高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

実践・推察から学ぶ生徒主体の授業デザイン

兵庫県立宝塚北高等学校 福畠 一良

1.はじめに

本校は,芸術と文化の街「宝塚」を眼下に望む小高い丘の上にあり,普通科,演劇科,グローバルサイエンス科の三科を持つ進学校です。様々な学校行事や部活動を通して,それぞれの科の生徒がお互いの特色を学びあうことができる個性豊かな学校です。

2.授業のねらい

さて,授業についてですが,本校の生徒は大半がいわゆる難関大学進学を希望して入学してきます。そのため,授業展開は自ずと大学受験を視野に入れたものになってきます。しかし,受験指導となるとどうしても日本古来のクラシックな授業展開に陥りそうになるのですが,やはりそれでは「面白くない」「効率が悪い」「英語が使えるようにならない」と3拍子揃ってしまいます。何より「英語が使えるようにならない」というのは問題ですよね。そこで,日々,「受験勉強」=「英語を使えるようになる勉強」という等式の成立を目指した授業デザインを模索しています。

3.授業デザインのBack Bone

授業をデザインする際,その裏側には一貫してある「考え」があります。それはCBI (Content Based Instruction) とCLT (Communicative Language Teaching) と呼ばれるmethodです。詳しい説明はここでは割愛させていただきますが,要点をまとめると以下のようになります。

・ A learner is successful when the focus is on content rather than on mastery of language.

授業をデザインしているとついつい文法等のaccuracyを考えがちになるのですが,やっぱり内容が魅力的じゃないとやる気でませんよね。

・ Teach lessons that are student-centered.

・ Create context for language use.

授業は生徒中心に回すということと,使われる例文等には必ずcontextを持たせるというのがポイントです。まずstudent-centeredですがただ単に生徒に英語を使って活動をさせるという意味ではありません。ポイントはinductiveな授業展開にあります。つまり,従来のように文法説明をしてから演習等の活動に入る授業展開 (deductive) ではなく,まったく真逆の展開になります。

・ Students see or hear many examples using the grammar.

・ They study them and figure out the rule for themselves.

ということです。もちろん多少の説明は入れながらなんですが,とにかく実践量を増やして生徒に考えさせるのがポイントです。

4.実践例(Lesson 2)

基本的に2時間で1つのLessonを終わるようにしています。(生徒の様子を見ながら3時間使うこともありますが・・・)ここでは,Lesson 2「文型と動詞」の実践例を紹介させていただきます。

①予習

予習ではExercise 1とExercise 2をノートに解答させ提出させています。提出確認後,模範解答と共に返却します。この段階では生徒たちはターゲットとなる文法事項について何の説明も受けていません。完全に自学自習です。Inductiveな指導の導入になります。

②1時間目

まず,1時間目ですがこの時間では文法の理解を目的としています。Instruction等できるだけ英語で行いますが,英語では理解が難しい説明などは日本語を用いています。

(1)Pop Quiz(約10分)

1時間目の冒頭5分~10分を使い,小テストを行います。小テストの問題は予習で行ったExercise 1とExercise 2をそのまま使います。予習の段階で一度解いた問題なので生徒たちはスラスラ解答します。また,小テストも評価の対象となることを生徒には伝えてありますので,よく理解できなかった問題も答えとなる文を暗唱して来ています。(笑)
クラシックなRote Learning(丸暗記)になってしまい生徒たちにとってはあまり面白みのない作業なのですが,言語習得に必要な反復練習だと考えています。とはいうものの,今後もう一工夫必要だと考えています。

(2)Group Work(約10分)

基本的に小テスト以外は全て4人グループで授業は進行していきます。ここでは,予習の段階で出た疑問や,小テストの別解についてグループ内でシェアさせ,解決できる問題は生徒たちで教え合いをさせています。メンバーが誰も分からないときは,グループでいろんな推測をしてルールを発見しようとしています。

(3)Class Share(約20分)

ここではグループ内で解決できなかった問題をクラスでシェアします。他グループがその問題を解決できていた場合はそのグループに説明をさせ,なるべく教師の一方的な解説がないようにします。生徒たちだけでは解決できなかった疑問点は各グループの推論を発表させています。様々に独創的な解釈が発表されるので聞いていてとても楽しいです。一通り聞いた後,こちらから正解の解説をします。

(4)Follow Up(約10分)

ターゲットとなる文法事項でどうしても押さえておきたいポイントを解説します。大抵はクラスシェアの段階で質問として出てくるので必要のないことが多いです。ここのメインアクティビティーはターゲットになる文法事項を用いての作文です。Lesson 2の場合は「5文型でプロポーズ」をテーマにグループごとに作文させました。それが次の文です。

なかなかいいのができたと思います。contextがしっかりあって,頭に残りやすいですよね。

③2時間目

次に2時間目ですが,ここでは理解した文法がどう運用されているのかを知ることに主眼を置いています。前半はリスニング,後半はその内容を踏まえての意見を述べさせます。この時間はinstructionを含む全てを英語で行います。

(1)Getting Rough Ideas(約10分)

この時間も引き続き4人グループで行います。教科書は閉じた状態でModel Conversationを聞きます。メモ等はとらせません。現実世界の会話に近い状態で聞かせます。友達同士の会話の最中にメモを取ることなんてありませんもんね。で,一度聞いたら必ずグループで聞き取れた内容をシェアさせます。リスニングの内容によって回数は増減しますがだいたい4回ほど繰り返します。

(2)Getting Detailed Information(約10分)

ラフアイデアをシェアした後,今度は詳細な情報を聞き取ります。今度はメモをとらせます。漠然と聞かせてもつまらないので,こちらから問題を提示します。

等の比較的簡単な設問で,内容を細かく把握させます。ここも一度聞いたら必ずグループで答えをシェアさせます。これを2~3度繰り返すとほとんどの生徒がConversationを詳細に理解できた状態になります。最後に教科書を開いて正確に聞き取れていたのか,また,既習の文法がConversation内でどう使われているのかを確認させます。このタイミングで,必要があればlinkingやassimilation といった音変化についても触れておくとリスニング力の向上につながります。

(3)Guessing Background(約10分)

ここでは,Conversationの内容から,また,教科書にある写真から推測することによって答えられる問題を投げかけます。例えば,

といった設問です。もちろんいずれも正解はないのですが,ある程度本文を参考に自分の意見を少し加味して答えられるのでハードルは低くなります。

(4)Expressing Ideas(約20分)

ここではConversationのテーマを使って,各グループでプレゼンテーションを作らせます。Lesson 2はマンガ,アニメがテーマですので各グループがおすすめ作品をプレゼンすることになります。ただ,グループワークに入る前にグループ内でそれぞれのおすすめ作品を英語で紹介させます。1年生ですので何もない状態ではなかなか進まないので,Guided Practiceで行います。例えば,

といった形です。慣れてくれば,

と,いった具合に長めの文章を引き出します。
もちろん,教科書で出てきた,I mean や Speaking of,in other words,by the way といった表現は必ず含むように指示します。こうすることによって,教科書で出てきた表現の定着を図るとともに,英語で意見を述べる際のハードルを下げることができます。

5.おわりに

ここまで長々と書いてきましたが,普段こんなことを考えながら授業をデザインしています。ここでは紹介しきれないアクティビティーがたくさんあるのですが,ベースは実践例で紹介させていただいた流れで行っています。まだまだ改善の余地が多々あると思うので,今後もいろんな先生方と情報交換しながら,さらに楽しく,motivatingな授業を作っていきたいと考えております。

授業風景写真