小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
算数

休校中に「学びを止めない」,ブログ貼り付け動画によるオンデマンド授業

兵庫県朝来市立竹田小学校 國眼 厚志

1 はじめに

新型コロナウイルス感染拡大により,2020年2月27日に首相から全国一斉休校の要請が出された。前代未聞の事態の中,当時3年生を担任していた中で,3月の授業をどう進めたら良いかを考え実践した。
また,4月以降は緊急事態宣言,さらに休業要請の発出で登校可能日のないまま5月末まで休校を余儀なくされた。新1年生を担任し,鉛筆の持ち方や椅子に座る姿勢を指導する前に学校に来なくなってしまった現状からどう「学びを止めない」流れに持って行けるかを,ブログ貼り付けによる学習動画配信のオンデマンド授業の形で乗り切った手法について紹介する。

2 ブログ開設

首相の一斉休校発言を聞き,即座に3年生連絡用の学級ブログを開設した。元々私は15年以上前からブログを書いており,8年前からFacebookも続けていたのでこの取組には不安は無かった。メールアドレスをIDにパスワードを設定し,ブログアカウントを取得するまでほんの1分でできた。ブログは「かがやきブログ」と名付けた。次の登校日に紙版の学級だよりにQRコードを印刷した。休校中は土日も含め,毎日配信し,学校からもしくは担任からの連絡をこれで行うことを告げた。保護者は大変安心し,毎日「見ました」のコメントを入れてきた。「学びを止めない」を基本に,学習に関する情報を掲載し,好評を博した。

3 ソロバン動画

3月以降の授業がどのようになるか不安もあったので,授業は早めに進めていた。多くの単元は終わっていたが,算数のソロバンの授業だけが何もできていなかったので,毎日少しずつソロバンの学習を動画を用いてすることにした。自宅にソロバンがある子はそれを使い,無い子は学校の物を貸し出した。動画は学校から貸し出したソロバンを使って撮影した。撮影はiPadをスタンドに載せ,真上から行った。ソロバンの指使いを順番に語りかけながら動かして説明していった。本来の授業ではそこまではしないが,「ご破算で願いましては」と発声し,ソロバンを傾け,五玉を人差し指で弾く「五玉揃え」をまずは行った。これも教科書には無いが,「1円也,1円也,1円也・・・」と続けて20円になるまで繰り返す作業を撮影し,「これを3回繰り返しましょう」と練習を促した。これが記念すべき,休校中の初めての学習動画配信である。

https://www.youtube.com/watch?v=4QgmoAE5Tts

次の日は教科書を開き,定位点と位取りの説明をした。「12」「135」「7068」「90340」と入れていった。大切なのは指使いである。一玉は親指の腹で入れ,人差し指で下ろす。五玉は人差し指のみで入れ下ろす。「6」や「7」は親指と人差し指でつかむ動きをする・・・などを順番に語りかけながら動画で指導した。実際に対面の授業で行っても大変難しい内容である。動画で行うことで何度も繰り返し視聴しながら行ったようであった。

https://www.youtube.com/watch?v=W0aj9f6HpoI

ソロバン動画はその後,全部で15本を撮影し配信した。1つの動画は5分程度であったが,何度も繰り返すことを考えると授業としてはそのくらいの数のコマ数をしたことになる。最後は「見取り算」として足したり引いたりも1つの問題の中で何回も行う形となった。保護者の中にもほとんどソロバンができない方もおられ,一緒に学習したり,何度も一時停止をしたりと真剣に向き合ってもらえたと思う。今回コロナ禍でこのソロバン動画の配信をしたが,実は通常の時期でもこのような動画を閲覧させることで学習を深めることが可能だと感じた。「先生,まってえー」と画面に話しかける子が多くいて「先生の授業を受けているようだ・・・」と微笑ましく感じた保護者も多かったようだ。

https://www.youtube.com/watch?v=PbND7nOhvEM
https://www.youtube.com/watch?v=69GEk-zpORo

4 答え合わせ動画

一斉休校し,2度ほど登校可能日があった。ソロバン以外は学習済みなので算数を含め,他教科の課題も多く出していた。その答え合わせであるが,それを動画で行うことを考えた。答え合わせ動画である。何冊か冊子にしていたが,その問題を解き,答えを書いてそれを数秒映すだけでほぼ答え合わせは行えた。間違いやすいところに解説を加えるのも簡単であった。

https://www.youtube.com/watch?v=Q7nxaCQysc4
https://www.youtube.com/watch?v=y2Mo4E8wfdU

5 新入生も動画で学習。鉛筆の持ち方動画

4月に入り,新学期である。その1日前が緊急事態宣言発出で,1年生を担任する私は予想されたとは言うものの,確かに当日は右往左往した。入学式に学級だよりの号外を出し,新しく新入生用のブログ「かがやきブログ2020」のQRコードを配布した。当初は週に2回程度の「登校可能日」設置が示唆されていたが,結局14日の休業要請でそれも無くなり,他学年は復習課題の印刷に奔走していた。しかし,1年生はそもそも学習をまだしていないので,復習も何も無く,これから何をどう学習するかを説明する段階であり,まずは椅子への座り方,鉛筆の持ち方からの指導であった。これらもブログでの挨拶とともに,学習動画で解説し,今後はすべてこのブログに貼り付けた動画で学習することを告げた。

https://www.youtube.com/watch?v=J4nav9mMXmM

6 算数の授業

算数はまず数字そのものと「すうじのれんしゅう」というプリントを使って何度も数字を書く練習をしました。名前を書くところからスタートし,「0」「1」を書きます。「0」は上で丸を閉じることを覚えないといけません。鉛筆で書いたり,指でなぞったりと授業で行うように動画で説明します。今までと同じでiPadで上から撮り,私が語りながら書き込んでいった。
教科書の学習も進めます。一番はじめは「どきどきがっこう」の単元。犬と象が学校まで行く道中に魚が何匹,亀が何匹・・・というように,数を数えていく。お家の方が一緒に見られていることも考えて,保護者への説明もしていく。その上で,教科書にあるQRコードに注目させ,スマホでかざして,ウェブにつなげていく操作も学習する。
こうやって毎日数字の練習と算数の教科書を進めていった。その中で「なんばんめ」の単元などはどうしても板書して説明する必要が出てきた。また,「いくつと いくつ」では数図ブロックが必要になる。それを図で描いて説明することも必要である。そこで,板書の代わりに小さめのホワイトボードを用意した。狭い画面なので大きな物はかえって困る。保護者にもお願いして一緒に学習できるときは同じように描いてもらい,その中で説明できるようにした。これはなかなか評判が良く,「先生になった気になる」とお家の方にも好評だった。こうして5月末の宣言及び休校解除までに「いくつと いくつ」までを終え,ほぼ教科書の進度と同じくらいに進めることができた。6月からは,お菓子の空き箱を持って来させ(これもブログで連絡),「いろいろな かたち」の学習から再スタートであった。5月末までで国語・算数・道徳・体育・音楽と180本の動画を上げた。そのうち算数は70本以上であった。

https://photos.app.goo.gl/8bqpwxE3Deg2wDu89
https://photos.app.goo.gl/L2vXHpY7YVBd8f5w5
https://photos.app.goo.gl/m23pf2HFSgAeVsG77

※動画はGoogle Chromeで閲覧下さい。

7 全学級で動画配信,メディアでの報道

当初,宣言が発出されても週2回程度の登校可能日が設定される予定であった。従って課題も渡せるし,指導もできるという考えが大勢を占め,動画配信への取組は校内では私一人だった。ところが1週間後の休業要請で,その登校可能日も無くなり,課題のポスティング以外の方策が絶たれてしまった。すでにブログによる動画配信をしていた私の取組に注目が集まり,急遽研修会を開催。1日のうちで支援学級も含めたすべての学級でブログが立ち上がり,動画配信が行われた。登校可能日が無くなった4月14日の休業要請のわずか1日後のことであった。取組を聞きつけた新聞社がZoomによるオンライン授業についても取材し,報道をしたことで他校への影響も大きかった。

8 問題の配信と印刷

こうなると課題のポスティングも無くても良くしようと次なる方策を考えた。ちょうど,動画の保存をYouTubeからGoogle フォトに変更した時期であったので(動画容量制限と類似動画への勧誘が無いため),課題をGoogle ドライブにPDFで置き,家庭でデータをダウンロードしてプリントアウトできれば,それでポスティングの必要がなくなる。半数以上の家庭にはプリンターがあったが,そうで無い家庭はコンビニに行って,1枚5円~10円程度で印刷できる。スマホでのダウンロード,そしてプリントアウトはどちらかと言えば若いお母さんは得意な分野であり,私よりスムーズにスマホにアプリを入れ,印刷していた。まさにこの時代,簡単に配信し,受けて印刷できるシステムがコロナのためとは言え,簡単に構築できたのは大変ありがたかった。

9 おわりに

5月末で緊急事態宣言も解除され,6月から再登校ができた。制約が多い中でも授業は通常通り行えるようになり,予定通り学習動画を配信したその次から行えたので,現在も特に学習の遅れは無い。ブログで情報を発信し,動画のURLを貼り付けてスマホの小さな画面で学習をする必要は全くなくなり,ほとんどのクラスは5月29日(金)をもってブログの更新を終えている。ただ,私はせっかく保護者との連絡が取れ,学校の様子をお知らせできるブログとこの動画配信のシステムをここで終えてしまうのは残念でもあり,万が一,第2波,第3波で休校になった場合もすぐに対応できるよう,ブログの更新は続けている。つまり,5月30日(土)から学習動画配信はしていないが,毎日ブログを更新し続け,その数は2月7日現在で327号を数えている。授業中の様子,合奏の様子,体育での縄跳びや跳び箱の様子など,可能な限り撮影し,Google フォトに上げ,URLを貼り付けて知らせている。参観日も無くなり運動会も無観客,保護者が子どもを見たい気持ちは昔も今も同じである。そういった要望にも応えられるシステムが付加的に確立できたことは大変大きいことであった。今後も続けられるかどうかは,少し疑問も残るが,不定期に更新し,時に難しい内容も解説を加えながら学習動画に上げることもできるので,今後にも大きな可能性を残すことのできるシステムであるとも言える。

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