• 探究活動

高校生のための論文誌 student JAPANESE JOURNAL OF STUDENTS
―高校生が行った研究の蓄積と活用―

茨城県立高萩清松高等学校
山口 悟

2025.05.13

1 はじめに

様々な高等学校で実施されている探究活動を始める際に先行研究の調査は重要である。インターネットやテレビで得た情報を参考にし,それを自分たちの課題研究のテーマに設定する際に,まずは先行研究を調べるところから始まる。研究内容の背景を調査する際に,最前線で行われている研究内容を検索することは大切であるが,全国の高校生がどのような研究を行っているかを調査することや,興味を持った分野の高校生による先行研究も調査することが必要となる。
高校における課題研究は,SSH指定校をはじめとして,全国の高等学校の「総合的な学習の時間」や科学系部活動等で行われてきた。生徒が主体的に研究活動をし,得られた成果を各都道府県の高文連や教育委員会が主催する高校生の研究発表会においてポスタープレゼンテーション(図1)やオーラルプレゼンテーション(図2)を行っている。また,現在では各種学会も,年会や討論会の一部に高校生の発表の機会を設けており,高校生は自身の発表だけでなく,学会の雰囲気や大学生や研究者のプレゼンテーションを実際に体験することができる。

図1 高校生によるポスタープレゼンテーションの様子

図2 高校生によるオーラルプレゼンテーションの様子

2022年度から年次進行で実施されている学習指導要領において,得られた研究成果を研究論文として,世の中にある論文誌と同じレベルの体裁を取る内容で作成するというような,表現する力の育成が望まれている。それを踏まえて近年,テストの点数や偏差値だけで評価しきれない能力を正確に評価する方法として,ポートフォリオが注目されている。高校生により作成される研究論文は高校生個人のポートフォリオとしての機能を有すると考えられる。高校生が主体的に行った研究を高校生が論文としてまとめるきっかけとなるのは,大学が主催する論文賞が組み込まれた論文である。しかし,そのような大学が主催する研究論文は数年前に募集を停止するものもあり,それが高校生個人のポートフォリオとしての機能を担えるかは疑問である。したがって,高校生の研究事例のアーカイブス,高校生の研究論文のアーカイブス,高校生個人のポートフォリオの一部を担うような論文や,論文としてのアウトプットの基準があれば,研究した結果の表現方法の指導の標準化につながると考えられる。
学術研究において,研究成果の最終的なアウトプットは学術論文である。したがって,高校生の探究活動における研究であっても口頭発表やポスター発表などを通した研究成果の表現方法だけではなく,得られた成果を論文としてまとめることは重要である。そこで私たち,茨城県高等学校教育研究会理化部理数情報研究委員会では,高校生のための論文誌student編集部を発足した。私たちの作成したstudentを紹介する。

studentの紹介

図3に,studentのトップページとそのQRコードを示した。studentのトップページには,投稿され受理された論文がその順番に掲載されているURLはhttp://student.ne.jpである。2024年現在,studentの論文の種類は,student chemistrystudent biologystudent physicsstudent mathematical scienceの4種類である。勿論,要望があれば理工系の分野にこだわらず,社会学や経済学,その他どのような分野でも論文の種類を増やすことは可能である。図4に一例として,student chemistryに掲載されている論文のアブストラクトの一部を示した。図4にある”日立製カラミ煉瓦の作製方法の考案”のRead moreをクリックすると,図5 に示した,その研究のアブストラクトが表示される。図5のFull textをクリックすると,図6に示した論文が表示される。また,図5のPDF downloadをクリックすれば図6に示した論文をダウンロードすることもできる。このように,studentを利用することにより,高校の先生にお願いしなくとも,高校生自身で,自分たちがやりたい研究内容の調査や,これまでに高校生が行ってきた研究を調べることができ高校生が行っている研究の現状を知ることができる。
今後studentがさらに知られるようになり多くの高校で活用されるようになることを心より期待したい。その結果として,高校生が行った研究を1つの成果としてまとめる際にstudentに掲載されることが1つの目的となってくれれば幸いである。

3 studentの投稿方法

図3のトップページを見ると,”投稿について”というタブがある。それをクリックすると,図7に示した”投稿の流れ”というページが表示される。図7に書かれた手順で,高校生が作成した原著論文を簡単に投稿することができる。
執筆要綱にもあるが,主な注意点を3つ紹介する。①作成した論文の責任者は研究を担当した指導教員とする。②同意書にも記載したが,論文に掲載したデータは自分たちがとったものなのか,もしくはその他の論文から引用したものなのかを指導教員の責任の下で確認してもらう。また,③生徒の名前が掲載されることも,指導教員が生徒の保護者に同意を取った上で同意書に顧問が自著する。基本的にはこの3 点を指導教員が行い論文を投稿してほしい。そしてなにより,高校生と指導教員が一緒に作成した論文を投稿する際に,顧問がそのような手順を取る作業を行うことで,研究を行うには勝手に”コピペ”してはいけない,自分たちの行った研究と他の人たちが行った研究との違いなどの差別化の必要性を,高校生は学ぶことができる。そして,1つの研究が完結することイコール論文化であり,その大切さを学ぶことができる。また,著作権や,論文のオリジナリティやプライオリティなども学ぶことができる。
投稿する際に必要な書類は,同意書と原著論文である。それらも,”投稿の流れ”の中にあり,執筆要綱を確認しながら,高校生と共に作成してほしい。

4 studentの応用

studentは高校生の活動記録というポートフォリオとしての役割を有する。さらに,高校生の行った研究収録,学校で行われた研究集や個人がこれまで行ってきた研究集といったアーカイブスの役割を有すると考えられる。各都道府県では,高等学校文化連盟等の主催する研究発表会がある。研究発表会に参加する際,必ず研究の要旨を執筆することが求められる。studentの応用として,要旨集”student abstract“が考えられる。
studentは理系の研究だけでなく,文系の研究であっても活用することができる。例えば,経済学の研究を行っている高校生が論文を作成するならば,新たにstudent economicsを作成することもできる。高等学校ごとの課題研究論文集としてstudentを使う際には,student schoolとしての用途も考えられる。studentという論文誌は様々な応用が考えられる。

5 studentの変遷と現状

studentは,2019年3月に創刊された。創刊時は,student chemistryが3報,student biologyが3報であった。その後,2019年5月にはstudent physicsを1報,student mathematical scienceを1報掲載し,現在の4分野の論文誌として継続している。2025年1月現在では,student chemistryが21報,student biologyが6報,student physicsが3報,student mathematical scienceが3報の,合計33報が掲載されている。Jetpackを用いてstudentのウェブサイトの表示数を収集したところ,図8に示すように,2025年1月現在までで合計20,211ビュー,月あたりの平均は約285ビューである。2019年は月平均238ビュー,2020年は月平均182ビューであったのに対し,2024年の月平均は567ビューとなっている。このように,徐々にWebサイトを訪れて閲覧する回数が増加している。一方,ウェブサイトの訪問者数では,2025年1月現在までで合計9,057人,月あたりの平均は約128人である。こちらも図9に示すように,徐々に訪問者数が増加している。
なお,訪問者数に対する表示回数(表示数/訪問者数(回/人))を計算してみると,一部で大きく増加している月があるものの,基本的には創刊時から大きな増減は見られない。平均2.7回/人であり,一定して2?3ページを閲覧していることがわかる。ホームページの表示回数は2,698回であることから,ホームページを閲覧した後に,各論文のページを閲覧しているようである。

6 査読と著作権の取り扱いについて

これまで,studentをさまざまな場面で紹介・提案してきた中で,査読についてどのようになっているのか,著作権についてどのように扱うか,についての質問をしばしば頂戴している。student編集部しての方針は次のとおりである。

student編集部の査読に関するスタンス
student編集部は,高校生が安心して研究成果を発表できるように,フォーマットや最低限の研究方法や研究倫理のチェックを行っている。例えば,対照実験(コントロール)を行なっていないような実験データの場合,科学的な解釈や議論をすることはできないため,指摘せざるを得ない。ただし,専門的な先行研究の完全な調査や,著作権侵害の有無を,編集部がすべて把握することは困難であり,その点については投稿者ご自身の責任とご判断をお願いしている。

投稿者(責任著者)の責任
投稿された論文の著作権に関する責任は,主に指導教員である責任著者に帰属する。論文や研究内容を発表する際には,先行研究や他者の著作物からの無断転載がないか,引用ルールに則っているか,使用許諾が必要な画像・図表を適切に処理しているかなどを,責任著者の判断と管理のもとで十分に確認してほしい。
他者の文章を引用する場合は,出典を明記し,引用文であることをはっきり示すようお願いしている。また,図表や画像を利用する際も,作成者や出典を明記し,必要に応じて使用許諾を得てほしい。場合によっては,文章の類似度をチェックするツールや,著作権に関する情報を提供しているサービスを活用することも有効かと思われる。生徒の探究活動の過程の最後の仕上げとも言える論文の作成という作業をする上で,大切な著作権の扱いを学ぶ機会として利用していただきたいと考えている。

5 おわりに

本報は,高校生が主体となって行った研究のポートフォリオやアーカイブスとして活用できるstudentという論文誌の開発という内容である。これまで,そのような内容の論文誌は重要な役割を有すると考えられるにも関わらず,高校の教員が主体となっているものはなかった。このstudentはそのような役割を有するだけでなく,要旨集としても活用でき,理系のみならず文系の論文としても活用できる可能性を有する。
これまでありそうで無かった高校生の論文誌として,studentが高校生を指導する先生方への一助となるものと信じている。

【参考文献】
・國府田 宏輔 第49回関東理科教育研究発表会神奈川大会,2019年11月神奈川.
・山口 悟 令和元年度茨城県高教研理化部県北支部研究協議会・研修会,2020年2月茨城.
・山口 悟,國府田 宏輔,渡邉 洋美 令和6年度全国理科教育大会,2024年8月東京.
・國府田 宏輔,山口 悟,渡邉 洋美 日本生物教育学会 第108回全国大会 神奈川大会,2024年10月神奈川.

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