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  • 探究活動

独自のカリキュラムで「自立した学習者」を目指す中高6か年の探究活動の授業開発

明治学園中学高等学校
八山 陽介

2025.12.02

1,はじめに

本校は,「児童生徒を社会の変革に寄与できる有能高潔な人物の育成」を建学の精神とし,明治専門学校(現・九州工業大学)附属尋常小学校として明治43年(1910年)に設立されました。北九州に近代産業を興した安川敬一郎氏の建学の精神とコングレガシオン・ド・ノートルダム修道会の教育理念を受け継ぎ,「人々のための人」を実践する「ひらかれた学園」として,伝統を守りながらも積極的に変化に対応し,新しい時代に答える教育環境を整えています。平成20年(2008年)にSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定を受けて以降,中高6か年教育の強みを生かす教育カリキュラムの開発に努めてまいりました。進学先は最難関国公立大学や医学部医学科への合格実績を継続していることに加え,文系理系を問わず個々の能力を最大限に生かせる多岐にわたる学部学科への進学を実現しています。

2.本校が育成を目指す資質・能力

本校では,「豊かな人間性を育み,卓越した学問を追究する」という教育目標のもと「自立した学習者」を育成するために,3つの柱を設定しています。日頃の学習や学校行事に加え,カトリックの価値観に根差した探究活動やキャリア教育を充実させています。これにより,広い視野と豊かな心を身に付け,卒業後も社会で活躍する人材を輩出することを目指しています。中でも「探究活動」は,15年以上にわたり様々な学年で実施したノウハウをもとに,探究活動全体を中高6ヵ年の一連の教育活動として体系化したものです。

3.中高6ヶ年の探究活動を軸とする教育

現在実施しているカリキュラムでは,高校2年の課題研究における活動を充実させるために必要な資質能力を,それ以前の学年で段階的に身に付けていく流れを設けています。各学年の取り組みは,担当教員だけでなく当該学年に所属する教員も巻き込み,ホームルームや各授業との関連性も図るなど,まさに「軸」として機能し,本校の教育活動における文化として定着しつつあるものになっています。以下では,最終到達点である課題研究から学びのステージを遡っていく形で,本校の探究活動の取り組み方をご紹介いたします。

4.高校2年 学校設定科目「課題研究」について

1単位・選択制

年度により受講者数は変動しますが,平均して学年の7~8割の生徒が受講しています。テーマは自由ですが,5つの領域を設け,生徒に自身の興味関心の整理をさせています。高校1年の3学期にガイダンスを行い,課題研究受講の意思決定と同時に領域も選択させ,春休みの課題として興味関心を深めたり広げたりする作業をさせます。そして2年生の初めの授業において,同じ領域を選択しかつ具体的な興味関心の方向が近い者同士で2~5名程度の班を形成します。また,各班には1名(またはサポート教員を加えた2名)の教員が担当として各班に就きます。教師は所属学年や担当教科の枠にとらわれず,幅広く動員されています。本校では,教員も班員のメンバーであるという認識のもと,班を形成する段階で教員の専門性や得意とする分野も考慮して生徒とのマッチングが行われています。年度の最初の授業でここまでの班形成を完了させ,次回からは早速,各班の個別の活動を開始します。ここから先は,これまでの学びを元に生徒が主体となってテーマ設定やリサーチクエスチョンの設定,研究方法の立案,外部との連携などを進めていきます。このとき「課題研究メソッド」を活用することで,研究プロセス全体の流れを班員同士や教員との間で共通認識を持つことができます。年間のスケジュールを立てる際に,必要な探究プロセスの全体像を確認したり,アンケート調査や実験等による検証方法を進める際にその手法を確認したりと,あらゆる場面で参考にすることができる優れた教材として活用しています。班によってレベルに差が生じるため,担当教員の裁量で適度に助言を与えながら軌道に乗せていきます。その後,活動が本格的になってくると,校外でフィールドワークや企業訪問を実施したり,コンテストや学会に参加をしたりと活動の幅が広がってきます。本校では,校内の発表会として「中間発表」の位置づけで10月に行われる文化祭でポスター展示と発表を実施し,さらに年度末には領域ごとの最終発表会,そして優秀と認められた班で本校の最も大きな発表のステージである講堂を舞台に「課題研究発表会」が行われます。この発表会を高校1年生も聴講し,次年度へのモチベーションにつなげるというサイクルを回しています。

【参考】

※5つの領域:

A 環境とエネルギー

B 生命と健康

C 地域社会と経済

D 国際化と共生社会

E 九州歯科大・九州工業大プロジェクト

 

① 文化祭の中間発表会・最終発表会の様子(写真1,写真2)

写真1

写真2

 

② 令和6年度最終発表のテーマ一覧

・ジャンボタニシの液肥化 ~液肥の臭いを消そう~

・日本食で健康になろう(留学生編)

・新しい介護の形

・100 万人都市復活へ向けて

・Think Together, Think BOUSAI! ~明治学園モデルの有効性~

・食品ロスに対してできること

・人種差別教育から差別を減らす

・Life with Gender By Thinking, Talking, and Trusting.

・感性を育てる教育について ~子どもが個性を大切にできる社会へ~

・次世代昆虫食の真実と真相

・いつまでも健康な歯でいるために

・ロボットで海と川をきれいに。

・風力発電モデルの作製

・センサーを使った自転車安全装置の開発~手放し運転による事故防止のために~

5.高校1年 学校設定科目「グローバルキャリア教育」について

この授業は,「キャリア教育」と「プレ課題研究」の2本の柱で構成されています。キャリア教育では,全国,世界で活躍する本校の卒業生に協力を仰ぎ,講演会を実施しています。文理選択を行う学年であるため,職業観を身につけ視野を広げることにより,自分自身と向き合い,本気でやりたいことに出会うことを狙いとしています。一方クラス単位では,次年度に行う課題研究に向けて,中学段階までの学びを再構築するべく「課題研究メソッド」を用いた本格的な探究活動について学びます。基本的なコンセプトは「1年間で探究活動のプロセスを一通り経験すること」です。「課題研究メソッド」には,必要な事柄が充実した解説とともに示されているため,生徒達にとって探究活動のバイブルとなりうるだけでなく,指導する側としても明確な基準を持って授業を行うことができます。担当者は主に各クラスの担任であるため,具体的な指導の内容や流れは毎年変化します。学年会議では「課題研究メソッド」の解釈と吸い上げたエッセンスをどのように授業に取り入れていくかが議論され,各学年のカラーが反映されたものに磨かれていきます。このようにして,教員も生徒とともに探究する姿勢を養いながら,本校の探究活動の指導力の底上げが図られています。

※実際の生徒・教員の声を紹介します。

生徒…探究系の授業の時間は,今何をやればいいのか迷ってしまうことが多いですが,教科書(課題研究メソッド)と先生のコメントがあるおかげで,全体の中のどの部分を体験しているのかがわかりやすいです。年度末になって1学期にやったことを振り返るときも,内容を思い出しやすいです。

教員…初めて探究系の授業を担当することになり,大きな不安を抱えていましたが,課題研究メソッドを常に参照することで,年度末までのイメージを持って授業に臨むことができました。また,同じような気持ちで他のクラスを担当している先生とも共通の教材を使って進捗を共有することができるので助かっています。

6.中学1~3年 学校設定科目「アカデミックメソッド」「理科探究」について

アカデミックメソッドは,中学校の3年間,隔週1単位で実施される学校設定科目で,総合的な学習の時間に位置づけられているものです。狙いは高校生になってからの探究活動で必要となる基本的なスキルを磨くことであり,各学年で身に付けたスキルを次のように設定しています。

中学1年:ソーシャル(コミュニケーション)スキル

…協働的な学びを深めるのに欠かせない対話能力を,班活動やワークによって経験的に学びます。入口は「人の話を聞くとはどういうことか」。その後も「なぜ勉強するのか」や「上手な時間の使い方」などについて活発に意見交換をしていきます。普段当たり前に行っていることの背景にある大切なことに気づき,意識的にコミュニケーションの質を高めるプログラムです。

・中学2年:プレゼンテーションスキル

…人前で発表するために必要なスキルを,実践を通して学びます。パワーポイントなどのソフトを使いこなす技術面の向上に加え,「多くの人に伝わりやすい発表」に必要な要素を活動の中から見出すことで能力として身に付けていくことを目標としています。ここで学ぶことは,他教科や宿泊研修の事後発表などの機会に早速実践する流れができています。

・中学3年:アカデミックスキル

…中学最終学年では,より探究らしい活動に駒を進めます。身近なところから「問い」を生み出し,具体的な課題を調べたり解決するための方法を考えたりすることで,探究プロセスの大まかな流れを経験します。この際,高校進学後に進める「課題研究メソッド」を用いた学習につなげていくことを意識して,用語を使用したりワークを取り入れたりしています。同学年で近年実施している「ミライビジョン」という本校独自の取り組みでは,地元北九州市で活躍する卒業生の企業等を訪れ,実際に世の中の課題に対し解決を図る先輩の姿から,探究に必要な視点を習得します。

さらに,中学3年生ではアカデミックメソッドとは別に,「理科探究」という授業を1単位で実施しています。SSHの流れを受けて10年ほど前から始めた授業で,紆余曲折を経て現在の形で定着してきました。内容は探究活動のテーマを理科の領域に限定し,身近な疑問を観察や実験を通して解決していくプロセスを経験するというものです。はじめの3か月間は全員共通のテーマで「理科的に探究するとはどういうことか」を経験します。共通テーマとして過去に行ったものは「醤油はなぜ“しょっぱい”のか(醤油に含まれる塩を取り出す)」,「白い粉の正体は?(混合した白色粉末を分離する)」というもので,いずれも化学分野の内容でした。6月以降は,班に分かれてテーマを設定し,2~4班につき一人の理科教員が活動を担当する形で探究活動を実施します。テーマの設定は,過去には生徒に自由に決定させたこともありましたが,理科の知識が未熟なうちは探究するのにちょうどよいテーマ設定を行うのが困難でした。そのため現在は,円滑に開始することを優先して,各理科教員の専門性を活かし,生徒が問いを生み出すための素材となるテーマを示して選ばせることで,活動を実施しています。

7.今後の課題と展望

この約10年間,各学年で研究してきた探究活動に関する授業は,それぞれで熟成してきました。探究科専門の教員を置かず,「自前で」探究活動を形作り運営してきたことは本校が誇る部分の一つです。しかし,中学1年から高校2年に至るまでの系統的なカリキュラムとしては,未完成の状態です。単位数が少ない中で効率的に学習を進めるために,「反復」と「省略」を使い分け,一層コンパクトかつ充実した内容にしていきたいと考えています。今一度,学校全体としての探究活動の目的・目標を再確認した上で,各学年の発達段階に応じた目標設定・整理を行い,それに見合った内容を設定していく必要があります。その際必要なのは,過去担当したことのある教員の経験や若手の斬新なアイデアを持ち寄り,教員全体で形を作っていくことです。現時点では,「アカデミックメソッドは何年も経験してきたが,課題研究のことはよくわからない」などの互いの理解不足が原因で非効率的な連携になっている部分があります。この状況を改善していく際に重要なものとして,教材を軸とした各学年の学習内容の割り振りが挙げられます。これまで活用してきた「課題研究メソッド」を中心とした授業づくりを中学生段階にまで落とし込み,より充実した探究活動を進めていこうと思います。

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