高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

Challenging English
~「生徒にも教師にもチャレンジングな授業」を目指して~

東邦高等学校 岡本 洋美

1.はじめに

新しい学習指導要領が始まった。今回の改訂では学力の重要な3つの要素として,「基礎的な知識・技能をしっかりと身に付けさせる」「知識・技能を活用し,自ら考え,判断し,表現する力をはぐくむ」「学習に取り組む意欲を養う」ことがうたわれている。どれ一つ取っても易しい命題ではないが,現在最も重要視したいのは最後の「学習に取り組む意欲を養う」である。もちろん,基礎的な知識・技能を高めることや,思考力・判断力・表現力を高めることも重要であることは十二分にわかっている。しかし,2003年のPISAの結果にショックを受け,「学力低下」と並列で叫ばれている「学習意欲の低下」を上向きにすることこそが,「学力低下」に対する最大のremedyと考える。つまり,学習意欲を喚起させることを最初のステップにして,生徒たちの学習活動をより深く自立したものにし,それに伴う形で基礎学力や思考力・判断力・表現力を高めたいと考えている。

2.関心・意欲・態度を高めることを目指した挑戦

~達成感を味わわせる 体験値を高める活動を大切にする~

ここに挙げた「挑戦」は,いつでもどんな生徒にでも通じるものではないが,何かのヒントになればという思いで書かせていただいた。どんな授業も,長期間繰り返せば生徒も教師もマンネリと感じる。英語を学ぶことに付加価値をつける「挑戦」を今も続けている。以下,挑戦順に示す。

は,獲得技能等

1.CM作り(高校1年生対象)

教員になって初の公開授業で取り組んだのが「CM作り」である。4人グループを作り,Show and Tell 方式で発表させた。各グループが工夫を凝らして架空の新製品を紹介しあった。中間発表をさせることで,自分たちの構成力・英語力・発表力を見直すことができ,本番ではより完成度の高い発表となった。

Show and Tellのスキル

2.映画を使った英語の授業(高校1~3年生対象) ※資料1(ワークシート)(PDF:237KB)

映画で話される英語は「ナマ」の英語であり,その国の文化や歴史的背景も垣間見ることができる。これまでMusic of the Heartなどのワークシートを作ってdictationや感想を書かせる活動を行ってきた。教科書に掲載されていなくても,文法事項の補足として,映画を用いたこともある。生徒の興味関心が高いので今後も挑戦していく。

リスニング力・映画鑑賞力(状況把握や歴史文化を読み取る能力を含む)

3.ハリウッドスターへの手紙(高校3年生対象)

ハリウッドスター宛てに実際に手紙を書かせた。誰宛てにするかは生徒たちに任せた。手紙を送った数ヶ月後,Clint Eastwood氏からはサイン入りのブロマイドが送られ,受け取った生徒は大喜びし,今,同じ職場で英語の教師をしている。

英語の手紙の書き方

4.諺カルタ(高校1年生対象)

カルタ大の厚紙をグループに50枚渡し,辞書から諺を探させ,表面には英語,裏面には日本語を書かせたものを1グループにつき2セット作らせた。年明け最初の授業に楽しい雰囲気で「英語ことわざカルタ大会」を行った。

日本語と英語での表現の違いを学ぶこと

5.発音チェックカード&音読ボード(高校1年生対象)

発音記号が正確に読めるかどうかのチェックは,時間と根気が必要であるが1対1で行う方法以外ない。全ての発音記号をチェックすることは時間的にも難しいので,授業内で練習をした後,母音だけ抜き出した発音チェックカードを作り,休み時間を利用して生徒一人一人が正確に発音できるかをチェックした。音読ボードは発音チェックカードの発展形である。教科書の本文をパラグラフごとに切り取り,拡大コピーをして段ボールに貼り付けて作成。全員が本文の英語を正しくスムーズに読めるかをチェックすることは授業内では難しいので,休み時間を利用して行った。生徒たちはどのパラグラフが自分にあたるかわからないので,結局はそのパートをすべて読めるようにしておかなければならない。そのため音読テスト前には隙間時間を使って,生徒同士で発音やイントネーションのチェックをしたり,制限時間内に読めるかどうかを確認し合ったりして準備をした。これを行うことで,生徒たちのコーラスリーディングに対する意識も高まったように思う。

正確な発音・イントネーションを意識し英語をスムーズに読むこと

6.原書や英字新聞を使った指導(高校1年生・2年生対象)

1年次の夏休み・冬休みには原書を読ませ,本物の英語に慣れる体験をさせた。原書は,1年次はOxford Bookworms Library SeriesからStage3~4くらいのものを教員が選んだが,2年次は生徒の英語力を3段階に分け,Stage4~6までのものを自分で選ばせた。そして,summary を500words程度で書かせ日本語もつけさせた。読む本を自分で選択させたことで,意欲も1年次より上がったようであった。

英語で要約すること,自然な日本語訳をつけること

2年次冬休みには英字新聞に挑戦させた。指示は以下の通りである。

最初は一番短いものを選ぼうと考えたようだが,実際には自分の意見が書きやすいものを選んできた。3つの記事は「アメリカでの銃規制強まる?」「1票の格差は違憲?」「沖縄-米国上院,沖縄駐留海兵隊の移転融資の提案を承認」であった。自分の意見を書くためには,その問題の背景や根底にあるものを理解しなければならない。単に英語を訳すという活動だけに止まらず,社会問題にも目を向けさせることを意図した。この課題では社会に関する知識も日本語の力も重要であることを生徒たちは切実に感じたことと思う。

英字新聞独特の表現方法に慣れることと論理的な思考を学ぶこと
英語で書かれた内容をつかみ,それに対する自分の意見を書くこと

7.パンフレット作り(高校2年生対象)

2年次と3年次の間の春休みには,英語のパンフレットの実物から必要事項を読み取らせ,日本語のパンフレットに作りかえることを課題にした。指示は以下の通りである。

※但し,誰もが必要事項を読み取れ,読みやすいものにすること。
完成するのに何時間かかったかも記入すること。

英語を読む分量はさほど多くないが,文字のレイアウトを工夫したり自然な日本語になるように留意したりすることを強く要求した。読む相手の気持ちを想像しながら必要事項をもれなく書き記すということを,「ナマ」の英語を読み取ることとともに意識させた活動となった。

重要情報をスキャニングする
読み手の気持ちを想像しながら読みやすい日本語にする

以上,7つのオリジナル活動を取り上げたが,どれも教員側にも生徒側にも時間とエネルギーをかけなければできない挑戦的なものである。

3.Learning Pyramidを意識して

~「生徒が学びたくなる瞬間」をいかに作るか~

Learning Pyramidがどのようなものかを初めて知った時の衝撃は今でも忘れられない。以下の図がLearning Pyramidである。

出典 National Training Laboratories

まず驚いたことは,平均学習定着率から見ると教師の講義だけでは学習定着率はたった5%に過ぎないことであった。たとえ講義がうまくても定着率が最大で5%では「定着」からは程遠い。学習したことを教え合うことができてやっと「定着」が認められるのであれば,今までの授業プランを根本から変えなければならない。まさにchallengingな試みである。前章で紹介した活動の中にもDemonstrationであったり,Practice By Doingであったりの活動がいくつかある。以下,インタラクティヴな要素を取り入れた実践を紹介したい。

※前章で取り上げた活動は除く。は,獲得技能・生徒への影響等

1.スクリーンとプロジェクターを使った単語リレー確認(高校3年生)

授業の終わり5分を使い,電子辞書に入っている単語帳(生徒全員が購入)のテストをプロジェクターからスクリーンに映し出し,解答を順番に答えさせて,全員で答えを確認させている。どの列から始めるか,縦横どちらへ向かって当てるかはアトランダムである。この活動が思いの外クラスに一体感を生み出している。単語テストがスクリーンに大きく映し出されることにより,生徒たちの顔が上がり,自分や友人の答えが合っているかどきどきしたり,興味津々だったりする様子が伝わってくる。休み時間に友達同士で問題の出し合いをするなど,成績に入る小テストで単語を確認するよりもずっと取り組みがよくなっている。

※この学習活動の留意点:単語帳の学習を一通り終えていないと時間が多くかかり,進度に影響が及ぶので,一通り単語帳を学習した後に行うことが望ましい。

生徒の顔が上がる クラス全体で取り組む雰囲気ができる

2.生徒が添削する英作文(高校2年生後半~3年生)

英作文の指導の中で生徒の解答が英語として正しいかどうかを瞬時に判断することは,かなりスリリングなことである。その感覚を敢えて生徒にも少しだけ経験させている。1つの英作文を二人の生徒にあて,一人目が間違えていれば二人目の生徒が添削するという運命共同体システムである。 一人目の英作文が合っているかどうかは二人目が判断する。一人目の解答が合っている場合は,二人目の生徒には他の言い方を一人目が書いた下に書かせる。そうすることでその他の生徒も2種類の解答と自分の解答とを見比べることができる。国公立大学二次試験レベルの問題に対しては,二人を当てるが異なる出だしで書くように指示をし,複数解答を促している。難しい問題になると実際にはクラス全体が正解を目指す「運命共同体」となることもある。

「個」から「協同」へ意識が向かい,取り組みが積極的になる

3.アフレコ体験(高校3年生)

アメリカやイギリスの映画をグループでアフレコさせた。実際に話している言葉が聞き取れればそのまま行い,場面を見て合いそうな言葉を自分たちで考えてアフレコしてもよいことにした。評価は採点表を生徒にも渡し,相互採点を行った。

自然な発音・イントネーション
互いに触発し,学びあう「協同学習」体験への第一歩

Learning Pyramidを意識したとき,これからの授業は「生徒同士が教え合う場」を何らかの形で組み込んでいかなければならない。そのような形態の授業はかなりchallengingではあるが,挑戦するに値する命題だと確信している。

4.目指す峰は

~英語の授業を通して,生徒が社会の主体者となる素地を作ること~

英語を習得することは,視野を広げる第一歩であると考えている。それは日本語のみの情報量と英語での情報量では圧倒的な差があるからである。海外に出ることがないとしても日本で得られる世界の情報の多くが英語で発信されているものであることを考えると,英語という言語を習得しない手はないということを生徒たちに伝えるのも英語教師の役目だと思う。

目指す峰はまだ遙か彼方だが,生徒たちが英語を学ぶ中で多くの新しい発見や体験をし,やがて彼らが広い世界に出たときに役立つ英語力だけでなく,社会の主体者となれるような力をつけさせたい。