高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

野外巡検「神奈川県三浦市城ヶ島」

攻玉社高等学校 藤本 正樹  茂木 秀二

1.はじめに

都市部の学校の生徒にとって,自然に接する機会と場所は極めて少ない。特に地質関連の自然教材は,教師の側から接する場を提供しなければ,その機会が訪れることはほとんどないと思われる。また,地質教材の観察にはある程度のスキルも要するので,露頭観察では教師側からの働きかけが大切になる。本校から約1時間半で行くことができる城ヶ島での地学巡検を例に,地学教材の観察授業の内容を紹介する。

2.城ヶ島の地形・地質

城ヶ島は神奈川県三浦半島南端にある,東西約1.8km,南北約0.6km,周囲約4kmの小島である。島の中心部は海岸段丘面が広がり,海岸には三段ほどの段丘地形が認められている。島の土台は,新第三系の三浦層群からなり,その上に第四系の関東ロームが不整合に乗っている。三浦層群はスコリアやシルト岩からなる三崎層(約1200万~440万年前)と,スコリア,軽石層からなる初声層(約440万~400万年前)に分けられている。


図1 城ヶ島の地形図と観察ポイント
(地形図は国土地理院2万5千分の1地形図)

3.地質教材としての城ヶ島

啓林館の地学基礎教科書では,「文字による記録のない過去のできごとを知る手がかりは,岩石や地層に残されたさまざまな痕跡である。」と記述され,地層に見られる構造として,クロスラミナ,級化構造,リプルマーク,ソールマークが取り上げられている。そして,これらの構造などを記録して考察する観察実習も取り上げられている。

城ヶ島とその周辺地域には,教科書に記述されている堆積構造や不整合,断層や褶曲といった地質構造が観察できる上に,ほぼ一日で観察が可能な地域である。

4.城ヶ島の観察ポイント

(a)安房崎 波によって平らにけずられた波食台に,垂直に近い傾斜の地層が広がる(写真ア)。北側には三崎層,南側には初声層が分布し,級化構造やクロスラミナが見られるため,地層の積み重なりの新旧(上下)を判別する観察実習ができる。

(b)赤羽根崎 分布する初声層の中に,クロスラミナ(写真イ)がよく観察できる。地層は,手で触れることができる近さなので,スケッチによるクロスラミナの微細な構造の観察ができる。また,この付近は1923年関東地震により地盤が1.5m以上も隆起した波食台であり,地殻の変動の大きさが体感できる(写真ウ)。


(写真ア)安房崎灯台と地層

(写真イ)クロスラミナ

(写真ウ)赤羽根崎の海食洞

赤羽根崎には「馬の背洞門」という
海食洞があり,関東地震の発生前は
小船が通り抜けられるほど海水面が
高かったが,現在は,地震による地
盤の隆起によって洞門は海水面より
上になっている。

(c)城ヶ島灯台付近 灯台下から東側に広がる波食台をみると,地層がわずかに下に凸の形状で傾いている向斜構造が観察できる。

灯台下付近の三崎層には正断層や逆断層が多数観察できる(写真エ)。また,桃色でよく目立つ凝灰岩層が挟まっているため,鍵層として使うことができ,地層の対比の実習に役立つ。

(d)バス停付近 灯台付近からバス停に至る海岸沿いの地層には,層理が平行な地層と地層との間に曲がりくねった地層が挟まるスランプ構造(写真オ)が観察できる。堆積構造のでき方を考察する学習に役立つ。


(写真エ)城ヶ島灯台と断層

(写真オ)スランプ構造

5.まとめ

城ヶ島とその近辺では上記の他に,漣痕,生痕化石,地層の逆転,傾斜不整合,海食崖などの地質教材が観察でき,地質分野の学習に大変役立つ場所である。また,城ヶ島を含めた三浦半島の地層群は新第三紀の付加体であり,生徒にとっても,プレート運動というスケールの大きな地学現象を体感できる場所である。

上記のような地学観察実習は,地学が履修できる高等学校や有志のグループで実践していることがあるので,未経験な教員の方々は,機会をつくって実習へ参加し,地質観察のスキルを向上させて下さい。

参考文献