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教科書を活かした『使える英語力』の育成 - 国際交流から大学入試まで -

兵庫県立尼崎稲園高等学校 
吉岡武大

2026.02.02

Ⅰ.概要

大学入試に対応しながら『使える』英語力を生徒たちが身に着けるには?教科書活用に一工夫を加え,確かな学力と使える英語の両立を目指した授業の実践報告をする。

Ⅱ.はじめに 使える英語が国を救う?

私は短期間ながら海外で働いた経験がある。約70か国出身の社員がいる国際企業で,旅行に関するカスタマーサービスとして世界中からの電話やメールに応対した。

様々な訛り,早口,感情のこもった口調の英語に応対するのは難しい。会社で定められた時間(KPI)内に,①お客様情報を一瞬で読む ②電話越しの声から要望を聴く ③交渉・主張・慰めなど相手の気持ちを汲んだ返答を話す ④そして応対記録を書く。間違えたらどうなるか?テストのように減点,ではなく相手が悲しくなり会社の評価が下がる。この究極の英語使用場面により,ふさわしい英語×瞬発力×ストラテジー×感情という『使える英語』の大切さを実感した。

また,日本からの問い合わせは英語と文化の違いに起因するトラブルが多かった。英語が使えなければ損をする,悲しくなることもある。逆に英語が使えれば得をする,楽しくなる。

そして教員である今,高校生が『今も将来も使える英語力』と『異文化理解力』を身に着けることで各々が人生の幅を広げ,生産性を上げ,行く行くは国を救うのでは,とまで考える。

よって私は,各学校の特徴や生徒の様子に合わせ,限られた時間内に『使える英語力』と『異文化理解力』の育成ができるよう心掛けている。

Ⅲ.本校・生徒について

本校は1977年創立,全クラス普通科単位制で定員840名である。教育方針は『広く社会の発展に貢献できる「世界のリーダー」となる生徒の育成』。近年,国公立大学への進学者数が増加し,いわゆる地域の進学校と呼ばれる。従って,大学入試がすべてではないがそれにも対応することが期待される。

生徒は学習や学校活動への意識・意欲が高く,ペアワークのジャンケンでさえも悲喜交々な反応があるほど素直である。スピーチやリテリング,ディベートなど負荷の高い活動を楽しむ姿が見られ,想定を超えるポテンシャルに驚かされる。

Ⅳ.『使える英語力』と『大学入試力』の両方を鍛える教材は?

大学入試に対応,となると読解や文法解説に固執しがちであるが,あくまでも『今も今後も使える英語力』の育成を目指し,教科書を軸にした基礎固めと4技能5領域のトレーニングを行う。

かつては自作の投げ込み教材やオーセンティックな教材を大いに活用した。しかし,適切な素材を見つける時間,授業に合わせて加工する労力が嵩んだ。試行錯誤の末,検定教科書をフル活用することに回帰した。

検定教科書の利点として,以下が挙げられる。

・生徒全員がすぐにアクセスできる

・生徒の興味と好奇心を擽る話題に富む

・視覚教材や豊富な資料,ちょっとしたTipsで理解を促進する

・学習指導要領に則っており,系統立った4技能の活動が用意されている

・自ずとそこから出題される大学入試共通テストの形式(速読,意見の比較,物語,論説など)に対応できる。

・ワークブックや教師用資料の追加問題で国公立二次試験に向けた読解力と表現力を身に着けられる。

・観点別評価基準,観点別評価支援ツールにより適切評価のつけ方の基準となる。

その他単語帳や文法書,副教材も使用しているが,英語コミュニケーションⅡの授業は教科書をメインとしている。

Ⅴ.教科書活用の工夫と実践

教材と教師の関係は食材と料理人との関係と同じだ。用意された良い素材を相手に合わせ,足したり引いたりしながらどう調理,どう配置するかが肝心である。以下に『Element English Communication Ⅱ』(啓林館)を素材とし,数々の失敗と調整,改善から生まれた活用例を記載する。

1 評価基準例を使ったポートフォリオ:メタる力の育成

学習状況調査の結果から,自己を俯瞰し学びを調整する自己調整力の強化が必要であることが分かった。そこで,メタ認知をする能力(=メタり力)の大切さを生徒に伝え,目標立てと学びの見通し,振り返りができるポートフォリオの記入と提出を課した。教員用資料の『評価基準例』を参照することでレッスン予定と目標項目を短時間で作成することができた。

 (資料1)L-1 導入ポートフォリオ

 

振り返り例1・2 苦手とすることを認知し,克服するための具体的方略が記載されている。

 

例3・4 自己の成長に気づき,負荷の高いリテリングに対しての前向きな姿勢が見られる。

授業中に全員を観察することは困難であるが,ポートフォリオを通して教員が生徒一人ひとりの強み,躓き,努力を見取ることが可能になった。そして次のレッスンの匙加減に活かし,クラス集団に合わせた指導に繋がった。

2 教科書の内容を活かした国際交流 The Culture Map × JICA交流

2年次4月に扱った“Lesson 1 Cultures around the World” ではステレオタイプやハイコンテクスト・ローコンテクストなど異文化理解についての内容を扱った。その半年後の10月にはJICA関西の来日行政官・技術者と交流をし,英語力と学んだ内容が生きる場を設定した。

〇 国際交流概要:

・内容:交通安全と自国文化について互いにプレゼンテーション・Q&Aをする。これにより,社会性のある話題と身近な話題の両方を扱うことができた。

・相手:ネパール,タイ,ジブチ,モザンビーク,ジンバブエ,エジプト,トンガ等16カ国18名で交通安全に関する行政官や技術者。全員が英語ネイティブという訳ではない。

・形態:行政官・技術者1名に対し,12~17名の生徒グループを構成。1グループを更に4つの班に分け,全員が発表する機会を設けた。

・時間:準備3時間,交流2時間。生成AIを活用し,原稿や発表資料作成の時間を短縮させた。その分,相手に分かりやすく伝えることを重視させた。

 

(資料2)JICA関西交流ワークシート

 

〇 生徒の振り返り

リスニングについて

・英語にもさまざまな訛りがあることを実感した。  ・普段聞く音声と違い,現実の英語には個性がある。

・アクセントやスピードの違いが興味深かった。   ・訛りがあって難しかったが,慣れると理解できた。

・知らない単語が多く,意味がすぐ浮かばなかった。 ・聞き取れても理解が追いつかなかった。

・リスニング力・単語力の不足を痛感した。     ・ネイティブのスピードについていけなかった。

スピーキングについて

・急に英語を話そうとすると言葉が出てこなかった。 ・ゆっくり・はっきり話すことが大事

・文法よりも伝えることを意識したが,語彙不足を感じた  ・カタカナ英語を直したい

英語と国際的視野について

  • 英語が通じる喜びを感じた。         ・英語が共通言語として機能することを実感した。
  • 異文化交流を通して世界の広さを感じた。   ・日本と外国の文化や生活の違いを知ることができた。

今後の英語授業について

  • 会話中心の授業を増やしてほしい。      ・外国人との英語交流をもっと増やしたい。
  • 実際の会話や即興表現の練習をしたい。    ・もっと英会話の時間を授業に取り入れてほしい。

アンケートと振り返りの結果から,相手に伝える,相手を理解する,そして,相手の様子や感情を汲んで行動するという実践的なコミュニケーションの機会を通し,使える英語力と異文化理解の大切さを学んだ様子が見られる。さらに,その後の授業でも英語を使う場面を求めるなどコミュニケーションに前向きになった生徒が増えたことが分かった。

3 教科書と大学入試の関連

国公立大学入試では日本語で内容を説明する設問,データを分析したり意見を述べたりする自由英作文(80-120語)があり,読解力だけでなく,思考力・表現力・表現力が試される。普段の授業において,リスニング・リーディングから学んだ内容を基にライティングやスピーキングへと繋ぎ,地道に訓練することでその力が身につくと考える。

Lesson 1 Cultures around the Worldの内容は,東北大学2024年度大問3の読解・英作文とまさに合致している。また,Lesson 1 Cultures around the WorldのWritingセクションにおけるグラフの読み取り英作文は,香川大学2024年度大問3に取り組む際に参考になる。その他にも,戦争体験,行動経済学,iPS細胞と医療等,多岐に渡るトピックを膨らませながら大学入試で扱われる問題とリンクさせてきた。共通テストで見られる意見を比較する文章読解も,レッスン間にある “Communication Strategy”に取り組むことで,「普段行っている活動が設問になっている」と感じるだろう。

また,教科書準拠のワークブックAdvancedではレッスンのテーマに関連した読解入試問題が用意されている。さらに,教科書準拠のサブノートではマッピングチャート等内容理解を促す問題があり,1つの文は分かるが全体像が見えない,と悩む生徒に対し有効な手助けとなった。

主に読解力を求められる大学入試に対応しながらもアウトプットをゴールとした授業の両立は難しいと感じていたが,教科書と準拠教材の使用法と配列,負荷を工夫することによってそれが可能であると感じる。

Ⅵ.おわりに

これまで,1,2年次の英語コミュニケーションの授業において『Element Ⅰ・Ⅱ』を中心に,生徒の様子に合わせて授業改善を繰り返しながら『使える英語力』と『異文化理解力』の育成に努めてきた。『Element Ⅲ』はさらに大学入試に直結した構成となっており,大学入試を迎える3年次に大変有効であると期待を膨らませている。

ここで述べさせていただいた内容は私一人で編み出したものではない。これまでご一緒させて頂いた英語科,他教科の先生方,セミナーや研究大会,公開授業で多くの示唆を与えてくださった方々,そして素直に学び続けてくれた未来ある生徒一人ひとりから頂戴した知識と経験の積み重ねである。今後も研鑽を重ね,生徒たちの可能性をさらに広げられる授業づくりに取り組んでいきたい。

 

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