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AI時代に「人の添削」が輝く理由

内田諭(九州大学)、 吉川牧人(静岡サレジオ高校)

2026.10.14

 

 内田諭先生(九州大学)× 吉川牧人先生(静岡サレジオ高校) 

 スマートレクチャーコレクション活用事例 

◇対談者プロフィール

内田 諭先生
九州大学共創学部准教授
専門分野:コーパス言語学、認知意味論、英語教育学

吉川 牧人先生
静岡サレジオ高等学校教諭
専門分野:世界史、Apple/Google/Microsoft/Canva認定教育者

1.はじめに

2026年に新設された本校の「グローバルスタディーズクラス(GSクラス)」では、開設と同時にスマコレ・スピプラ・留プラを導入し、英語科の授業と連動した学びを展開しています。ライティング指導の現場においてAI添削の活用が急速に広がる一方、スマコレでは海外の指導者という「人」による添削を大切にしてきました。

AIが飛躍的に進化する今、なぜあえて「人による添削」が必要なのでしょうか。A大学の内田先生に、ライティング指導の課題や、AIと人の効果的な役割分担について吉川がお話をうかがいました。

2.ライティング指導の「2つの壁」

吉川:最初のテーマは、英語ライティング教育の現状と課題です。学校現場では、「生徒にもっと英作文を書かせたい。でも、指導や添削にかかる時間が……」という声をよく聞きます。内田先生、専門のお立場から見て、現在のライティング指導にはどのような課題があるのでしょうか。

内田:大きく分けると、二つの壁があると思います。
一つ目は、「練習量の不足」です。英作文を書くには時間がかかりますし、書いたものを指導・評価するにも時間がかかります。そのため、生徒に十分な量を書かせることが難しい。
二つ目は、「教員の負担」です。先生方は日々、多くの業務を抱えています。その中で、すべての生徒の自由英作文を一つひとつ細かく添削するのは、時間的にも体力的にも限界があります。

吉川:これは英語の先生にとって切実な悩みですね。そしてとても共感します。生徒にはたくさん書かせたい。けれど、返却が遅くなれば学習効果は下がってしまう。かといって、毎晩遅くまで赤ペンを入れるわけにもいきません。

内田:おっしゃる通りですね。だからこそ、最近はオンラインサービスやAIを上手に活用しながら、ライティング指導のあり方を見直す時期に来ているのだと思います。

3.AI時代だからこそ、「人が添削する」価値

吉川:最近は、無料のAI 校正ツールも非常に優秀になっています。学校現場でも、「AI を使えば十分なのでは?」という声もあります。そうした時代に、あえて「人が添削する」ことには、どのような価値があるのでしょうか。

内田:これは、とても本質的な問いですね。そもそも、ライティングを含む「発信活動」は、誰かに自分の考えを届けることが前提です。AI の添削は、短時間で一般的に正しい英文を示してくれます。また、一定の基準で評価してくれる点も大きな強みです。ただ、その一方で,生徒の意識が「読み手」ではなく、「間違いを直すこと」に向かってしまう可能性があります。AI を使った添削が、文法や表現を修正する「作業」になってしまうことがあるのです。

吉川:確かに、人間が何十人分もの答案を採点していると、「さっきはどの基準で評価したんだっけ?」と迷うこともあります。そういう意味では、AI の即時性や評価の一貫性は大きな魅力です。しかし、AI が作文を直すと、文法的には完璧な英文になりますが、相手の存在が見えないため、どこか「作業」のように感じてしまいます。書き続けようというモチベーションも、なかなか湧きませんでした。

内田:測定や文法チェック、一定の基準に基づく分析は、AI が得意とする領域です。一方、人による添削には別の価値があります。たとえ拙い英語であっても、生徒が一生懸命に書いた文章から、独自の視点や、行間に込められた思いをくみ取ることができます。間違いの指摘や一定の基準に基づく評価をAI が担うとすれば、生徒の考えを肯定し、その考えをさらに伸ばしていくのが、人間による指導の役割です。

吉川:「行間の思いをくみ取る」という表現、とても素敵ですね。実際に、スマコレの添削を生徒に見せると、反応がまったく違います。CEFR C1 レベル、英検1 級相当以上の外国人講師から、「あなたの意見はとても面白いですね」とコメントが返ってくる。それだけで、生徒の目が輝き始めるのです。

内田:まさに、「伝えたい」という気持ちを引き出せるかどうかが、ライティング学習の永遠のテーマです。ITやAI がどれだけ進化しても、生徒の中にある「書きたい」「誰かに伝えたい」という気持ちに火をつけることは、人間にしかできません。教員の役割は、その火が消えないように、燃料を投下することなのだと思います。

4.AIと人間の「黄金の棲み分け」

吉川:では、具体的に学校現場では、AIと人間、そしてスマコレや先生の役割をどのように分担すればよいのでしょうか。

内田:わかりやすく例えるなら、先生やスマコレの添削者は「伴走するコーチ」で、AIは「高性能な測定器」です。走るスピードやフォーム、数値などを正確・瞬時に示すのはAIの得意分野です。一方、生徒の状況や背景を想像しながら「どのように走ればよいか」「どのタイミングで休めばよいか」を考えてサポートするのは人の役割です。
測定や分析、客観的なフィードバックはAIに任せ、生徒のモチベーションを支え、人間味のある対話を行う部分は人間が担う。これが、AIと人間の明確な役割分担ではないでしょうか。

吉川:「コーチ」と「測定器」とい役割の違いですね。とても腑に落ちました。
では実際に添削結果が返ってきた後、先生方は授業の中でどのような支援を行えば、生徒の学びをさらに深められるのでしょうか。

内田:最も重要なのは、「返ってきた結果をどう生かすか」です。添削やコメントを見て終わりにしてしまうのが、最ももったいないと感じます。
たとえば、授業の冒頭10分だけでも、次のような活動を取り入れることができます。

  1. 返却された添削結果を、生徒と一緒に確認する
  2. 「この修正には納得できる?」「なぜこのように直したのだろう?」と考えさせる
  3. クラス全体の誤りを、文法・語彙・構成などの観点で分類する
  4. 「次に書くときには、何を意識すればよいか」を話し合う

 

こうした時間を少し設けるだけで、添削結果は単なる「返却物」から「生きた教材」に変わります。

吉川:返ってきた結果やコメントを見て終わらせず、それを材料にして「もう一度自分で考える」わけですね。授業冒頭の10分間であれば、日々の指導で忙しい先生方にとっても、無理なく取り入れていただけそうです。

内田:そうですね。先生がすべてを一から十まで添削し、説明しなければならないわけではありません。 AIやデジタルサービスに任せられる部分は任せる。その上で、先生は生徒の考えや意欲を引き出すことに力を注いでいただきたいです。

5.コミュニケーションに必要な「身体性」

吉川:ここで少し視点を変えておうかがいいたします。先日、AIの同時通訳機能を使って海外の方と話す機会がありました。言葉はきれいに翻訳されているはずなのですが、会話の深みや盛り上がりが、どこか足りないように感じました。
自分で試行錯誤しながら言葉を探し、時には間違いながら相手に伝える。その思考のプロセスが飛ばされて、結果だけがきれいに出てくるからでしょうか。

内田:それはまさに、コミュニケーションにおける「身体性」や「リアリティー」の問題だと思います。
人間同士の対話では、途中で言葉に詰まったり、言いよどんだり、身振り手振りを交えたりしますよね。そうした不完全さも含めて、リアルなコミュニケーションです。
AIがその「間」や「揺らぎ」をすべて埋めて滑らかにしてしまうと、生演奏のジャズセッションを聴いていたはずが、完璧に録音されたCD音源を聴いているような感覚になる。
言葉の裏にある必死さや息づかいが伝わりにくくなり、人と人をつなぐ大切なものが失われてしまうのです。

吉川:生演奏とCD音源。まさにその通りですね。
自分で考え、時には間違いながら言葉を届ける。そして、それを誰かが受け止めてくれる。そのアナログな往復運動にこそ、言葉を学ぶ楽しさがあります。

内田:おっしゃる通りです。その点でいうとスマコレは、対面授業とAIの利便性の間にある「絶妙なスイートスポット」に位置していると感じます。
AIほど無機質ではなく、海を越えた先に「自分の言葉を読んでくれる具体的な相手」が存在する。そして人ならではの温かいフィードバックが返ってくる。
この「人間味」や「身体性」があるからこそ、生徒は飽きずに、主体的に書き続けられるのだと思います。

吉川:先生が「何のためにこの学習をするのか」を語ることで、生徒にとってスマコレが単なる効率的な添削ツールではなく、「人とつながる体験」としてAIにはない魅力を持つ学びのツールになるのですね。

6.先生の「ひと手間」が、生徒の心に火をつける

吉川:最後に、AIによる添削サービスが増える中で、先生方が「一手間をかける」意味について、改めてうかがいたいと思います。

内田:結論から言えば、これからはAIと教員の役割分担がより明確になっていくと考えています。
AIの強みは、何といっても「即時性」と「評価の一貫性」です。文法や語彙のチェック、一定の基準に基づく分析は、AIに任せてよい。しかし、ライティングなど発信活動の本来の目的は、「自分の思いを誰かに届けること」です。相手が機械だけでは、どうしても「間違い探し」や「単なる作業」になりやすく、読み手を意識しにくくなってしまいます。だからこそ、先生の「一手間」が必要なのです。
「この意見は面白いね」
「あなたは何を伝えたかったの?」
「このコメントを読んで、どう感じた?」
そんな声かけが、生徒の意欲に火をつけ、次の一歩を踏み出す燃料になります。これは、AIには代替できない、人間の役割です。

吉川:AIは優秀なアシスタント。でも、生徒の心に火をつけるのは、やはり先生なのですね。

内田:はい。ライティング指導で最も大切なのは、生徒を単に「完璧な英語を書けるようにすること」だけではありません。
「何かを書きたい」
「誰かに伝えたい」
「自分の考えを外に出すのは面白い」
そう思えるような「体験」をデザインすることです。文法や語彙は、あくまでそのための道具に過ぎません。スマコレやAIといった外部サービスを上手に活用して負担を抑えながら、先生は生徒の「伝わった!」という喜びや、「もっと伝えたい」という意欲に寄り添う。
ぜひ、先生方には、生徒の伴走者、そして“特等席の応援団”でいていただきたいと思います。

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