1.はじめに
獨協中学・高等学校は東京都文京区に所在する完全中高一貫の男子校で,2025年で創立142周年を迎える日本でも有数の歴史を持つ伝統校だが,その歴史は,1881年,ドイツ文化の摂取移入の目的で獨逸学協会が設立,北白川宮能久親王を総裁とし,品川弥二郎,桂太郎,青木周蔵,加藤弘之,西周らが名を連ねたところから始まる。1883年,獨逸学協会の事業として獨逸学協会学校が創立,日本近代哲学の父と呼ばれ「哲学」の訳語でも知られる西周が,初代校長に就任し,「獨協」としての開校を迎える。これが獨協中学校の前身であり,獨協の「獨」は「獨逸」の「獨」であることがお分かりいただけるであろう。初代校長の西周先生は日本近代哲学の父と呼ばれ,開校式典では知育・徳育・体育の三育と教養教育の大切さを強調された。また獨協学園で薫陶を受け第13代校長として戦後の獨協教育の礎を築いた天野貞祐先生は,教養と理性を重視し,生徒の中に上品な人格を形成する教育に努力され,その考えは本学園を貫く教育理念として今日まで引き継がれている。なお,獨協学園全体としては本校のほかに,獨協埼玉中学・高等学校,獨協大学,獨協医科大学,姫路獨協大学がある。
完全中高一貫校の本校では,生徒には6年間で同級生や先輩後輩,教員など様々な人たちと触れ合う中で人間として大きく成長してもらいたいと考えている。獨協生は,学力だけでなく,自分で考え,知的好奇心を持って様々なことに主体的に取り組むことができる,そして豊かな精神と体力を持ち,きちんと挨拶ができて,他人を敬い優しくすることができる「社会の優等生」を目指し,日々の学校生活を前向きに送っている。
2. スマコレの導入に際して
本校は平日6時間,土曜日4時間の週6日制で,中学3年間では英語は週に6時間が確保されている(教科書を中心に扱うEL*1が4時間,ネイティブスピーカーとのアクティビティやプレゼンテーションを行い,より実践的な英語の活用を目指すEP*2が2時間)。EPではプレゼンテーションの原稿の作成や,レシテーション,英検の英作文対策などの話す・書く作業を中心に,より実践的な英語の活用を目指してきた。高校では,英語コミュニケーションが週に4時間,論理・表現が週3時間となり,EPでの活動をブラッシュアップした上でどのように論理・表現に組み込めるかが課題となっていた。その中で巡り合ったのが,外国人講師によるライティングのオンライン添削が可能なスマコレである。
なお,本校では,中1から高3までの6年間を3ブロックに分け,段階を経て成長を促す教育システムを導入している。第1ブロックは学習習慣を身につける「基礎学力養成期」,第2ブロックは論理性を身につける「学力伸張期」,第3ブロックは将来に向けた「学力完成期」と設定し,6年間を有効に活用した学びを展開する狙いがそれぞれあり,自学自習力と論理的思考力を身につける時期である第2ブロックに属する高校1年生にとって,スマコレはうってつけの教材であったわけである。
*1 EL:主に教科書の本文を活用し,新出語彙の確認,新出文法の解説,問題演習などを行いながら基本的文法事項の定着を図る。また,必要に応じてICT機器を用いてspeaking活動も行う。
*2 EP:ネイティブ教員と協力しながら,教科書やICT機器を使い,主に話したり書いたり発表したりする能力を養う。
3. 実践報告
スマコレは高校1年生の論理・表現の授業,及び長期休暇中の課題の双方で取り扱っている。以下にそれぞれの実践事例を述べる。
授 業
論理表現の授業では,主に英検の1~2週間前に授業内で集中的に用いた。50分授業の中では次のように実践している。
実施時間 | 実施内容 |
10分 | 帯活動として実施しているリスニング問題演習 (こちらはスマコレには一切関係のない教材である) |
30分 | ライティングメソッドのスタンダードを用いて授業を展開する。 全て予習が前提で ① Key Words, Practiceの発音,及び答え合わせ ② Food for Thought, Brainstormingを,数名の生徒を指名してアイデアを募る。 |
10分 | Write Your Paragraphに移り,下書きを始める。ただし,手慣れた生徒や既に書ける準備の出来ている生徒については,Chromebookを用いて実際にオンライン上で書き始める。オンライン上での提出が終わっていない生徒については,宿題とする。 |
スマコレを導入して得られたメリットは次の7点が上げられる。
(1) テキストは1 Lessonで1トピックとなっているので,分野で求める語彙や表現を整理した上で定着させられる。
(2) Key Words, Practiceについては,closed questionsばかりなので,誰がどのクラスで授業を展開しても,指導内容にブレが生じない(授業者が専任か非常勤か,若手かベテランか,など。極論で言えば,急な欠勤に伴う代講であっても自習等にする必要がなく,生徒に不利益が生じない)。
(3) Food for Thought, Brainstormingについては,一転してopen questionsなので,学習を共にする集団内の,自分とは異なった意見に触れることが出来る。それゆえ,主体的,かつ対話的で深い学びの実践が可能となる。
(4) (3)に関連し,生徒は自分の意見があるのは当然のこと,クラス内の同じ立場の者の意見や,反対の立場の意見を知ることでトピックに対して賛成,反対と双方の立場で論理立てが出来る。それゆえ,作文の際には,「自分の思っていることとは違うが,反対の立場の方が知っている語彙や表現を駆使して書き上げることが出来る」と,戦略的思考で英作文に取り組める。
(5) 授業で書き上げることができない場合は,宿題としてライティングに取り組むこととなる。必然的に,学校と家庭,すなわち授業の内外で自学自習力と論理的思考力を身につける習慣が形成されることとなる。
(6) 進捗状況をタブレット上ですぐに確認できる。生徒への声掛けも「〇になっているからリライトに取り組める」など,具体的な内容で取り組みを促せ,かつ状況の更新もスムーズである。
(7) 添削状況をCSVファイルにてダウンロード出来るため,◎→5点,〇→3点,●→1点のように置換することで学期の平常点,成績に組み込める。成績処理上の負担もほとんどない。
なお,学期末の成績の締め切り日までは常にHRにて添削状況を担任と共有し,提出を促している。共有には前述のCSVファイルを使用するため,こちらも負担はほとんどない。
長期休暇中
夏休みや冬休みなどの長期休暇中は,提出状況を点数化して次学期の成績へと組み込んでいる。
(授業での実践例同様,◎→5点,〇→3点,●→1点とし,始業式の時点で集計をする)
なお,長期休暇中は授業が出来ないため,テキストの模範解答は予め共有しておき,解説動画の視聴も勧めている(本校では生徒一人につき1台のChromebookがあり,学校より付与されたGoogleアカウントでGoogle Classroomを用いることが出来る。長期休暇中の課題表や模範解答は全てそこへ集約される)。テキストの書き込みの有無は点数の対象とはせず,あくまでオンライン上での提出状況のみを成績の材料としている。
4.意見交換会と生徒の声
2025年1月29日(水)に添削管理リーダーであるナボニー・プリオドシニ―さんが来校され,生徒3名,及び授業担当教員の2名で意見交換会を持つこととなった。意見交換会に先立ち,3学期の英検後にアンケートを実施した。授業担当者として,生徒から得た解答で印象的だったのは,「高校1年生になって,英検の一次試験に合格した」「定期試験や模試などの英作文に抵抗がなくなった」「分野ごとに語彙が整理されているので,ボキャブラリーが増えた」というこちらの用意した項目,すなわち,こちらが達成を意図した項目に生徒が多数同意していることから,英作文への抵抗感が薄れてきている生徒や,スマコレを通じて確実に達成感を得ている生徒や自身の学力の伸張を実感している生徒が多々いる点である。スマコレの満足度は,授業を受ける生徒だけでなく,それに取り組ませる教員の立場からしても非常に高いものである。
(2025年1月29日(水)ナボニー・プリオドシニ―さんとの意見交換会の様子)
5.終わりに
採用を検討している立場の方からすると,新しいシステムや教材の導入というのは,その理由付けや周知,教員自身の適応など,極めて大変な労力を要するものであろう。現に,1年前の自分も,ライティング教材の導入にあたっては,様々な会社のトライアルに身を投じ,実際の生徒に補習の時間を利用して体験させるなど,右往左往した記憶がある。その中で巡り合い,1年間の運用に自信をもって導入できたものが,このスマコレである。前述のように,当初は担当者による授業内容の差が生まれないことや,添削システムが生徒,教員の双方にとってシンプルで扱いやすいことが主な理由であった。縁があって本紙に目を通されている方とはこの思いの共有を,スマコレの導入を検討している教員の方々にはその背中を押せることになればこれに勝るものはない。スマコレによって様々な人々の世界が大きく動くことを願うばかりである。