高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
数学

独自教材を用いた授業の実践

鹿児島県立川内高等学校 池田 輝久

1.はじめに

前前任校で3年連続3年担任(理系普,理系普,理系特)を経験し,受験を通じて生徒は精神的に一回り大きく成長するものの,全国が舞台なだけになかなか志望校合格までは難しいと感じた。そこで「1年生から計画的に育てることによってどのくらいまで志望校達成できるのか」,というテーマのもと取り組んだ3年間の授業実践の一部(独自教材を用いた実践)を紹介したい。

2.教科指導

「授業を充分に身につければ,現役合格が可能である」と生徒から信頼されうる授業,ある程度までは指導するが,最後は独力でどういった準備をすることが必要なのかを見いだせる生徒を育てることの2つを目標に掲げた。生徒に信頼される授業とは,教科の深さ,おもしろさを伝えるものと考え,入試問題分析に力を注いだ。過去問分析でたんに出題傾向を知るとか,実感するだけではなく,大学がどういった人材を求めているか,どのような考え方をする受験生を求めているかを知り,問題解法を通じて伝えるということである。もうひとつの目標は,それができるということは大学で学び,そこを卒業して,社会で活躍することにつながると考えたからである。当然のことであるが,「教えること」は,親切に相手の手をとってゴールまで連れてやることではなく,疑問から解答までの道のりを自分の足で歩けるようにしてやることである。
そこから,どういった教材が有効なのか,どこで何を教えるか(何をいつまで教えないか),準備に十分な時間をかけ3年間の学習プログラムを作成した。「いま」教えていることを,いつもその全体図のなかで位置づける「空間配分」(全体を意識しながら部分を教えて行く)ことを心がけるように注意した。途中微調整はあったもののほぼ計画通り実行できた。
柱は,①履修進度,効果的な演習方法,②定期・実力考査の作問,③「わかったつもり」を「わかる」に変える,の3つである。

① 履修進度,効果的な演習方法

2年8月を目途にⅠAⅡBの履修終了。Ⅲの教科書と同時並行でⅠAⅡBの入試問題演習を週1時間創設(1時間3問程度)して履修内容の定着・レベルアップを図る。3年夏から個別試験対策「ベクトルの攻略」「数列の攻略」「ⅢCの攻略」の独自教材の冊子を作成し受験対策授業の実施。

② 定期・実力考査の作問で留意した点

③ 「わかったつもり」を「わかる」に変える試み

発達段階に応じた知的好奇心をくすぐる良問,ふくらみのない教え方は生徒の思考を停止させるので別解が複数のもの,その思考の連続性を意識した問題・合否を左右すると予想される問題・差のつきやすい問題等を選定し独自問題集を作成。そして演習時の授業スタイルを講義型から徐々に生徒が説明・討論する型に。
A4横用紙の左に授業で扱う問題,右にそれに関連する補充問題をまとめたプリント冊子を生徒に配布し,授業問題を切り取ってノートに貼って解答を作成。生徒は授業前に予習した問題を板書し授業で説明・討論。議論が一段落したところで,自分が解説。自分が作成した解答・別解・解説プリントを配布。
予習段階で授業問題が解けなかったときにはそれに関連する補充問題に各自が取り組み,手法の再確認・定着を図った。

3.生徒の感想,心掛けたこと

第14回の2 「メルカトール・ライプニッツの級数」の授業の実際と生徒の感想

個別試験対策を市販の問題集ではなく,独自教材にしたことで関連問題などを幅広く扱うことができて生徒たちの興味・関心を高められたのかもしれない。

心掛けたことは,「はてな?」を持たせること。「はてな?」という疑問や知的好奇心,それが学ぶこと,わかることへの「はじめの大きな一歩」と考えた。すなわち,答えを教えるよりも疑問を投げかけること。「多くを伝えようとしたら少なく教えよ」の鉄則通り1回目は多くのことは教えないように心掛けた。知識の押しつけは,しばしば思考の成長を殺してしまうからである。できるだけ「教わった」という感覚を持たせないよう注意した。

4.最後に

自分が行ってきたこれまでの教育活動をひとつひとつ冷静に検証,授業を再構築した3年間は,今後の教師生活に大きな影響を与えるものになったことは間違いないことである。
効果的な教材の選定,教科指導の奥深さを感じている。さらに研究・実践を重ね,より良い教材作りを目指していきたい。

<参考>Ⅲ・C (難関)