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数学

生徒に問題をつくらせる実践

東京都立西高等学校 村形 政信

1.はじめに

実際にあった入試問題を小問に分割することで,生徒の数学的活動を活性化させ,数学を体系的に理解することの大切さや,表現する力を向上させる教材研究をおこなった。高校1年生に対し,数学Ⅰの学習内容が一通り終了した時点で実践した。

2.実践内容

数学的活動とは,目的意識をもった主体的な活動である。問題を自分でつくることは,その問題の解決方法を考えるだけでなく,問題の構成要素や仕組みを考えなければならない。つまり,問題をつくること自体が,生徒の主体的な活動にならざるを得ない。また,問題をつくることにより,基礎基本がしっかり定着し,生徒は既知の知識を有機的に結び付け,体系的に理解するようになる。さらに,良い問題をつくるためには,問題文の表現にも気を配る必要があり,それは表現力の向上にもつながる。

しかし,ゼロから問題をつくることは生徒にとってはかなり大変な作業である。また普段の授業の中で実践するには,膨大な教科書の内容を限られた時間内で終わらさなければならない現実があり,まとまった時間をつくってこのような実践をするのも難しい。そこで,限られた時間内で最大限の効果をあげるために,実際にあった入試問題とその模範解答を与え,それをもとにその入試問題の最終的な結果をうまく誘導するような小問を生徒につくらせる活動を行った。具体的には,次の5つの段階をおって指導した。

① 2006年京都大学の問題「tan1°は有理数か。」という問題を例にあげた。このままでは,どのように解答すればよいか方針さえ立たない生徒もいたが,次のような小問を私がつくり生徒に提示した。

このように,小問に分割することで,複雑な問題「tan1°は有理数か。」を解決しやすくなる。この例のように,生徒自身に小問をつくらせる活動を行わせた。

② 次の二つの入試問題A,Bのうち,どちらか一つを選択させ,小問をつくらせた。なお時間短縮のため,模範解答も生徒に配布し説明した。

問題A (2004年東京大) xy平面の放物線 y=x2上の3点P,Q,R が次の条件をみたしている。「△PQR は一辺の長さαの正三角形であり,点P,Q を通る直線の傾きはである。」このとき,αの値を求めよ。

問題B (1990年京都大) 三角形ABC において,B=,b は整数,a,c はいずれも素数である。このとき,三角形ABC は正三角形であることを示せ。

③ この紙面の都合上,ここでは問題Aについて,実際に生徒がつくった小問を紹介する。その前に問題Aの模範解答を記しておく。

37名の生徒に実践し,次のような小問をつくった生徒が37名中10名いた。

事例1

事例1はある一人の生徒のものである。最終的な結果(aの値を求める。)を誘導するのに適切な小問をつくっている。模範解答のポイントをしっかり理解できた生徒はこのような小問をつくった。一方,事例1と小問の構成はほぼ同じだが,次の事例2のような,あいまいな表現を用いた生徒も多数いた。

事例2

事例2の前半の例は,「三角比」や「数字だけ」等,表現があいまいである。後半の例では,「直線PQとx軸とのなす角θとする」という肝心な設定が問題の中でなされていない。

事例3も,ある一人の生徒のものである。(2)のような小問をつくった生徒が37名中6名いた。

事例3

確かに,模範解答から分かるように,q-pの値が求まれば,aの値が求まるわけだが,この(2)の答えをどのような小問をつくって誘導するかがポイントであり,適切な小問とは言い難い。

④ 解答については,ほとんどの生徒が模範解答をそのまま用いていた。小問をつくることがメインであり,また時間も限られていたので,自分で別の解答を考えるまでにはいたらなかった。配点については,西高校の一年生が正答率50%となるように考えさせた。

⑤ 以下に生徒の感想を挙げる。

3.成果と課題

生徒の感想にもあったように,問題をつくるという活動が生徒の数学的活動を大いに刺激し,生徒に新たな視点を与えることができた。問題をつくるということは,その問題に対し深い理解が必要であり,自分が理解不足であったことにも気づくことができたようである。また,問題として成立する問題文の表現,解答する人が分かりやすく,なおかつ出題者の意図が伝わる問題文の表現に,生徒はかなり苦労したようである。この実践が,表現力の向上にも大きく役立つものであると考える。

今回は,模範解答も先に配布し説明してしまった。また,既に存在している入試問題の小問をつくるということで,限られた時間内で最大限の効果が発揮できる工夫をしたが,問題をつくらせる実践について,さらなる工夫を考えていきたい。また,先にも触れたように作成した問題が問題として成立しているとは限らない。問題の質を診断し,適切なフィードバックを考えていく必要がある。