1.はじめに
前任校は東京学芸大学附属の中等教育学校であり,後期課程では「単位制」をとっている。5年生(高校2年生)で「地学基礎」2単位を必修科目,6年生(高校3年生)で「地学」5単位,「地学基礎演習(学校設定科目)」1単位を選択科目として開設している。志望進路の文系・理系を問わず,生徒の興味・関心に応じて自由に選択できるのが特徴である。特に6年生の「地学」は受験科目としてではなく,地学に対する興味・関心によって選択する生徒がほとんどである。しかし,「地学」の選択者は少なく,これまでに履修者が5名以上になったことはない。 後述するが,「地学(標準単位数4)」の開設率は非常に低い状況にある。地学の教員として「地学基礎(標準単位数2)」はもちろんのこと「地学(標準単位数4)」を担当できることは非常に嬉しい限りであり,今年度「地学(標準単位数4)」の教材研究に取り組んだため,今回はその一部を紹介したい。なお,本実践は「地学(標準単位数4)」を担当することになって1年目で行ったものであるため,様々なご実践をされている先生方からご指導いただけると幸いである。
2.地学(標準単位数4)の開設状況
文部科学省の調査によると,公立高等学校等における全日制の令和7年度入学者に適用される3年間の教育課程において,地学基礎と地学の開設状況は以下の表の通りとなっている。(各課程における科目の開設状況について,学科ごとの割合を示している。)
表1 令和7年度入学者に適用される地学基礎と地学の開設調査(全日制)
| 普通科 | 専門学科 | 総合学科 | |||||||
| 1年次 | 2年次 | 3年次 | 単位制 | 1年次 | 2年次 | 3年次 | 単位制 | ||
|
地学基礎 |
7.2% | 33.6% | 17.1% | 8.1% | 2.6% | 7.5% | 10.1% | 1.6% | 56.7% |
|
地学 |
0.0% | 2.1% | 7.5% | 2.7% | 0.0% | 1.0% | 2.3% | 0.7% | 9.9% |
文部科学省「令和7年度公立高等学校等における教育課程の編成・実施状況調査の結果について」より引用
これを見ると「地学(標準単位数4)」の開設率が非常に低いことが分かる。また,このデータは「開設状況」であり,全日制の総合学科では約1割の学校で地学が開設されていることになるが,選択者が少数であるなどの理由から開講されていないケースも多く存在するため,実際に授業を開講している数はさらに少なくなると考えられる。
3.単振り子を用いた重力加速度の測定
地学においては「(1)地球の概観(ア)地球の形状 ア 地球の形と重力」で扱う内容である。地上の物体が地球から受ける万有引力は,物体が地球の各部分から受ける万有引力の合力である。地球を「中心からの距離が同じ点では,密度が等しい球」と考えると,その合力は地球の全質量が中心にあるとしたときの万有引力に等しいことが知られている。したがって,地球をそのような球と考え,半径をR〔m〕,質量をM〔kg〕とすれば,地上にある質量m〔kg〕の物体が地球から受ける万有引力は,質量に比例し,物体間の距離の2乗に反比例するので,万有引力定数をGとおくと,地球の中心に向かう向きに

の大きさである。また,地球は自転しているため,地上から見た物体には,地球からの万有引力の他に遠心力がはたらいている。そのため,地上で物体にはたらく重力は,万有引力と遠心力の合力である。しかし,地球の自転によって生じる遠心力の影響は万有引力に比べて非常に小さく,ふつうは無視できる。この遠心力を無視する場合,重力としては万有引力だけを考えればよく,地表における重力加速度の大きさをgとすると,重力の大きさmgは次式で表される。

したがって,gは次のように表すことができる。

万有引力は距離の2乗に反比例するため,今回は東京学芸大学附属国際中等教育学校の1階と4階で単振り子の周期と重力加速度の関係を用いて重力値を求め,その差を比較・検討してもらう授業とした。授業で使用したプリント(資料①)にはあえて実験方法などは詳しく書かず,これまでの探究活動の成果を発揮して,実験の注意点などを見出してもらうこととした。
高さh〔m〕での重力加速度ghは,

高さ0mでの重力加速度gで両辺を割ると,

よってghは,

と表すことができる。東京学芸大学附属国際中等教育学校の4階はおよそ14m,地球の半径を6.4×106mとすると,

よって,遠心力を無視した場合,1階と4階では,せいぜい小数点以下第5位が変化するくらいである。したがって,1階と4階の重力加速度の値に差がないことは全く問題がないと考えて良い。ちなみに,重力は基準とする面(ジオイド面)から1m高くなるごとに約3.086×10-6m/s2小さくなる。そのため国土地理院では,高度H〔m〕での重力は,基準とする面での重力より3.086×10-6×H〔m/s2〕だけ小さい値となっているため,この効果を取り除いて基準とする面での重力値に変換している。これをフリーエア補正という。 少し考えれば上記のことについては気付くことができるのだが,物理基礎・物理を履修していない生徒もいるため,授業後に今回の実験の解説書(資料②)を配付し,振り返りの時間とした。これらの振り返りを踏まえて重力補正についての授業を行った。本実践は実験計画,実験,振り返りの計3時間で行った。生徒は1時間目にノギスの使い方や誤差を小さくする測定方法などについて考え,実験の準備をし,2時間目に実際にデータをとり,3時間目に実験に関する自評と教員からの解説を聞く時間とした。
4.キュリー温度を確かめる実験
地学においては「(1)地球の概観(ア)地球の形状 イ 地球の磁気」で扱う内容である。地磁気の原因については地球内部に存在する導電性の高い鉄の流体運動により生じる電流により発生するものと考えられているが未だに未解明な部分も多い。しかし,地球内部の鉄が磁化したことによる説は科学的に否定されている。今回は偏角と伏角を調べる実験の最後に,これを証明する実験を実施した。今回使用した実験プリント(資料③)の中で,キュリー温度について触れている。キュリー温度とは,簡単に述べると,磁化した物体(強磁性体)が磁力を失う温度のことであり,発見したピエール・キュリーの名をとって「キュリー温度またはキュリー点」という。鉄の場合は約770℃である。これを確かめる実験としては,非常に簡単な実験ではあるが,クリップを2つ用意し,1つは伸ばして片方の端を,ネオジム磁石などを擦りつけて磁化させ,もう1つのクリップに引っ付け,その状態で磁化したクリップをガスバーナーで加熱し,引っ付いているクリップが落ちる様子を観察するものである。実験では,ガスバーナーで加熱中に突然クリップが落ち,生徒は驚いていた。この実験を通して,キュリー温度について理解することにより,地磁気の原因が地球内部の鉄の磁化ではないことを理解することができると考えられる。反省点としては,磁化したクリップの温度を測定できておらず,本当にキュリー温度に達したことによってクリップが落ちたのかを確かめることができなかった点である。次回はクリップの温度を測定し,鉄のキュリー温度に近付いたときにクリップが落ちるようすを観察させたい。
5.放射性同位体の崩壊におけるモデル実験
地学においては「(2)地球の活動と歴史(イ)地球の歴史 ウ 地球環境の変遷」で扱う内容である。地球史は,残留磁気や年輪年代測定,古生物の化石によって,様々なことが分かってきているが,古生物の化石による記録がほぼ残っていない先カンブリア時代の地球史は,地球に落ちてきた隕石の中の放射性同位体を用いた年代測定によって当時の状況が推定されている状況にある。特に,岩石の年代測定には放射性同位体を利用するのが一般的である。放射性同位体の原子核は,α線やβ線などの放射線を放出し,徐々に別の原子核に変わっていく。例えばウラン(238U)が鉛(206Pb)になることはよく知られる。このことを原子核の崩壊(壊変)という。崩壊は常に一定の確率で起こり,熱や圧力など外的要因によって速度が速まったり遅くなったりすることはない。今回は,授業プリント(資料④)で示している通り,サイコロを原子核のモデルと考え,その崩壊のようすをシミュレーションすることによって,理解を深める実践を紹介する。まず,サイコロ100個を箱の中に入れ,箱をよく振る。(このサイコロ100個は,すべて崩壊前の放射性同位体の原子と仮定する。)振ったサイコロのうち,特定の目のもの(実験A:1の目,実験B:1と2の目)を取り除き,残りの個数を結果の表に記入する。(1の目が出て取り除いたサイコロは崩壊してできた安定な原子,また残ったサイコロは崩壊していない放射性同位体の原子と仮定する。)残ったサイコロを振って,先ほどと同じ操作を行う。この作業を,すべてのサイコロを取り除くまで繰り返す。次に,横軸にサイコロを振った回数,縦軸に残ったサイコロの個数の平均をとり,結果の方眼用紙にグラフを描く。するとおおよそなめらかな負の指数関数のグラフになった。プリントには示したが表は30回程度用意しておけばこれを超えることはほぼない。今回の実験で使用した実験器具を以下の図1・2に示す。

図1 トレイに入れたサイコロ(100個) 図2 トレイを振るときのようす
今回の実験では,原子核の崩壊が外的要因によらず常に一定の確率で起こることからサイコロを原子核のモデルに見立てて実験ができるということを,授業全体を通して理解することができると期待している。地学現象は時間的・空間的なスケールが大小含めて極端な例が多く,実験が難しいことが考えられるが,このようにモデル実験を行うことによって確かめられることを理解することにより,土砂災害などのスケールの大きい現象もシミュレーションすることによって,被害のようすなどを確かめることができることを見出してほしい。
6.ベナール対流(細胞状対流)に関する実験
地学においては「(3)地球の大気と海洋(ア)大気の構造と運動 イ 大気の運動と気象」で扱う内容である。「対流」については,外核の鉄の対流やマントルの大規模な熱対流であるプルーム,太陽の粒状斑など様々な地学現象で扱われるが,大気の大循環や海水の運動など特に関連性の深い単元で本実践を行った。対流には主に浮力によるものと表面張力によるものがある。浮力によるものを,正確には「レイリー・ベナール対流」と呼び,主に下部加熱によるものが一般的である。実験の内容としては,まず,紙コップにサラダ油を入れ,少量の油絵の具(シルバー)を入れてよくかき混ぜる。その後,アルミ箔を,容器を置くことのできる大きさに4ツ折りにし,少しシワをつけてホットプレートの上にのせる。ホットプレートの電源を入れ,しばらくすると次の図3に示すような模様が現れる。この模様は温度や容器の大きさ,油絵の具の量などを変えることによって,様々な形に変化をするため,探究活動としても適切な教材であると考えた。様々な変数を操作し,結果から変数の関係性を見出す教材としては非常に良い教材であると考える。なお,筆者が予備実験で行っただけでも様々な大きさの対流が見られたため,生徒の課題研究のテーマとしても良いのではないかと考えている。 生徒たちは,因果関係を理解するための条件制御について,これまでの他教科での学びでも理解を深めているため,実験計画を自分たちで考えることができた。このように,単に「対流」を理解させるだけではなく,独立変数と従属変数を意識させながら実験計画を立てて,実験を行う過程は非常に重要であると考える。
図3 細胞状対流のようす
7.黒い炎が見える要因からフラウンホーファー線の理解を促す実験
地学においては「(4)宇宙の構造(ア)太陽系 ウ 太陽の活動」で扱う内容である。中学校では,太陽の表面温度や黒点などの構造は学習しているが,元素組成やその調べ方など詳細には学んではいない。したがって,本単元では,分光器を使ってさまざまな光源からの光を観察することを通して,スペクトルについての理解とともに,スペクトルから太陽の元素組成を調べる方法について考察できるように指導したいと考え,本実践を行った。本実践における授業の流れについては以下の表2に示す。
表2 黒い炎が見える要因からフラウンホーファー線の理解を促す指導案
| 時間 (分) | 学習活動 | 指導上の留意点 | 学習活動における 具体の評価基準 | 評価方法 |
| 導入 (5分) | 1.ナトリウム光の吸収の演示実験を見る。 | ・炎の後ろに光源があることで炎が黒くなることを理解させるために,最初に炎の色を確認させる。 | ||
| 展開 (35分) | 2.スペクトルについて説明し,太陽光を分光器に通すことによって連続スペクトルが観察できることを理解する。 | ・太陽光には様々な波長の電磁波が含まれていることをイメージしやすくするために,波長という用語の確認と,光の三原色についての説明をする。
|
○太陽光の連続スペクトルについて理解している。 (知識・技能) | ・ワークシート |
| 3.分光器を使って様々な光源からの光を観察し,光源によってスペクトルが変化することを理解する。 | ・分光器で直接太陽を見ないように注意する。
・太陽光がなければ輝線や暗線が見えることを理解させるために,光源の種類によって特定の波長が濃く見えることに注目させる。 |
○分光器を正しく使用し,様々な光源のスペクトルを観察することができる。(知識・技能) | ・行動観察
・ワークシート |
|
| 4.ナトリウム光の吸収の実験の仕組みを説明し,黒い炎が見えた理由を理解する。 | ・元素が特定の波長を吸収・放出することを理解させるために,炎の中のナトリウムが後ろの光の波長を吸収したことを強調する。 | ◎黒い炎が見える理由を科学的な用語を用いて説明することができる。(思考・判断・表現) | ・ワークシート | |
| まとめ(10分) | 5.元素組成の調査方法について説明し,スペクトル解析に関する理解を深める。 | ・スペクトルには強度が含まれることを理解させるために,元素の量については波長ごとの強度で調べることができることを補足する。 | ◎太陽光のスペクトルをどのように調べると元素組成が分かるのかを科学的な用語を用いて説明することができる。 (思考・判断・表現) | ・ワークシート |
〇形成的評価に用いる項目 ◎総括的評価に用いる項目
導入では,塩化ナトリウムを溶かした(エタノール)に着火し,後ろからナトリウムランプで炎を照らし,黒い炎を見せる。炎の中にはナトリウム原子が存在しているため,ナトリウムランプの光を吸収し,黒く見える。このメカニズムを考えながら,様々なスペクトル管の光を直視分光器で観察してスペクトルのようすを実験プリント(資料⑤)にまとめる。その後,グループで黒い炎が見える要因を考え,これを利用すれば太陽の元素組成を知ることができることを見出すことを期待している。今回は1時間で本実践を行ったが,黒い炎が何故見えるのかを考える時間があまりとれなかった。次回は2時間で指導案を考え,もう少し生徒主体で考える時間を作りたい。なお,本実践は色覚異常の生徒への配慮が必要であることを末筆ながら記載しておく。
8.おわりに
地学は大学受験の科目としては選択できる大学が少ないことから,避けられる傾向にあるが,地球環境の様々な現象や宇宙の構造について理解を深めることのできる非常に価値のある科目である。今回の実践記録が「地学(標準単位数4)」の開設・開講,そして履修者の増加につながることを期待している。
【参考文献】
・文部科学省(2018).『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編』
・文部科学省(2026).『令和7年度公立高等学校等における教育課程の編成・実施状況調査の結果について』
・磯崎行雄ほか(2022).『高等学校 地学』.啓林館.
・気象庁地磁気観測所.地磁気の基礎知識.https://www.kakioka-jma.go.jp/knowledge/mg_bg.html
・田坂 裕司(2019).「対流の美しき世界」.ながれ,38(0),300-305.
・NGKサイエンスサイト 対流がつくる不思議な模様.https://site.ngk.co.jp/lab/no79/






























































