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 探求活動(課題研究)

本校の課題研究(iC理数探究Ⅰ)の取組の紹介

岡山県立岡山一宮高等学校 片山 肇

1.  はじめに

本校は昭和55年に普通科高校として開校し,平成11年に理数科を併設した。平成14年に第Ⅰ期スーパーサイエンスハイスクールに指定され,以来,2年間の経過措置の期間を含め,継続してスーパーサイエンスハイスクールに指定されており,国際的な科学技術系人材の育成に向けた研究開発に取り組んでいる。「自主自立」「文武不岐」という校風のもと「挑戦 協働 創造」を心構えとして,特色ある教育活動を推進している。

課題研究は,理数科を設置した平成11年から取り組み,今年度で25年目を迎えており,現在の理数科では学校設定科目のiC理数探究Ⅰ(2年生),iC理数探究Ⅱ(3年生)として実践している。効率的かつ深い研究を行うために,毎年,様々な工夫を取り入れており,昨年度から,研究の見通しと研究過程の記録を残すために「研究記録自己評価表」と「理数探究の記録」を導入した。これらに記録された内容を,「SSH理数探究指導記録」に蓄積し,指導力の向上につなげている。

今回は,昨年度に取り組んだiC理数探究Ⅰに関する取組内容を紹介する。

2.  iコンピテンシーとiC理数探究Ⅰの関連

本校は「「科学知」を統合し行動するリーダー育成」を目的として教育活動を行っている。そのため高校3年間で身につける力をiコンピテンシー(一宮で身につける5つの資質能力)とし次のように定めている。

1年次には探究の初期指導の一層の充実を図った探究基礎科目でiコンピテンシーを育成し,2年次のiC理数探究Ⅰでそれを活用し,3年次には探究活動の振り返りの中,iC理数探究Ⅱを選択履修したり,iC進路探究で自分の将来と結びつけたりして,iコンピテンシーの深化を図る。

3.  iC理数探究Ⅰ

(1)目的

自然科学研究における課題発見,検証方法の立案と実施,結果の検証,成果の発表の過程を体験することで,科学的な探究方法や科学的思考力を育成する。さらに,発展的な学習や科学技術に興味・関心を持たせる。

(2)SSH指定におけるiC理数探究Ⅰの仮説

生徒自らが見つけた課題を探究テーマに設定することで主体的に探究活動に取り組む。その中で科学探究計画の立て方,探究方法,データ処理法を含めた探究研究を進めるために必要な具体的な手法を身につける。

(3)単位数
2単位(火曜日の6時間目と7時間目に設定) 1単位は45分

(4)年間計画

(5)グループ数と指導者

例年,理数科生80人を4分野18グループ(数学・情報は3グループ,物理は5グループ,化学は6グループ,生物は4グループ)に分けて,グループ研究を行っている。各グループに1人,専門分野の指導教員がついており,退官された大学の先生や退職された高校の先生に非常勤講師として指導していただいているグループがある。

(6)大学との連携

数学・情報,物理,化学,生物の4分野に一人ずつ,岡山大学の研究者の方々に定期的に指導をお願いしている。
7月の中間報告会Ⅰ,10月の中間報告会Ⅱ,12月の分野別発表会,1月の校内発表会の年間に4回,本校に来校していただき,生徒の発表を聞き,様々なアドバイスをしていただいている。アドバイスの内容は,高校で学習する内容を超えた専門知識・手法の指導や論文,アブストラクトの書き方,発表の仕方等である。

(7)先輩と後輩の情報交換会

例年4月に3年生と2年生との間で,理数探究に関する情報交換会を行なっている。事前に2年生に「先輩に聞いてみたいことは何ですか?」について記入させ,当日までに3年生に渡して質問の答えを考えさせている。また,3年生は理数探究の振り返りを記入したプリント(各チームA4 1枚)を冊子にして,2年生に配付した。

情報交換会当日は,数学・情報,物理,化学,生物の4分野に分かれて,2年生と3年生が同席し,積極的に情報交換を行っている。

図1 情報交換会の冊子

図2 情報交換会の様子

(8)「研究記録自己評価表」個人記録・自己評価の取組(図3)

目標を持って理数探究に取り組むことで,より主体的な活動になるとともに,探究活動を振り返り,次回に向けて課題を考えることで,効率的かつ深い研究に繋がるという仮説を立て,研究記録自己評価表を作成させている。生徒一人に一冊,「理数科2年生 理数探究(課題研究)研究記録自己評価表」を渡し,授業が始まるまでに,授業を行う日時,目標を記入する。授業後に,「行ったこと」「次回に向けて」を記入し,自己評価を行った上で,担当教員に渡す。

担当教員は,記入内容を確認し,指導を行う。

図3 理数探究の記録 個人記録

図4 理数探究の記録 研究チーム用

(9)「理数探究の記録」研究チーム記録(図4)

授業が始まるまでに,「授業を行う日時」「グループとしての目標」を記入し,授業を行った後に,「授業で行ったこと」「次回に向けて」の欄に記入し,研究ノートのその日の最後の部分に貼る。その研究ノートを担当教員に渡し,担当教員は,記入内容を確認した後に,コメント欄に,助言等を記入し返却する。返却されたノートの指導コメントを見て,次の研究計画を立てる。研究倫理の観点から,ボールペンで記入させている。

グループとして,その時間の目標を立てることで,グループ全体で取り組むことが明確になり,協力体制や分担活動を行いやすくすることが目標である。

(10)教員のSSH理数探究指導記録の作成

指導者一人一人は,生徒が作成する理数探究の個人記録とチーム記録,自分が指導した内容などを元にSSH理数探究指導記録を作成する。

この指導記録は,年度末に冊子にして,次年度に指導する教員に渡す。他の先生方の指導記録を読むことで,自分の指導の参考になり,初めて指導する先生方の不安を解消することをねらいとしている。参考資料となるよう他校にも配付を予定している。

(11)分野別の報告会・発表会の実施 (分野別の3回(7月,11月,12月)の報告会)

岡山大学から研究者(数・情,物,化,生分野1名ずつ計4名)を招聘し,定期的に分野別の報告会・発表会を実施している。生徒に研究の方法や結果の考察,研究の方向性,研究を進めるにあたっての問題点などを,多角的に指導していただいている。

(12)生徒による相互評価及び教員による評価

分野別発表会や校内発表会で,発表を聞いている生徒に「相互評価シート」を記入させ,他者評価をさせている。また,校内の教員や外部からの指導者,見学者の方に,コメント用紙を配付し,コメントを記入後評価していただいたものを各グループに返却して,その結果をその後の研究に生かすよう指導してる。記入された「相互評価シート」を発表したグループに渡し,今後の研究や発表に活用するよう指導している。

(13)ステージ発表会,ポスター発表会,科学コンテストへの参加

校内発表会のポスター発表,県内理数科理数系コース合同発表会のポスター発表には,すべてのグループが参加するようになっている。ポスター作成や発表内容の検討を通じ,研究内容に対する理解が深まっている。さらに,学校外で開催される発表会(集まれ科学への挑戦者,サイエンスキャッスル大会,高校生国際シンポジウム等)にも積極的な参加を促している。

(14)国際性の育成

論文作成時に「概要」の英訳(abstract)掲載をすべてのグループに課している。また,英語版のポスターを作成し,英語でのポスター発表会を実施している。

(15)スムーズなスタートに向けて(ミニ理数探究の実施)

1年生の1月~3月にミニ理数探究を行なっている。最初に「課題研究メソッド~よりよい探究活動のために~(啓林館)」を使用して,理数探究の進め方を指導する。その後,4分野に分かれた後に少人数の研究グループに分かれて,どのような研究をしたいかを協議する。その際,本校や他校の論文集を参考にしたり,インターネットで検索したりして,具体的に研究内容を考えている。

4.  おわりに

2月頃に研究したことを発表したり論文を提出したりしている生徒の様子を,4月頃と比べてみると,大きく成長している姿が見られ,理数探究に取り組ませてよかったと毎年感じている。様々なことに苦労しながら,それを生徒自身が乗り越えることで得られるものはかなり多い。

効率的かつ計画的な研究活動の推進,理数探究を初めて指導する先生方の不安を解消すること,生徒の自主性と指導教員の指導量の調整など課題はあるが,生徒が自主的に活動することでiコンピテンシーが身につくよう支援する立場で今後も進めていきたい。