高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

25分-10分-15分授業
~ 無機・有機化学における実験を中心とした生徒主体の授業展開の試み ~

滝中学校・滝高等学校 入船 泰士

① はじめに

「生徒に実験を数多く体験させたい。しかし,旧課程に比べ格段に増大した現行課程の教科書は終わらすだけでも大変で,実験まで行うゆとりがない。」多くの化学教師がもつジレンマと思われる。
2019年度高校3年生を2年生,3年生と担当する中で,この状況を変えるため,実験中心の授業の展開を試みたので以下に紹介する。まずは無機化学・有機化学で「実験数」にこだわって授業を展開した。なお,「実験をただやればいいというわけではない。数をこなすことが必ずしもいいことではない。」という声もよく聞くが,もちろん限られた授業時間において実験は精査されるべきである。しかしやりきらないと見えない世界があり,精査はやりきった後の話と考えている。そして後述する問題を解決するために,「実験をたくさん行えば,生徒は主体的に授業に取り組むようになる。」この当たり前ともいえる仮説を証明することになるからである。

② 本校の現状

本校は中高一貫校であり,高校過程の化学は中3からスタートし,中3から2単位,その後各学年で1単位,3単位,4単位と行っている。授業進度・内容は基本的に各担当者に任されているが,例年の大まかな流れは次の通りである。
高1で化学基礎の教科書(酸化還元まで)終了後,化学の教科書の電池・電気分解分野を行い,電気分解の途中で終わることが多い。 高2では電気分解の残りを行い,その後化学の教科書の初め(結晶)から無機化学まで,高3では有機化学を行う。高3の8月下旬から10月初旬までに教科書を終了し,残りの期間はいわゆる演習となる。また,実験に関しても各担当者に任されており,例年,高1終了段階で中和滴定のみを行っている状況である。

③ 2017年度まで(旧授業展開)

2017年度までは,講義形式の授業を行っていた。プリントを用いて教室で授業を行い,40分程度で内容を説明し,残った時間に問題演習を行っていた。また実験に関しては,各単元が終了する段階で代表的な実験を行っていた。2014年から2年間で高2,高3を担当し,また2016年からも同様に高2,高3を担当した。2014年からの2年間では実験を32回(理論16回,無機8回,有機8回)行った。2017年からの2年間では実験を35回(理論16回,無機9回,有機10回)行った。
この4年間で感じた課題は主に次の2点である。1点目は,これ以上実験を授業に組み込めないことである。実施したい実験が多々あったが,限られた授業時間の中ではそれらを未実施のまま終了せざるを得なかった。2点目は,授業に対する生徒の姿勢である。内容を精査し,長い時間かけて授業準備したにもかかわらず,授業中の生徒は集中力が欠如した様子が多々見られた。居眠りをする生徒や,授業終了時には「やっと終わった」と言わんばかりの徒労感をにじませた表情の生徒もいた。そんな折に目にしたのが,小林昭文先生の「アクティブラーニング型授業」に関する記事である。その中の「説明は15分」,「生徒が前向きに授業に参加する」という言葉が大変衝撃的であった。これが2018年から担当した学年で授業形式を変更しようと思ったきっかけとなった。

④ 授業形式の変更にあたり

現在「アクティブラーニング」というキーワードのもと,「主体的な学習」や「対話的な学習」を通した「深い学び」が求められている。理科(化学)という教科(科目)において,実験を通した主体的な学習が見直されている。そのような中,前述のとおり2018年から担当した学年の授業形式を「生徒の活動を重視したスタイル」に変えて行うことにした。すなわち,「実験」と「集団議論」を中心とした授業スタイルである。
小林先生の本を参考に,まず授業時に生徒の活動時間を増やすために,説明には「パワーポイント」を用い,説明時間を15分に短縮した。次に,活動・議論をしやすいように,毎回の授業を「実験室で自由席」にし,「おしゃべり 可」,「立ち歩き 可」で行った。その上で,興味・関心・学習意欲向上のために,何よりも考える力をつけるために「ホンモノを見せる」授業,すなわち実験を重視することにした。

⑤ 2018年の実践 1 ~理論化学の授業~

無機化学・有機化学に先立ち,理論化学の授業は,毎回の授業を次のように行った。最初に10分程度,前回の授業の復習テストおよびその確認を行った。次の15分間で授業内容を簡潔に説明し,残りの25分でその演習を行った。演習の際は「おしゃべり 可」,「立ち歩き 可」とし,「学びあい」を目的とした授業を行った。実験は,2017年度までと同様,各単元が終了する段階で代表的なものを行った。
2018年度からこの授業展開を行ったところ,以下の2点の効果があった。
1点目は,実験の回数が増えたということである。過去の学年では理論化学で16回の実験を行ったが,2018年はおよそ倍の34回の実験を行うことができた。その上,授業進度は例年同様であった。これは,パワーポイントを用い説明自体を短縮し,説明ではなく演習により生徒同士の議論の中で理解を深めることを求めたための結果であると考えられる。
2点目は,「生徒の活動を重視」できたという点である。説明が短いため生徒は集中力が途切れず,演習時間は活発な議論を行う姿がよく見られた。授業終了後もそのまま残って議論を続けるグループも見られるようになった。
ただし課題も見えた。実験を各単元終了後に行ったため授業との連動性が低くなってしまい,生徒の多くが実験時には授業内容をすでに忘れていたことである。そのため実験そのものの効果がかなり低いものになってしまった。その後の無機化学・有機化学の物質各論を扱うにあたり,実験を授業内容とタイムリーに行うことが,次の課題となった。

⑥ 2018年の実践 2 ~無機化学・有機化学の授業(25分–10分–15分授業)~

無機・有機の物質各論を進めるにあたり,「授業内容と同じタイミングで関連した実験を行う」ことを目標とし,毎回の授業で実験を行うこととした。ここでは「教室で実験を」といういくつかの報告を参考にし,授業構成を「25分(実験)–10分(考察)–15分(説明)」 とすることで,1 回の授業で講義と簡単な実験を両立させることを目的とした。
まず,最初の25分間で「実験」(片づけを含む)を行い,ホンモノを見る。初見のため実験することで「なんじゃ,こりゃ?」となる。次の10分間で「考察・整理・確認」を行う。教科書・プリント等を見ながら調べ,仲間と議論しながら「何だろう?」と考え,疑問点をあぶり出す時間とした。「実験」と「考察・整理・確認」がその後の「説明」の予習となる。実験内容が整理できたところで,最後に映像での確認も交えて15分で簡潔に「説明」。最重要事項のみ,パワーポイントを使用し整理した。
このような取り組みを実施することで,実験の数を増やすことができた。高2の1月から 10カ月間で,無機化学で16回,有機化学で25回行うことができ,以前と比較し20回以上増加した。


25分間で実験


10分間で考察・整理・確認

⑦ 授業を行うにあたりこころがけていたこと

⑧ 授業例 (アルデヒドとケトン1)


アルデヒドとケトン1の授業で15分間の説明に用いたスライド

⑨ 生徒の評価

最終授業で下記のアンケートを行った。

⑩ 生徒の評価を受けて

⑨の(a)~(c)にあるように,この授業スタイルは概ね好評であり,まずは先の仮説「実験をたくさん行えば,生徒は主体的に授業に取り組むようになる。」を実証したことになる。また⑨の(d)にあるように,実験後の考察・確認の時間が「短い・やや短い」と感じた生徒が25%いた。これは「教科書等を用いた調べもの学習」や「仲間との集団議論」といった「生徒の活動」が充実しており,もう少し時間がほしいという意思表示であると思われた。
また,今後の検討事項として⑨の(e)の15分間と短い説明では十分な理解が「得られない・やや得られない」と感じた生徒が16%にのぼったことである。本校は習熟度別授業を展開しているが,特に上位クラスにおいては20%の生徒が「得られない・やや得られない」との解答であった。最低限の説明にすることで議論を促進する一方で,説明時間の少なさが生徒の理解の妨げになると生徒に感じさせてしまっている。この点において今後検討が必要である。また自由記述欄に,「実験の前に簡単な説明がほしい」,「説明後に復習する時間がほしい」など,授業展開に関する要望の声もあがった。これらも今後の検討課題としたい。

⑪ まとめ

2018年から高2,高3の無機化学・有機化学を担当する中で,25分–10分–15分授業を展開し,無機・有機化学で合わせて41回の実験を行った。これに理論化学の34回と合わせると75回になり,高2,高3の2年間の実験としてはかなりの数の実験を行うことができた。
また実験と講義を1つの授業で行うことで,生徒の理解を深める結果となった。講義だけでは理解できないことも実験を通して,また実験を深く理解するために講義がはたらき相乗効果が生まれた。
このように多くの実験を行い生徒の活性化を促すことで,生徒主体の授業を展開することができたと考えている。
今後の検討課題としては生徒の活動の活性化と生徒の理解のバランスをいかにとるかということである。授業の組み立てを慎重に吟味し,今後の授業に活かしたいと思う。

⑫ 参考文献

小林 昭文(2015),『アクティブ・ラーニング入門』産業能率大学出版
小林 昭文(2017),『アクティブ・ラーニング入門2』産業能率大学出版
足立 敏「教室での簡単な生徒実験 -教室で行うマイクロスケール実験の実践」『愛知教育大学附属高等学校研究紀要』 第 34 号 2007.3,pp115
田中 義靖「575化学実験 ~ 授業の間の簡単な準備でできる効果的な化学実験 ~」『第49回東海地区高校化学教育セミナー 講演要旨集』