1.はじめに
本校は,昭和50(1975)年に創設され,今年度50周年を迎える全日制普通科の県立高校である。広島市北部の高台に位置し,3学年合わせて約960名の生徒が在籍する。「仰高(ぎょうこう)~心豊かな人生の創造をめざし,高遠の理想を仰ぐ~」を校訓(教育目標)とし,学習はもとより行事や部活動のあらゆる場面で生徒が主体性を発揮できるように,教職員はチームで生徒をサポートするというよき伝統が受け継がれている。また,オーストラリアの姉妹校との相互交流やJICA研修員交流等,国際交流にも力を入れている。
スマートレクチャーコレクション(以下スマコレ)は,令和5(2023)年度の1学年から導入を始めた。本稿では,この学年に対する2年間に渡るスマコレの導入事例を紹介する。
2.スマコレ導入について
本校は,シラバスに基づき,4月当初に学年ごとに教科書・副教材・小テスト・課題提出についての年間計画を作成し,その計画に沿って3年間を見通した指導を行っている。従来,自由英作文の指導は,教科書の題材を使って学期に2回程度教科担当者が添削をしていたが,生徒が外国人講師による質の高い添削を受けることができる点や教員の添削に関わる負担軽減ができる点が魅力的だったので,令和5年(2023)度の第1学年を対象とし,スマコレを採択することとした。「論理・表現Ⅰ」で,啓林館の「Vision QuestⅠ」を採用していたが,大学入試や外部検定試験との関連がより深い「ライティングメソッド」のBasic(英検3級~準2級レベル)が本校生徒には適切であると判断した。また,初めての試みなのでAプラン(5題)を選択した。
3.実施方法
令和5(2023)年度 対象:高1 教材:「ライティングメソッド」Basic
1) 論理・表現Ⅰ教科担当者への連絡(4月末)
スマコレ実施までの準備・手順説明
2) 初期指導とL.1の提出について(5月中旬)
授業中のオリエンテーションでは,「解説動画」をスクリーンに映して,次のような指示をした。
①「ライティングメソッド」PP.10-11(L.1 Warming Up)
・・・解説動画を聴きながら,解答を冊子に記入する。
②「ライティングメソッド」PP.12-13(L.1 Writing Exercise)
・・・解説動画を聴いて,ライティング課題に対する自分の答えを記入する。
また,L.1ライティング課題の提出と添削結果の確認・リライトの提出について,次の表のように実施した。
| 期間 | 取り組み内容 | 取り組み場所 |
| 5/18-5/23 | スマコレオリエンテーション,アカウント登録 | 授業 |
| 5/18-5/28 | L.1 PP.10~13 動画視聴+解答記入 | 自宅 |
| 5/31まで | L.1 提出 | 自宅 |
| 6/18まで | L.1 添削結果の確認,リライト提出 | 自宅 |
3)L.2以降の実施
次の表のように,L.3,5,7,8→オンライン添削,L.2,4,6,9を定期試験範囲の扱いにした。
また,オンライン添削については,1回目(課題提出)と2回目(リライト)の提出状況を評価の対象とし,生徒の取り組み意欲向上につなげた。
| レッスン | 取り組み時期 | 提出期限 | |
| 1回目 | 2回目 | ||
| L.2 | 1学期期末試験 | ― | ― |
| L.3 | 添削2回目(夏休み課題) | 自身で設定 | 8月23日(水) |
| L.4 | 2中間試験 | ― | ― |
| L.5 | 添削3回目(10月~11月) | 10月31日(火) | 11月19日(日) |
| L.6 | 2期末試験 | ― | ― |
| L.7 | 添削4回目(冬休み課題) | 自身で設定 | 1月8日(月) |
| L.8 | 添削5回目(1月~2月) | 1月21日(日) | 2月11日(日) |
| L.9 | 学年末試験 | ― | ― |
令和6(2024)年度 対象:高2 教材:「ライティングメソッド」Standard
次の表のように,L.2,4,6,8,9→オンライン添削,L.3,5,7,10を定期試験範囲の扱いにした。
前年度と同様,オンライン添削については,1回目(課題提出)と2回目(リライト)の提出状況を評価の対象とし,生徒の取り組み意欲向上につなげた。
| レッスン | 取り組み時期 | 提出期限 | |
| 1回目 | 2回目 | ||
| L.1 | 1学期中間試験 | ― | ― |
| L.2 | 添削1回目(5月~6月) | 5月31日(金) | 6月16日(日) |
| L.3 | 1学期期末試験 | ― | ― |
| L.4 | 添削2回目(夏休み課題) | 自身で設定 | 8月22日(木) |
| L.5 | 2中間試験 | ― | ― |
| L.6 | 添削3回目(10月~11月) | 10月31日(木) | 11月17日(日) |
| L.7 | 2期末試験 | ― | ― |
| L.8 | 添削4回目(冬休み課題) | 自身で設定 | 1月7日(月) |
| L.9 | 添削5回目(1月~2月) | 1月26日(日) | 2月11日(火) |
| L.10 | 学年末試験 | ― | ― |
4.ケニアの添削者訪問について
令和6年2月に,ケニアからスマコレの添削者2名の訪問を受けた。両者ともケニアの民俗衣装を身につけて,生徒の前で自身とケニアの紹介をしてくれた。オンライン上で添削をしてくれている海外の添削講師を目の前にして,生徒は少し緊張気味だったが,2人の話に興味深く耳を傾け,質疑応答を通じて彼らとの交流を笑顔で楽しんだ。一人一人の添削にかなり時間をかけているという答えを聞いた生徒は,自らの取り組み姿勢を振り返る良い機会になり,課題に取り組む意欲向上につながった。
5.アンケート結果より①
2年間のスマコレの取り組みを終えた生徒にスマコレに関するアンケートを実施(2025年4月)し,今後の参考にすることとした。以下は,4つの質問に対する回答の分析である。(回答数305名)


〈質問1・2分析〉
高校1年次の初期指導で,課題に取り組む前に「ライティングメソッド」の解説動画を視聴しながらWarming UpとWriting Exerciseに取り組むように指導したが,問題に取り組んだ生徒は半数弱で動画視聴をした生徒は3割未満だった。次のような生徒の声もあったので,初期指導をもうもう少し丁寧に行い,授業の中で,時々「ライティングメソッド」を扱うと良いと考える。
- 授業で「ライティングメソッド」を扱って欲しい。
- 「ライティングメソッド」の課題の語彙が身について役立った。
- 「ライティングメソッド」の問題や単語に一通り目を通したら英作文が書きやすくなった。
- 解説動画がわかりやすくて良い。


〈質問3・4分析〉
7割の生徒が添削者の名前や自己紹介を通じて添削者に親しみを感じ,9割近くの生徒が,添削者からのアドバイスやコメントがやる気につながったと答えている。自由記述の中にも,次のような添削者に関する肯定的なコメントが多数あり,生徒が外国人添削者を身近に感じることができたという点で有効であると考える。
- 外国の人とつながれる感じがして嬉しかったです。
- 添削してくださった方のプロフィールを見られるのがよかった。
- スマコレの添削者を見るのが毎回の楽しみだった。
- 海外の人に添削してもらうので,信頼感があり,満足している。
- 添削者の人にアドバイスをもらえていいところを褒めてもらえて嬉しかったです。
- 先生からのコメントがとても優しくて勉強のやる気につながりました。
- みんな丁寧に添削してくださってすごくわかりやすかったです。最後に応援の言葉もいただけてとても励みになりました。
- 自分の解答を感想など含めて添削してもらえる機会はなかなかないので貴重で良い体験だったと思います。
- 添削者の方に感謝の気持ちを伝えたいくらい丁寧に添削していただいてうれしいです。
6.アンケート結果より②
スマコレに関する自由記述欄の生徒の声から,スマコレの様々な利点がうかがえる。
1)入試や外部試験対策になる。
- 様々なテーマで英作文を書くから,試験の対策になった。
- スマコレに取り組むことで,自由記述の問題に取り組む力がついた。
- 英作文に関する知識が増え,模試で書きやすくなってよかった。
- 時事的な問題への自分の意見を英文にする練習ができてよかったと思う。
- 英作文の力が伸び,英検対策にも役に立った。
- 英検の面接で社会問題を答えるための良い対策となった。
2)英作文のスキル向上が実感できる。
- スマコレで英作文をどのように作っていくのかを理解することができ,1,2年生のうちから英作文を書くため,英作文を書くことに慣れることができました。また,英作文で使う接続詞(例えば,howeverやalthoughなど)も書いていくうちに覚えることができたので良かったです。
- スマコレは,英作文を書くことの練習になるほかに,どこの言い換えが必要で,文章が成り立っていないのかなどが明確で目に見えてわかるので,とても勉強になりました。
- 英作文を完成させるまで最初の方は時間がかかったが添削者の意見を参考にしながら書き続けると中学校レベルの英語でもきれいに文が作れた。
- 自力で英文を書くことで,自分の考えを論理的に書く力を身につけることができて良かった。
3)その他
- 英文を作成する過程で,単語力や文法など,自分に何が足りないのか知ることが出来た。
- 日ごろ学んでいる単語や熟語の使い方の確認ができた。
- 自分の言葉で書いた時すぐ語数がカウントされているので,自分はいつもこのくらいの語数だと分かっていいと思う。
- スマコレに取り組んだことで,決められた語数の中で自分の意見を記述する事が以前より出来るようになりました。
- 最初は,パソコンで英語を打つのが難しかったけれど徐々に慣れることができたので良かったと思います。
- パソコンで英文を打つことに慣れていなくてスペルミスが多かったので,提出前に確認する癖をつけることができた。
- すぐ添削が受けられるのがよかったです。
- 定期的に英作文を作るのは,自分の力につながったと思う。
- 良いシステムだとは思うけど頻度が少ないから伸びる実感がわきにくい。
- 英作文の練習にとても役立つ教材だと考えます。回数を増やしていただくと幸いです。
7.終わりに
スマコレの導入時に,教員の添削の負担軽減になると考えたが,スマコレがあるからこそ,授業で気楽に自由英作文を書かせる機会を作り,個別指導にもより時間をかけることができるようになった。
2年間の取り組みを通じて,スマコレの一番の魅力は,海外の様々な外国人添削者とつながることができる点だと考える。スマコレのパンフレットにも「世界とつながる喜びを日常へ」という言葉とともに,各国の添削者の笑顔が並んでいる。実際,彼らから添削とコメントをもらうことで本校の生徒も学習意欲が向上した。それに加えて,先ほど紹介したように,啓林館が行っている添削者への研修で,添削者が遠いケニアから広島の高校生に会いに来てくれた。この貴重な出会いは生徒の異文化への興味・関心を高めたに違いない。
スマコレは単なる英語学習教材ではなく,生徒を世界とつなげる役割も果たしている。






























































