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英語

予習を課さない授業
~内容理解から暗唱まで:コミュニケーション英語Ⅱの展開の一例~

広島市立基町高等学校 加納 隆広

1.はじめに

私は現在高校2年生を担当しています。昨年度も今年度もコミュニケーション英語の授業では,「予習を前提」として授業を展開してきました。しかし,今年度の途中から予習を前提とした授業展開をやめました。本稿では,「これまではなぜ予習を課した授業を行っていたのか」ということを述べたあと,現在取り組んでいる「予習を課さない授業」の中で,本文の理解から暗唱まで取り組んできたことをご紹介いたします。

2.予習を課していた理由

現在担当している学年は,1年生の時から担任として関わっています。コミュニケーション英語Ⅰでは“ELEMENT English CommunicationⅠ”を,コミュニケーション英語Ⅱでは,“ELEMENT English CommunicationⅡ”を使用しています。

コミュニケーション英語の授業に関して,生徒が予習で取り組む内容は学年で共通のものです。「本文の意味を取っておくこと」(和訳をしておくこと)に加えて,「教科担当者が作成する予習プリント*資料1がある場合は,それに取り組んでおくこと」(付属の教材データを編集したもの)の2つです。

どの学校でもそうですが,生徒の英語の力には大きな幅があります。そのため,どのような活動をするにせよ,力がある生徒は早く終わり,力のない生徒は時間がかかります。ですから,「生徒の学力差に対応するため」に予習を課していました。

*資料1:予習プリント

3.予習を課していた時の授業展開

コミュニケーション英語Ⅱの授業の1レッスンの典型的な授業展開は以下の通りです。

次(時)数 パート 授業で行う主な活動とその順序
1時間目 Part 1 *小テスト ⇒ 予習プリントの確認 ⇒ 本文解説
2時間目 小テスト ⇒ 本文解説の続き ⇒ 音読 ⇒ 暗唱(宿題)
3時間目 Part 2 小テスト ⇒ 予習プリントの確認 ⇒ 本文解説
4時間目 小テスト ⇒ 本文解説の続き ⇒ 音読 ⇒ 暗唱(宿題)
5時間目 Part 3 小テスト ⇒ 予習プリントの確認 ⇒ 本文解説
6時間目 小テスト ⇒ 本文解説の続き ⇒ 音読 ⇒ 暗唱(宿題)
7時間目 Part 4 小テスト ⇒ 予習プリントの確認 ⇒ 本文解説
8時間目 小テスト ⇒ 本文解説の続き ⇒ 音読 ⇒ 暗唱(宿題)

*小テストは共通の単語帳の指定の範囲に関するもので,授業開始時に毎時間行っている。

予習を課していた時は,上記の表のように,1パートを2時間で展開していました。基本的に各パートとも同じ展開で,「1時間目」はペアワークを用いて「予習プリント(英問英答やTFなどを通して内容理解をさせる)」を軸に授業を展開し,後半は本文についての補足や解説を行っていました。そして「2時間目」は,本文の解説の続きと音読練習,そして時間が許せば暗唱活動を行っていました(出来ない時には宿題として取り組ませる)。

4.予習を前提とする授業の3つの問題点

この予習プリントを軸にした授業展開だと,特に「1時間目」において,「内容理解ができているかを確認すること」が主になっていました。また,1時間目の後半は本文の補足説明になるので,英語を読んだり書いたりする時間を授業の中であまり確保できません。

次に,生徒たちは「家庭学習でやっておきなさい」と言われたことに対して,こちらが期待するレベルまではなかなかできていないということがあります。家庭学習で予習プリントに取り組む際に,生徒たちがどれくらい集中して取り組んでいるかとか,どれくらいの時間をかけているかなどが見えにくい状況にありました。また,学習習慣に課題がある生徒は,予習に取り組めていないということもありました。

三点目に,生徒たちが「復習」に取り組む時間が確保できないという問題点がありました。本校では英語以外の教科・科目でも,「予習→授業→復習のサイクルを確立しよう」と生徒たちに投げかけており,膨大な量の学習が課されています。しかし,放課後には部活動があり,通学範囲も広い生徒たちにとって,全ての教科・科目の予習や復習に取り組むことは,現実的には困難です。実際は「予習→授業」のサイクルはできていても,「復習」に取り組むことはできていませんでした。復習に取り組めなければ,学習内容は定着しません。これは大きな課題でした。以上を整理すると,次のようになります。

  • 問題点① 授業中に生徒が英語を聴いたり,読んだり,書いたりする時間が少ない
  • 問題点② こちらが期待するレベルまで家庭学習(予習)を行っているかが曖昧である
  • 問題点③ 復習を通して本文を定着させてほしいが,その時間の確保ができていない

5.予習を課さない授業展開へ

上記の問題点を解決するために,家庭学習で「予習」を課すことをやめ,浮いた時間を「復習」に使うことができるようにしました。つまり,予習で行っていた内容理解を授業で行うことにしました。そうすることで,生徒たちは授業の中で繰り返し英語を聴いたり読んだりすることができます(問題点①と③の改善)。また,内容理解の活動を工夫することで,学力差に対応しつつ,緊張感を持って本文を聴いたり読んだりすることができます(問題点②の改善)。さらに,暗唱英作文についても,極力授業内に行うことにしました(問題点③の改善)。以上のことをまとめると,次のようになります。

  • 改善策① 予習で行っていた内容理解を工夫し,制限時間を設けて授業の中で行う
  • 改善策② 本文の暗唱を授業の中で扱う

この改善策に基づいて,1レッスンの展開を次のようにしました。これまでの授業展開は,1パートを2時間で展開していました。しかし,授業改善の時期が2年生の後半であったために,より長い英語を聴いたり読んだりすることに慣れさせるという目的から,2パートを4時間で展開することにしました。1レッスンの典型的な展開は,次の通りです(資料2:プリントA 資料3:プリントB 資料4:プリントC 資料5:プリントD)。

次(時)数 パート 授業で行う主な活動とその順序
1時間目 Part 1/2 *小テスト ⇒ プリントA(内容理解1回目・語彙暗唱①)
2時間目 小テスト ⇒ 語彙暗唱② ⇒ プリントB(内容理解2回目)
3時間目 小テスト ⇒ 語彙暗唱③ ⇒ 本文解説 ⇒ 音読
4時間目 小テスト ⇒ 語彙暗唱④ ⇒ 音読 ⇒ 暗唱(プリントC・D)
5時間目 Part 3/4 小テスト ⇒ プリントA(内容理解1回目・語彙暗唱①)
6時間目 小テスト ⇒ 語彙暗唱② ⇒ プリントB(内容理解2回目)
7時間目 小テスト ⇒ 語彙暗唱③ ⇒ 本文解説 ⇒ 音読
8時間目 小テスト ⇒ 語彙暗唱④ ⇒ 音読 ⇒ 暗唱(プリントC・D)

6.授業の展開と各活動の詳細

 ○小テスト
 ○プリントAの取り組み手順:【  】はプリントの該当箇所
   ・CDを1回~2回流し,聞きとれた内容をメモさせる 【STEP 1】
   ・CDを1回~2回流し,英問に答えさせる 【STEP 2】
   ・新出語句の音読・暗唱 【New Words & Phrases】
   ・本文を読み,先ほどの英問に再度に答えさせる 【STEP 2】
   ・英問の解答の確認をする
 ○小テスト
 ○新出語句の音読・暗唱(2回目) 【New Words & Phrases】
 ○プリントB
   ・TFと内容一致問題に取り組ませる 【STEP 4/STEP 5】
    (早く終わった生徒は,プリントBのSTEP 6に取り組むことで,時間差に対応する)
   ・TFと内容一致問題の確認をする
   ・宿題の指示をする 【STEP 6】
 ○小テスト
 ○新出語句の音読・暗唱活動(3回目) 【New Words & Phrases】
 ○本文の精読・解説をしながら,プリントBのSTEP 6の確認をする
 ○和訳を配付する
 ○プリントCを使って音読練習(全体・個人・シャドーイングなど)
 ○宿題の指示をする(音読練習)
 ○小テスト
 ○新出語句の音読・暗唱活動(4回目) 【New Words & Phrases】
 ○プリントCを使って音読練習(シャドーイング・リードアンドルックアップなど)
 ○プリントCを使って,時間を測りながら英文を書かせる
  *プリントDは宿題(暗唱英作文と確認が早く終わった生徒は,授業内にDに取り組む)

7.改善の結果と今後の課題

予習を課さない授業にすることで,「3時間目の精読・解説の時間」以外は,授業の大半を生徒が英語に触れる(聴く・読む・書く)に使うことができるようになりました。また,「1時間目と2時間目に行う内容理解の活動」については,全員が緊張感を持って,集中して取り組めました。さらに,英語が得意な生徒については,宿題にする内容を授業中に取り組ませることで,苦手な生徒との時間差に対応し,ほぼ全員が活動を終わるまで取り組ませることができました。暗唱英作文については,完成までの時間を測り,記録させることで緊張感を持って取り組ませることができました。また,暗唱英作文が確認・訂正が早く終わってしまった生徒については,プリントDを授業内に取り組ませることで,時間差に対応しました。

この展開に切り替える前に一つ懸念していたことは,英語の家庭学習の総時間が減り,英語の力を伸ばせない可能性があるということでした。しかし,ここまでの考査や模擬試験の結果を見ると,その心配は今のところはなさそうです。

今後の課題としては,本文の内容を踏まえてのアウトプット活動が欠けていることです(特に口頭の活動)。授業で取り扱う活動や内容をさらに見直すことで時間を捻出し,聴いたり読んだりした内容についての自分の意見を話したり,書いたりするといったアウトプット活動にも取り組んでいきたいと考えています。