1.はじめに
高等学校の数学において単元や扱う内容が増加,複雑化する中,生徒の理解度や関心を高めたり,受験に向けて内容を一通り行ったりする意味で「単元計画」の重要性が高まっている。
「単元計画」は複数時間にわたる学習内容の全体像を示すもので,単元全体の目標達成に向けた学習の流れや,各時間の位置づけを明確にしたものである。すなわち,目指す生徒像に向けて,指導する分野の内容をどのような順序で,どの程度時間をかけて,どのような方法で指導していくのか,どのタイミングで何を評価するのかなどを決定し,まとめていくことで単元計画が作成される。
単元計画の作成においては,「単元の構想をする」,「単元の計画を具体的に書き表す」という2つの作業を行き来して望ましい単元計画を作成することが大切であるとされている。
具体的には,
① 全体計画・年間指導計画(シラバス)を踏まえる
② 3つの視点「生徒の興味・関心」「教師の願い」「教材の特性」から,中心となる活動を思い描く
③ 探究的な学習として単元が展開するイメージを思い描く
④ 単元構想の実現が可能かどうか検討する
⑤ 単元計画としての学習指導案を書き表す
⑥ 単元の実践
⑦ 指導計画の評価と改善
という手順が提示されている。それぞれの段階でのポイントもあるが,それについては専門の資料を参考にされたい。
これらの考えを踏まえて,授業実践を行った。すでに同様の授業を行っている先生もいらっしゃるかと思いますが,稚拙ながら紹介させていただければと存じます。
2.勤務校について
山梨県の県立高等学校においては,進学校をはじめとしてほぼすべての学校が高等学校入学後に数学Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・A・B・Cの6科目を進めなければならない。そのため私自身,進学校においては授業進度を確保しつつ,深度も深め,理解度も高めなければならないという中で,単元計画の作成の重要性を実感してきた。
一方,専門高校などにおいては,基礎学力が不十分な生徒も多く,学びなおしをはじめ,興味・関心を持たせたり,何のために学ぶのかなどの意義を感じさせたりすることも重要になる。そのため,教員側が単元全体の見通しを持って授業を実施していくことが必要となり,単元計画の大切さをここでも実感している。
単元計画に関しては,対象の生徒の実態に応じて目指す生徒像も異なるため,変化をさせることは必須であるが,基本的な考え方は変わらない。現在は,後者に勤務している状況であり,その学校での実践を紹介させていただきます。
3.実践例(1) ~目標を明確にした授業展開~
○単元:数学Ⅰ「数と式」
○生徒の実態と問題点:
中学数学と高校数学とを計算の基礎部分でつなげる分野ではあるが,中学時の展開・因数分解公式も覚えられていない生徒や,うまく使いこなせない生徒も多くいる。さらには,授業内容についても,教科書内容を淡々と説明,演習を繰り返すのみで,「目標」や「ゴール地点」が見えにくく,この分野では何ができるようになれば良いのか,これができるとどのようなメリットがあるのかなどが分かりにくい。
・第1節多項式においては,文字が複数になり式全体の複雑さが増すこと,また展開はできるが,「逆」に戻す因数分解はうまくできない生徒が多く見受けられる。
・第2節実数においては,2乗の計算はできるが平方根は考えられない生徒や,√2などの無理数を数直線上に表すことができない生徒も多い。結果として,数直線上に実数が連続的に存在することを理解しないまま絶対値の扱いに入り,絶対値の取り扱いにおいて文字が入り抽象度が増すことなどが原因で生徒のつまずきが見られる。
・第3節1次不等式においては,計算は進めることができ,解は求められるが「解」の意味は理解できていないケースや,文章題となると題意を立式できないなどの状況が多く見受けられる。
○単元計画と指導改善:
本単元の単元計画として,単元ごとの到達目標を明確にするために授業の導入の工夫を行った。これは,分野が終わった時点で解くことができてほしい問題を単元の導入段階で提示し,この問題をもとに生徒が必要な知識や技能を段階的に修得していくという単元計画を立てて授業を実施したものである。
・第1節 多項式
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・第2節 実数
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・第3節 1次不等式
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教科書には,各章の初めに「Question」や「探究」などのタイトルで問題が載せてあるものも多い。今回はその問題も活用させていただきつつ,節ごとに問題を独自に作成し,生徒の実態に合わせたり,分野の特性や探究活動への接続なども考慮に入れたりして問題を変え,単元の中で常にこの問題を意識させて授業を展開していった。また,この問題を節末にもう一度考えさせることで,「考えられた」という喜びを経験させることも大切な要素となった。分野全体として一つのパッケージにして授業を進められることも単元計画を立てるメリットであると実感した。
4.実践例(2) ~あえて省く(?)~
○単元:数学A「場合の数と確率」の「場合の数」分野
○生徒の実態と問題点:
実生活に近い分野であるため,生徒の興味や関心は他の分野に比べて高い。その一方で,数え上げを用いて場合の数を考えるときに,考え方に一定のルールを定めないため,重複や漏れが生じてしまう生徒が多い。また,「積の法則」「和の法則」および逆の計算である商や差の四則計算を,どのような場面で使うかなどを習得するまえに,順列
や組合せ
などの記号に当てはめるのみで計算を完了しようとしてしまう。その結果,重複順列
や重複組合せ
,組分けの問題について適切に考えることができない生徒が多く見受けられる。
○単元計画と指導改善:
本単元の単元計画として,「掛ける(積の法則)・足す(和の法則)・割る・引く」の計算に意味を持たせること(←この部分をしっかりと理解させたい)を中心に授業を展開した。そのために,順列
の記号の説明をあえて省く(紹介程度にとどめる)ことを試みた。
そのため,単元計画の中で重要視したのが,円順列およびじゅず順列の授業である。「割る」という計算の意味を理解してもらうために円順列・じゅず順列で時間を十分に取る計画を立てた。また,組合せについても記号を最初から導入せず,生徒に場合を考えさせてから記号としてまとめる流れで授業を行った。
授業の発問として「ここは何算?なぜ?」という本質を問いながらの質問のみでの進行に変わっていった。また,生徒の反応としても,「この問題は
ですか?
ですか?」という質問は出なくなった。
5.実践例(3) ~指導順の入れ替え~
○単元:数学Ⅱ「三角関数」
○生徒の実態と問題点:
数学Ⅰ「三角比」の延長となる分野で,基礎が身についている生徒は問題ないが,有名角の三角比の値を丸暗記している生徒や,余弦や正接が鈍角で負となるなどと覚えている生徒は,一般角へ角を拡張していく際に大きく躓いてしまう。また,角の扱いについて,度数法を弧度法にするメリットや目的が分からないまま表し方が変わったという印象を持つことが多く,また,準有名角の三角関数の値は教科書も度数法に一度戻ることになり生徒によっては混乱を生じる。
三角関数の合成についても,
から
で合成する場合には,点
をとることになるが,加法定理の逆変形であることが理解されずに,定義に合わせて
と対応させてしまい点
をとるなどの間違いや質問も見受けられる。
○単元計画と指導改善:
本単元の単元計画として,教科書の順序の入れ替えを行って授業を実施することを試みた。以下の表が,教科書通りに授業を進行した場合の計画と,指導順を変更した場合の単元計画である。実際に,一度計画の通りの授業時間数やポイントとなる段階での評価を意識して授業を行った。
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指導順の変更で意識したことは,数学Ⅰ「三角比」の分野の復習・学びなおしを行いながらスタートできるようにしたこと。その流れから準有名角の三角関数の値をここでは度数法を使いながら求めつつ,扱える三角関数の値を増やすこと。そこからグラフに移行し,正弦曲線の原点における接線の傾きを考えさせることで,度数法がグラフに適さないことを認識させ,弧度法を導入。グラフの平行移動等を確認し,グラフの足し合わせから合成を考えていった。細かい分野間の接続を事前に考えて実施したため,進行はスムーズにできた。
さらに,加法定理の導出においても,コピー用紙1枚から正弦・余弦・正接の6つの加法定理の式をすべて導出し,生徒の興味・関心を促しながら授業を実施した。
また,授業時間数も16時間→14時間に短縮でき,生徒も「あっという間にこの分野が終わった」との感想であったが,「内容として困る部分はなかった」と話をしてくれた。
6.まとめ
単元計画に基づいた授業実践として,考え方を紹介し,実践例を述べさせていただいた。私自身,この原稿をまとめさせていただく中で,再度単元計画を振り返ることができたと同時に,さらに工夫できる箇所等を確認することができたと感じている。はじめに述べさせていただいた通り,実施した後この計画の評価を行い,さらに改善していくことが必要となる。
また,同じ学校で働く同僚の先生方とうまく協力しながら授業準備として教材研究,単元計画をバランスよく行い,このようなことを考えていけると,より良い授業を行うことができると考えられる。一人の教員だけでは考えにくい部分や同じ学年などで授業の進行が異なるのも問題となるため,仲間を増やすことは大切であると実感している。
今回の記事の内容で,今まであまり考えていなかった先生方や,実際にどのように考えていけばよいかが分からない,同じ悩みなどを抱えている先生方に共感していただける部分が一か所でもあれば幸いです。
【参考文献】
・文部科学省(2018).『高等学校学習指導要領(平成30年告示)』.東山書房.
・文部科学省(2019).『高等学校学習指導要領解説(平成30年告示)総則編』.東洋館出版社.
・文部科学省(2019).『高等学校学習指導要領解説(平成30年告示)数学編 理数編』.学校図書.
・文部科学省(2013). 第3章単元計画の作成. https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2013/08/01/1338358_9.pdf
2025年9月13日
・独立行政法人教職員支援機構(2023). 単元指導計画の立て方:基礎的研修シリーズ No.13 https://www.nits.go.jp/materials/basic/013.html 2025年9月13日
・竹内英人,数理哲人(2020).『授業力をみがく―高校数学編―』啓林館
・成田慎之介(2025).「生徒に残る学びのデザイン」.西村圭一,長尾篤志,小林廉編著.『高等学校 数学科 探究ベースの数学授業づくり―生徒に残る学びの実現を目指して―』.東洋館出版社.
・ロジャー・B・ニールセン. 秋山仁,奈良知恵,酒井利訓(翻訳)(2003).『証明の展覧会Ⅰ・Ⅱ』.東海大学出版会.
(Roger B. Nelsen. (2000). Proofs Without Words Ⅰ・Ⅱ. The Mathematical Association of America).




























































