1.はじめに
本校は,文部科学省指定のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校です。本校のSSH事業は,2003(平成15年)年度の第1期指定以来,令和7年度で23年目を迎えます。令和5年度からの先導的改革型第Ⅰ期では,グループで約3年間かけて探究活動を行う課題研究の深化・発展を目的として,カリキュラム開発を開始しました。この目的を達成するために,学校設定教科「iSAGAs(あい探す)」を設定し,生徒全員が課題研究を行うための学校設定科目を履修します。また高大接続を一層強化して,希望者は広島大学の教養科目・専門科目の一部を履修できるようにしています。生徒は,1年生で課題研究を始めるための基礎について学び,2年生から希望に応じてAS(Advanced Science)コース,GS(General Science)コースに分かれて「課題研究」に取り組みます。ここでは,「学び方を学ぶ」課題研究の取組について紹介します。
2.指導教材としての「課題研究メソッド2nd Edition」(啓林館)
(1)高校生のための探究の教科書
本校では,生徒全員が「課題研究メソッド2nd Edition」(啓林館)を購入し,「総合的な探究の時間」の教科書として使用しています。後述の学校設定教科の時間に,適宜,必要な箇所を参照することにしています。1年生では,序章「課題研究を始める前に」,第1章「研究テーマを決めよう」,第2章「リサーチクエスチョンを導こう」を扱い,課題研究とは何かを知り,実際に始めるための準備を行います。2年生では研究チームで課題研究に取り組み,第3章「仮説を立て,適切な研究方法を選ぼう」,第4章「調査・実験の実施/結果のまとめ」を扱い,中間発表会(ポスター発表)前には第5章「研究内容をまとめ,発表しよう」【4.ポスター発表】を扱います。3年生では研究を進めて,まとめる段階で第4章「調査・実験の実施/結果のまとめ」,第5章「研究内容をまとめ,発表しよう」を扱います。このように3年間の探究の教科書として使用しています。
(2)指導者のためのTeacher’s Manual(指導の手引き)
高校生全員が課題研究に取り組むため,教師全員が「課題研究メソッド2nd Edition」(啓林館)を持ち,授業で活用します。特に1年生の授業を担当する教師は,別冊のTeacher’s Manual(指導の手引き)を持ち,指導上の留意点等を随時確認します。このようにして,教師の課題研究の指導経験の浅深によらない指導を実現しています。毎年4月には新任教師を対象とした指導者研修会を実施し,活用方法についてノウハウを共有しています。必要に応じてAppendixを生徒に示して,生徒と一緒に学ぶこともあります。
3.課題研究の教師用指導書「広大メソッド」
- SSH事業による課題研究の指導を可視化したものとして,課題研究の教師用指導書「広大メソッド」を作成し,本校HPにて公開しています (https://www.hiroshima-u.ac.jp/fu_midori/superscience4/method)。

本校SSH事業の研究開発
高校生の課題研究が目指すところは,高度な研究課題に取り組む機会を生徒に与えることも重要ですが,研究の面白さに気づかせ,将来の大学等での高度な研究に耐え得る基本的な態度(困難な問題に対処するための高い洞察力,主体性・粘り強さ,自他の取組に対する評価・改善,意思決定等)を育成することであると考えています。そのための教師の指導・支援あるいは評価の方法を,これまでの本校でのSSH研究開発及び課題研究の実践で得られた多くの実例や経験知を織り込んで取りまとめたのが「広大メソッド」です。
「広大メソッド」の作成により,本校生徒による「主体的・自律的」な課題研究の3年間の流れを可視化することができ,教師による課題研究の指導・評価の改善・発展,授業改善等が推進されるものと考えています。教師による指導ポートフォリオをもとにして,年度ごとに一部改訂を行っています。主な内容は次の通りです。
「広大メソッド」の概要
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1)「Autonomous 50」 本校の課題研究の3年間の流れを,「はじめる」(1~2年生),「進める」(2年生),「深める」(2~3年生)の3期に分け,「Autonomous 50」として,50項目の過程に細分化・具体化した。 |
| 2)「OPTG(One Page Teacher’s Guide)」
「Autonomous 50」の項目に対して,各1頁の指導書である「OPTG」を作成した。各「OPTG」の冒頭には,本校教師の課題研究指導ポートフォリオ及び本校卒業生を対象とした調査から抽出した「生徒ファクター」及び「教師ファクター」を列挙した。また,内容は「生徒のプロセス」,「生徒のつまずき」,「教師の指導・支援」の3項目で構成し,文中に「生徒ファクター」及び「教師ファクター」に相当する動詞を下線(「生徒ファクター」は一重線,「教師ファクター」は二重線)で示した。さらに,末尾には,「Autonomous!」として,教師の指導・支援のポイントを整理した。 |
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4.学校設定教科「iSAGAs(あい探す)」
課題研究の実施に関する学校設定教科として次の科目を実施しています。ここでAdvanced Science(AS)コースは,理数分野の高度な課題研究を行うコースで,General Science(GS)コースは人文,社会系も含めた多様なテーマの課題研究を行うコースです。1年生の冬に選択し,2年生,3年生は同じコースで学びます。令和5年度からASコース,GSコースを混成クラスとしています。
学校設定科目「iSAGAs(あい探す)」の科目

(1)「iSAGAs Basic」(1年生,2単位)【「総合的な探究の時間」の代替】
生徒は課題研究に取り組むにあたって必要な知識・技能を習得し,問題発見や問題解決の力を身に付けます。複数教科の教師によるリレー授業や研究者による特別講義等を実施します。また,3学期からはASコースとGSコースに分かれて,研究チームとテーマを決定します。研究チームは個々の生徒の文理選択とは関連せず,探究したいテーマに基づき編成されます。
リレー授業の内容(令和6年度)
| 担当教科 | 内容① | 内容② |
| 国語 | 論理的な表現について考える | 模擬課題研究のスタートアップ |
| 地歴・公民 | 社会科学・人文科学の研究とは(前期・公民分野) | 哲学的思考・歴史的思考をしてみよう |
| 数学 | 課題研究を追体験しよう! | 課題研究の事例を学ぶ(数理モデル) |
| 理科 | 論理的な議論のしかたを学ぼう | ミニ探究活動を通して論理的な議論を実践しよう |
| 英語 | 人文科学(英語分野)の課題研究について[基礎] | 人文科学(英語分野)の課題研究について[演習] |
(2)「科学探究Ⅰ」(2年生ASコース,2単位)【「総合的な探究の時間」の代替】
生徒は理数分野の高度な課題研究に取り組みます。通常の研究活動に加えて,大学や研究機関で実施する先端研究実習や先端科学研修,韓国・タイの連携校との課題研究協働プログラム(韓国海外訪問研修・訪日研修,タイ海外訪問研修・訪日研修),広島大学教師の指導による高大接続プログラム等を実施します。指導教師の先生に加えて,広島大学理学部から派遣されるティーチングアシスタントに研究の相談をすることもできます。また,校内での課題研究発表会を実施したり,校外での発表会に参加して研究発表を行ったりします。
(3)「総合科学探究Ⅰ」(2年生GSコース,2単位)【「総合的な探究の時間」の代替】
生徒は多様なテーマの課題研究に取り組みます。テーマは,「人が心地よいと感じる語順について」(国語),「地域の交通インフラに関する分析〜スカイレールを例に〜」(地歴),「信号機の設置条件と人の動き」(数学),「軟式野球におけるバットスイングと打球の関係」(保健体育)等,どれも独創的なものばかりです。通常の研究活動に加えて,韓国の連携校との協働プログラム,広島大学教師の指導による高大接続プログラム等を実施します。また,ASコースと同様に,校内での課題研究発表会を実施したり,校外での発表会に参加して研究発表を行ったりします。
(4)「サイエンス・コミュニケーション」(2年生ASコース,1単位)
生徒は科学者・技術者のコミュニティーで必要となるコミュニケーションスキルを習得し,「科学探究」での課題研究の成果発表や研究論文作成に活用します。また,海外連携校生徒との協働による課題研究の必要となる科学英語表現等も習得します。指導は英語科と国語科が担当し,オリジナルテキストを作成して指導しています。
(5)「クリティカル・コミュニケーション」(2年生GSコース,1単位)
生徒は科学を解釈し,伝えるために必要なコミュニケーションスキルを習得し「総合科学探究」での課題研究の成果発表や留学生との交流,研究論文作成等に活用する。英語科・国語科による教科融合型授業を実施しており,実習としてプレゼンテーションの方法を指導しています。また論証の型や用語の使用方法,効果的な表現方法等を習得するためのテキストを新たに作成し,活用することで指導と評価の一体化を図っています。
(6)「広島大学アドバンスト・プレイスメント(AP)」(2年生希望者,1~2単位選択履修)
広島大学との高大連携を進めて,広島大学の教養科目や専門科目等を履修し,専門的な学問への興味・関心を高める機会を得ています。生徒は大学から指定された期間内に履修届を提出して,対面やオンラインで広島大学の講義に参加して専門的な学問を学ぶことができます。さらにオンライン教材を利用して,自身の興味・関心を深めることもできます。課題研究に必要な理数系の科目に加えて,人文・社会系の科目も準備されており,生徒の興味・関心に応じて選択することができます。
(7)「科学探究Ⅱ」(3年生ASコース,1単位)【「総合的な探究の時間」の代替】
生徒は「科学探究Ⅰ」で行った理数分野の高度な課題研究に引き続き取り組みます。成果を整理して,様々な専門学会に参加して研究発表を行ったり,科学コンテストへ論文を投稿したりする機会があります。必要に応じて広島大学の教師,学生から研究指導を受けることができます。最後に,各チームで研究論文を作成し,「課題研究論文集」を完成させます。
(8)「総合科学探究Ⅱ」(3年生GSコース,1単位)【「総合的な探究の時間」の代替】
生徒は「総合科学探究Ⅰ」で行った課題研究に引き続き取り組みます。希望により校外で研究発表を行ったり,科学コンテストへ論文を投稿したりする機会があります。各チームで研究論文を作成し,「課題研究論文集」を完成させます。研究論文を作成する際には,指導教師や他のチームのグループと査読活動を行い,研究倫理への配慮や表現のブラッシュアップを行います。
5.データサイエンスに関わる学校設定科目「数学B Plus」,「情報Ⅰ Plus」
(1)「数学B Plus」(2年生,2単位)
生徒は「数学B」の内容に加えて,データサイエンスに関わる,推定と検定の方法と原理を学びます。本校SSH事業で開発した教材等を活用して,シミュレーションの方法や仮説検定の方法を知り,研究チームで進める課題研究の分析や成果報告等に活用します。
(2)「情報Ⅰ Plus」(3年生,1単位)
生徒は2年生で履修した「情報Ⅰ」(2単位)よりも高度なデータサイエンスの手法を学びます。Pythonを用いたプログラム等を通して,プログラミングの手法に精通するとともに,データ利活用,データマイニング等について学ぶことができます。
6.今後の課題と展望
課題研究を「はじめる」,「進める」,「深める」それぞれの段階において,生徒に適切な指導をすることは容易なことではありません。また限られた授業時間の中だけでは課題研究を十分に進めることができないこともあります。その意味で,高大連携による外部指導者や卒業生の有効活用,科学研究部,数学研究部等の放課後の部活動への接続が今後の課題となると考えます。また現在,課題研究のテーマは,生徒の興味・関心からスタートしてテーマの候補を複数挙げ,実現の可能性や一つの教科で受け入れが可能な研究チーム数を勘案しながら最終決定を行っています。基本的には生徒の第一希望に沿って受け入れの体制をつくっていますが,教科によっては担当教師に対して研究チーム数が多くなることがあります。生徒の主体的な活動が前提とはいえ,一部の教科に過度な負担がかからないような体制の工夫が必要であると言えます。
本校HP(https://www.hiroshima-u.ac.jp/fu_midori)





























































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