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  • 理科 / 生物

「論文を読もう」探究の方法と生物学の楽しさを知って巨人の肩に立つために

大阪府立天王寺高等学校
曽田 泰宏

2026.06.01

1.はじめに

啓林館の高等学校生物基礎(令和4年度用)は「生命を探究しよう。」という見開きページから始まる。令和4年度から高等学校において実施された改訂学習指導要項(平成30年告示)では,「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」となり,「理数探究」と「理数探究基礎」が導入された。先述の教科書において「ある事象を理科的な見方・考え方でとらえ,科学的に課題を解決するためには,科学的に探究できる力が必要である」とあるように,生物学を通して探究のプロセスを身につけることの重要性は広く認識されている。この探究のプロセスについて,そして探究の楽しさについて,自分で実際に体験することの次に鮮度の高い情報を得ることのできる媒体が論文(学術論文)である,と私は考える。                                                       私自身の例を考えると,はじめて論文を読んだのは大学で研究室に所属するようになってからであり,現在もそのような学生が多いのではないだろうか(WatsonとCrickの論文など一部の歴史的論文を除く)。しかし,「探究的な学び」が推し進められる今,高校生の段階で論文に触れることには大きな意味があるように感じられる。そもそも,論文の形式は一般的な探究のプロセスそのものであるため,探究の方法について学ぶこれ以上の教材はなく,今目の前で進行している生きた生物学は,生物を用いた教材でみられる予想通りにいかない生命現象と同等の魅力を放つはずである。                                難解でとっつきにくいイメージや専門知識を要するという課題をいかにクリアするかということを考えつつ,生徒たちが論文を読むことで生物学の魅力に気づき,次の論文を生むように成長することを願いながら取り組んだ授業について紹介する。なお,以降の実践は2023年から2025年にかけて,担当する異なる学年を対象に行った授業取組についてまとめたものである。

2.授業実践

(1) 高校1年生(2025年度)

生物基礎を履修する1年生においては,自分の興味の対象を探すことと,まずは論文に触れることをねらいとして,「自分が面白いと思える最新の生物学に触れよう」という課題を夏休み中に設定した。電子版新聞の記事検索を利用し,①直近5年以内の生物学に関する記事を探すこと,②記事だけではなくソース(論文等)に少しでも目を通すこと,③なにがどのように面白いのか説明できるよう準備することの3点を指示し,休み明けの授業において発表活動を実施した。                                                                                   発表は班ごとの活動で全員が発表にあたる授業を1回,代表者10名によるクラス全体への簡単な発表と質疑応答の授業を2回,計3回の授業を行った。なお,発表の際には,必要な背景知識の共有,新聞記事のソースから得られた情報,なにがどのように面白いのか発表者が重要だと思う点を示すように伝え,スライドや紙芝居など好きな形式の発表資料を準備するように指示した(図1)。

 

(図1)生徒が作製した発表資料

 

発表における生徒たちの活発な様子から,新聞記事を利用したことで,論文の選択の難しさと背景知識の補充という点で,いきなり論文にあたるよりもハードルを大幅に低くすることができたことは,はじめて論文に触れる生徒たちにとって大変有効であったようにみられた。また,調べた内容をレポート等に記述するのではなく,他者に伝えるという課題としたことで,論文に対する自分なりの解釈を促すことができたと考えている。

(2) 高校2年生(2025年度)

高校2年生のうち文系を志望する生徒を対象としては,社会の中での科学をテーマに「最新のニュースを自分の力で解釈しよう」と題して,2018年の本庶佑と2025年の坂口志文という,共に免疫に関する研究でノーベル生理学医学賞を受賞した研究者による論文の一部を指定して読解する授業を行った(図2)。特に,本庶佑らの2000年の論文からPD-L1の有無による細胞の増殖率の違いのグラフを題材として扱い,このデータから何が分かるか,それがどのように文中に記述されているかということを読み取っていくように授業を展開した。                                             多くの生徒たちは,それぞれの研究の共通点が「免疫の抑制」であることに気づくことができており,少しのヒントを与えれば,高校生にとって論文に示されるデータの読解が不可能なものではない様子が伺えた。また,「PD-1に関する発見と制御性T細胞に関する発見で,同じ免疫の抑制でも相反する方向に研究が進んでいるところがおもしろかった」という生徒の記述も見られ,生物学の魅力に触れることのできた生徒も一定数いたように思える。

 

(図2)使用したワークシートの一部

 

(3) 高校3年生(2023年度)

高校3年生では理系の生物の授業を選択した生徒を対象に,1人1つの論文を読み込み,20分ほどの発表と質疑応答を行う「論文発表会」を週に1回程度,半年をかけて実施した。特に,実験の設計理解とデータの比較検討を行うことができるようになることに重点を置き,質疑応答の場で「合理的な推論」を行うことを目標とした。発表の際には,「自分の研究である」かのように振る舞うことを指示し,①背景知識,②材料と方法,③結果,④考察の順に則って発表しつつ,②と③に時間を多く設けることとした。また,発表生徒には自分の発表の一週間前までには選択した論文を共有シート上に入力することを指示し,教員側は一週間かけて対策を立ててから生徒の発表に臨むという授業サイクルで取り組んだ。加えて,共有シートに論文を入力する際には,教科書の単元のどこに一番関係があるか選択させることで,聴衆となる生徒が発表を聞きやすくなるように工夫を行った(図3)。また,大学受験を意識する夏休みにおいては,自分が読み込んだ論文について作問をする課題を設けた(図4)。                                                          授業を進めていくと,回数を重ねるごとに生徒間での質疑応答が活発になり,鋭い質問や批判的なデータの捉え方をする生徒が増えていったように感じることができた。また,生徒の半数ほどが志望大学に関係する論文を選び,残り半数は完全に自身の興味で選ぶ様子がみられ,進路探索や興味の深掘りにおいても意味のある授業となった様子が伺えた。「自分で論文を探す過程で面白いウェブページを見つけたり,みんなが持ち寄る様々な論文に触れることができて良かった」といったコメントや「3年生では論文発表会が印象的でした。それぞれが自分の興味のある分野について発表する,その発表について質問する評価するということを同時に行うことができ,高度な実験や高校の範囲を超えた内容を学べるという点が魅力的でした(このときに質問したり議論したりを積極的に行えなかったことは自分の反省点でもあります。)」といったコメントもみられた。加えて,授業者自身も論文から多くを学ぶとともに,生徒たちの興味や関心を知る機会となり,論文発表会以外の授業においても良い効果があったように考えられる。

 

(図3)生徒が選んだ論文一覧(共有シート)教科書の単元は旧課程のものである

 

(図4)生徒が作製した問題

3.おわりに

近年,大規模言語モデルによる文章要約の普及と精度向上がめざましい。論文のオープンアクセス化の推進と共に,高校生が論文を読むことのハードルは年々低くなっているように感じる。一方で,論文のデータを対話型生成AIに投げてしまえばわかりやすい要約が数秒程度で作成可能であり,「自力で論文を読む必要がないのでは?」という思いが生徒たちの中に生じているかもしれない。しかし,むしろ,誰かが作った要約を鵜呑みにするのではなく,データに基づいた科学的な議論ができる(できなくならない)ように自分の力で科学を解釈する力が重要であり,論文を読むという取り組みはこのために有用であると私は考える。中教審・教育課程企画特別部会(令和7年5月22日)で「質の高い探究的な学びの実現(情報活用能力との一体的な充実)」について議論されているとおり,生成AIを有効に使用しつつ,メディアリテラシーについても生徒とともに考えていく必要がある。                                       今回まとめた授業取組は,「論文を読む」「論文について話す」という機会を生徒に与えるものが主であって,論文の読み方を教えるという面では不足があるように感じている。生徒ごとの状況に応じて,論文の選び方や読み方を補助する手立てについても考えていきたい。論文を読むことによって学問の楽しさについて共有することができるようになり,理想としては,その先の人生においても論文に目を通して学び続けていって欲しいと考えている。

【参考文献】

・文部科学省(2018). 『高等学校学習指導要領(平成30年告示)』.

・赤坂甲治ら(2022). 『高等学校生物基礎』. 新興出版社啓林館.

・G. J. Freeman et al.(2000) Engagement of the PD-1 Immunoinhibitory Receptor by a Novel B7 Family Member Leads to Negative Regulation of Lymphocyte Activation. J. Exp. Med. 192(7), 1027-34.

・日本学術振興会(2025). 科研費における論文のオープンアクセス化について.

https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/01_seido/08_openaccess/index.html (2026年4月30日)

・文部科学省(2025). 教育課程部会 教育課程企画特別部会(第8回) 配付資料【資料1-1】 論点資料⑦ 質の高い探究的な学びの実現(情報活用能力との一体的な充実).

https://www.mext.go.jp/content/000360892.pdf (2026年4月30日)

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