高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

発信力を高めるためのスピーキング・ライティング指導

福井県立鯖江高等学校 今井 信義

1.はじめに

毎年,福井県高校教育研究会では,各教科部会において研究主題を設定し,その主題に沿った研究発表が行われています。福井県立鯖江高等学校では,令和元年度に研究発表担当校となり,その取り組みを紹介する機会を与えられました。
令和元年度は「実社会や実生活の中で,自らが課題を発見し,主体的・協働的に探求し,英語で考えや気持ちをお互いに伝え合うことができる生徒を育てるための英語科の指導はどのようにすればよいか。」が研究主題で,鯖江高等学校の発表では,4技能を統合的に活用し,自分のことや自分の意見を伝える活動に主眼を置いた各学年の授業における取り組みと,鯖江高等学校に特徴的な「鯖江市デジタルパンフレット」への取組について取り上げました。

2.実践内容

4技能を統合的に活用して,自分のことや自分の意見を伝える活動に主眼を置いた,各学年での取組

① 1年生

1年生では,次のような目標を定めました。

4技能を統合的に使って
  • ①自分自身のことや自分の身の回りのこと。
  • ②教科書の内容に関することに対する,自分の意見の要点を学習した基礎的な表現を用いて伝えることができる。

(1)聞いたこと・話したことを書くことにつなげる活動 【英語表現Ⅰ】

鯖江高等学校では,福井県オリジナル教材「FUKU-ENGLISH」を,英語表現Ⅰの授業において活用しています。「FUKU-ENGLISH」はDVDと冊子からなる教材で,福井の名所や名物をエピソード形式で紹介する内容となっており,生徒が福井県のことを紹介するのに非常に役立つものとなっています。「FUKU-ENGLISH」を活用した授業では,教材DVDを視聴し,テキストを併用してエピソードの内容を確認した後に,エピソードの内容に関連するテーマに関して,自分自身のことを表現する場面を設けました。例えば,Episode 2 “Echizen Crab”では,“What is your favorite Fukui food?”, Episode 3 “Megane” では,“Design your glasses”, Episode 6 “Dinosaurs”では,“What is your favorite place in Fukui/”といった,テキストの内容に関連させた,生徒が自分自身について他者に伝えやすい問いや課題を与え,ペアワークで話して質問等で内容を深めた後,それを基にライティングをさせるという流れをつくりました。生徒たちは中学校時代にも福井の食べ物や訪れるべき場所についてのやりとりを経験していて,それらの経験も生かすことができていたようです。

(2)読んだことを,話すことや書くことにつなげる活動【コミュニケーション英語Ⅰ】

教科書の内容に関連するテーマについて,Pre-reading, Post-readingの問いを設定し,読んだことと,自分自身の意見や考えを,ペアで話すことや,書くことで表現することにつなげるようにしました。テーマの例と活動のつながりは次のとおりです。

Lesson1: High School Life at Home and Abroad
Pre: Do you like school uniforms?
Post: Should students wear school uniforms?

【読んだこと⇒話す⇔聞く】

Lesson2: Giant Pandas
Pre: Which do you prefer, dogs or cats?
Post: What can you do to protect pandas?

【読んだこと⇒話す⇔聞く】

Lesson3: Yanase Takashi: The Creator of Anpanman
Pre: What is your favorite manga?
Post: Who is your hero?

【読んだこと・話したこと⇒書く】

例えばLesson3では,教科書本文でやなせさんの考える「真のヒーロー像」を読み取った後,自分の考える「真のヒーロー」について書く活動を設定しました。生徒からはアニメや漫画のキャラクター,芸能人,家族など,様々な人物が紹介されました。生徒は他教科で学習したワープロソフトの使い方を生かして,写真や挿絵などを入れたハンドアウトを作品として完成させ,作品を使いつつ自分自身の考えるヒーロー像を英語で他者と共有しました。担当者からは,「Pre-Reading活動で即興でのやりとりをしたり,Post-Reading活動で,授業で学んだことを整理して,自分の意見や考えを表現したりする中で,少しずつ自分の言葉で表現し,相手に伝えようとする姿が見られるようになっている。今後もペア活動等の生徒同士のやりとりの機会を十分に確保し,生徒同士のやりとりの中から生徒の「気づき」を促し,主体的・協働的に学ぼうとする態度を育てていきたい」という感想が出されました。

② 2年生

2年生では,次のような目標を定めました。

  • ①自分自身のことや自分の身の回りのこと,自分が興味をもっていることについて。
  • ②学習した表現を用いて,賛成・反対等,自分の立場や理由を明確にして表現することができる。

(1)読んだことを話すことや書くことにつなげる活動【英語表現Ⅱ】

学習者向けレベルの英字新聞を読み,関連することがらについて,自分の意見をペアでやりとりし,関連する事柄についての与えられたテーマで50語以上の英作文を書くという活動を継続的に導入しました。
B4用紙横向きのワークシート左側には記事を,右側にはニュース記事に関連させた簡単な問いによるウォーミングアップと内容把握のための問いを,最後にニュース記事に関連させた対話の基になる問いを載せました。記事の内容はできる限り興味を持つ生徒が多そうなものを選ぶようにしました。また,スムーズに内容を把握するために,記事中の未習語には訳を付けました。さらに,重要語は穴埋めの形で日本語にさせる問題を入れることもありました。
対話の基になる問いは,例えば野球選手イチローの引退に関する記事を読んだ後に“More Japanese athletes should go and play overseas like Ichiro, Nagatomo, etc. Do you agree?”,トヨタが開発した3ポイントシュートを高確率で成功させるロボットについての記事読んだ後に“Some people say that robots will take away jobs of the human beings in the future. What do you think about that?”とするなど,できる限り価値観の違いが生じるような問いの設定を心がけ,相手の意見を聞く意義を高める工夫をしました。活動をとおして,担当者からは「自分の身の回りのことについて,自分の感情だけではなく,具体的な事例を基に,理由や根拠を提示して相手に伝えようとする態度が身につき始めているように感じる。正確さや文章の構成という点ではまだまだ未熟な部分はあるが,少しずつ自分の意見を英語で表現する力は高まっていると感じる」との感想が出されました。

③ 3年生

3年生では,次のような目標を定め,レポート作成とプレゼンテーションを行いました。

自分の地域に関することや,社会的な話題について,学習した表現を活用しつつ,例示や強調等をしながら発表したり,他者と議論したりすることができる。

(1)2年次からのつながり

3年生は,2年次において,レポート作成とプレゼンテーションのベースとなる活動に取り組んでいました。1学期には,「学校紹介」をテーマにグループ発表を行いました。内容は,3名1グループで,グループごとに発表低間を指定し,150語以上(一人あたり50語以上の換算)の量で発表するというものでした。この活動は,3学期に行う個人発表のための練習を兼ねて実施しました。3学期には「環境問題」を主題として個人発表を行いました。この発表には①現状(問題の詳細,現在行われている対策など,②自分自身が考える解決策の2段落構成で100語以上の量としました。また,情報室を利用してテーマに沿ったレポートの作成をすることも課しました。

(2)3年次の取組

2年次の活動を基にして3年次はレポート作成とプレゼンテーションを行いました。自分の興味関心のあるテーマを自由に設定する形で,現状や問題,自分の意見を2段落構成120語以上200語程度までのレポート作成とプレゼンテーションを行うことにしました。ただし,条件として自分の意見を50語以上入れることを追加しました。それぞれの生徒が,他教科の授業で取り上げられた内容や,自分の進路希望に添った内容など,様々なテーマを設定し,写真や図,グラフやイラストなどを,ワープロソフトを使ってレポートを作成し,そのレポートの内容でプレゼンテーションを行いました。
生徒が興味をもっていることをテーマにしたこともあり,レポートやプレゼンテーションでは,生徒の独特な発想が見られることもありました。例えば,映画「シン・ゴジラ」ゴジラが好きで,かつ経済に興味がある生徒は,映画中でゴジラが東京に上陸したり,人間が攻撃したりした際の経済的な損失額を見積もり,発表しました。情熱的なプレゼンテーションとなり,聞いていた生徒も楽しみながら聞いていました。
担当者からは,「レポートであれ,プレゼンテーションであれ,伝えたいことを英語でも伝えられるという場面を経験することによって,英語が単なる勉強する教科ではなく,相手に何かを伝えたり,相手から伝えてもらったりするための道具なのだという感覚や,伝わることに対する喜びを強く感じることができていたように思う」との感想が出されました。

3.「鯖江市デジタルパンフレット」への取組

教科の枠を超えて地域や世界とつながる,「鯖江市デジタルパンフレット」への取り組み

鯖江高校がある鯖江市には自然,文化遺産,食材,歴史,産業,工夫された街作りなど,優れた教材が街にあふれています。このような,街の至る所にある教材をもとに,各教科でそれぞれのテーマを設定して探究活動を行いました。例えば家庭科では鯖江の特産品「吉川なす」でオリジナルレシピを作ったり,日本史では鯖江の先人を調べたり,音楽では浄瑠璃を研究したりしました。

英語科ではそのように作成されたデジタルパンフレットを,外国の方々にも知ってもらえたらという趣旨で,各教科からの依頼を受けて記事に英訳文を付けたり,英語の音声を吹き込んだりしました。具体的には,1年生では他教科から依頼のあったコンテンツの英訳を,2・3年生では英語音声の吹込みをというように,学年ごとに役割分担して取り組みました。実際に英語のデジタルパンフレット作成に携わった生徒は各学年1クラス程度でしたが,英語を現実社会で活用するという意味においては,鯖江高校全体にかなり良い刺激になったと感じています。

(1)1年生によるコンテンツ英訳
各教科のコンテンツごとに生徒を割り振り,グループワークで英訳に取り組みました。日本語をそのまま英語に直そうとすると伝わらなかったり,意図していない意味になってしまったり,そもそも日本語のコンテンツが伝えようとしていることの意味がわかりにくかったりと,かなりチャレンジングな課題となりました。

(2)2・3年生による音声吹込み
1年生が英訳したコンテンツを音声で吹き込みました。自然な,英語らしい発音になるよう,ALTとの練習を繰り返した生徒もいました。

4.今後の課題

平成30年から始まった,丹南地区の高校再編による,新学科(探究科)や新コースの創設を受けて,これまでのデジタルパンフレットへの取組は,探究科の地域に根ざした探究的な活動や,海外研修での実際的な英語使用に向けた取組へとシフトすることになり,現在ではデジタルパンフレット作成は停止しています。地元鯖江市との連携協定をも結んでいることを考えると,デジタルパンフレットによる広報活動で地域貢献できる点や,鯖江市に関する理解を深めるという意味でも,今後,再びデジタルパンフレットの充実や,その活用法を考えていかなければならない時期に来ていると言えるでしょう。
また,入学してくる生徒の,英語力の差が大きくなってきており,普通科内であっても,全コース単一の到達目標では適切に評価しづらい状況です。全ての生徒が,達成感を感じながら,楽しみながら英語学習を進めることができるようにするためにも,今まで以上の工夫が必要になってきていると感じています。