年度に生かすことは,探究活動においては非常に大切な要素です。変更には年単位で時間が必要なうえ,他の校務分掌や学年,管理職との調整が欠かせません。毎年少しずつ見直される年間計画の中でいかに有効に時間を確保するか,また,教職員からいかにコンセンサスを得るのかは,常に考えておく必要があります。
次に,生徒と教師が探究活動に対する考えを共有できる副教材を選定しました。探究活動には「リサーチクエスチョン」「仮説」「フィールドワーク」などの専門用語が数多く存在します。そのうえ,探究活動を進めていく上で,先を見通した活動が大切であり,成果物の作成や発表など,生徒も教師も様々なスキルが求められます。本校では「課題研究メソッド2nd Edition(啓林館)」を中学3年生から高校3年生用の副教材として採用し,各用語や活動の目線合わせのために使用しています。また,探究活動の指導に苦手意識がある教師にとっても指導する際の根拠になっています。                                                         最後に,本校として最も大きな変革だったのは,組織を再編して「探究未来課」を設置したことです。2024年度までは,学校全体の探究活動の担当は,教務課の一部(担当1~2名)として組み込まれていましたが,2025年度より「探究活動」「キャリア教育」「図書館運営」を統合し,独立した課として設置しました。三菱みらい育成財団の助成を受けた3年間の中で得られた知見を活かしつつ,探究活動とキャリア教育の親和性,また,書籍や新聞等のメディアを活用した学習の重要性を鑑みて設置され,現在は課員5名(図書館司書含む)で運営しています。特色として挙げられるのは,従来の探究活動の支援に加え,キャリア教育を意識した行事(インターンシップなど)や,学校外部の人材(社会人や大学教授)や卒業生との座談会などを盛んに行っている点です。大学進学のその先を見据え,生徒が自らのキャリアを意識し,主体的に参加している点がこれらの行事の特徴です。対象を絞っている分,少人数で実施することもありますが,その分生徒と講師の直接的な交流を大切にしています。

4.各学年の総合的な探究の時間のカリキュラムについて

本校の総合的な探究の時間のカリキュラムは資料2(構想図)および資料3(資料2の詳細)の通りです。以下ではその中身について説明いたします。

資料2

資料3

【1年生】                                                                   本校生徒は9割以上の生徒が大学や専門学校に進学するため,進路指導や文理選択の観点から,1学期の間,学問探究活動を行います。1クラスを10の学部・学科に分け,ランダムで割り当てられた学部の調査を行い,「該当の学部・学科の魅力を伝えるにはどうしたらよいか」をキーワードに,1人1台端末を活用してポスターを作成し,クラスメイトに向けて発表します。どのような学部・学科があるのかを知るということに加え,グループワークを通じて,調査を行い,1つの成果物を作り,発表するという簡易的な探究サイクルを経験することも目的としています。                                                                            2学期からは地域探究「よりよいまちづくりプロジェクト」を年度末まで行います。(資料4)防災や地域振興,環境問題などのテーマに分け,生徒の興味・関心に応じて選択させ,4~6人程度のグループで活動します。本校の地域探究の特徴は,プロジェクト開始当初(9月)に専門家からの講義(外部講師による特別講義)を行い,それを受けて校外活動(フィールドワーク,10月)を実施している点です。探究テーマの設定を生徒各自で行うのではなく,あらかじめ大まかなテーマを与えることで,初めて探究活動を行う高校生でも比較的取り組みやすいようになっており,実質5か月程の期間で,探究活動の締めくくりであるスライドによるクラス発表まで行います。こうして,1年生の内に探究サイクルを経験しておくことが2年生以降の探究活動を円滑に進めるための確かな土台になっています。なお,昨年度まで8テーマで実施していましたが,併設の中学校3年生および隣接の県立ろう学校(2025年度より)の生徒も授業に参加することになり,10テーマ,計440名程度が混成チームとなって探究活動に取り組みます。

資料4

【2年生】                                                                                                              2年生は年間を通して自由課題探究(Nishiki探究プロジェクト)を行います。生徒各自の興味・関心に関する調査を行い,そのデータに基づいて,4~7人程度のグループを編成しています。8グループ程度を2人の教員で担当しますが,場面や状況に応じて探究未来課のサポートを受けたり,外部人材からの支援を受けながら活動しています。特徴は約1カ月に1度,生徒の背中を押すイベントを設定していることです。例えば大学教授や大学生に対話相手になってもらい,自分たちの探究活動について深める「ヘルプデスク」,社会人との交流の中から,社会実装や外部とのつながりを模索する「サポートデスク」などを年数回ずつ行います。また,他校の生徒との交流機会を設け,同世代からの意見をもらえる「探究活動交流会」やそれぞれのグループの探究活動の進捗状況を共有する「中間発表会」も,生徒にとって非常に良い刺激となっています。さらに,学校外で探究活動に協力してくださる企業や団体などと,生徒が自らコンタクトをとり,社会とリアルにつながることで,非常に良い経験をさせていただいている様子がよく見られます。                                                             外部コンテストや発表会への参加も学校として強く後押しし,生徒が積極的に参加するよう促しています。昨今,探究に関するイベントは多岐にわたりますが,規模や主催団体などに関係なく,できるだけ多くの生徒の目に触れるようにしています。発表の場を数多く経験することで,発表のスキルが上がるだけでなく,そこで得られた意見を参考にして,さらなるブラッシュアップが期待できるためです。最近では探究コンテストでの入賞や海外での発表機会など,生徒が主体的に参加することで,素晴らしい成果につながった事例もあります。

【3年生】                                                                                                                   3年生は自己理解や進路,キャリア形成につながる「自分探究」活動を行います。具体的には,学校で設定している「資質・能力21」(資料1)のうち,2年間の総合的な探究の時間を含む全ての教育活動の中で,どのような力が身についたのかについて考えたり,それらの力をより具体的に言語化するなどの個人ワークを実施したりするなど,「自分を知る」ことを念頭にした内容になっています。その中でも,企業への就職活動や大学進学を意識した「オリジナルエントリーシート」の作成と,それを参考に生徒同士で実施する模擬面接は,自分について語ることで,より自分を深く知る(いかに自分自身のことをよく知らないかということを知ることも含みます)ことにつながっています。                                                  ここまで各学年の探究活動のカリキュラムをご紹介してきましたが,本校では探究活動に関する特別な行事があるときを除いて,3学年通して1単位で実施しています。週1回の授業で様々なイベントを実施することに難しさもありますが,生徒は放課後や休日,長期休業を活用しつつ,それぞれが工夫しながら活動しています。

5.探究活動「壁打ちマニュアル」の作成について

生徒の探究活動に関わる中で,「伴走支援」という表現を何度も耳にすることがあります。教師を含む周囲の大人が生徒を「教える」のではなく,主体性の名の下,生徒の活動を「放っておく」のでもなく,「近くで見守り支える」といった意味で一般的に使われます。探究学習においては生徒自身が主体的に考え,取り組むことが最も大切ですが,一方で,長期的な取り組みになる中で,生徒のモチベーションの維持,行き詰まったときの支援などが難しい面もあります。そういった場面で求められる教師の役割は,生徒との「対話」であり,それこそが「伴走支援」の核です。ここで重要なのが,教師が一方的に「教える」のではなく,生徒と教師の双方で「やり取り」をすることです。教師が生徒とどのように対話をするのかによって,生徒の主体性に火がつくこともありますし,反対に探究活動に消極的になってしまうこともあります。教師によって対話をする技術はすべての教育活動において必要とされますが,探究活動においては,未だその技術が成熟しておらず(探究学習が本格化してからの歴史が浅い),教師によって差があることが課題になっています。                                                   そこで作成したのが,生徒に投げかける問いをシーン別に記載した「探究活動壁打ちマニュアル」(資料5)です。「壁打ち」とは,自分の考えやアイデアを他人に話すことで,頭の中を整理したり,自分の思考を客観視したりする行為で,ビジネスシーン,とりわけAIを使用する場面が拡大してからよく使用されるようになりました。本マニュアルの内容はテーマ設定,リサーチクエスチョン,仮説・検証で行き詰まる場面を想定し,生徒の考えが深まるような教師の発問を列挙したものです。教師一人ひとりが自信をもって生徒の対話相手となり,問答を繰り返す中で,生徒の考えが深まったり,次の活動への道筋をつけたりする一助となればと考えています。加えて,壁打ち相手となる教師のマインドセットを確認するページや,生徒の探究活動へのモチベーションを高めるための誉め言葉も掲載しています。当たり前のこともたくさん書かれていますが,今一度教師のあるべき姿を確認し,生徒の伴走支援を学校全体でしていくことができればと考えています。

 

 

資料5

6.今後の課題と展望

探究活動を実施する中で,特定のグループが非常に顕著な成果を収め,表彰されたり,メディアに大々的に取り上げられたりすることが稀にあります。こうした活動が,「良い探究」と認知されればされるほど,生徒と教師が目指すべきゴールがそれであるかのように錯覚してしまうことがあります。探究活動が生徒の進路に直結することもあるため,そのような優れた成果が重要であることに疑いの余地はありません。一方で,探究活動はそのプロセスが最も重視されるところであり,そのプロセスの中で,生徒にどのような力(非認知能力を中心とした)が身についたのか,つまり本校でいうところの「資質・能力21」の評価が最も重視されるべきであると考えます。そういった点において,本校では探究的な学びの中で,生徒に身についた力をどのような場面でどのように評価し,評価結果をどのように次に生かしていくのかという制度設計がまだ不十分だと言えます。また,教師一人ひとりが非認知能力に対する理解を深め,各教科の学びや教科横断的な学びに生かしていくことも,引き続き本校の課題となります。                           総合的な探究の時間を中核としつつ,各教科等も含めた形で,探究的な学びが一層重視されることは,次期学習指導要領の論点整理の中でも明らかです。とはいえ,どのような状況においても必要とされるのは,全ての教師が本来の探究的な学びの目的を見失わず,生徒と対話をしながら共に考えようとする姿勢ではないでしょうか。本校では今後も,他校の先生方やステークホルダーの皆様との情報共有を積極的に行い,探究活動のカリキュラムや生徒のよりよいキャリア形成の在り方の改善に取り組みます。今後とも宜しくお願い致します。

【参考文献】

〇中山芳一(2023).『教師のための「非認知能力」の育て方』.明治図書出版.                                         〇森岡毅(2019).『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』.ダイヤモンド社.                                                     〇文部科学省(2011).今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(中央教育審議会答申).17, 47-52.                                                            〇文部科学省(2025).総合的な学習・探究の時間に関する現状・課題と検討事項(教育課程部会生活,総合的な学習・探究の時間ワーキンググループ資料1-2).1-4.                           〇文部科学省(2025).教育課程企画特別部会における論点整理について(報告)(中央教育審議会教育課程企画特別部会).3-6.

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