1.はじめに
2022年度から高等学校で本格的に実施された学習指導要領において,「総合的な探究の時間」は,生徒が自己の在り方・生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していく資質・能力を育成する中核的な役割を担っている。このような教育改革の潮流の中で,本校も含め,多くの学校が探究学習の在り方を模索している。
京都市右京区にある本校では,2015年度から「ディスカバリーコース」を設置し,「10年後の国際社会において活躍できる,真のグローバル人材の育成」を目標に掲げ,約10年にわたり体系的探究プログラムを考究・実践してきた。本校のプログラムでは,生徒一人ひとりの内発的動機付けを起点とし,中高6年間を通じて螺旋的に学びを深め,また「探究の一本のストーリー」を重視し,社会との接続・交信を強く意識したプログラムを構築・実践してきた。
本稿では,同校の「ディスカバリープログラム」を構成する数々の取り組みの中から,特に中学1年生から高校1・2年生(4・5年生)にかけて実施される「探究基礎:好きを究める」「みらいプロジェクト」「ジャパンツアー・ワールドツアー」「ミッションチャレンジプログラム」「ゼミ活動」という5つのプログラムに焦点を当てて紹介する。それぞれのプログラムの内容,教育的目標,具体的な実践事例を紹介し,これからの探究学習の実践における参考に供せたらと考えている。
【年間指導計画】花園中学高等学校(2025年)
2. 1年次「探究基礎:好きを究める」― 探究のモチベーションを考究する ―
花園中学高等学校一貫コースの探究学習は,入学前課題と連動して行われる,中学1年生の「探究基礎:好きを究める」から始まる。これは,生徒一人ひとりが自身の興味関心に基づいてテーマを設定し,1年間を通じて探究する個人探究プログラムである。
本プログラムの最大の目的は,探究を支える「内発的動機付け」をじっくりと涵養することにある。同校では,「何を扱っても良い」「調べ尽くす」「常に疑問を持ち帰る」「他者の興味関心を肯定する」という姿勢で生徒に対して探究に向きあうように伴走・指導している。これは,生徒が純粋に「探究は面白い」と感じてもらい,自己表現することへの恥ずかしさなどの垣根を取り払うための仕掛けであり,探究学習への心理的なハードルを下げるための取り組みとして行ってきた。生徒が探究した「好き」なことを,教員や他の生徒から「承認してもらえる」という体験をシャワーのように浴びせることで,自己肯定感を育み,探究や学びへの「自信」へと繋げることを目指している。特に正解主義を意識して中学受験を通過してきた生徒に対しては,この取り組みをスタートの段階で入れることを重視している。筆者は,「好きなことを追究すること自体は個人でもできる。学校で行う意味は『承認』を得る+『他者理解』と『自己理解』」にあると考えており,対面を通じて他者からのフィードバックを得る機会を重視してきた。6年間学校生活を共にする仲間から,探究活動についても相互承認を得ることで,学びの場として「自分の好き」を表現して良い場を作り上げることを目標にしている。
この「好きを究める」に関して,生徒たちが選ぶテーマは極めて多様である。2025年度入学生のテーマ一覧を見ると,「猫と犬の違いとはどこが決定的な要素か」「Minecraftの世界~なぜヒットが続くのか?~」「御朱印の人気の秘密」「なぜ男の人も化粧するようになったのか」といった,日常の素朴な疑問から現代的な関心事まで多岐にわたっている。
生徒はこれらのテーマについて,授業の過程において,情報検索の方法,プレゼンテーションや傾聴のスキル,資料作成,図書館の利用方法といった基礎的な「探究スキル」を学びながら探究を進め,「発表」という一つの「目標」に向けての過程も大切にしている。この過程において,『課題探究メソッド』の内容などを活かした指導を展開する。
『課題探究メソッド Start Book』の「情報源の種類と信頼性」「情報の集め方〈図書館〉」「同〈インターネット検索〉」「同〈人から情報を引き出す〉」を調査の過程において,「文章のビジュアル化」などを発表の過程において活用する。必要に応じてテキストに準拠したワークシートを作成し,指導を展開する。
このプロセスを通じて,生徒は自身の「好き」を教科の学びに「橋渡し」し,これからの6年間の本校での教科学習の意義や目的を意識してもらう。探究と教科学習が相関していることを生徒各自が意識することが1つの目標となる。『課題探究メソッド Start Book』の「興味関心をビジュアル化」などを活用し,キーワードを書き出し,教科学習で今後の中高で学習する内容が記されていることに生徒に気づかせることで,教科学習と探究学習との双方向性について理解を促す。
「好きを究める」プログラムの過程で,教員は「Teacher」つまり教授者という側面だけではなく,「Facilitator」・「Coordinator」といった,伴走的側面を意識的に生徒に見せるべく活動を展開していく(斎藤亮次共著『School・SHIFT』2024)。教える―教えてもらう,という関係性だけではなく,共に考え,悩み,時には共に失敗する,教員は大人としての知見を活かしつつ,時には外との関係をつなぐConductorとしての役割も持つ。本校では教員に対してこのスタンスを意識してもらうために実際に探究の指導の過程を通じてこの「態度」を体得することも含め担当を持ってもらうこととしている。
3. 1・2年次「みらいプロジェクト」― 価値観の相対化と社会課題への接続 ―
「好きを究める」個人探究を終えると,中学1年後半から2年生に掛けて,生徒たちはグループ探究「みらいプロジェクト」(図1)に取り組んでいく。「未来志向」をキーワードに,『30年後の未来のアイデア』を「なんでもあり」で考えるという,創造性を最大限に引き出すプログラムである。目的の1つに「既存の価値・常識の相対化」がある。探究の領域とアイデアは「青天井」であり,”現在の非常識”が”未来の常識”に転換することもあり得るという視点を持たせることで,生徒を既存の価値観から解き放つことを狙いとしている。また,「社会課題との接点」を考察させる点も重要である。前段階「好きを究める」で取り組んできた,生徒自身の「好き」を将来・現在の「社会」とつなぎ,探究に社会的な意義を見出すことを意識させる。これにより,社会を変革していく主人公は生徒自身であるという当事者意識を育むことを目指している。この前提として『課題探究メソッド Start Book』の「課題研究を行う意義を考えよう」は大いに参考になる。「貢献」をキーワードにしたワークなど,導入として活用することがある。
生徒たちはグループで「30年後の未来」をテーマに,模型を制作したり動画にまとめたりして発表する。例えば,ある生徒は「“空”を活用したライフスタイル」をテーマに,ドローンや空飛ぶ自動車が飛び交う未来都市を構想し,災害時の物資輸送や交通渋滞の解消といったメリットを提示した。別の生徒は「地震発生後の避難所の生活」に着目し,プライバシー確保やドローンによる配給システムなど,SDGsの観点を取り入れた具体的な改善案を提案している。また,奇想天外なアイデアもこの段階では,生徒の動機づけを重視し,並行して評価していく。
この活動では,単に奇抜なアイデアを出すだけでなく,グループ内の生徒=「他者」と対話しながら討議し,合意形成を図るプロセスそのものも学びとなる。本校では,そのための討議の作法や合意形成の方法についても伴走し,適宜生徒に対して助言を行っていく。その基本は「傾聴」であり,本校の校是である「禅のこころ」を前提とした,周囲の意見や考えに対して寛容な態度で臨むことを基盤とした指導を行っている。
以上の様に,グループ探究であるため,生徒間の探究活動に対する関与度の差や,「意見の対立」といった課題が生じやすい。教員は,生徒が主体的に参加できているかといった観点で授業に伴走する。また,「なんでもあり」という自由度の高さと,社会課題解決という現実的な視点のバランスをどのように取るか,そして生徒のアイデアをどのように評価し,次の学びに繋げていくかが大切であるので,学年でのプログラム進行状況を担当教員の観察を元に,探究指導の方向性を踏まえ,その都度生徒への指導の方向性など「マイナーチェンジ」していくことも意識して活動している。
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(図1 みらいプロジェクト)
4. 3年次「ミッションチャレンジプログラム」― 社会との協働と実践的課題解決 ―
中学1・2年次の「好きを究める」「みらいプロジェクト」を経て,中学3年次では,これらの活動で培った力を実社会の文脈で試すべく,グループ探究「ミッションチャレンジプログラム」(図2)を実施する。本プログラムは,企業から提示される現実の課題(ミッション)に対し,生徒がチームで解決策を探究し,提案するものである。その最大の目的は,生徒が「社会の一員」としての自覚を持ち,これまで育んできた探究スキルをより実践的な課題解決へと結びつけることにある。
プログラムは,提携企業から与えられたミッションに対して,1年間をかけて生徒たちがチームで取り組む形式で進行する。例えば,過去には「生成AIを活用した未来の教育の提案(Google for Education)」「パークの外国人来場者を増やすためのプラン作成(オリエンタルランド)」「LINEとAIを使って幸福像をプロデュースする(LINEヤフー)」といった,各企業の事業領域に根差した,答えのない問いが生徒たちに投げかけられた。
生徒たちは9名前後のユニット(チーム)を組み,1名の教員が伴走する。指導において重視するのは,企業という「社会」と直接対話する経験である。定期的に実施される企業担当者とのオンラインミーティングでは,生徒自身が進捗状況を報告し,質疑応答を行う。ここでは,生徒のアイデアに対して,企業の視点から現実的なフィードバックが与えられる。教員は,専門的な助言者ではなく,生徒たちが自ら問いを立て,情報を収集し,チーム内で合意形成を図るプロセスを支援するファシリテーターとして機能する。この過程で,生徒はビジネスの視点,コスト意識,実現可能性といった,これまでの探究では触れることの少なかった現実的な制約に直面する。
本プログラムを通じて,生徒は自らの探究活動が社会にどのような価値をもたらせるのかを具体的に体感する。机上の空論ではない,社会のリアルな課題に取り組むことで,探究へのモチベーションはより一層高まり,社会課題への当事者意識が醸成される。また,チーム内での協働や,企業担当者という「大人」との交渉・対話を通じて,コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力も実践的に鍛えられる。
最終的に,生徒たちは企業の担当者の前で一年間の探究成果をプレゼンテーションする。この経験は,生徒にとって大きな成功体験となると同時に,自らのキャリアを考える上での重要な契機となる。こうして「社会」と直接交信した経験は,高校でのより専門的な「ゼミ活動」へとつながる強固な土台となるのである。
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(図2 ミッションチャレンジプログラム)
5. 3・4・5年次「ジャパンツアー・ワールドツアー」― プロジェクトマネジメント能力の育成 ―
中学3年生から高校2年生にかけて行われる「ジャパンツアー・ワールドツアー」(図3)は,生徒自身が国内・海外研修旅行を企画・立案し,運営まで行う,本校の探究プログラムの中でも極めて実践的な取り組みである。
このプログラムは,単なる「旅行」ではなく,「ツアーを介して『仲間を笑顔に』する探究的プログラム」と位置付けている。その目的は,企画から運営までの全プロセスを通じて,企画力,交渉力,そして熱量(発信力)を総合的に育成することにある。予算,時期,またそれぞれの国や地域が持つ特性など「限られた条件内で自己実現を図るプロセス」を学ぶ。また,自分たちのクラス・学年に求められているもの,自分たちが学ぶべきものをプランに盛り込むことを選考の要件としている。これにより,プランニングの過程で,所属するコース・学年・クラス,そして自己への理解・分析が求められる。選考会には旅行会社,保護者,本校に関わりのある様々な大人が入り,旅行会社との交渉も生徒自身が行い,プロからの評価を直に受ける。この「大人の本気(ガチ)」に触れる経験こそが,生徒を大きく成長させると考え,本コース開設以来継続して実施してきた。
生徒たちは,1学期(夏休み含む)に個人でプランニングを行い,2学期に予選,3学期に決勝大会を行う。決勝では全員が自身のプランをポスターセッションやスライドで発表し,コース生全員の投票により実施されるツアーを決定する。生徒の企画したプランに対しては旅行会社からの助言を得る回路も用意し,選考結果そのものだけでなく,その制作過程を教育的な場面として重視している。また,プレゼン大会は,表現の工夫を試行錯誤する機会でもある。ここでも『課題探究メソッド Start Book』の「発表で気を付けること」などを活用し,プレゼン手法の考察と併せて,技術やノウハウの共有を行っている。
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(図3 「ジャパンツアー」「ワールドツアー」)
過去の実践例(1期生~6期生)としては,ジャパンツアーで「富士山登山(目標:克己心と団結力の獲得)」「無人島生活(目標:生きる力・協力する心の獲得)」「瀬戸内芸術の旅(目標:グローバルな教養の獲得)」,ワールドツアーでは「香港(目標:アジア都市の原動力の体感)」「オーストラリア(目標:移民の歴史と自然への理解)」「ドバイ(目標:異文化・宗教理解)」「台湾(目標:歴史文化,日本との関係性理解)」など,各期生の課題意識を反映したユニークなテーマが設定されている。
このプロセスは,地理,歴史,数学,公民といった教科学習で得た知識を総動員する機会でもあり,教科横断的な学びの実践の場となる。具体的には,様々な教科で学んだ知識を実際の「世界」で活かす「フィールドワークとしての研修旅行」という位置づけを求めており,プランニングのために教科学習の理解を深める必要性が生じるため,学習への動機づけとしても強く作用する。
また近年は,プランニングの作成過程における「壁打ち相手」として,生成AI(Gemini等)を積極的に活用している(図4)。生成AIの適切な利用について生徒と共に考え,自身のプランをより適正なものにしていく工夫を行う。一方で,どのようなプロンプト(指示)を入力するかは,生徒自身の探究への熱量や,調査・アクションの「質量」によって左右されることも,取り組みの中で体験的に学んでもらう。
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(図4 生成AIの活用)
ジャパンツアー・ワールドツアーは生徒主体の企画であるからこそ,安全性と実現可能性の担保が最大の課題となる。生徒には安全管理や危機管理(リスクマネジメント)の観点に配慮したプラン作成を指導し,審査においてもその点を重視する。また,全生徒のプランが採用されるわけではないため,選ばれなかった生徒のモチベーション維持も課題となるが,そのプロセス自体が探究であったと捉えさせるよう,プラン決定後は事前学習や行程上のフィールドワークの担当を任せるなどの工夫を行っている。
具体的な事前・事後学習の実践事例として,主にワールドツアーで実施している『地球の歩き方』との連携がある。「自分たちオリジナルの『地球の歩き方』」を完成させることを目的とし,プラン確定後に冊子の分担を決定,現地でのリサーチを経て,ツアー後に冊子を作成する。完成した冊子は探究成果物として残り,図書室などでの掲示を通じて,後輩や在校生への教材としても活用されている(写真1)。
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(写真1)
6. 4・5年次「ゼミ活動」― 専門性の深化と高大接続 ―
高校1・2年生(4・5年生)では,週2コマ(100分)の時間を確保し,「ゼミ活動」が本格化する。これは,より専門的でアカデミックな探究活動を行うもので,「人文科学」「社会科学」「ライフサイエンス」など9つ前後のゼミの中から,生徒が自身の興味関心に応じて選択する(図5)。
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(図5 ゼミ活動)
ゼミ活動の目的は,2年間という長期間にわたり各自の「問い」を探究し,専門性を深めること,そしてその成果を外部コンテストや学会で発表し,大学での学びへと接続(高大接続)させることにある。
評価軸として「アクション(失敗を恐れず挑戦する姿勢)」「主体性」「協働性」「探究性(課題の本質への問い)」の4つを設定しており,成果以上に探究のプロセス,とりわけアクションを起こし,その失敗や試行錯誤の中から新しい考えを生み出す姿勢を重視して伴走を行っている。
生徒たちは,探究サイクル(テーマ設定→リサーチクエスチョン→仮説設定→検証→考察…)を回しながら,主体的に探究を進める(図6)。その過程では,リサーチクエスチョンの設定が極めて重要視される。例えば,Alvesson, M.らの研究モデルなどを参考に,生徒の「問い」が「個人的関心」「社会的関心」「学術的関心」のどの領域に根差しているかを確認させ,多角的な視点から問いを再点検する指導を行う。
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(図6 HANAZONO総合探究 ゼミ活動)
また,基本的に探究担当教員と生徒との「面談」を毎週設定し,進捗状況を相談する中で自己の探究を深掘りする体制をとっている。(図7) こうした活動を通じて,生徒たちは「全国高校生マイプロジェクトアワード」や「日本物理学会Jr.セッション」「高校生国際シンポジウム」などの外部コンテストに多数参加している。外部コンテスト参加の意義は顕彰されることだけではない。自校にとどまらず様々な同世代と交流し,専門家の知見を得ることを主眼としており,生徒のキャリア意識の涵養につなげている。さらに付記すれば,探究伴走者である教員にもその「空気」を感じてもらうことで,探究活動の伴走観や進路指導観の価値転換を図ることにも目的がある。
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(図7 探究担当教員と生徒との「面談」)
7.各種プレゼン大会に関して
本校では中学1年生から高校2年にかけて,様々な「プレゼン大会」を行っている(図8)。この5年間の探究活動を学年を横断して一体感のあるものとして行うための「装置」として,また後輩は先輩の探究活動の実践事例を学ぶ場として機能させている。またプレゼン大会も一方通行の「発表しっぱなし」の大会としないようにするため,必ずメッセージの授受の時間と,振り返りの時間,交流の時間を設ける。
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(図8 各種プレゼン大会)
8.さいごに:今後の展望
花園中学高等学校の「ディスカバリープログラム」は,中学1年生「好きを究める」で生徒の内発的動機に火をつけ,「みらいプロジェクト」で視野を広げ,中学3年から高校2年に掛けて実施される「ジャパンツアー・ワールドツアー」で企画力・実践力を鍛え,高校1・2年生で実施する「ゼミ活動」で専門性を深めるという,連続的かつ発展的な構造を持つ。この一連のプログラムは,生徒が試行錯誤しながら自らの興味と社会との関わりを見出し,キャリア意識を形成していくプロセスでもある。
本校の実践は,探究学習が単なる一過性のイベントではなく,学校の教育活動全体の中核に位置付けられ,教員と生徒が共に「探究者」として学び続ける文化を醸成することを志向している。教員の負担増や教科との連携といった課題は依然として存在するものの,それらを克服しようとする組織的な努力を含め,私たちのプログラムの策定と実践のアクションと反省と再構築が,探究学習を推進する全国の教員や教育関係者にとって,何らかの示唆を与えられたら幸甚である。




























































