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里山調査による高校生の学び深化と生物多様性教育の価値

FC今治高等学校里山校
若山 勇太

2026.01.06

1.はじめに

「生態系とその保全」「バイオーム」などの内容は、高校生にとって直接体験しづらく,興味が低い傾向があり,これは実際に自然に触れる機会が少ないことが原因とされている(山田ら,2021)。また,神奈川県の高校生物教員を対象とした調査によると,「野外での体験型学習を実施したいが,時間や環境の制約で難しい」という声が多数である(山田ら,2021)。教科書中心の授業が多く,実際の自然環境(里山など)を見せる機会がほとんどないのが生物教育の現状と言える。一方で,里山をテーマとした環境教育を構成する題材が,「里山への気持ちと見方」によい影響を与えることが報告されている(甲野,2023)。

筆者はこれまで勤務した学校において,生徒をフィールドに連れて行き,高校生や市民がどのように地域の生物資源を保全していくかについて探究してきた(若山,2019)。本稿では,現在の勤務校における「生物基礎」の授業で生物選択生10名を対象に,今治市矢田地区(図1)で里山調査を実施した授業実践を紹介する。

2.授業実践

(1)事前学習(座学)

本校では,学びの個別最適化を実践しており,生物基礎の授業は教師による小単元ごとのペースメイクはあるものの,原則自由進度で進めており,知識のインプットはそれぞれのペースに委ねられている。「生物多様性とその保全」の単元のインプットは対象生徒全員が2025年6月中旬に完了したことを確認した。

(2)調査概要

2025年6月から毎月1回,9:00~10:30の授業時間(8月は夏季休業中)に学校周辺の矢田地区の里山(図1)を歩いて周り,若山ら(2017)が開発した里山生物多様性評価法に基づいて鳥,チョウ,トンボ,植生を中心に観察した。日によっては地元の農業従事者の方にヒアリングを行った。(調査の様子は図2参照)

(3)事後学習(座学)

調査から戻り,教室にて「里山」または「生粒多様性」をキーワードとしてマインドマップを作成し,学びの共有と思考学習を行った(図3)。それらを踏まえてリフレクションシート(日常的に入力させている)に振り返りをまとめさせた。

  

図1 今治市矢田地区の里山の景観

 

  

図2 調査風景

 

  

図3 マインドマップ作成

3.調査結果

2025年6月~同11月の調査で鳥相は22科29種(表1,図4),チョウ相は5科17種(表2,図5),トンボ相は5科12種(表3、図6)が記録された。なお,チョウ相には調査日ではないが2025年10月28日に本校敷地内に飛来したアサギマダラ(長距離移動をする渡りチョウ)も含めて記録している。植生については来春に愛媛植物研究会の協力を得てリスト作成をする予定である。愛媛県および環境省のレッドリストに該当する生物は記録されなかった。

表1 今治市矢田地域の鳥目リスト

  

図4 今治市矢田地域の鳥類(セキレイ科3種)/筆者撮影

(左からキセキレイ,セグロセキレイ,ハクセキレイ)

表2 今治市矢田地域のチョウ目リスト2025

  

図5 今治市矢田地域のチョウ類/筆者撮影

(左からヤマトシジミ,ヒメウラナミジャノメ,アサギマダラ)

表3 今治市矢田地域のトンボ目リスト2025

  

図6 今治市矢田地域のチョウ類/筆者撮影

(左からコシアキトンボ,ベニトンボ,ハラビロトンボ)

4.生徒の振り返りと教育効果

(1)生徒の振り返り(原文、抜粋)

「実施前(教科書での学習)と実施後(フィールドで体感)で里山に対するイメージはどのように変わりましたか?」

・教科書では実際にみたりどんな鳴き声でどこらへんに住み着いているのかを知る事ができなかったけど実際に調査してみてみるとどこら辺にいるのかどの方向に鳥はとんで行っているのかをみることができたり実際に鳴き声を聞く事ができたのでよかった。

・温かいので生き物がたくさんいると思っていたら,あまりいなくてびっくりしました。鳥が多かったので良かった。

・人間の暮らしと動物のサイクルがうまく噛み合わさって,生態系があるのは美しいと思った。里山について学習するものにとっては,いいことかもしれないが,普通に暮らしている方にとってはやはり害だと思ってしまうらしい。だから,人間の暮らしの範囲を守るための対策を取るらしいのだが,僕の考えでは,動物が人間との接点を作らない住みやすい環境を人間が整えるべきだとも思う。イメージは,動物の家や土地だ。当たり前のことかもしれないが,人間の暮らしの範囲よりも鳥を始めとした動物のすみかを作っていいと思う。僕にとっての里山は,人間と動物の奇跡的な共存をするフィールドだ。

「里山の生物多様性の保全に向けて,あなたができることはありますか?」

・まずは空気を汚さないようにしたい。生物が住みやすい街づくりをしていきたい。

・ゴミ拾いとかポイ捨てをなくすように促す。

・様々な里山で暮らす動物の名を明確にして,それぞれの動物にとって好む環境や条件は何かをはっきりさせ,その条件を守ったりしていくことが大切。一つ気になるのが,その条件(例えば、チョウにとって花々)が増えすぎると,生態系のバランスが崩れてしまうのか気になる。条件を減らせば,動物な数が連鎖的に減るのはわかるが,好都合の条件が増えれば、動物が増え,動物にとって幸せの環境になるのでは?

(2)教育効果

生物教育において,実験・観察などの原体験から学ぶことの意義は言うまでもないだろう。昨今のAIブームによりインプット教育が衰退していく中で,そのAIの信頼性やファクトチェックのための「知識・技能」「思考力や判断力」、学んだことをどのように社会に還元するか,どのように地域と連携して問題を解決していくかという学びの「主体性」「協働性」「表現力(サイエンスコミュニケーターとしての資質・能力)」がこれからの理科教育に必要ではないかと考えている。

生徒の感想からは,普段あまり気にかけていなかった生物に対する認知だけでなく,人間と他の生物との共生の大切さやその在り方にまで学びを深化させていることが読み取れる。それは教科書による知識としての教養ではなく,実際に里山を歩いたり地域の農業従事者にお話を聞いたりする中で実践的に身に付いた価値観である。その学びの深さはこれからの市民としての生き方にも少なからず影響を与えることになるだろう。そのような意味でも里山調査による生物多様性教育の価値は高いと言える。

また,調査中に出会った地元住民の方々のお話を聞いていると,少子高齢化による農地の利用放棄,逆に若い世代の移住による現代農法の推進や農地の再利用,ため池の管理などは里山の生物多様性に与える影響が大きいと考えられる。そのような背景を踏まえ,里山の生物多様性の保全というテーマ(教材/生物資源)は教育効果が高いテーマであり,調査(授業)に参加した高校生たちが地域の課題に気付き,サイエンスコミュニケーターとしてその解決に向けたアクションを起こしてくれることを期待して止まない。

5.おわりに

里山の生物多様性調査をするようになって12年が経った。宇和島市宮下,愛南町芝,松山市宮内,今治市矢田の各里山に足繫く通ってきたからこそ,生物教育に携わる教育者として生徒に伝えたいマインドがある。

・一人の人間(生物種)として他の生物と共生していくための価値観を養うこと。

・絶滅危惧種を保全することも大切だが,日々普遍種を観察し記録していくことはさらに大切であるということ。

・「今日のデータは明日取れない」という信念。

 

【参考文献】

・若山勇太・橋越清一(2017)「里山の生物多様性評価法の開発」『日本昆虫学会第77回大会講演要旨』日本昆虫学会事務局編,p.57

・若山勇太(2019).「スーパーサイエンスハイスクール事業(SSH事業)における課題研究を通じた生物教育」.昆蟲(ニューシリーズ).22(2).66-71.

・山田靖子・藤本智萌・森章(2021).「高等学校における生態学教育の野外での体験型学習の課題」.生物教育.62(3).160-166.

・甲野毅(2023).「里山をテーマとした環境教育がもたらす意識と行動への影響―「里山への気持ちと見方」からの検証―」.帝京大学教育学部紀要.11.49-57.

 

 

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