1.はじめに
本校は,1987年創立の佐賀県にある中高一貫私立校であり,東京大学をはじめとする最難関大学や医学部への進学を目指す生徒が多数学んでいる。英語と数学では習熟度別に授業を行い,あわせて個別添削指導も盛んで,生徒一人一人に応じた指導が行われている。また,約6割の生徒が寮生活を送りながら学んでいる点が特徴である。
2.スマコレ・スピプラ導入の時期と意図
本校では,例年中学3年の10月に,カナダ語学研修旅行を実施している。現地家庭でのホームステイを通した交流が中心であり,生徒は各家庭に2名ずつお世話になることとなる。1週間足らずの短い研修を終え,「思ったように英語が話せなかった」という悔しい体験を契機としてその後の英語学習を頑張り始める生徒が,例年一定数存在していた。しかし,できることなら事前にトレーニングを行い,「現地で通じてうれしかった」という成功体験を以後のモチベーションにしてほしいと考えて,オンライン英会話の利用を検討することにした。 私個人も学校としてもこれまでにオンライン英会話の導入実績はなかった。授業内での一斉実施スタイルと,生徒が個々に予約をとって取り組むスタイルとでどちらが望ましいかなど,諸条件を比較して検討した。オンライン英作文添削サービス「スマートレクチャーコレクション」(以下スマコレ)は,私自身が以前に2回採用した経験があり,この「ライティングメソッド」(以下WM)を使ったエッセイライティング指導を事前に行うことで,授業時間内に生徒の準備ができ,それを基に英会話レッスンが行われる「スピーキングプラス」(以下スピプラ)に魅力を感じた。また,英会話レッスンのスタイルが英検の面接に近いことも,生徒の動機づけにつながりやすいと考えた。最終的に,WMは英検準2級~3級レベルのBasicを中3の5月から始め,修学旅行出発までにスマコレで5回の添削,スピプラで5回の英会話レッスンを受ける計画で,導入を決定した。
3.実践例
(1)授業での流れ
1時間目:WMを使った導入,できるだけ自分の力で英作文,スマコレへ入力
*授業時間内に終わらない場合は,2時間目(1週間後)までの宿題
2時間目:一部生徒の英作文およびコメントのシェア,各自でスマコレのコメント確認,リライトの入力
*必要に応じてDeepL翻訳,DeepL Write,Grammarlyの使用許可
リライト完了後:各自で予約,スピプラ受講
(2)スケジュール
| WM・スマコレ | スピプラ | |
| 5月 | L1 | |
| 6月 | L2 | 登録・体験 |
| 7月 | L3 | L1 |
| 夏季休業中 | L2, L3 | |
| 8月 | L4 | |
| 9月 | L5 | L4 |
| 10月 | L5 |
(3)授業での様子や生徒の反応
ALTとの授業で口頭でのやりとりも含むブレインストーミングの時間を取り,ステップを踏みながらエッセイにたどり着けるよう指導したが,生徒の学力差もあり,1時間目の授業時間内に完成できない生徒も一定数いた。その場合,2時間目の授業までに書き上げてスマコレに入力を終えることが宿題となる。しかし,これをしないまま2時間目の授業に臨み,こちらが声をかけて完成を促す場面が多かった。 スマコレの添削は早ければ同日中に完了することもあり,そうした生徒の英作文と添削者によるコメントに教師が目を通し,抜粋してまとめたものを2時間目に生徒に配布した。他の生徒の作品を読んで真似したい表現にマーカーをするなど,リライトに向けた学びの機会としてこれは有効だった。自分につけられたコメントの内容が理解できない場合には,DeepL翻訳を使用してもよいことにして,メッセージの理解を支援した。以下はその際に共有したものの一部である。
.png)
ひとりひとりに向けられたコメントがある点は生徒に好評で,次回へのモチベーションとなっていた。また,添削者の情報が開示されていることに多くの生徒が強い興味を示し,クラスメートと情報共有して盛り上がっていた。直接のやりとりはできないものの,添削者の個性や特徴を生徒たちは読み取っていたようである。 先述した通り生徒の6割が寮生であり,寮の居室には情報端末の持ち込みが禁止されている。学習室はあるが個室ではないため,声を出してスピプラを受講できる環境を寮で確保することは難しかった。そのため,放課後の教室で受講するか,あるいは週末や長期休暇中に自宅に帰省した際に受講することとした。このタイムラグが一部生徒の取り組み率の低さとして現れた部分は否めない。一方,スピプラでのやりとりについて教師に報告してくれる生徒も多く,どのコーチも積極的にほめてくれていたようで,この点も生徒には好評であった。 評価にあたっては,英作文のスマコレへの入力で1点,リライト提出で1点,スピプラ受講で1点,という形で成績にカウントした。デジタル機器や翻訳アプリが使用できる状況での英作文から生徒の実力を測ることはできないため,単元テストや定期考査といったペーパーテストで類題を課し,教師が実際に採点することで成果を問うた。
4.効果 ~外部検定試験の結果から~
毎年8月に本校で全員が受験しているGTEC(ベネッセ)では以下のような結果が出た。
| Total | Reading | Listening | Writing | Speaking | |
| 中2 8月 GTEC Core | 537.5 / 840 | 121.6 /210 | 124.3 /210 | 171.8 /210 | 119.8 /210 |
| 中3 8月 GTEC Basic | 731.5 /1080 | 163.5 /270 | 162.8 /270 | 189.4 /270 | 215.8 /270 |
| 1年でのスコアの伸び | +194.0 | *41.9 | +38.5 | +17.6 | +96.0 |
3回分のスマコレとスピプラを終えた段階であり,他の様々な取り組みも合わせた結果ではあろうが,スピーキングで顕著な伸びが見られた。夏休み明けの授業をほぼ行っていない時期の受検であることを考慮すると,夏休み期間中のスピプラが,スコアの伸びの大きな一因であると考えられる。本校における過去3か年の過年度比較でも,最も高いスコアであった。 一方でライティングはもうひとつ振るわなかった。スコア自体は悪くはないが,他の3技能に比べて伸びが低かった。これまでの結果を振り返ると,GTECのライティングスコアは出題内容により多少左右されることがあるというのが私の認識ではある。いずれにせよ,引き続き分析して指導にあたりたい。
5.取り組みの後日談~対面交流会~
半年間に渡りスマコレとスピプラを利用したのちに10月半ばにカナダ語学研修に行き,生徒はその成果を実感できたようである。事前のトレーニングとして位置付けていたスピプラだったが,レッスンをやり残していた生徒の中には,帰国後に火がついて取り組んだ生徒もいたようである。 研修の振り返りレポートを生徒各自がまとめたころ,啓林館の担当の方からメールが届いた。スピプラのコーチが来日するのに合わせて,対面での交流会をしませんかという提案だった。打ち合わせを重ねて2月実施で計画を練っていたが,何と前日からの悪天候による休校で,このときは中止となってしまった。 そこからさらに半年がたった今秋,対面交流会を再び提案いただいた。11月,高校1年に進級した生徒たちと,フィリピンから来た2名のチューターが,教室での対面を果たすことができた。フィリピンの文化や教育事情,コーチが暮らすカミギンの厳しい経済状況などを直接説明いただいた。スピプラのコーチという職業を得たことで,愛する家族や地元を離れることなく,教師になるという自分の夢もかなえることができた,と嬉しそうに語るコーチの言葉に,生徒たちは熱心に耳を傾けていた。クイズなども交えて和やかに交流会は進み,全体会終了後には数名の生徒が集まってさらにコーチにいろんな質問をしていた。そこに参加していたある男子生徒の一言が印象的だった。 「自分がスピプラをやることで国際貢献・経済支援になっているなんて,考えていなかった。ちゃんと5回分やりきればよかったなあ!」 実際のところ,スマコレとスピプラにそうした側面があることは,最初に生徒に伝えていた。しかし,直接顔を合わせて話を聞いたからこそ,出てきた生徒の言葉であったと思われる。
6.おわりに
この数年,生成AIの技術革新は目を見張るものがあり,次期学習指導要領改訂に向けて,文科省のワーキンググループでもAI利活用のかたちが大いに議論されている。すでに,英作文の添削や会話練習にAIを活用したサービスが,次々と発表されているが,時間を問わずいつでも利用できる手軽さとコスト面では,今後大いに活用が期待できるであろう。そうした「壁打ち」的な練習経験をAI相手に積んだのちに,コミュニケーションの「本番」の相手として,異文化交流を含む意味交渉の相手として,スピプラが提供する対人オンライン英会話の機会は,今後も意味を持ち続けるであろう。もちろん,実際に現地に足を運んで同じ空気を吸いながら体験するリアルな対話は,何物にも代えがたい。その間をつなぐ体験を生徒に提供する機会として,スマコレとスピプラは今後も私の指導プランの選択肢であり続けるだろう。





























































