高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
 探求活動(課題研究)

地域課題解決型学習「まつナビ・プロジェクト」について

長崎県立松浦高等学校 茶園 孝一

1.「まつナビ・プロジェクト」とは

平成25年度,松浦市内唯一の高校である松浦高校への入学者の減少などもあって,松浦市による松浦高校の生徒を対象とした就学支援制度が創設されました。平成29年度からは,松浦高校の魅力化の一環として松浦市と松浦高校が協働し,生徒が地域課題の解決策について調査・考察・発表する「まつナビ」の活動が始められました。当時は2年生全員を複数の研究班に分け,松浦市役所職員が班毎のファシリテーターとなり,学年担当教職員とチームを組んで生徒の課題研究を支援する体制でスタートしました。
さらに,令和2年度からは,文部科学省委託事業「地域との協働による高等学校教育改革推進事業(地域魅力化型)」の研究指定校となり,2年生だけでなく,全学年の活動とし,3年間を見通したカリキュラム開発に取り組みました。
さらに,令和4年度4月より普通科が,新しい普通科である「地域科学科」へと改編され,同時に文部科学省2つ目の委託事業である,「新時代に対応した高等学校支援事業(普通科改革推進事業)」の研究指定校となり,令和4年度については,文部科学省の2つの事業の指定を受けることになり,「まつナビ・プロジェクト」がはじまりました。
【まつナビ・プロジェクト年間計画案】

松浦高校の学校改革の動き

2.まつナビ・プロジェクトの実践活動

「まつナビ・プロジェクト」の3年間の主な取組は,1年生が課題研究テーマを設定する「プレまつナビ」,2年生は設定したテーマをもとに課題研究活動を行う「まつナビ」,3年生は実践活動やこれまでの学びをまとめて言語(論文)化し,キャリア形成(進路実現)につなげる「ポストまつナビ」です。

(1)1年生(プレまつナビ)の活動

①外部講師による講演会や研修会

外部講師による研修会

入学して間もない1年生は,たくさんの知識・技能をインプットする取組を実施しました。例えば,探究の手法に必要なマインドセットを身につけるために,外部講師による講演会や研修会を行いました。これらの活動前後には,「課題研究メソッド(啓林館)」を使い,探究活動の「知識・技能」のインプットを手厚く進めました。

②教科横断型授業・地域連携授業の開発

「新しい普通科」としてのカリキュラム開発の一環として,地理と数学,国語と英語など異なる教科の視点から授業研究を重ねて教科横断型授業を実践しました。また,地域連携の授業づくりでは,伝統的な流鏑馬の見学や元寇船の引き上げとの連携授業(歴史総合),長崎地方気象台による台風等の自然災害の授業(地理総合)等を実施しました。

教科横断型授業
(国語と英語:「使役動詞」の役割)

流鏑馬見学

③バスツアーと「志佐んぽ」

1年生がふるさと地域を知るための,バスツアーも実施しました。今年も生徒の行きたい,知りたい,興味があるといった場所を中心に4つのコースを生徒が設定しました。

A:地域貢献・地域活性化コース  
B:人口・環境問題コース
C:産業コース  
D:歴史・国際・文化コース

さらに,バスツアーだけではなく,活動時間内(2時間内)に歩ける範囲を歩きながら地域の方々と交流する「志佐んぽ」を行いました。松浦高校が松浦市志佐町にあるのでこの名前がついています。また,インタビュー内容をまとめるためのタブレットPCの他に,生徒がゴミ袋を持参し,地域清掃活動も並行して行いました。

④課題研究テーマ設定

1学期までの学習報告会を2学期最初に行い,課題研究テーマの設定に取り組みました。生徒のキャリア形成にしっかりとつながるテーマ設定を行うために,仮テーマを設定した後は生徒の興味・関心の関連性について,担当教員が生徒と意見交換を行いました。

(2)2年生(まつナビ)の活動

①研究構想・振り返り

1年次に設定した課題研究テーマについて,5月には今後の活動方針や課題研究の内容等について構想を発表し,コンソーシアム関係者等から助言を受けました。生徒は,振り返りを行うとともに,以後の研究の進め方について再検討しました。

②フィールドワーク・振り返り

7月には研究の充実に向けた情報収集とコミュニケーション力の育成するために,事業所等を訪問したり,街頭でインタビューを行ったりするフィールドワークを実施しました。

③中間発表・振り返り

課題研究の方向性等について確認するために,9月に研究の進捗状況等について発表し,コンソーシアム関係者等から助言を受ける中間発表を実施しました。その後,生徒は,時間をかけて研究の振り返りを行いました。

④校内,課題研究発表・振り返り

中間発表からのブラシュアップの成果を発表するために,12月に校内発表会を実施し,1月には松浦文化会館において発表会で選ばれた5つの班による課題研究発表会を行い,選ばれなかった残りの班も,ポスターセッションを行いました。

代表グループ発表テーマ

⑤実践活動例(令和4年度)

廃油を使った実践活動

長崎県松浦市はアジの水揚げ量が日本有数で,「アジフライの聖地」としても知られています。そのアジフライを揚げた廃油や家庭から出る廃油を有効活用できないかと考えたプロジェクトの実践活動(右の写真)です。「松浦こども博」という松浦商工会議所青年部主催のイベントに参画させてもらい,地元事業所の協力により廃油を燃料に変え,発電機を動かしたカフェを運営しました。今後,このプロジェクト班は廃油からアジフライの形の石鹸を作る予定です。

(3)3年生(ポストまつナビ)の活動

①研究論文作成■廃油を使った実践活動

2年生までの研究の成果を言語化するために,論文作成を行います。論文作成にあたっては,「課題探究メソッド(啓林館)」を使い作成を進めます。

②あきらめない実践活動

実践例(手すりの設置)

2年生のときに実現しなかった実践活動も並行して行います。右の写真は,市内フィールドワークで,松浦市を走る松浦鉄道の松浦駅構内に手すりがなかったという「気づき」から立ち上がったグループ(班)が3年生になってもあきらめずに,地元企業との協働で手すり設置を実現させた実践例です。

3.まとめ

「まつナビ・プロジェクト」における最終的なゴールは,生徒のキャリア形成(進路実現)です。全国的にもこのような地域課題解決型学習を行っている高校はたくさんあります。その中の課題として,教員の負担感があります。松浦高校では,新しい学び(まつナビ・プロジェクト)に,教科および総合的な探究の時間をしっかりつなげるようなカリキュラム開発を研究し,今後それらを教育活動の中にしっかり組み込んでいきます。そうすることで,教員の負担感はなくなる(少なくとも軽減される)と思います。

平成29年に2年生だけではじまった取組が,令和2年には3年間を見通したカリキュラムへと変更しました。このことで,生徒の学びと活動がより深く醸成され,大学進学をはじめとした生徒のキャリア形成にも少しずつ成果が見られるようになりました。これからも,カリキュラム開発のブラシュアップや生徒の学びを止めないための活動内容の改善を進めながら,地域に貢献し,松浦高校に入学した生徒の夢が実現するような活動にしていきたいと思います。