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算数

どちらが混んでいるのかな?
~「つなぐ」を意識した単元計画の作成~

山辺町立相模小学校 吉田 貴広

1 はじめに

昨年度から完全実施されている新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学びの実現」が求められている。「主体的・対話的で」は比較的,具体的な授業をイメージしやすいが,「深い学び」はなかなか難しいように感じる。私はこの「深い学び」のキーワードは「つなぐ」であると考えている。具体的に何と何をつなぐのかというと,

  • 児童の中に点在している知識をある共通の視点や見方でつなぐ(結び付けていく)
  • 児童の中にすでにある知識や経験と新しく獲得した知識をつなぐ
  • 児童の日常生活と学習をつなぐ(知識を生きて働くものにする)

など,いろいろと考えることができる。そこで,授業者にとって大事になってくるのは,この単元での「深い学び」とは,児童がどのような姿になっているかを明確にイメージして授業に臨むことであると考えている。

2 本単元での「つなぐ」

本単元は,「混み具合」「人口密度」「速さ」などを単位量あたりの大きさを用いて比較する活動を通して,2量の関係性をとらえることで,量に対する見方を広げるとともに,身の回りの事象を数理的にとらえて,論理的に考察しようとする態度などを育てることをねらいとしている。本単元の指導計画を作成する際に意識した「つなぐ」は以下の3点である。

①生活や他教科の学習とつなぐ

昨年度末から今年度初めにかけて,新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)の影響で全国一斉休校となった。また,その後も予定していた行事を中止したり内容を大きく変更したりせざるをえなくなったりし,児童の学校生活に大きな影響を及ぼした。学校が再開した後,5年生の総合的な学習の時間では,この「コロナ」についての学習を行った。「コロナ」とはどんな病気か,どのように感染するか,感染リスクを減らすために何に気をつければよいかなど,児童は自分の興味を持ったことについて調べ,それぞれが調べたことを皆で共有して「コロナ」についての理解を深めていった。その中で,「学校の中での3密」が話題になった。「密集しているとは,どれくらいの状態のことをいうのだろうか。」「それを数値として表すことはできないのか。」などの声が児童の中から出てきた。(資料1参照)
そこで,本単元を学習することで「密集」について数値化して,各学年の教室や体育館などにどのくらいの人がいる状態であるかを表現できるようになることを伝え,本単元を学習する動機付けを行った。このように,総合的な学習の時間で学習した内容から本単元の学習の導入を行った。また,総合的な学習の時間は「コロナ」をテーマにして進めていたが,健康で安全な学校生活になるためにどんな取り組みができるかを話し合う学習は,国語の「よりよい学校生活のために」という単元で行ったり,「マスク・手洗い・消毒」を呼びかけるポスター作りは図画工作の「伝えたい思い」という単元で行ったりしたように,総合的な学習の時間を中核にして,それに関連する教科の学習内容をつないでいった。(資料2参照)

資料1:総合的な学習のまとめ

資料2:学級カリキュラムマップ

②式と図や数直線をつなぐ

これまで何回か「単位量あたりの大きさ」の授業を行う機会があったが,児童は問題に出会うと,すぐに式を立てて答えを求めていこうとする。ノートには式と答えという数字が書かれているだけのことが多い。「この式で何を求めたの?」「この答えの意味は?」と聞いても,はっきりと答えられない児童もいる。問題文の中にある数字を見て,「単位量はわり算だから・・・」と考え,順番に並べてわり算の式を作ってみたという児童もいる。今回のこの「単位量あたりの大きさ」の学習では,ただ答えがでればよい,という内容でなく,その式が意味するところを図や数直線などと結びつけながら2量の関係を理解し,説明する力を付けていくことを大切にしたいと考えた。

③これまでの学習とこれからの学習をつなぐ

1教時の「混み具合」の学習では,「人数-面積」という差を求めて混み具合を比較する児童が出てくることが予想される。この「差」で比較する考え方は,長さ,重さ,面積などの量を比較するときに使ってきた。しかし,「混み具合」を差を使って比較することは容易でない。そこで,本単元では差の考え方では比較できにくい量があることを知り,児童の量についてのとらえを拡張していきたい。

3 授業の実際

「つなぐ」ことを意識して単元計画を作成したが,授業において児童はどのように反応し,どのように思考していたかをこれから記述していきたい。

①「式と図や数直線をつなぐ」について(1教時目より)

児童に「混み具合」を調べるために,ホワイトボードにそれぞれの部屋の様子の図を貼り提示した。部屋の面積と人数の図は以下のようなものである。(資料3参照)

資料3

  • T:今から3つの部屋の様子を見せます。どの部屋が一番混んでいるでしょう。
  • C:(人数を数え始める。)
  • C:人数が一番多いのはAの部屋だけど・・・
  • C:部屋の広さが知りたい。
  • T:なぜ部屋の広さが知りたいのですか。
  • C:同じ人数なら,部屋が狭いほうが混んでいるし,
    同じ広さなら,人数が多いほうが混んでいるから。
  • T:部屋の縦と横の長さを教えます。

1㎡に目を向けさせるために,面積を教えるのでなく,部屋の縦と横の長さを伝えた。

授業の導入部分である。A,B,Cの部屋の様子を図に表したものを提示して,児童と上記のようなやり取りをした。本時では混み具合を調べるために「そろえる」ということがポイントになるが,そろえ方は様々である。面積や人数の最小公倍数にそろえることで比較することができる。今回児童に提示した数値では面積を2㎡や10㎡にそろえて比較することも考えられる。しかし,どのような数値であっても,比較するものが数多くなったとしても,比べることができるのは「1㎡あたり」「1人あたり」のどちらかにそろえて比較する方法である。しかし,この「1㎡あたり」「1人あたり」にそろえる考えを,すぐに立式して求めていくことは難しい。立式する前の段階として「1㎡にどれだけの人がいることになるのか」や「1人が使える広さはどのくらいであるのか」などにつながる数学的活動が必要になってくる。それが各部屋を1㎡に区切ることであったり,人数で区切っていくことであったりする活動であると考えた。そこで,部屋の面積を教えるのでなく,部屋の縦と横の長さを教えることで児童が「1㎡」に少しでも着目できるようにした。児童に提示した部屋の面積と人数は以下のとおりである。

  面積(㎡) 人数(人)
A 12 18
B 12 16
C 10 16

「1㎡あたりの人数を求めた児童」

「1人あたりの面積を求めた児童」

②「これまでの学習とこれからの学習をつなぐ」について

「人数-面積」をして考える。
A:18-12=6
C:16-10=6
同じ6なので,混み具合は同じ。

1教時目の混み具合を求める学習では,上記のように差を求めて混み具合を求める児童がいた。1教時目は「混み具合」の比べ方について見通しを持ち,自力解決をして,考え方を出し合ったところで終わったので,それぞれの考え方の検討は2教時目以降に行った。「1㎡あたりの人数」「1人あたりの面積」の比べ方を検討した後に,差で求める考えについて全体で話し合った。

  • T:「面積-人数」のひき算をする考えもありました。
  • C:Aの部屋もCの部屋も6で同じ混み具合になったけど,昨日までの学習ではCの部屋の方が混んでいるとなった。
    答えが変わるのはおかしい。
  • T:この答えの6はどんな意味でしょうか。
    「面積-人数」をすると何が求められるのでしょうか。
  • C:6人でもないし,6㎡でもない・・・
  • C:何を求めたかの説明ができない。同じ単位でないと引き算はできないのかも。
  • T:もしDの部屋があったとして,Dの部屋は面積100人で94㎡だったらどうですか。やっぱり同じだと思いますか。
  • C:100-94=6だけど,100人が94㎡にいたら1㎡に1人くらいいることになるから違うな。

児童は,差では求めた数値の意味が説明できないことや,面積と人数を極端にして考えると混み具合が同じとは言えなくなることなどを手掛かりにして,差を求めて比較する比べ方はできないことを納得することができた。
児童は同種類のものしかひき算ができないこと(鉛筆2本から消しゴム1個を引くことはできない)は1年生で学習している。しかし,形を変えると児童の思考はぐらつき,異なる2量をひき算を使って比較してしまう。しかし,これが児童のありのままの姿である。それにしっかりと向き合い,児童の考えを丁寧に取り上げ,検討することを繰り返すことで理解は深まっていくと考えている。

4 おわりに

「6年生を送る会」提案文

右の資料は「6年生を送る会」について5年生児童が書いた提案文である。昨年度までは体育館に全校生徒が集まって6年生を送る会を行っていたが,今年度はコロナ感染防止のために全校生徒で集まるのではなく,6年生と1年生から5年生がペアになって日替わりで行うことになった。そこで,2つの学年だけで体育館を使うと,どれだけ広く使えるようになるかを人口密度を求めて説明したものである。人口密度を比較することで,教室よりもずっと広くなることから,「教室より活動の内容が広がります。」ということを伝えている。

本単元では「つなぐ」ということを意識した。生活と学習をつなぐということで,自分たちの生活に大きく関わっている「コロナ」を総合的な学習の材として取り上げ,その中で出てきた課題となることを解決するために「単位量あたりの大きさ」の学習を行った。ここで学習して児童が獲得した「比べ方」は生活の中で使っていかなければただの知識になってしまう。生きて働くものにはならない。6年生を送る会の提案をする企画委員の児童は「2つの学年で体育館を使うのだから,一緒にゲームをするなど,教室ではできないこともやれるはずだ。でも,それをどうやって伝えれば説得力があるのだろう。」と悩み,単位量あたりの大きさで学習した「人口密度」が使えるのではないかと考えた。そこからは「人口密度」はどうやって求めるのかを復習したり,どこの人口密度を提示すると良いかを考えたりし,上記のような提案文を作成した。学習したことを自分たちの生活の中で実際に使うことで,理解をさらに深め,生きて働くものにしていくことができた。