高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

主体的・対話的で深い学びを実現するために
~ICT活用,ハテナソン,大福帳~

福島県立会津高等学校 遠藤 俊太郎

1.はじめに

「学ぶことをやめたら,教えることをやめなければならない。」とは,元サッカーフランス代表監督ロジェ・ルメールの言葉だが,生物は知れば知るほど面白いことばかりで,私には学ぶことをやめられそうにない。加えて,生物は教科書の内容も更新が速く,気も抜けない。
そんな科目を担当する未熟な一実践者として日々苦悩する中で,大切にしたいと思っている(けれどもなかなか実践の難しい)ことを書き連ねてみた。ほとんどは先人の実践を真似て自分なりに試行錯誤しているものばかりだが,このような発信を通じて,同じような実践者の先生方と繋がりを持つこと,また教員としての自分自身を振り返り,更なる授業改善に繋げていくことができればと願っている。

2.教育情報化の流れの中で

前任校で2018年度入学生の担任を持った。この学年は大学入試でeポートフォリオ導入が想定されていたこともあり,生徒の持つスマートフォンを活用し,学びの記録をオンライン上に残させ始めた。その中で,「日々の授業でもICTを有効に活用できないか?」と考えるようになり,研修や勉強会に積極的に参加するようになった。
私の授業改善の大きなきっかけとなったのは,2018年10月に自分のiPadとApple Pencilを購入したことだ。とある勉強会で実践例を拝見して「これはとりあえず自分で持ってみないことには始まらない。まずは教員が能動的学習者であることが重要だ。」と感じ,帰りにその足で家電量販店に向かい衝動的に購入してしまったのだ。

図1 GoodNote5で作成した解説

日々の授業では主にノートアプリ「GoodNotes5」を使う。教科書や図説,自作の授業プリントなどのPDFデータを全てアプリに取り込んでおき,授業ではそれをプロジェクターで投影し,Apple Pencilで書き込みながら解説を行っている。図を用いることの多い生物の授業では,板書の手間も省ける。Apple Pencilは描き心地が良くイラストレーションにも適していて,教材プリントづくりにも一役買っている(図1)。
使っていくうちに,iPadは授業者向けの教具としてだけではなく,学習者向けの端末として特に優れているということも分かった。私自身もYouTubeの講義動画などで学習することがあるが,iPadのSplit Viewという機能を使い,左側にYouTubeの動画,右側にノートアプリを表示しながらノートテイクをしている。理解できなかった部分はその場で繰り返し再生したり,ブラウザで検索したりすることができ,非常に快適だ。

図2 Quizlet「マッチ」

また,「Quizlet」という単語帳アプリで生物の重要単語をまとめ,配信してみた。生徒は各自のスマートフォンからログインし,空き時間にアプリを単語帳として使うようになった。また,「マッチ」機能を使えば,ミニゲーム形式で重要用語の定着を確認できる。生徒はお互いに達成タイムを競い合いながら,ホルモンとその働きを覚えていく(図2)。
オンライン学習にはVRやAR,人工知能を用いた個別最適化など無限の可能性があり,これからの時代にはかなり一般的な方法となるに違いないと確信している。学習者中心主義の立場からすれば,そのような学び方も選択肢の一つとして保証されていくべきではないだろうか。もちろん学び方としてデジタルがあらゆる面でアナログに勝っているわけではないが,学習者が自分に合わせて選べることが理想だ。

3.コロナ禍での3学年担任を経験して気付いたこと

このような取り組みが,結果としてコロナ禍でのICT活用に繋がった。臨時休校の際に,いち早く学年でSkypeを導入した(今ならGoogle ClassroomやTeams,Slackなども候補に挙がるだろう)。さらに,4月の二度目の休校時期には,Google Sitesを使って学年の生徒向けにポータルサイトを作り,全教科の担当者からの指示や動画,教材のリンクをまとめることで,Skypeではタイムラインに乗って流れていってしまう情報を振り返りやすくした。
最初こそ混乱したが,次第に自由な使い方が出てきた。受験期には,教科ごとの質問・添削や小論文・志望理由書・面接対策などの個別指導ツールとして,Skypeは大いに機能してくれた。3学年の「総合的な学習の時間」で始めたゼミ形式の進路探究では,医療系志望者たちが医療従事者を外部講師に招き,SkypeやZoomでやり取りをしながら,志望理由をブラッシュアップさせたりもした。
話を教科の内容に戻すと,私自身は反転授業に興味を持っていたこともあり,コロナ禍の少し前から自作の解説動画をYouTube上に公開し始めていた(図3)。これには「Explain Everything」というiPadアプリ(いわゆる画面収録アプリ)を用いた。ノートアプリで自作した手書きファイルに説明を書き加えながら自分の声も録音し,その画面全体を動画にできる。

図3 YouTubeに配信した動画

動画はそもそも,授業で解説しきれない部分を動画にし,QRコードとして紙で全員に配布したり,質問を受けた部分に対して「とりあえずこの動画を見てみて」と答えたりすることを想定して作り始めたものだった。しかし,コロナ禍での休校期間のオンライン授業では,この動画作成が大いに活きた。基本的には,配信した動画を軸に,オンライン上で生徒からの質問を受けるようになった。また,動画作りを通じて私自身学ぶことがたくさんあった。10分を超える動画は見る方も辛いことや,要点を押さえた解説の方法があること,わざわざ自分で動画を作らずとも優れた教材はWeb上に溢れていること,動画ばかりがオンライン教材ではないこと,などだ。また,生徒自身が解説動画を作って見せ合い,お互いの学び合いに活かすという方法も学んだ。

4.「問い」を立てる授業 ~ハテナソン(質問づくり)~

このように生徒からの質問中心に授業を転換する中でもう一つ気付いたことは,同じ説明や教材に対しても,生徒によって質問の「深さ」が違うということだ。

念のために申し添えると,もちろん初級レベルの問いも重要だ。用語の定義を正しく理解することなしに,上級者への道のりはあり得ない。単に解説を読んだり聞いたりするだけではなく,「良い質問を考える」という手続きを通じて生徒は自ら学びを深めることができる。しかし,そのためには「良い質問とはどんなものか?」について,生徒に考えてもらうことが必要だと感じた。
そこで使い始めたのが,ハテナソンと呼ばれる手法である。ハテナソンは京都産業大学の佐藤賢一氏により「はてな(?)」と「マラソン」を組み合わせて作られた造語で,質問づくりの手法(QFT: Question Formulation Technique)を核にして設計・運営される「質問する学び場」である(佐藤賢一,http://ha-te-na-thon.hatenablog.jp)。QFTについては,ダン・ロスステインらによる著書『たった一つを変えるだけ クラスも教師も自立する「質問づくり」』(2015)に詳しく紹介されているので,参考にして頂きたい。私自身もこの手法を参考にし,以下のような手順で行った。

今年度の2学年の授業では,第1章「細胞・分子」のまとめとして,「タンパク質」を問題の焦点に据えハテナソンを行った。以下が,実際に生徒が作った質問の例である。

これらの質問の中には,分野を横断するテーマを含んでいるものも多い。新しい分野を学ぶ動機付けにもなると感じた。また,実施後に行った生徒による振り返りでは,以下のような内容が見られた。

なかなか質問が出ない場合には,質問を作るためのヒントとして「5W1H」や「意味,定義,理由,根拠,具体化,背景,過去,未来…」などのガイドラインを提示したりする。
ちなみに,教科書によっては全く扱いのない「ティンバーゲンの4つのなぜ」についても,生徒は知っておいてよいと思う。特に,これまでの学習指導要領は生化学や分子生物学分野から始まっており,生命現象のメカニズムを分子レベルで説明しようとする,いわゆる「至近要因」による説明が多くなりがちだ。一方で,そのようなメカニズムがなぜ進化したか,つまり「究極要因」による問いもまた,生物を理解する上では重要である。「進化の光に当ててみなければ,生物学のどんな知識も意味を持たない。」という遺伝学・進化生物学者テオドシウス・ドブジャンスキーの言葉の通りだ。折しも,今回の「生物」の学習指導要領の改訂においては,生物の進化を内容の冒頭に設定し,それ以降の学習で進化の視点を重視することとなった。多くの生徒にとって,早い段階で「進化」の視点を学び,「至近要因」と「究極要因」の両方の視点から問いを立てる習慣を持つことは,「生物は暗記科目である」という認識から脱却して「なぜ?」「何のため?」と探究的に生物学を学び,その楽しさに触れることに繋がるのではないだろうか。

5.「大福帳」の導入で生徒との対話を

自ら問いを立てることの楽しさを知り得た生徒は,教師が知識伝達の役割を果たさなくとも,目の前の情報に疑問を持ち,自ら学ぼうとするのではないか?そう考えるようになり,そのような生徒との対話のために最近日々の授業で使用し始めたのが,「大福帳」と呼ばれるコミュニケーションツールである。「大福帳」は,織田揮準氏が考案した,大学の授業における学生-教員間のコミュニケーションカードである。学生は授業のたびごとに大福帳にコメントを書き入れ,教員はそのコメントに短い返事をつけて,次の授業開始時に返却する(織田,1991)。また,向後千春氏により,大福帳のテンプレートが公開されている(向後千春,https://kogolab.wordpress.com)。授業ではこの型を参考にして,生徒に毎回の授業でコメントを書く時間を設けている。生徒によってコメント量に差はあるが,大福帳に何を書くか考えながら能動的に授業を受けてほしいというメッセージや,生徒に対してコミュニケーションを取ろうとしているという姿勢を示すことが重要だと考えている。生徒からのコメント中に良い質問があれば,授業の始めに全体にフィードバックをすることもできる。
現在のところ,チェックに膨大な時間がかかるため,理系の少人数クラスでしか導入できていない。勤務校ではGoogle Classroomを取り入れているため,近いうちにGoogle ClassroomとGoogle スプレッドシートを活用した「オンライン大福帳」を導入し,人数の多い1学年の生物基礎の授業でも取り入れたいと考えている。

6.おわりに

今回,このような原稿執筆の依頼を頂いたことに,未だに驚きを隠せないでいる。正直なところ自分の授業を自分自身が高校生の時に受けたとして,「面白い」「わかりやすい」と感じるかどうかと言われれば甚だ疑問である。その点に関しては,高校時代に私自身を生物の面白さに目覚めさせてくれた二人の恩師に,まだまだ敵わない。
さらにここ数年,特にコロナ禍に突入してからは,生徒にとって良質なオンライン教材がインターネット上に溢れるようになった。自分も拙いながら解説動画を配信してみて気付くことは,極論を言えば「知識の伝達だけなら,最高の講師が日本に(あるいは世界に)一人いればよい」という時代になったということだ。福島県の県立高校では令和4年度入学生から一人一台の端末導入が始まる。旧態依然とした講義だけの授業であっては「先生の授業を受ける代わりに,この講義動画を見ていてもいいですか?」と生徒から言われるようになってもおかしくない。そして,端末導入を進める学校側が,一方でそのような生徒の自由な学びを止めるというダブルスタンダードがあってはならないと思う。
だとすれば,これからの時代の教師の役割は一体何か?思うにそれは,学習者である生徒に寄り添い,学びを促進する手助けをすること,すなわち良き伴走者であり,良きキュレーターであり,良きファシリテーターであることではないか?

【参考文献】