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  • 探究活動

生徒の主体性を重んじ,学校の枠を超えた探究発表会の実現

成田高等学校
深田 富佐夫

2025.10.08

1.はじめに

本校は,明治31年に創立された成田中学校を前身としていますが,その成田中学校も明治20年に設立された成田英漢義塾を前身としています。また,明治時代の末に設立された成田山女学校(その後成田高等女学校に改組)も,もう一つのルーツで,本校は千葉県屈指の伝統校です。真言宗智山派の大本山成田山新勝寺と成田国際空港のある成田市は,千葉県内の中でも都市部と農村部の境目のような所で,日本が抱える様々な問題が凝縮されたような環境にあります。
本校の総合的な探究の時間は,どこの学校とも同じで試行錯誤の連続です。ただ,職員が協力的なことが幸いし,少しずつではありますがうまく機能し始めていると実感しています。その中で,昨年から始めたばかりの「たんQ祭@成田」は,完成された発表ではなく,これから何を探究するかを発表し,その方向性を定めるためのアドバイスをもらう場として,また,生徒が主体となって運営する交流の場として次第に注目されるようになってきました。本稿ではその概要を説明し,これについてより広く理解を得られたら幸いです。

2.成田高校の総合的な探究の時間

本校の総合的な探究の時間は,令和4年度の1年生から始めました。基本的に毎週水曜日の7時間目に実施するため,1年生のみ1時間多い状態が1年間続きました。
この時間の運営については

  • ① 探究のプロセスを身につけることを主眼とする。
  • ② 1年生の時は探究の手法を学び,2年生で個人研究を完成させる。
  • ③ 指導体制を整えるため,該当する学年外からも協力を得て,教員1人当たり担当する生徒が10人程度になるような体制をつくる。
  • ④ テキストは啓林館 『課題研究メソッド 2nd Edition』を使用する。
  • ⑤ 評価は各学年の最後に行う。評価のルーブリックを基準に各学年の評価を作成することを基本としました。まず,1年生では,なぜ探究学習が必要になったのか,というところから始め,問いを立てることについて理論的なところから説明しながら思考を深めるプロセスを,氷山モデル,ウェビング,マインドマップ,マンダラートをワークシートに従って体験し,考えをまとめさせました。令和4年度の評価は,学年末に生徒の提出物をもとに,基本となる文章にテーマと3通りの評価文を入れて評価を完成させました。1年目でもあり,何をやるか委員会で決められないまま,その週の時間を迎えるということが続きました。
    令和5年度は,計画通り1年生と2年生同時の展開となり,前年の反省から各学年の活動の流れを次の通りに決めて進めて行きました。

〇1年生

1学期 総合探求の意義や基本的な用語を説明→テキストにある思考ツールなどをもとにグループで研究テーマをつくる→学期末に発表

2学期 個人研究に移る 研究テーマを考える

3学期 研究計画書作成開始→リサーチクエスチョンを設定する→評価

〇2年生

1学期 研究計画書(テキスト98~100頁を参考)を完成させる→発表
夏休み中~2学期中間考査まで 調査・実験
2学期中間後~まとめ→2学期末に発表
3学期~ アブストラクトの作成→3学期最終日に提出→評価
以上の流れをもとに,各学年の総合探究運営委員が毎週の実施内容を考えていくようにしました。この運営方法が基本となって,今に続いています。
その間,一般社団法人Global Academyが主催する第9回高校生国際シンポジウムに2組3名,さらに第10回大会では3名が参加を果たした上,その中の1名が最優秀賞を受賞,Global Link Singapore2025に参加することができました。このような成果が出てくるのはまだ先だとじっくり構えていくつもりでしたが,おかげさまで探究学習について職員の理解を広く得られるようになりました。
一方でここまでの課題として,

  • ① 課題研究のリサーチクエスチョンを立てることが難航し,教員側もどう生徒と関わっていけばよいのか悩ましいという声が強まった。
  • ② 多くの生徒が参考文献や引用の仕方が未熟で,関連する書籍等の読書量が少ない。
  • ③ 調査方法として安易にアンケートに走る。

といったことが悩みどころでした。
そこで,産業能率大学の協力をいただき,同大学の探究学習支援プログラムのうち,調査設計プログラムのインタビュー編とアンケート編(ともに100分)を,高校2年生を対象に行い,多くの生徒が行うアンケート調査の方法を全員に理解させる機会を設け,インタビュー調査との結びつきの深さを実践的に学ばせる一方,高校1年生に対しては有効な時期を狙って課題設定プログラムを行なうようにしています。
また,読書経験の重要性をあらゆるところで生徒たちに訴えて興味・関心を広げるよう,生徒に地道に伝えるようにしています。
さらに,S-U.P.P(高大接続パートナーシッププロジェクト)でつながりのある大正大学や,神田外語大学,流通経済大学,中央学院大学,千葉工業大学といった千葉県内の私立大学から学術的なアドバイスを,成田市役所から行政の現場からのアドバイスを,成田国際空港株式会社から企業の現場からのアドバイスを得られるよう,協力をお願いして回りました。今後,2年生の2学期末に行う発表会における生徒への助言をお願いしていきたいと考えています。

3.生徒を主体にした探究イベント「たんQ祭@成田」の始まり

ところで,生徒の探究活動を後押しするのに,私には取り組んでみたいことがありました。それは,生徒の発表の場を確保することです。人は何かを知ったら,人にそれをどうしても伝えたくなるものです。今はSNSなどを使ってそのような機会が増えました。しかし,そこはいわゆる「個人の感想」にあふれていて,それに一喜一憂して振り回されてばかりではないでしょうか。このような時代だからこそ,対面で参加者の表情や声などで反応を確かめながら,お互いに意見を交わせるような,対話を重視した場というのもがますます必要になってくると思うからです。
これまで,優秀な課題研究の発表の場は多くありましたが,それだけに敷居が高く,一部の生徒しかその恩恵に与かることができません。もっとハードルを下げた,参加しやすい発表の場が身近にあったらいいのにと思っていました。私が関わっている千葉県高等学校教育研究会歴史部会では,毎年11月に高校生生徒歴史研究発表大会を開催しています。ここでは発表内容の審査は行わず,生徒の交流の場であるため,ちょっと頑張って取り組んでみた生徒が,気軽に発表できるような大会です。たとえ研究内容が稚拙であっても,生徒は自分の発表を見てもらうために一生懸命努力しようとします。それは生徒自身が大きく成長するきっかけになります。探究学習の結果を報告し合えるような場を身近に作りたい,そのような思いを2年ほど前から抱くようになりました。
そのような思いを生徒たちと一緒になって形にしたのが「たんQ祭@成田」です。これから探究しようとするテーマを学校の枠を越えて発表し合い,参加者から意見やアドバイスをもらい,それらをもとにして新たな視点をもって探究を進めていこうとするものです。「Q」は「クエスチョン」「クエスト」を意味し,「たん」は親しみやすさを表現しました。そして新しい文化祭の形を追求するために「祭」としました。「@成田」としたのは,初代委員長の野心ともいえるもので,この取り組みを成田から広げていき,そのつど「@〇〇」としていくためです。ポスターの文字が違っているのは,ポスター制作に関わった生徒同士のコミュニケーション不足と,私の確認が足りなかったためですので,大目に見ていただけたら幸いです。しかしながら,トライ&エラーを繰り返しながら生徒が作ったポスターには,様々な工夫と配慮が反映されています。

第1回は昨年の2024年7月15日の海の日に開催されました。司会や運営は生徒で行い,私は事前の準備で生徒には難しい対外的なことを引き受けました。午前中に生徒による発表,午後は探究の進め方を考えるワークショップ,見学者の方も交えたディスカッションを行いました。生徒による発表は,本校から3件,千葉英和高校から2件,千葉県立冨里高校の生徒会の皆さんでした。ワークショップは,3年生による発表と,発表に至るまでの探究のプロセスについて,司会者と登壇者が意見交換をしました。また,ディスカッションは「未来のまちを創造しよう~ともに考える理想のまち~」をテーマにしました。私が司会の生徒に出したお願いは,「ディベートではなく,ダイアログ(対話)を重視した進行をしてほしい」ということでした。これからの時代に必用なのは,立場が違う者同士が,一致点を見いだして歩み寄っていくことであって,合意を形成するとはどういうことかを生徒たちに身をもって体験してもらいたかったからでした。司会を担当した生徒はこの条件の意味するところをよく理解し,出てきた発言を上手に積み上げて見事にまとめ上げてくれました。また,この生徒は独自に交渉して,このディスカッションに成田市長の参加を実現しました。
第2回は今年の7月19日に開催されました。今年は発表が13件あったため,午前中に第1部を午前と午後に分けて行いました。また,特別発表として第10回高校生国際シンポジウム ビジネス・観光分野 最優秀賞を受賞し,Global Link Singapore2025出場予定であった本校の平山開清君が「プロサッカークラブと周辺自治体の連携による地方創生2.0の推進」を英語と日本語で発表しました。生徒の発表は当初本校の生徒2名しかなかったため,本校の自然科学部と社会科研究部に参加を求めたのですが,その後昭和学院高校から5名の皆さんの参加がありました。第1部のタイムテーブルは次の通りです(生徒氏名は省略します)。

第1部(1) 10:30~12:15

  • ① 成田高校2年 紛争をなくすにはどうすれば良いのか」
  • ② 成田高校2年 「人はなぜ働くのか」
  • ③ 成田高校社会科研究部 「成田高等女学校校友会誌の墨塗の謎」
  • ④ 成田高校 自然科学部3名 「鉛蓄電池・アルカリ型燃料電池をつくる」
  • ⑤ 成田高校 自然科学部3名 「金属葉の不思議」
  • ⑥ 成田高校 自然科学部2名 「カラシナで世界を救う!」
  • ⑦ 成田高校 自然科学部2名 「TLCによる植物抽出物の分析と抗菌活性成分の検索」

昼食・休憩 12:15~13:00
第1部(2) 13:00~14:15

  • ① 昭和学院高校 「外国人観光客に向けた交通網のアプリ」
  • ② 昭和学院高校 「ゲーム友達探し」
  • ③ 昭和学院高校 「インターネットと生活」
  • ④ 昭和学院高校 「言語×文化」
  • ⑥ 昭和学院高校 「教育のDX化について」

今回は,各大学とのつながりを生かして,発表で参加する生徒の皆さんから,申し込みの段階で事前にテーマを記入してもらい,関連するテーマを専門にされている大学の先生方を助言者として派遣していただきました。おかげさまで,発表した生徒たちは自分たちの取り組むテーマについて,深めていくための方向性を見付けることができたと思います。
第2部は「探究Start-up」と題して,見学者も一緒に参加するグループセッションを行いました。探究のプロセスのうち,テーマを決めることが難しいということがよく言われます。これはリサーチクエスチョンを導くことに生徒が慣れていないからだと考えています。テーマは興味関心を出発点にして考えればいいのですが,リサーチクエスチョンはそこから問いを立てて広げていく必要があります。そこで必要になるのが,多面的に考えることを反復することだと思います。探究学習が苦手だという生徒は,おそらくここが足りないのだと思います。
従来の学習は,ひたすら覚えてテストでアウトプットすることを良しとしてきましたから,当然ながら一面的にしか物事を見られません。探究学習が得意な生徒は,これまでの成長の過程のどこかで多面的に考える習慣が身についているからできるのであって,多くの高校生はこれまでそのチャンスがなかっただけなのだと思います。それでも大学に進学したり,就職先での仕事を通じて多面的に物事を見るようになれるのだと思います。それをすべての高校生にやらせようという訳ですから,当然労力がかかるのではないでしょうか。多面的に物事を見られるようになるためには,他人の考えを知る機会を設けることが近道だと思います。同じものを見ながら,「この人はこんな風に考えるんだ」ということを知った時,他者の視点を得られるからです。そのためには,ある共通なテーマについて対話を重ねることが重要だと思います。
そこで,全体の進行役から指示をしながら次のように進めて行きました。

  • ① 自己紹介(5分)
  • ②アイスブレイク「新しい祝日をもう1日つくるとしたら」(10分)
  • ③ テーマA 新しい花言葉を作ろう テーマB 環境とエネルギー
  • ④ テーブルウオーク(10分)

受付の段階で参加者全員にネームプレートを渡し,紙片に自分が呼んでもらいたい名前を書い
てもらい,自己紹介の時にこれを活かしてもらいました。また,昼食休憩に入る前に,自分が参加したいテーマを選んでもらい,第2部が始まる前にグループを発表して分かれてもらいました。テーマの選択は,配布したプログラムに回答のためのGoogleフォームのQRコードを貼り付けて置き,その場で答えられるようにしておいたため,グループ分け作業の効率は格段によかったといえます。各グループには模造紙と付箋を用意しておき,出てきたアイデアを共有し,グループごとに考えをまとめるようにしました。「新しい花言葉をつくろう」は,一定の答えを見付けるために,作られた問いをテーマにしました。一方で「環境とエネルギー」は,問いを作る所までをゴールとするために,あえてぼかしたテーマにしました。どちらも対話をしないと前に進められません。こうして,自分たちのグループの思考の過程を,模造紙の上に付箋に書いた言葉で表現してもらいました。
その後,各グループが何についてどう考えたか,テーブルウオークの時間を設けました。その際,各テーブルに1人残ってもらい,質問に対応してもらいました。
こうして,たんQ祭@成田の第2回目を無事に終えることができました。実は,今回の実行委員長は,第1回で発表した女子生徒でした。実行委員の生徒が少なく,7月の開催をあきらめようとしていたところで,その生徒が「このイベントは夏休み前にやらないと意味がありません。先生やりましょう。」と,逆に私の背中を押してくれました。3年生で大事な時期であるにもかかわらず,初代の実行委員長に負けない熱意で様々なアイデアを出してくれました。このイベントが,関わった生徒たちの成長に大きく貢献していることがわかり,とても勇気づけられた思いです。来年の実行委員の生徒の層は厚く,これで一定のパターンができるとは思いますが,それを受け継いでいく生徒がいないのが課題です。そのために,どんな手を打っていくか,新しい実行委員で考えていきたいと思います。

4.おわりに

「たんQ祭@成田」は,まだ始まったばかりです。初代実行委員長は,このイベントがさらに大きくなって千葉県の,そして全国規模のイベントにしたいとの夢を,実行委員長挨拶として披露してくれました。私は少し違った意見を持っていまして,このイベントをぜひ他の学校でもやってみてもらいたいと思っています。その地域の核となる学校を中心に,高校生が気軽に発表できる場ができていったなら,探究学習がより活発になるのではないでしょうか。その点で,私は「たんQ祭」をイベントではなく,社会運動ととらえています。他校での開催を本校の実行委員がお手伝いし,そのノウハウを伝えて広がっていったらと思うと,とてもわくわくします。そうなったら本校は「元祖」とか「家元」などと名乗って,今後も続けていこうという妄想を抱いているところです。
最近は,問いをAIで作れるようになりました。私はつい最近まで,自分が担当する日本史探究の授業の中でも,人間がAIに勝っているのは問いを作る力だと思って授業実践を重ねてきましたが,もはやそれが通用しなくなりました。いい質問を入力しさせすれば,どんな問いが成り立つか,AIが示してくれるようになりました。その様な中で考えたのは,最後は自分が何に関心を持っているか,興味はどこにあるかということを生徒に気付かせることが,授業で大事になってくるのではないかということです。そう考えると,総合的な探究の時間はこれからの教育の大きな幹にしていかなくてはならないと思います。

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