• 数学

デジタル教材活用について私見と一使用例

敬愛中学校・高等学校
松原 学

2025.05.28

1.はじめに

ここでは,私が普段行っている授業形態とデジタル教材の活用について私の考えを紹介していく。デジタル教材が普及し始めてしばらく経つが,どう活用していくのか私も試行錯誤している最中なので,この方法が良い,悪いではなく,一つの事例として参考にしていただければ幸いである。

2.使用しているデジタル教材

本校の生徒は一人1台のiPadをそれぞれ購入し,授業やそれ以外の活動で使用している。各生徒にGmailアカウントを1つずつ割り振り,Googleのサービスを使えるようにしている。
数学の教科書は紙の物に加え,Libryでデジタル教科書も使用できるようにしている。授業中はデジタルでも紙でもどちらの教科書を使用してもよいことにしているが,普段の使用割合はデジタルをメインにしている人が6割ほどで,残りは紙の教科書を選択している。
授業ではMetaMojiClassRoom(メタモジクラスルーム 以下メタモジ)というアプリをよく使用している。PDFファイルを授業グループに配信,共有することができ,生徒が個別に書き込んだり,教師がそれを添削したりするのに便利なアプリである。紙のプリントは配付せず,解かせたい問題などはすべてメタモジに配信している。
生徒が普段使うノートは紙のものを推奨しているが,明確には指定していない。保存できるのであれば,iPad上にノートを作り,それを使用してもよいことにしている。板書したことをそのまま写したりすることはさせず,ノートは主に問題を解くために使用させている。授業におけるアウトプットは,問題の解法など自分の頭で考えたことを表現することがメインであり,そのための手段は紙に限定しなくてもよいと考えている。
各教室には大型のモニターが設置してあり,PCやタブレットの画面をいつでも映し出し,クラスで共有することができる。

3.授業における基本的な考え方

私の授業では,教師が生徒の前で一斉に解説して知識を伝えることをほとんどしていない。いわゆる一斉講義型の授業は行わず,ほとんどは「学びあい」の中で学習させるようにしている。「学びあい」とは文字通り生徒が互いに教え学びあい,その場にいる生徒全員がその授業の内容を取得することを目標とした授業の形である。生徒には普段から,ただ先生の話を受動的に聞くだけでは学習効果は薄く,授業中に学ぶのは他でもなく自分であり,能動的に動いて知識を得て,自分で考えながらそれを活用していってほしいと伝えている。

4.授業の流れ

授業の基本的な流れは以下の通りである。
① その日に習得してほしい知識や考え方の提示
② 目標の設定
③ 学びあい
④ 確認テスト
⑤ 補足説明・まとめ

① その日に習得してほしい知識や考え方の提示
最初に,その時間に取り扱う内容を示しておく。該当する教科書の範囲や,身に着けてほしい技術(例:平方完成ができるようになろう)などを伝える。単元の最初などに新しい概念が出てきたときは,先に簡単に解説したりする。(ベクトルとは何か,など)

② 目標の設定
その時間にやるべきことを伝える。「教科書のこの問題を途中式も理解しながら解く」や「配付したプリントに書いてあることについて調べ,まとめる」など,ここまでできれば大丈夫という目標を,具体的に設定する。

③ 学びあい
これが授業のメインとなる。生徒はまず教科書などを用いて自分で②で設定した目標を達成しようと行動し,疑問点は互いに話し合うなどして解決していく。必要なことはだいたい教科書に書いてあるのだが,生徒全員がそれを読み解けるわけではなく,つまずく点が出てくる。また,その点は生徒によって異なる。数学の得意な生徒が該当箇所を読み解いて,困っている生徒に助言したり,逆に式変形の間違いを指摘されたりと,複数人でお互いにあれこれと話しながら課題に取り組んでいく。教室内であれば席を立って自由に移動してもよいし,席を移動させたりくっつけたりして勉強してもよい。その場にいる誰に質問してもよいし,一人で考え続けてもよい。
生徒達だけでは理解できない部分が出てくることもあるため,学びあいを行う際,知識や技術を得るために基本的には何をしてもよいと生徒に伝えている。iPadで関連サイトを調べてもよいし,関係するYouTube動画で勉強してもよい。何なら,AIに質問しても構わない。とにかく,理解するために何が必要なのか自分たちで考えて実行し,知識や考え方を身に着けていくことができればよいとしている。
この作業を生徒がしているときに私は,生徒のサポートに徹している。全体を見つつ,時には理解している生徒とつまずいている生徒をマッチングしてみたり,時には間違った方向に進んでいる生徒の軌道修正をしてみたり,時には課題が終わって手持無沙汰な生徒にさらなる難問を突き付けてみたりしている。もちろん,質問があれば答えるし,全体的に理解が難しそうなところは適宜解説したりしている。そのように全体を動かしながら学習の主体者を生徒にするように心がけ,場合によっては(生徒に事前に伝えたうえで)「主体的に取り組む態度」の評価をつけたりすることもある。

④ 確認テスト
内容を理解したのかどうかを確認するテストを行う。進度や生徒の理解度によっては行わないこともある。

⑤ 補足説明・まとめ
その日に学んだことを振り返り,教科書に載っていない知識や考え方,間違えやすいポイントや注意点があれば補足をする。

「学びあい」は必ず時間を決めて行う。その時間にやらせたいことをきちんと伝えて,課題を上手く設定してやれば,生徒はかなり能動的に動く。重要なのは,そのクラスに合った目標の選択と,その場でやることを具体的に提示してあげることである。

5.授業におけるデジタル教材使用のメリット

前置きが長くなったが,私の行っている授業形態について書いたうえで,デジタル教材はどのように役に立っているのかを考えてみる。

① 時間の短縮
正直な話,普段の授業で受けるメリットはこれに尽きる。

  • Libryには練習問題の答えをすぐに確認できる機能があるため,教師側が板書したり伝えたりする時間を取る必要がなくなる。
  • 宿題や解かせたい問題の提示も,配信すればほとんど時間はかからない。
  • 自作プリントもデータで一斉に配信できるため,印刷などの準備時間の短縮にもなる。
    他にもあるが,今までアナログで行っていた作業をデジタルに移行することで時間が生まれる。その分教師が授業内容について考えたり,授業中に生徒が活動したりする時間に充てられるのは大きなメリットである。

②知りたいことをいつでも調べられる
授業で扱う内容は,基本的には教科書に書いてあることを扱うため,教科書を見れば学ぶべきことは書いてある。しかし,それをすべての生徒が理解して身に着けることができるわけではなく,今まではそのために先生が内容をかみ砕いて説明していた。私の授業では,その時間を自分で考える時間に充てており,インターネットを使って調べながら勉強してもよいとしている。同じ内容でもつまずくポイントは生徒によって違うため,教科書に載っている内容を一斉に講義するよりも効率よく学習できることになる。自分が理解できていること,できていないことを区別することができ,メタ認知の強化にもつながっている。

③感覚をつかむ
これはデジタル教材ならではの利点である。数学は式と計算がメインの学問であるが,式からどんな結果が導けるのか,それが何を表しているのかをイメージできていない生徒はかなり多い。理屈よりもまずは感覚で物事をつかむことは,理解の大きな助けになる。
例えば,領域の単元の導入でGeoGebraを使って感覚をつかませイメージをわかせることができる。不等式を与え,まずGeoGebra上で図を描かせる。特定の数値を変えると何が起きるのか,不等号の向きを反対にすることでどう変わるのかを体験させ,不等式による領域の感覚をつかませる。式を組み合わせて顔を描いたり,その際にかわいい口の作り方を考えさせたりすると,生徒たちは楽しみながら領域や範囲について理解していける。

6.授業におけるデジタル教材使用のデメリット

①集中力が散漫になる
タブレットの中には誘惑が多く含まれており,それに打ち勝つのは至難の業である。生徒に話を聞いていても,勉強するときに集中力が途切れることがよくあるようで,特に一人で自習しているときは使い方に気を付ける必要がある。「学びあい」の最中は周りの生徒と関わり合いながら学習するため,相互監視が効いて脱線する生徒は想像より少ない。しかし,与えた課題のレベルが生徒とかけ離れている場合や量が適切ではない場合に,生徒は遊び始めるようである。

②理解した気になる
これはデジタル教材に限った話ではないが,特に動画などを見たりサイトで調べたりしたとき,時間をかけて勉強したという感覚が大きくなることがある。理解するために必要なのは適切なアウトプットなのだが,情報をインプットしただけで分かった気になり,確認テストが解けず点が取れないような場面はよく見られた。

③解答をすぐに得ることができる
良い点でもあり,悪い点でもある。欲しい答えがすぐに得られることは,自分のペースで勉強することができ,それを用いて発展させていける人にはかなりのメリットであるが,答えを得ることが目的になり,それで完結してしまう場合にはデメリットとなる。数学は自分の頭で考えて論理を導き出すことが重要なので答えを見ることは理解するためのひとつの手段でしかない,と授業中に口を酸っぱくして伝えてはいるが,なかなか理解されないことも多い。

7.終わりに

以上,生徒を学びの主体者にすることを目標とした私の実践例とデジタル教材の効用についていくつか述べさせてもらった。大きな流れに対しても細かい部分でも思うことは様々あると思うが,あくまで一つの例としてご容赦いただきたい。
ICT教育を日本で取り入れ始めてしばらく経つが,学力の向上につながるかどうかはまだ評価が定まっておらず,扱い方も教師によって千差万別である。デジタルにはデジタルの良い点があり,また悪い点も確実に存在する。月並みな話になるが,やはりデジタルとアナログのバランスが重要であると思う。すべての教材は学習の手段にすぎず,「生徒が自分の頭で論理的に考える力を身に着ける」ことを目標に掲げてそれを忘れなければ問題ない。生徒を学習の主体者にすべく,常に試行錯誤を繰り返しながらこれからも様々な方法を試してみたい。

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