1. はじめに
桃山学院高等学校は1884年の創立以来,キリスト教精神に則って,生徒一人ひとりの人格を尊重し,健やかな心身の成長と豊かな学力の形成を図り,社会の責任ある一員となる人物を育てることを教育の基本方針としてきました。自由を尊重する民主的な校風の中で,のびのびと学校生活を送りながら,自らの責任を自覚し,自主的な規律を作り,これを守っていく良識ある若者を育てることを指導の方針としています。
探究活動への取り組みは,先々代の学校長の温井史朗氏(故人)の提唱した「M1プロジェクト(桃山No.1)」に含まれる「(数値で)見える力と見えない力の育成」を目指し,特に「(数値で)見えない力の育成」を目指して実践を行ってきました。
2. 探究活動の概要
「総合的な探究の時間」は数々の学校行事を含んで扱います。その中でも生徒たちが主体的に事象を捉え,そして思考する時間を「探究の時間」として設定しています。学年・コースにより,そのプロセスは異なりますが,最終的な目標地点は統一されています。高校2年間での「探究の時間」の活動は高校2年生3学期に実施する発表会をもって完結します。
今年度の高校1年生文理コースの生徒については,「問の立て方」「情報の集め方」「探究活動のテーマ探し」「論理的思考のプロセス」といった中期的な目標を設定し,その間に講演会等のインプットの場面を設定してきました。これらの探究の時間の取り組みは,高校1年生開始前に担当者間にて検討を行い,二カ年計画の概要(図1)をベースに実施しています。
図1 探究の時間二か年計画
3. 探究活動の実際
高校1年生文理コースは8クラスで編成されています。クラス数・生徒数に対する探究活動を担当する教員の数が不足しているため,下記の点に注意を払い実践を行ってきました。
a. 探究活動を進めるうえで指針になる教材があること
→『ゼロから始める探究活動』を授業のペースメーカーとして使用しました。これによって,最終目標としている高校2年生3学期でのパネル発表もしくは,論文要旨の作成から逆算し,どの知識をどのタイミングで入れる必要があるのかを明確にすることができました。
b. 同一水準の授業を実施すること
→本校が導入しているGoogle Workspaceのmeet機能を使い,複数クラス間における並列的な授業展開を意識しました。(写真1)課題や資料はclassroomを通じて,生徒の手元に残るように配信をしました。各教室に備え付けの電子黒板への投影をすることで,並列的な授業展開を実現することができました。また,投影する資料を事前に学年団へ共有をしておき,適宜助言等をクラスに与えてもらうよう打ち合わせました。
c. 教室内での相互的な対話を通じて,意見の多様性を知ること
→年度最初の探究活動の時間にて,MBTI診断を実施しました。その結果をもとに,校内外の行事のグループを編成したり,教室内でのグループ活動に応用したりしました。また,自分自身で考えてみる時間を与えた後,グループ内,もしくは教室内で生徒同士の対話の時間を設定しました。(写真2・写真3)その際は否定をするのではなく,考え方の多様性を知ることに重点を置くよう声掛けを行ってきました。
d. 授業でのインプットの後に,自身でアウトプットを行う時間があること
→『ゼロから始める探究活動』の章に沿ったワークシートを使い,classroom経由で生徒へ配信する,もしくはキーワードマッピングといった紙媒体の方が使い勝手が良いものに関しては,テキストに直接書き入れを行うなど柔軟に対応をしてきました。
また,外部から講師を招致氏し,講演会を定期的に実施しました。(写真4・5)職業観,歴史観,多文化共生について考えてみる等,様々な角度からの刺激を与えることを目的としました。
写真 1 探究活動の様子(1)
写真 2 探究活動の様子 (2)
写真 3 探究活動の様子 (3)
写真 4 探究活動の様子 (桃山学院教育大学教授による講演会)
写真 5 探究活動の様子 (企業の出前授業)
4. 探究活動の成果と課題
ゼロベースでの探究活動への参加を想定し,この一年間はインプットに重きを置いて授業を実施してきました。三学期考査前の探究活動の授業にて,ワードマッピングからトピックの設定方法について紹介し,そして各自取り組みを行ってきました。そして三学期考査最終日には,論理展開の説明と情報収集の注意点の紹介を行い,今後の探究活動の流れについて全員で確認を行いました。
桃山学院高等学校文理コースの生徒たちは,現時点ではテーマとリサーチクエスチョンについて考えることを春期課題として取り組んでいます。取り組みが早い生徒はすでにテーマ設定と研究計画の作成まで進んでいます。(図 2)高校二年次からは,大阪万博への参加行事を踏まえたうえで,生徒個々人のリサーチを主軸としたアウトプットのフェーズへと移行していきます。
図 2 探究活動の取り組みが早い生徒の計画書をコース全体で共有。それに加えて,教員から見て改善が必要なポイントを提示した。
5. さいごに
この一年間の取り組みを通じて,本校文理コースの生徒には家庭と学校という世界だけではなく,さらに広い社会という世界が存在していることを伝えることができました。さらに,普段何気なく受容している事象や当たり前のように接している世界について,普段とは異なる観点から考えてみる姿勢を身に付けることができました。特にそういった姿勢は,与えられたテーマについて賛否の立場を明らかにする論述課題への取り組みにおいて顕著でした。
本校文理コースの生徒たちにとっても最初は「目に見えない」教科であった探究活動も,多くのインプットを通じて「自分自身の思考を具体化する」手段であることを実感しつつあります。関心を持つトピック,今後継続して探究活動を行うテーマは十人十色ではありますが,高校二年生での取り組みを通じて冒頭で紹介をした「(数値で)見えない力」をさらに育んでいくことを願っております。
高校二年生での展望としては,総合的な探究の時間においてはインプット・アウトプットの一連の流れを50分で完結できる機会を設けつつ,リサーチクエスチョンや探究活動についての中間報告会といった,アウトプットの中でもさらに負荷のかかる取り組みを設定していきたいと考えています。
【参考文献】
・岡本尚也. (2024). ゼロから始める探究活動 課題探究メソッドZERO. 啓林館.