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  • 理科 / 化学

「化学結合」の単元における教科書
デジタル教材および分子模型の活用事例

東京都立国立高等学校
桑江 大樹

2026.11.02

1.はじめに

高校化学における座学の授業において,演示実験や実験動画などを取り入れることは,生徒の興味・関心を喚起するとともに,内容理解を促進する点で重要である。特に演示実験は,教員が生徒の目の前で直接実験を行うことで,より興味・関心を高める効果が期待できる。(図1,筆者作成)

 

Q.演示実験と実験動画はどちらの方が好ましいですか?

図1 教室における実験についてのアンケート結果(高2,化学基礎,2025)

また,実験のみならず,模型やアニメーション等のモデルを用いる授業も,目に見えない原子や結合を頭の中でイメージするために重要である。特に分子模型は,目に見えない分子の形を視覚化することで,平面の教科書や画面の図だけでは分かりにくい立体的な構造や結合角を直感的に深く理解できる。                                                    しかし,各学校の状況,とりわけ単位数,生徒層,実験環境,予算等によって,必ずしも行いたい活動をすべて取り入れることができないことの方が多い。そのため,異動等の度に各単元でどのような活動を取り入れるべきか,整理することに多くの時間が必要となる。また,教員はあまりにも多忙であり,一から教材を作成する時間を確保できない場面も多いと思われるが,教授資料等は量が多く授業で活用する資料の選定にも時間を要する。                                                          本稿はそれらの一助となるべく,「化学結合」の単元で筆者が行っている授業実践の一部を紹介する。できる限り教科書や市販の教材を用いている。筆者の勤務校が進度に比して単位数が少ないため,それぞれの活動は1~5分程度で行っている。なお,本実践に特に新規な点があるわけではないことを、あらかじめご了解いただきたい。

2.教材の提示

教科書に掲載されているQRコードから読み取れる動画,および教授資料に付属している動画が豊富に存在する(図2,図3)。特に教科書QRコードの動画であれば,生徒が自宅等で視聴できる。授業で見にくかった場合や,考査前などの復習時に,動画を視聴することでよりイメージを深めることが可能である。分子模型など授業内でしか用いることができない教具を用いた場合も,関連する動画であれば自宅で復習できる。その場合は授業で一言付け加えておくと効果的である。

図2 教科書掲載のQRコードから読み取れる教材の例      図3 教授資料付属動画の例

普段スライドを用いて授業を行っていれば,ウィンドウを切り替えるだけでシームレスに動画視聴に移行できる。プレゼンテーションソフトで「発表者ツール」を用いれば,あらかじめ開いておいた動画ファイルをボタン一つで提示できる(図4)。動画時間は長くても数分,短ければ数十秒である。                                                            演示実験を拡大して提示する際は,PCのカメラを用いると準備等が簡便で済む(図5)。もちろんズームやピント等の機能はビデオカメラや書画カメラには劣る。

図4 発表者ツールのメインモニター(左)とサブモニター(右)

図5 PCカメラの画像

3.イオン結晶

(1) 電気伝導性

図6 イオン結晶の電気伝導性についての教科書掲載実験例および動画

教科書にイオン結晶の電気伝導性についての実験が記載されている。動画で生徒に示すこともできるが,教室で演示実験を行っても数分もかからない。装置は自作してもよいし,市販もされている。教科書ではるつぼで融解させているが,試験管でも可能である。ガスバーナーは教室ではカセットコンロで代用可能である。動画は実験動画とアニメーションの両方がある(図6)。

(2) 劈開

図7 イオン結晶の劈開についての教科書掲載実験例および動画

教科書に劈開のようすが記載されている。劈開面が綺麗なので生徒の興味を喚起するであろう。良質な岩塩の塊が入手できれば演示可能である(ただし毎年クラスの数だけ必要になる。価格も決して安くはない)。そうでない場合は動画がある。劈開後の結晶を生徒間で回すだけでも効果的だと思われる。イオンの反発の説明については,アニメーションの動画もあるが,模型で演示できるとよい。自作可能であるが,市販もされている(図7)。

4.共有結合

(1) 分子の形(分子模型)

図8 教科書掲載の分子模型およびsp3混成軌道

図9 非共有電子対に棒を挿した分子模型

教科書に各種分子の模型が写真およびイラストで図示されている(図8)。分子模型で演示してもよいが,可能であれば生徒1人1セットを配布(あるいは生徒購入)できると,自ら模型を操作することにより結合角や立体構造の違いを実感できる。筆者は,sp3混成軌道をもつ分子(水,アンモニア,メタンなど)の非共有電子対にも棒を挿し,「棒=電子対(共有・非共有問わず)が四面体型をとる」と伝えている(図9,本来の使用方法ではない点は生徒に伝えるべきである)。分子模型をそのまま残しておけば,メタン,アンモニア,水の順に結合角が小さくなることの説明,および配位結合の説明にも用いることができる。分子模型がない場合は動画もある。sp2混成軌道は曲がった結合でもよいが,sp2炭素が入っている分子模型を用いると三角形であることがイメージしやすい。                                                               また,極性の説明をする際にも,分子模型があると,分子全体として極性が打ち消される場合と打ち消されない場合を視覚的に説明しやすい。

(2) 極性

(a) 極性の実験

ビュレットから水を細く流下させ,そこにエボナイト棒と毛皮などで発生させた静電気を近づけると,水流が湾曲する(図10)。ヘキサンでは同様の湾曲はほとんど見られない。エボナイト棒および毛皮いずれも市販されている。演示実験は見栄えがよく,かつ短時間で終えることができる。

図10 静電気による水の湾曲

(b) 水溶性の実験

図11 水溶性の実験の教科書説明および実験動画

教科書に実験の記載がある。演示実験または生徒実験が考えられる。演示実験であれば数分で可能である。ヘキサンにヨウ素を溶かす実験を加えてもよい。動画もある(図11)。

5.分子間力

水の分子模型の非共有電子対部分に,水素結合を想定した少し長い結合棒を差し込むことにより,疑似的に氷の結晶構造を作成することができる(図12,図13)。水素結合が,酸素原子上の非共有電子対と他の水分子の水素原子との間にはたらくこと,水素結合に指向性があることなどが直感的に理解できる。生徒間で構造をつなげて大きな氷の結晶構造を作成するなど,生徒の活動とすると授業の場面転換にもなり意識に残りやすい。なお,結合棒は水素結合を便宜的に表しているものであり,共有結合とは異なる点に留意が必要である。                                                       水と氷の密度については分子模型による説明と前後して演示実験または動画を示すと効果的である(図14,図15)。

        図12 氷の教科書図           図13 分子模型による氷

    図14 氷のアニメーション動画     図15 水とエタノールの密度動画

6.おわりに

参考までに,筆者の本単元の指導計画および教材の使用計画を示す(表1)。このように,一回の授業内に何かしらの活動を組み入れ,興味・関心を喚起するよう心掛けている。

表1

授業後の生徒の感想においても「実際に模型で結合のしかたを見られるのがイメージをつかみやすかった」「模型を作るのが楽しかった」「実験がとても楽しかった」などが見られた。                      教科書や教授資料付属の教材は,生徒の興味・関心を喚起するだけでなく,原子・分子レベルの事象を具体的にイメージし,理解を深めるうえでも有効である。また物理的・時間的に実施が難しい実験を提示することができ,「実験・観察を通して自然現象を理解する」という自然科学の基本的な姿勢を生徒に伝えるためにも重要である。デジタル教科書を正式な「教科書」として位置づける学校教育法の改正により(2027年4月1日施行),デジタル教材を含む状況も大きく変化を迎えている。多忙な教員の負担軽減,そして何より教育全体の質的向上のために,デジタル教材が量・質の両面で発展することを望むばかりである。

【参考文献】

・寺嶋正秀ほか(2026).『高等学校 化学基礎 改訂版』. 啓林館.

・寺嶋正秀ほか(2026).『高等学校 化学基礎 改訂版 教授資料』. 啓林館.

・岐阜県理化教育研究会. インターネット版 化学のレシピ -化学演示実験カード-. https://gakuen.gifu-net.ed.jp/~contents/rika_kagaku/cr00.html. 2026年9月19日閲覧.

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