1. はじめに
本実践は,私が約10年間継続してきた物理授業の授業スタイルである。物理の授業のほぼすべてをこの形式で進めており,単発の授業実践ではない。開始当初は「知識構成型ジグソー法」として位置づけていたが,現在ではその考え方を基盤としつつ,授業内で継続的に実施しやすいよう,エキスパート活動と相互説明を中心に再構成している。そのため,実態としてはピア・ティーチングに近い側面もある。 一般的なジグソー法では,ホームグループから複数のエキスパートグループに分かれ,その後ホームグループに戻って学習内容を共有し,それらを組み合わせて課題の解決を図る。一方,本実践ではホームグループを設けず,エキスパート活動から始め,互いに説明し合う活動までを基本としている。また,複数の内容を統合して解答を導く課題を設定する場面は多くない。このような構成にすることで,通常のジグソー法には適用しにくい内容であっても,ジグソー法の考え方を取り入れた授業として実施しやすくしている。 なお,本校はほぼ全員が大学等への進学を目指している。そのため,基礎的な概念理解だけでなく,入試に対応できる説明力や問題解決力を授業の中で継続的に育てる必要がある。
2. 実践の概要
対象:第一学年「物理基礎」の後半,第2・3学年「物理」でのほぼ全授業(実験を除く)
授業の流れ 本実践では,50分授業を「前提知識・本時の目標の確認」「エキスパート活動」「ジグソー活動」の3段階で構成している。各段階の時間配分と活動内容は,次の通りである。

(ⅰ) 第1段階 前提知識・本時の目標の確認
授業の冒頭は,隣同士のペアで既習事項や導入課題・本時の目標を確認する。ここでは,ペア活動で互いに説明させながら,本時の導入を行う。
(ⅱ) 第2段階 エキスパート活動
全体で4~6人の班を作り,各班をおよそ均等になるようにエキスパートAとBの2つに分ける。生徒は班ごとにタブレット端末で担当するエキスパート動画(AまたはB)を視聴し,配布されたプリントも参考にしながら内容を理解する。動画はおよそ10分で,途中には「いったん動画を止めて例題を解く」などの指示も含まれている。活動の開始時には,「後で相手に説明できるように準備すること」「わからないところは班で協力して解決すること」を明確に伝える。
(ⅲ) ランダムペア決定
図1のように,エキスパートABそれぞれの側の生徒に対して,ランダムに数字を割り振る。その後,同じ番号同士で向かい合わせになるように座席を移動することで,AとBを担当した生徒が1対1のペアになる。

(ⅳ) 第3段階 ジグソー活動
新たに決定されたペアでは,エキスパートAを学んだ生徒とエキスパートBを学んだ生徒が組になる。2人は教師役と生徒役を交代しながら,自分がエキスパート活動で学んだ内容を相手に説明する。
3. 本実践で重視している仕組み
ここまでの実践概要だけを見ると,生徒にとって負担の大きい授業形式に感じられるかもしれない。しかし,本実践では次の2つの観点によって,生徒が主体的に準備し,活発に説明し合えるようにしている。
(ⅰ) 緊張感を高める仕組み
・ランダムにペアを決定すること
・1対1で説明すること
上の(iii)で述べたように,ジグソー活動で1対1で説明する相手は,エキスパート活動の段階では生徒には知らされていない。説明相手は,親しい相手になることもあれば,ほとんど話したことのない相手になることもある。誰に説明するかわからず,しかも1対1で他者に頼ることができない状況であるため,エキスパート活動の段階から,誰に対しても伝わるように丁寧に準備しようとする意識が生まれる。
(ⅱ) 負荷を上げる仕組み
・エキスパート活動に動画を利用していること
・エキスパートを2つに限定して,説明量を増やしていること
50分という授業時間の中で,エキスパートをいくつに分けるかは重要である。エキスパートの数を増やすほど,一人一人が説明する量は減り,負担は軽くなる。一方で,扱える内容の深まりは限定されやすい。そこで本実践では,エキスパートを2つに限定し,一人一人の説明量を増やすことで,適度な負荷を生徒にかけている。また,エキスパート活動を紙資料の読解や調べ学習ではなく動画視聴にすることで,限られた時間内でも一定の情報量を確保しやすくしている。
4. 生徒の様子と成果
図2は,担当開始後にジグソー法による授業を2か月実施した後,3年生1クラスを対象に行ったアンケート結果である。結果からは,多くの生徒が本授業形態を肯定的に受け止めていることが確認できる。また,授業中には,動画を一時停止して班内で内容を確認する場面や,ジグソー活動に向けて説明の仕方を相談する場面が見られた。これらの様子から,生徒が受け身に動画を視聴するのではなく,後の説明活動を意識しながら学習に取り組んでいることがうかがえる。 表1は,同アンケートにおける自由記述の一部である。記述からは,他者に説明する活動を通して,自分の理解が不十分な点に気付いたり,説明の根拠を明確にしようとしたりする生徒の姿が読み取れる。特に,理解が進んでいる生徒であっても,相手から問い返されることで,概念や法則のつながりを改めて確認する機会が生じている。このように,本実践は,説明を聞く側だけでなく説明する側にとっても,理解を整理し深める契機になっていると考えられる。


5. 運用上の留意点
(ⅰ) 参加しにくい生徒への配慮
説明役になることに強い負担を感じる生徒に対しては,一時的にA・A・Bの3人組をつくることがある。その場合,当該生徒にはまず両方の説明を聞く役に回らせ,同じAを担当する生徒の説明に不足があれば補足する形で参加させている。活動の流れや説明内容について見通しを持てるようになった段階で,通常のA・Bのペア活動に戻している。
(ⅱ) 動画の扱い
授業後には,各エキスパート動画をGoogle Classroomで公開し,生徒が考査前の復習にも活用できるようにしている。ただし,これらの動画は個別学習だけで完結する教材としてではなく,班で相談しながら理解を深めることを前提に作成している。そのため,あえて説明をすべて盛り込まず,生徒が疑問を持ったり班内で確認したりする余地を残している。これにより,動画視聴を単なる受け身の学習にせず,授業内の対話や協働的な学びにつなげることを意図している。
6. おわりに
本実践が目的としている科学的・論理的に思考し説明する能力は,大学入試に対応するうえでも重要であるが,進学後や社会に出た後にこそ役に立つであろう。 本実践によって,生徒は高校物理で扱う内容のおよそ半分について,相手に説明する経験を積むことになる。相手に伝えるためには,内容を理解するだけでなく,何を根拠に,どのような順序で説明すればよいかを整理しなければならない。さらに,相手からの質問や問い返しは,自分が省略していた論理や理解の曖昧な部分に気付かせる。このような経験を繰り返すことが,生徒の思考力を鍛えることは疑いない。 今後もさらなる改善を重ねていきたい。





























































