高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

語彙力・表現力の育成を目指して

兵庫県立高等学校 木村 孝

はじめに

英語を用いて英語の授業を行うことに関しての是非は別にして,授業の中で英語をできるだけ多く用いるためには,教える側は勿論のことですが,授業の受け手である生徒にもそれを可能にする程度の語彙力・表現力が備わっていることが必要です。また,どのような授業形態をとるにしても,生徒にできるだけ多くの語彙力・表現力をつけさせていくことは,我々教師に課せられた重要な課題であると考えています。

語彙力・表現力の育成法にも様々な方法がありますが,本稿では授業で用いるtextの英文と,textの英文がparaphraseされた英文を有効に用い,生徒の語彙力・表現力の育成をねらった授業の実践例を紹介しながら,共に考察を深めていければと考えております。

1.paraphraseされた英文の活用

多くのtextの付属教材にはtextの全文もしくは一部がparaphraseされた英文が収録されています。それらのparaphraseされた英文を有効に活用していくことは,生徒の語彙力・表現力の育成につなげる上で有効な手段であると考えます。

まずparaphraseされた英文を用い,英文の意味内容や,paraphraseされた英文の中で用いられている構文語彙表現上のポイントとなる箇所の数か所に空所を施していきます。lessonの中の1つのpartが200語から250語程度からなる英文で構成されている場合,1つのpartのparaphraseされた英文に空所を施す箇所は,10~15程度が適量かと考えます。生徒はtextの英文を見ながら,あるいは生徒の習熟の度合いが高ければtextの英文を聞きながら,それらのparaphraseされた英文中に施された空所を埋めるという作業を行います。

教師がそれらの空所を施す際,生徒の習熟度を適切に見極めた上で空所を施していく必要があります。教科書の付属教材の中にはparaphraseされた英文に既に空所が施されているものもありますが,空所の個数・空所の箇所・空所に入る語の頭文字をヒントとして空所に与えるか否か等といった点は,生徒たちの習熟度を一番よく把握している現場の先生方が,生徒たちにどのような力をつけさせたいかといった点を考慮した上で,適切に判断し決めていくべきものと考えます。

具体例を挙げます。

【text】:
They had to live separately from white people and use separate seats in public places. Eventually, the people who were against this idea began growing in number both inside and outside the country. Nelson Mandela was leading a group of these people when he was taken away by the police and put in prison. He was kept like that for 27 years until he was finally freed in 1990.

【paraphrased】:
They were ①(segregated) from white people and had to use ②(different) seats in public places. Eventually, the ③(number) of people who didn't ④(agree) with this idea started to increase both inside and outside the country. Nelson Mandela was leading a group of these people when the police put him in prison. He was in ⑤(prison) for 27 years, and was finally released in 1990.

上記のようなtextの英文に対するparaphraseされた英文を使って,私でしたら,上記①~⑤の箇所に,次の観点に基づいて空所を施していきます。

①(segregated)
textの英文 They had to live separately from white people and use separate seats in public places.の意味内容と①( )の前にあるwereという語から判断し,適語1語(segregated)を補えるかどうかという視点

②(different)
textの英文separate seatのseparateと同意の語彙を補えるかという視点

③(number)
textの英文the people who were against this idea began growing in numberの内容をthe number of~という構文を用いて表現できるか否かという視点

④(agree)
textの英文the people who were against this ideaのbe against~という表現を別のagree with~という表現の否定文を用い表現できるかという視点

⑤(prison)
textの英文He was kept like that for 27 years until he was finally freed in 1990.のwas kept like thatの指す意味内容を,このtextの英文の内容,特に前文の英文の内容を理解した上で空所⑤を埋められるかという視点

また生徒たちの習熟度に応じ,例えば①(segregated)の空所にsegregatedの頭文字であるsを入れ,ヒントとして与えるか否かといった点も決定していきます。このように生徒たちの習熟度や,生徒たちにどのような力を付けさせていきたいかといったこと等を考慮し,適切な箇所に空所を施していきます。

2.授業において

paraphraseされた英文に施された空所を埋めるといった作業を生徒たちが行う以前に,授業において行っておくべき点を以下に述べます。

ポイントとなる表現,構文,語彙等について授業で取り扱う際,そのような表現や構文や語彙等が用いられparaphraseされた英文を紹介していくことになりますが,その際の紹介の仕方は様々考えられます。例えばparaphraseされた英文をALTやJTEが読み上げ,生徒にdictationさせる方法があります。その場合,textがparaphraseされた全ての英文をdictationさせる方法もありますが,生徒の習熟度に応じてparaphraseされた英文の一部分のみ,つまり重点的に習得させたい部分のみを空欄にし,dictationさせる方法もあります。またdictationさせるのではなく,教師がポイントとなるparaphraseされた英文を板書しノートに書き留めさせていくといった方法もあります。

どのような形でparaphraseされた英文を紹介するにしても,その定着を少しでも高めるため,paraphraseされた英文のオーバーラップやシャドーイングに取り組ませたり,paraphraseされた英文をtextの英文と見比べさせながらノートに書き留めさせたりといったことも行います。またtextの英文のCDを流し,音声を一時停止しながらparaphraseされた英文を見直し確認させ,paraphraseされた英文に用いられている表現や語彙の定着を高めてくこと等も行います。

また,textとは異なる構文や表現や語彙等を授業で取り上げることになりますので,授業の中で,paraphraseされた英文で用いられている構文・語彙・語法・表現等の説明や,異なる構文等を用いて書き換える際の注意点にも触れていくことになります。

そういったことを授業の中で積み重ねていくことで,textで用いられているものとは異なる構文・語彙・語法・表現等の獲得を目指した生徒の英語運用能力を伸ばす授業にもつなげていけます。

3.英作文を用いた構文・語彙力・表現力の育成

また,特に構文の定着ということに関して,textの構文とparaphraseされた構文の2つを用いた英作文に挑戦させるといった方法もあります。

例えば「1.」で挙げた例文の場合,
【textの英文】
Eventually, the people who were against this idea began growing in number both inside and outside the country.
grow in numberの部分と,
【paraphraseされた英文】
Eventually, the number of people who didn't agree with this idea started to increase both inside and outside the country.
the number ofincreaseの部分の
2つの表現法(grow in numberthe number ofincrease)を用いた,全く別の例文を用意し英作文させるという方法です。

例えば【今年の夏,極度に高い気温のため休暇を自宅で過ごす人が増えている。】という例文を用意し,2つの表現法(構文)を用い英作文させます。

まずtextのgrow in numberを用いて
The people who spend their holidays in their own home have grown in number due to the extremely high temperature this summer.
続いてparaphraseされた英文のthe number ofincreaseを用い,
The number of people who spend their holidays in their own home has increased due to the extremely high temperature this summer.
といった2つの英文を作文させ,これら2つの構文の定着を図ります。

その際,この例ではthe number of が主語となった場合,主語が単数扱いであるといった点等にも注意喚起させるなど,生徒に英作文する上での留意点を授業で述べながら構文の定着もねらい英作文させていきます。

このように,textの構文とparaphraseされた構文の2つを用いた英作文に挑戦させる際は,textで用いられているものとは異なる新たな構文の定着を図るだけではなく,新たな語彙・語法・表現等の獲得にもつなげてくことも意図しています。

4.教科書の英文の定着をねらって

またparaphraseされた英文の別の活用法として,textで用いられている英文の構文や表現や語彙を定着させていくことを意図した用い方もあります。

「1.」で述べた作業を,今回は,textの英文の意味内容や,textの英文の構文語彙表現等の習得を目指し,textの英文に数か所の空所を施していきます。生徒はその空所を,paraphraseされた英文を見ながら埋めるという作業を行います。あるいは生徒の習熟度が高ければparaphraseされた英文を聞きながらtextに施された空所を埋めるという作業を行います。paraphraseされた英文を聞きながらtextに施された空所を埋めるという場合,英文を聞かせる上で生徒の習熟度を見極め,生徒にとっての適切なスピードや適切な間を与えながら,教師はparaphraseされた英文を読み上げなければなりません。このようなparaphraseされた英文の利用法は,textの表現や構文や語彙を記憶させ定着させることを意図したtextのラウンド形式を採用している学校においても有効な方法と考えます。

また各出版社から出されているtextの英文をparaphraseした英文を授業で用いるよりも,textの英文をご自身でparaphraseし,それを用いて授業をされることを強くお勧めします。これは生徒たちの実情を最も把握している先生方が,生徒たちの習熟度等に応じparaphraseした英文を用いていくことの方が効果的であると考えるからです。

最後に

生徒を預かる3年間という期間で生徒の成長を手助けするため,授業においてまたはそれ以外の場面において,どのように教師が生徒に関わり,支え,力を注いでいくのかといった共通認識を,教師1人1人が持つことから始めなければならないと考えております。そのための長期に及ぶ具体的な計画を,その生徒たちに関わる教師全員で年度当初に立て,実行に移していかなければなりません。

ここで紹介したparaphraseされた英文に工夫を加え,授業の中で効果的にそれらを取り込み継続して実施していくといったことは,生徒の語彙力・表現力を育成するための1つの方法にすぎません。しかし,生徒の語彙力・表現力が順調に育っていけば,それらの力が不足していたために今まで困難であったteaching planを作成し実行に移すことも可能となります。そして,そのようなteaching planが反映された様々な授業形態,例えば,和訳を必要としない英語のみを用いて教えるといった授業形態にも生徒たちが対応できることになってきます。そのようなことを1つ1つ実現していくことで,生徒の必要性を考慮した様々な新たなteaching planを考案し,それらを基にした授業を次々に展開していくことも可能となってきます。

生徒1人1人が授業を通して充実感を感じ,毎時間意欲的に授業に取り組んでいけるよう,私自身努力を続けていきたいと考えています。