高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
数学

教材の工夫と思考力をつけさせる工夫。

神奈川県立七里ガ浜高等学校 森山 滋司

1.教材の工夫

教材については過去に蓄積したものもあるがいろいろな機会からヒントが生まれることがある。まずそれを紹介したい。

① 数学Ⅱ 複素数の性質 (授業中の疑問から)

複素数α,βについて実数と同様にαβ= 0 ⇔α= 0 またはβ= 0 という説明について,複素数について簡単に自明であるといっていいか疑問に持ち,授業中に考える時間はないので課題として生徒に証明させることにした。
まずはα= a + bⅰ,β= c + dⅰ (ⅰは虚数単位)と設定できるかが鍵となり,後は複素数の相等の性質を使い連立方程式に持ち込めば導くことができる。
もちろん数学Ⅲの複素数平面の知識があれば複素数の極形式の積を使って説明することもできる。
なおこの問題は早稲田大学の入試問題でも出題された。

② 数学Ⅱ 不等式の証明 (定期テストの誤答から)

定期テストの不等式の証明の問題

a > 0,b > 0 のとき を証明せよ。

この問題を左辺-右辺を計算して展開して解くのではなく,相加平均と相乗平均の関係を使って解こうとした何人かが同じ間違いをしていることに気がついた。

両辺はすべて正だから,左辺どうし右辺どうし掛け合わせて
この解き方で,もとの問題より右辺が4小さくなった理由を考えさせた。
これは等号成立する条件が同じでないことに起因するのだがその理由を考えさせることを課題とした。結果として等号成立の条件を確認することの大切さを理解することができた。

③ 数学A 完全数 (自分自身の思考から)

完全数については小さい方から 6,28,496,8128… と続くが何か共通点がないかを考えていたところ 6=(22-1)×21,28=(23-1)×22,496=(25-1)×24,8128=(27-1)×26 となりメルセンヌ数で素数になるものが因数となることに気がついた。これについて課題として生徒に考えさせた。
まず完全数という言葉を使わずに自分自身を除いた約数の和が元の数と同じになる数で一番小さい数は6であることを示した上で2番目に小さい数を見つけさせた。
これは多くの生徒が見つけることができた。
つぎに496と8128を示した上で,素因数分解というヒントを出して1つの式で,表させた。さらにその式で表される数の自分自身を除いた約数の和が元の数と同じになることを証明させた。これは約数の総和を求める問題を解いたことがある生徒は比較的考えやすいが,そうでない生徒についてはだいぶ苦労をしたようだ。

④ 数学A ランダムウォーク (入試問題から)

センター試験の問題でさいころを振って出た目によって6方向に移動し,4回振ったときに特定の場所に移動している確率を求めよという問題が出た。
これにヒントを得て2次元のランダムウォークと3次元のランダムウォークではどちらが原点に戻りやすいかを考えさせることにした。
前任校でこの課題をモンテカルロ法により実験で考えさせたところ偶然出た結果によって判断が左右されたので,論理的に考えさせることにした。
この問題の鍵は確率を実際に計算するのではなく,2次元のランダムウォークの方は3次元のランダムウォークのさいころの出た目にプラスして原点に戻ってくるルートが存在することを示せばよいことに気がつくかどうかである。生徒の中にはさいころを4回振った場合の確率を一生懸命計算してきた生徒もいた。

⑤ 数学A 集合の定義 (放送大学の講義から)

偶然放送大学の法律の講義を見ていたら次のような問題があった。
「靴と草鞋以外立ち入り禁止」という表示があったとき,次のもので入ることができるかという問題だった。(スパイク靴,草履,下駄,裸足)
これを生徒に入れるかどうかと,その理由を考えさせた。
生徒の答えはまちまちで意見が当然分かれた。
法律の主な考え方では,名目で考える方法となぜそのルールができたのか目的で考える方法などがある。この課題は現実の世界で集合を定義することがいかに難しいかを理解させることができた。

⑥ 数学Ⅱ ピックの定理 (数学の専門書から)

ピックの定理は格子点で結ばれた多角形の面積をSとして,多角形の内部にある格子点の数をa,多角形の頂点および線分上にある格子点の数をbとするとき,

になる。これを生徒に是非紹介したくなった。ただ証明は場合に分けて行い困難だし,教科書の内容とどう関連づけようか考えていたとき,格子点を結んで正三角形が作れないことを証明させることを思いついた。
問1として格子点を結んで多角形を作り,その面積を計算させることにした。これは生徒も容易にできた。問2としてピックの定理を発見させた。これは関係式を見つけた生徒も驚きがあったようだ。問3として格子点を結んで正三角形が作れないことを証明させた。この証明は正三角形の1辺の長さを t とするとき となり 𝑡2 が自然数になるので正三角形の面積が無理数になり,ピックの定理より格子点を結んだ多角形の面積が の倍数になることと矛盾するという証明であった。

⑦ 数学Ⅱ 総費用関数 (経済学の専門書から)

世の中では2乗に比例するものは数多くあるが,3次関数の具体例があまり見つからない。そこでこの関数を授業で紹介している。総費用関数というのは,生産量をx軸に,総費用をy軸にとる。経済学のモデルでは具体的に関数を定めたりしないことが多いが,生産量が0でも費用はかかる。生産量が増えると費用は増える。生産能力の範囲内に達するまでは効率はよくなるが,それを超えると逆に効率は悪くなる。などの条件を仮定し,この条件を充たす関数を考えていくという手法で,専門書にはグラフも描かれているが,それがまさに3次関数に他ならないということである。
まだ課題という形式では生徒に課していないが,今後その形式も考えていきたい。
また数学Ⅱの微分のところで生徒に紹介しているが,実際に式を与えて考えさせるとすると分数関数の微分や変曲点などを学習した数学Ⅲのほうがよいかもしれない。

2.授業の形式

授業においては生徒が自分で考えることに力を入れている。それは人から教わっただけではその場では分っているつもりでも,時間がたつと定着しないからである。
そのためプリントを使い授業中教科書は見ない。事前に予習するのはかまわない。参考書は見てもよい。
例題については多くの生徒からアイデアを求め,それが解けたら問題に移る。問題を指名するのに正20面体のさいころを使う。これだといつ当たるか分らないし一度当たっても気が抜けないからである。
公式については左辺だけプリントに載せ右辺を予想させる。また証明もきちんとやらせている。

3.テストの工夫

定期テストでは,うまく工夫すると計算が簡単になるものを入れている。
採点に時間がかかるが答案をきちんと書けるように記述も必ず入れている。選択肢を選ぶ問題でも,学力を測ることは可能という報告を講演で聞き,新しい試みとしてグラフを書かせる代わりにグラフの式を8つの選択肢から選ばせる問題を出題した。

4.考察

数学の教材としていろいろな視点で教材を工夫しても,数学の面白さを理解してくれる生徒ばかりとは限らない。また数学を今後の人生で使うことを想像していない生徒には,もっと楽をさせてほしいというニーズがあるのは確かである。ただ同僚の先生から数学が世の中でこう使われているということを学生時代に教えて欲しかったという声を聞くと自分自身ももっと努力していきたいと考えている。