高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

Nest
巣・塒

旭川工業高等専門学校教授 十河 克彰

as the crow fliesはお馴染み「直線距離で」,と言うイディオムです。カラスが,塒(ねぐら)から,餌場に出勤するとき,真っ直ぐ飛んで行きます。また,塒に帰るときも,人間と違い,赤い灯,青い灯に立ちよることなどしません。身近な鳥,スズメにもハトにもこの習性はありません。人間がまだ飛行手段を持っていなかった時,カラスのこの習性を知った英語人が,このイディオムを生みました。日本のカラスも同じ習性ですが,日本語に取り入れられることはありませんでした。「塒」は,夜,帰って寝るところです。繁殖期に,トリが卵を産み,抱卵し,子育てをする所は「巣」です。幼鳥は巣立すると,二度と戻りません。親鳥も子育てが終わると,巣は不要なものとなり,放棄されます。カラスの通常の生活は,昼は,「餌場」,夜は「塒」で過ごします。何故か,英語人このはっきり違う,「巣」と「塒」を「nest」と言う単語1つで間に合わせています。

聖書の一節です。とある男がイエスに,「先生の後を何処でもついて行きます」,と言うと,

"And Jesus said to him, 'The foxes have holes, and the birds of the air have nests;
but the Son of Man has nowhere to lay His head.'" (Mathew 8-20 NASB)

「イエスはその男に,『狐に穴があり,そして,空の鳥には塒がある。だが,人の子(イエス)には枕する所がない』」(筆者訳)

日本語は「巣」と「塒」を区別する言語なのですから,「空飛ぶ鳥に塒あり」,と訳すべきところ,nestsとあるものですから,つい,この言葉に引っ張られ,「空飛ぶ鳥に巣あり」,と訳したと思われる聖書を見受けます。イエスの言葉,「頭を置くところ,枕するところなし」は明らかに,寝るところ,すなわち,「塒」です。「巣ではありません」。新約聖書の原典,ギリシャ語も英語同様,塒,巣の区別はないそうです。ギリシャ語に詳しい,アメリカ人牧師に確認しました。