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ICTを活用したパフォーマンス課題による学習評価の実践 ー 数学Ⅱ「図形と方程式」における解説動画作成を通してー

三田国際科学学園中学校・高等学校
赤澤  徹哉

2026.03.02

1.はじめに

数学の授業では,知識や技能を身に付けるだけでなく,それらを使って考えたり,自分の考えを説明したりする活動が大切であると考えている。本校の数学の授業でも,式や図の意味を問い返したり,解法の見通しや理由を言葉にしたりすることを重視している。一方で,私が定期試験のように制限時間内で答案を作成する評価方法では,生徒がどのような見通しをもって考えたのか,どこで迷い,どのように判断したのかといった思考過程を十分に把握することが難しいと感じている。生徒の1人1人がどのように考えたのかという思考過程を見る別の方法を考えた。そこで,通常の授業で行っている「考え方を説明する」「理由を言語化する」「問いを立てて検証する」といった学習活動を,ICTを用いたパフォーマンス課題の中でも同様に行うことができるのかという点に着目した。具体的には,解説動画作成を通して,(1) 生徒の思考過程や理由付けがどの程度表出するか,(2) 普段の授業と同質の学びがどのような形で再現されるか,を検討することをねらいとした。

2.対象・単元・ICT環境

(1) 対象・単元

・対象:高等学校1年生 理系クラス(34名)
・単元:数学Ⅱ「図形と方程式」

 (2) ICT環境

・生徒:1人1台 iPad または MacBook
・主な使用ツール:
スクールタクト,Googleサイト(教材閲覧・作品共有),Keynote,GeoGebra 等                                     画面収録機能,Googleフォーム(自己評価)

3.ICT活用の位置づけ

ICT活用を次の3段階で整理した。

① 教材を見る
Googleサイトを用いて教材や過去の生徒作品を閲覧し,学習内容の整理や振り返りを行った。これは,通常の授業で板書やノートを見返しながら考えを整理する活動と同様の位置づけである。

② 検証する
アプリケーションを活用して図形やグラフを操作し,自分の考えを確かめた。対面授業で図を描き直したり,条件を変えて考え直したりする活動を,ICT上で再現することを意図した。

③ 創作・表現・共有する
動画作成を通して,自分の考えを言葉や図で表現し,他者と共有した。これは, 授業中に黒板やノートを使って説明する活動と同質の学習として位置づけた。

 

4.パフォーマンス課題の概要

(1) 課題内容

単元学習のまとめとして,啓林館『フォーカスゴールド 数学Ⅱ』に掲載されている問題から,各生徒に1題ずつ割り当て,その問題について解説動画を作成するというパフォーマンス課題を設定した。定期試験に向けて行うことで,普段の授業で行っている「考え方を説明する」活動と親和性が高いと判断した。生徒が完成した動画を用いることでも定期試験勉強にもなるとも考えた。動画では, 解法の方針,途中で考えたことの3点を自分の言葉で説明することを求めた。その内容は生徒に事前に説明をした。使用するアプリや表現方法は生徒に委ね,授業中と同様に,自分にとって説明しやすい方法を選択させた。動画の長さの目安は生徒ともに決めた。制作期間は2週間とし,完成した動画はGoogleドライブに提出させ,クラス内で閲覧できる形で共有した。

(2) 課題設定の意図

動画という形で説明させることで,教員との一対一のやり取りがなくても,生徒が授業中と同じように考えを整理し,説明する活動が行えるかを確認することを意図した。また,説明する過程そのものを学習活動として位置づけることで,学習内容の振り返りと再構成につながるのではないかと考えた。

5.評価の工夫

評価は次の4段階で行った。

① 診断的評価
小テストにより,既習事項(中学校内容を含む)の定着状況を確認した。

② 形成的評価
Googleフォームを用いて自己評価を行い,教員がコメントによるフィードバックを行った。これは,授業中の発問ややり取りを通した確認と同様の役割を果たしている。

③ パフォーマンス課題の評価
解説動画をルーブリックに基づいて評価した。ルーブリックは教員が一方的に提示したものではなく,事前に生徒と話し合いながら観点を整理し,共通理解を図った上で作成した。
「解答の正しさ」だけでなく,「考え方の説明」「見通しの示し方」「他者に伝える工夫」など,普段の授業で重視している観点をそのまま評価観点として反映した。さらに,ルーブリックは相互評価にも用い,他者の説明を評価する活動を通して,自分の説明を見直す機会とした。

④ 総括的評価
定期試験による評価を行った。

 

6.生徒の様子と成果

動画作成では,GeoGebraを用いて図形を操作しながら説明する生徒や,手書きのノートを画面収録し,ポインター機能を使って説明する生徒など,授業中と同様に考えを整理しながら説明する様子が見られた。

動画内では,「なぜこの式に代入したのか」「どのような見通しで解法を選んだのか」といった理由を説明する場面が多く,対面授業での発問に応答する場面と同質の思考が確認できた。                                                                                     提出された解説動画を分析すると,使用ツールは手書きによる説明が30本,アプリケーションの機能を利用した動画が4本であった。また,Keynoteを用いてスライドを作成し,TeX形式で数式を提示する生徒が5名見られ,数式を正確に表現しようとする姿勢が確認できた。

動画の構成では,事前に台本や図を準備した動画が8本,準備をせずに考えながら説明した動画が26本であった。前者では説明の見通しが整理され,後者では思考の試行錯誤がそのまま表出しており,いずれも授業中の学習過程と対応する特徴が見られた。例えば,連立不等式の領域を扱った動画では,授業中と同様に「どの部分が重なるのか」という問いを立て,GeoGebraを用いて境界の意味を確認しながら説明する様子が見られた。また,円と直線の交点を求める問題では,「何を知りたいのか」を明確にした上で代入先を選ぶ理由を説明しており,普段の授業で行っている理由付けの活動が再現されていた。また,ホワイトボードの前で撮影をした動画では数名の生徒の前で撮影している様子を感じた。このことからお互いに学び合い,定期試験の勉強にも繋がっていると考えた。

 

7.考察

今回の取り組みから,ICTを活用したパフォーマンス課題であっても,普段の授業で行っている学習活動と同質の学びを実現できるのではないかと考える。説明方法や表現手段は生徒によって多様であったが,いずれの成果物にも,解法の見通しを立て,理由を説明し,必要に応じて考えを修正するという,授業中と同様の思考過程が表れていた。生徒1人1人がどのように考えているのかを自分のペースで聞けるのはとても嬉しい経験であった。動画という形式であっても,生徒は単に解答を示すのではなく,「どのように考えたか」を意識しながら説明しており,これは日頃の授業で積み重ねてきた学習の在り方が反映された結果であると感じている。また,成果物を通して,生徒一人ひとりの考え方や判断の仕方の違いが可視化された点も,動画にしたことによる特徴だと考える。授業中の発言やノートからは捉えにくい部分についても,動画として残すことで,どの段階で迷ったのか,どの情報を重視して判断したのかといった学習過程を把握しやすくなった。これは,学習評価の場面だけでなく,その後の指導や声かけを考える上でも有効であった。 一方で,動画の構成や準備の有無によって,説明の仕方や表れ出る思考の様子に違いが見られた点は,今後の課題である。事前に準備をした動画では見通しが整理されやすい反面,思考の試行錯誤が表れにくくなる場合があった。逆に,準備をせずに説明した動画では,考えを修正しながら進める様子が捉えやすい一方で,説明が分かりにくくなる場面も見られた。課題の目的に応じて,準備の仕方や時間の目安をどのように設定するかについては,今後さらに検討していく必要がある。加えて,動画作成に対する生徒の負担感にも配慮が求められる。ICTを活用すること自体が目的化しないよう,あくまで授業での学びと連続した活動として位置づけることが重要である。今後は,課題の規模や条件を調整しながら,学習の質を高めるためのICT活用の在り方を模索していきたい。

8.おわりに

今後は,ルーブリックの観点や活用方法をさらに改善するとともに,実生活や実社会の文脈と結び付けたパフォーマンス課題の設定についても検討していきたい。ICTを用いた評価であっても,学校での通常の学びと連続した形で位置づけることを意識しながら,授業実践を継続していく考えである。本実践は,特別な取り組みというよりも,日頃の授業で大切にしている「考え方を説明する」「理由を言葉にする」といった学習活動を,別の形で捉え直したものである。同様の課題は,環境や条件が異なる学校でも工夫次第で取り入れることができると感じている。この取り組みが,日々の授業づくりを振り返る一つの視点として,読者の先生方の実践に少しでも役立てば幸いである。今後も,生徒の学びをよりよくするために,試行錯誤を重ねながら前向きに挑戦していきたい。

【参考文献】
・文部科学省(2024)「OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント」
・啓林館『フォーカスゴールド 数学Ⅱ』

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