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算数

「確かな学力」をはぐくむ指導の追求
~進んで表現する児童の育成・一斉指導における話し合い活動を通して~

5年 千葉県船橋市立海神小学校 松崎 勝志

1.はじめに

私が授業をするうえで現在特に意識していることは「『自ら学び,思考し表現する力』の育成」である。児童の様子を見ていると,答えを出すことは容易にできるが,その考えがどのように導き出されたのかを表現したり,その考えを説明したりすることに抵抗がある。児童一人ひとりに表現力を高めるための方法を考えていく必要があると日々感じている。

表現力が高まれば,これまでの学習経験より少し難しい問題であっても,異同弁別したり既習事項を活用したりしていく中で,解決策が見えてきて,学習の楽しさに気づくことができると考える。そのため,教師側が既習事項を示すような掲示物を作成したり,これまでの学習の積み重ねが見えるようなノートを作成させたり,絵,図,式,言葉等の解決の方法を明示させたりして働きかけていく必要がある。このように児童が自ら進んで学習できるような手立てを講じることで解決の道筋をたてられるようにしていきたいと考えている。

児童の思考力や判断力,表現力を高めるために,さらに進んで表現する児童を育成するために以下のようなことを重視している。

自分の意見を明確に持てるようにするための問題把握,自力解決の充実
自分の意見を明確に持てるようになれば,進んで表現できるようになると考える。そのために問題把握場面,自力解決場面において復習(異同弁別等)による問題把握や個に応じた段階的な指導等の手立てを講じている。

一斉指導における話し合い活動の充実
自分の意見を持ち,ノートに書くだけでは,書く表現力はついたことになるが『総合的な表現力』にはつながらないと考える。ここでの『総合的な表現力』とは,自分の考えをノートにまとめる表現力,伝える表現力,そして他者の考えと比較してまとめる表現力のことと考える。そのため,伝える表現力,他者の考えと比較してまとめる表現力を身につけるために,話し合い活動における具体的な対策が必要であると考えている。

具体策として以下の4点をあげる。

これらを網羅しながら学習していくことが必要であると考えている。

今回は,第5学年の「考えを広げよう,深めよう『同じものに目をつけて』」の学習を一例に,年間の学習を通して自分の思考の過程がわかるノート作りを行えるように指導した一事例を報告したい。既習事項を生かしながら様々な表現方法で自分の解き方を表現できれば,話し合い活動が充実すると考える。さらには,話し方,聞き方の指導等も合わせることで,他者の考えを認め,よりよい考えに導く話し合い活動を行うことができる。この一連の学習過程を児童に身につけさせることで「確かな学力」をはぐくめると考えている。

2.算数科の授業における工夫

① ノート指導の実際

ⅰ)これまでに行ってきた授業以外での手立て

「ノートの書き方」の明確化

具体的にノートの書き方をどのようにすればよいかを整理し,授業展開や自分の思考の過程をかくために必要だと思われるルールをまとめた。それを明確にするための掲示物を作成し,掲示している。さらにそれを縮小コピーしたものを全員に配布し,いつでも確認しながら書けるようにした。何を書けばよいかが整理され, 児童が自信を持って意識的にノート整理を行えるようになった。

既習事項の掲示物の活用

ノートのルール以外にも,過去に学習したことを掲示物にして残すことにより,児童それぞれのノートに活用できるようにした。児童がノートを書くときに困難を感じる部分は「自分の考えを表現する」ことにある。その方法は,具体物操作,半具体物操作,絵,図,言葉等を経て,最終的には式化していくことである。様々な方法から自分の考えに近い表現方法を活用し,自力解決の中で取捨選択し,最もわかりやすく伝わりやすい考えを発表することがよりよい発表につながる。発表できなくても,他の人の考えを聞きながら自分の考えとの比較をし,まとめまでスムーズに行うことができていた。

「ノート博覧会」の開催

これまで自分のノートの書き方に自信がない児童が多かった。博覧会を行うことによって,友達との共通点から不安を解消し,自信を持って書くようになっていった。さらに,友達のノートから学ぶことは多く,実際に友達の考えの書き方や「ふきだし」の活用法,色の使い方などを学んでいた。会を重ねるごとに個々のまとめ方を見出すようになり,まとめ方に対する理解が深まっていった。毎月行うことで変化や向上も見られるようになった。

ⅱ)授業における手立て

作成カードの活用

発表時に使う掲示物の縮小版を作成し,考えを直接記入したらノートに貼りためていった。同じものを発表に活用できる安心感からか,授業で一人当たり3~4枚記入する児童もいた。自分の考えの中でよりよいものを取捨選択しながら自分の考えをまとめようとする姿勢が身についていった。

「発表3点セット」:記入・発表の仕方の統一

発表するときに「図・言葉・式」の3点を必ず明記することとした。3点をそれぞれ連動させることで,発表しやすく,比較検討の時に他の意見との違いがより明確になり,異同弁別が明確になった。

② 話し合いの充実に向けて ~「他者を意識した話し合い活動」とは~

児童は発表を「正解を述べるもの」「上手に述べるもの」という意識が強い。もちろん正解を述べたり上手に述べたりすることは必要である。しかし,考え方が難しいところや疑問等から新たな問いを生み,授業が充実すると考える。そのために,話し合い活動をより活発に行う必要があると感じている。

自然と発言できるような場をつくり,児童の発言から学習が進められることが求められている。しかし,児童が持つ意識を払拭することが第一歩となってくる。そこで,以下のような手立てを取り,極力抵抗をなくすことから始めた。

説明の仕方の統一

児童は人前で話すのに緊張することが多い。それは,自分がどのように話していいか自信がないからだと考える。そこで,説明の仕方を統一することで,どのような手順で説明すればよいか明確にした。

このような手立てを講じることで,抵抗が少なくなると考えた。

同時に大切になってくるのが,説明するための資料作成である。ノートを実物投影機で映しだしたり,発表用ホワイトボードに書いたりして発表を行う。その際には,図,表,式,言葉等は必要最小限のものになるようにした。発言の補助という意図を明確にし,発言が大事である事を意識させるためである。

このことにより児童は手順が明確になり,スムーズに発表できるようになった。自分の考えをまとめる段階から発表を目的とした整理をしようとする姿に変わっていった。

発表を聞くときの注意

発表時の大多数の児童は発表を聞く側に回る。発表の聞き方も発言の仕方同様に重要になってくる。

特に重視したのは発表を聞くときは反応をするようにした事である。自分の考えと比較したり,よい所を見つけたり,質問を考えたりすることで,よりよい考えにしようとする事にした。

さらに,あえて答えが不完全な状態で発表させることもあった。「ここまでわかったのですが,ここから先がわからないので説明できる人はいますか。」と,他者に意見を求め答えに導いていくことも行った。

そのことにより,児童は他者の考えの理解を深めながら,自分なりのまとめにつなげていけるようになった。同時に他者のよい所を認め,自分の考えが完璧でなくても補えたり,新たな発見をして自分の考えを広めたりすることができた。

児童の発言による「まとめ」の作成

一時間の学習が理解できたかどうかをはかるために児童の発言からまとめを作成するようにした。その際,自分の考えだけでなく他者の発表を加味して本時の学習内容でよりよいものをまとめとしていく。

その際に「算数 は(はやく)か(かんたん)せ(正確) になろう」という観点を持って取捨選択していく。そして,本時で習った算数用語を活用してまとめとしていった。

児童によって言葉に細かな違いは見られるが,おおむねまとめられるようになってきた。児童が学級全体の意見を取捨選択できるようになり,まとめを統一できるようにもなってきた。

これら3点を行う上で,他者を意識して話し合うことが重要になってくる。話し方の準備段階では,自分の考えを理解してもらえるような発言方法,提示の仕方が必要である。発表を聞くときは,発表者が何を言いたいのかを的確に聞き取り自分の考えと比較しながら学習を深めていく必要がある。そして,それらを踏まえてまとめを考えていく。この学習過程を繰り返し積み重ねることにより話し合いに慣れ,円滑に行うことでより話し合い活動を充実させ,表現力を高められるようにした。

3.授業について

① 単元名

考えを広げよう,深めよう「同じものに目をつけて」

② 単元について

(1) 単元観

児童はこれまで,第3学年で順思考と逆思考を組み合わせた問題,第4学年に順に戻して考える問題を解いてきている。これらを既習事項として,問題文を読み取ったり,解決の手だてを様々な手段で伝えたりすることを行ってきている。本時ではより発展した形で,線分図等を活用してよりわかりやすく説明させていきたい。

本単元では,「同じものに目をつけて」差し引いて考える問題と,「同じものに目をつけて」置き換えて考える問題を学習する。差し引いて考える問題では,差し引いて残った量が「何の何倍に当たるか」を考えて解く問題である。また置換の問題では,「全体の量が求めようとする量の何倍にあたるのか」を考えて解く問題である。これらの問題を通して,数量の関係を表す式の理解を深め,簡単な式で表されている関係について,二つの数量の対応や変わり方に着目できるようにさせたい。また内容の指導に当たっては,思考力・判断力・表現力等を育成するために,言葉・数・式・図・表を用いて考えたり説明したり,互いの考えを伝え合ったりする等の学習活動を進めていく。特にこの単元では線分図の有用性を理解させ,活用できるようにする必要がある。線分図は一目で問題場面を理解することができる。それぞれの要素と関係性を見ることができるのでこの場面では有効であると考える。

そして,この学習は割合の考え方につながっていく。何倍になるかを考えていく際の基礎になる部分なので丁寧に指導していきたい。

(2) 児童の実態

実態調査によると,算数に対する意識に差が見られた。得意な児童にとっては,自分で考え問題解決していく楽しさを実感しているようである。一方で,得意ではないとしている児童は,算数の難しさに頭を悩ませているようである。「計算が苦手」「文章問題が苦手」としている児童も多い。ただ,中には「これまでよりは楽しい。」「新しい発見をする事はあるが,自分で発見することが難しい。」と,解決の道筋は見えてきている児童もいる。

まず,問題把握をしっかりと行う必要がある。これまで多くの方法を使って自分の考えを表現するための手段を獲得してきた。しかし,それも問題の場面を十分に理解しないと活用できない。わかっていること,聞かれていること等の問題場面を十分に理解させる必要がある。

次に,比較検討場面での十分な話し合いが必要である。そのためにはまず,自力解決場面で自分の考えを明確にしておく必要がある。自分の考えを明確に持って比較検討場面にのぞめば,他の意見との比較や関連性も考えられ,より考えを深めることができるだろう。

これらの活動を十分に行うことにより,表現力を高めることができ,確かな学力を育むことができるであろう。

(3)単元の観点別目標

◎ 四則のやや複雑な問題を,相殺や置換の考え方を使って解くことができる。

【関心・意欲・態度】 相殺や置換の考え方を使って解く思考法のよさがわかり,進んで活用しようとする。
【数学的な考え方】 複雑な数量関係の問題を,相殺や置換の考え方を使って解くことができる。
【技 能】 相殺や置換の考え方を使って問題を解くことができる。
【知識・理解】 相殺や置換の考え方を理解する。

(4) 単元の指導計画(2時間扱い)

学習内容と活動 評価規準・評価方法【】
りんご7個をかごにつめてもらったら,かご代をふくめて940円でした。
同じかごでりんごを5個にすると700円になるそうです。
りんご1個のねだんは何円ですか。また,かご代は何円ですか。

♢ 数量関係を図や線分図に表し,相殺の考え方を理解する。

りんご1個のねだんとかご代を求めるには,差し引いて考えて計算すればよい。

♢ 相殺の考えを用いて解く思考法のよさがわかり,進んで活用しようとしている。(関心・意欲・態度)【ノート・発言】

♢ 複雑な数量関係の問題を相殺の考えを用いて解くことができる。(技能)【ノート・発言】


(本時)
ジェットコースターに乗ります。
おとな1人分の料金は,子どもの2倍です。
おとな1人分と子ども1人分の料金をあわせると,1500円になるそうです。
おとな1人分と子ども1人分の料金は,何円ですか。

♢ 数量関係を図や線分図に表し,置換の考え方を理解する。

おとな1人分と子ども1人分の料金を求めるには,置き換えの考え方を使って計算すればよい。

♢ 置き換えの考えを用いて解く思考法のよさがわかり,進んで活用しようとしている。(関心・意欲・態度)【ノート・発言】

♢ 複雑な数量関係の問題を置き換えの考えを用いて解くことができる。(数学的な考え方)【ノート・発言】

(5) 本時の展開(2/2)

(1)本時の目標

(2)授業記録





















4.おわりに ~成果と課題~