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理科

地学基礎・地学 授業実践記録

愛知淑徳中学校・高等学校 柳澤 洋文

1.はじめに

本校では高校2年生の文系生徒を対象として地学基礎がカリキュラムに設定されている。理系の生徒対象の地学は開講しておらず,なんとも歯痒い思いをしているが,地学を教えることができるだけまだましなのかもしれない。全国4,117校(全高校の81.3%)の高等学校の地学科目の開設状況は,「地学基礎」が開設校数1,797校で開設率が43.7%,「地学」が開設校数363校で開設率が8.8%であり,地学科目の履修率は「地学基礎」が約26%,「地学」は1.2-0.9%で推移しており,化学基礎(履修率80.5%)や生物基礎(履修率85.1%),物理基礎(履修率57.1%)と比較して圧倒的に少ないのが今の地学の現状と言える(吉田・高木,2020)。では,地学専修の私が本校の文系生徒おおよそ120名に対して「理科」の地学をどう教えてきたか,また少しでも文系の生徒の力になるような地学授業の工夫をどのように行ってきたか,僭越ながら記録として残したいと思う。

2.新学習指導要領 アクティブラーニング

2018年に公示され,2022年度から高校でも施行された新学習指導要領に基づく通称「新カリ」において,理科はおおよそ旧課程から科目の変化はなかったが,新たに理数探究に見られる教科横断的科目の設置やカリキュラムマネジメントの推進が記載され,そして改訂の基本方針に「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善,いわゆるアクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善が話題となり,本校でも新学習指導要領に基づいた指導方法の模索が行われ始めた(高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 理科編 理数編)。その一つに協同作業や主体的な活動を支援するICT機器の導入(iPadや構内Wi-Fi)が整備され,特に理科,数学科の教員を筆頭に新たな授業の形を提案,実施し,私の担当する地学基礎も御多分に洩れず教材開発を行った。

3.私の地学授業2018年モデル

 

図1 事前学習用授業動画キャプチャ

学校が新たな教具を取り揃えていく中,私が地学基礎の授業をどう工夫するかを考える上で,方針としてきたことがいくつかある。「1.高等学校理科の本質である自然観を養うこと。」「2.理科基礎の授業であるが,本体理科(地学で言えば基礎を付していない「地学」)の内容を少しでも見通せるよう,考えの幅が広がるような教材提示,指導法を行うこと。」「3.対象は文系の生徒であるため,地学基礎を履修するゴールが共通テストで高得点を取るという考えを持つ生徒も一定数いる。しかしながら教科として地学の教養を教授することを心がけ,特に論理的な思考力を養えるようなワークを取り入れること。」などである。そこで2018年の授業では実験的ではあったが「反転授業」を取り入れた。地学基礎の標準単位は2単位であり,本校も週2回で開講されているため,教科書+αの教材を取り入れるだけで,毎年授業時間が足りなくなっていた。よって本授業内では投げ込み的な教材を扱い,単元ごとの基礎知識は収録した動画の視聴を授業外で行うことを指示した。大まかなシステムとしては,動画の視聴,授業冒頭で小テスト(基礎知識の確認)の実施,投げ込み教材の演習,次回授業までに新たな単元の動画視聴の連絡,といった流れである。2018年は本校でちょうど理科の研究授業が実施されることもあったため,当時の授業実践をまとめた指導案を附しておくので,詳細はこちらを確認していただければと思う(資料1)。

図1 事前学習用授業動画キャプチャ


この授業を構成する要素として授業支援ソフトである「スクールタクト」を用いたことについて,少々解説する。スクールタクトは教材や資料のシェアを双方向で行えるブラウザベースのソフトであり,個人,クラスごとで生徒を指定し,日々の学習評価や課題の提示を学内学外問わず,シンプルな操作で行うことができる。その中でも授業内での活用法が充実しており,生徒各人の取り組みを指導者が一覧でき,また生徒同士で各々の進捗を確認し,シェアするようなことも簡単にできる。詳細は開発元(株式会社コードタクト)のHP(https://schooltakt.com/)を参照していただければ幸いである。本時の授業では動画視聴,小テスト,ワークの全てをスクールタクト上で行い,授業の評価を生徒(40名)に対して行った。

図2 小テスト生徒の解答例

図3 本時のワークの一部

図4 小テスト生徒の解答例

図5 本時のワーク生徒の解答例

4.コロナ禍での対応

世界的な新型コロナウイルス感染症の流行により,特に教育現場では2019年度末から今までのやり方が通用しない,各領域で新たな対策を講じて教育活動を行わなければならない大きな転換点を迎えた。授業形態の変更が余儀なくされ,理科では実験を制限され,フィールドワークはもってのほかであり,新カリの柱である主体的な活動及びシェアリングの実施も非常に困難になった。しかし全国的に対面式授業のあり方が工夫され,オンライン講義や在宅ワークなど,今まで取り入れられなかった手法が加速度的に広がり,「授業」が新たなフェーズに入ったように感じる現在である。本校でもコロナ禍への対策や授業のあり方が協議され,感染症対策を講じた教育活動の実施がなされている。その中で特に活用されたのがスクールタクトであり,休校手当やオンライン上での課題配布,評価など,老若男女問わず教員が扱っている。私の授業実践に話を戻すと,上述した2018年モデルがまさにコロナ禍において活用できた点である。動画配信しかりオンライン上での課題配布,評価しかり,一方的な指示に傾倒せずに双方向で行えたことは,このモデルの利点であったと感じている。そして感染症が拡大する中で他校の教員の皆様もおそらくは私が行ってきた手法を発展させた授業を実践されているであろうし,私の授業実践は今ではごくごく普通な授業形態を紹介しているだけに過ぎないかもしれないが,そこはご容赦願いたい。ただ,「理科」を教えるという立場で見たとき,自然現象の法則性や事象の確認を,オンライン上での提示や頭の中で完結させて理解を求めることに精一杯な教材は,どこかで限界が来るように感じる。私の授業実践は,つまりは限られた環境(単位数,対象生徒,教授内容の制限やコロナ禍による授業形態の変更など)の中で「なんとかして」地学のものの見方や論理的な思考力を養うことに尽力してきたことである。次項で授業実践に対する反省とまとめ,今後の展望や地学について私なりにまとめていこうと思う。

5.地学の授業

 

図6 出題した定期考査の論述例

冒頭に記述したとおり,地学は全国的に履修率,開講率の低い科目である。理由は多岐に渡るが,地学専修の教員が少ないことは理由の一つであろう。また理科は,本校の理科教員もそうだが,自身の「専門科目」以外に興味関心を示し学習,研鑽を行うことが比較的少なく,地学は指導者が少ないこと,入試科目に設定している大学が少ないことなどを理由に特に忌避されていると感じている。確かに地学の指導内容は他3科目を総合したノウハウを持って,目の前の「具体的な」自然現象を扱うことは大きな魅力ではあるのだが,反面,スケールの把握,視点の切り替えなどは教え方が難しく,また具体的な自然を扱おうにも全日制1クラス40名でフィールドワークを行うことはかなりの労力が伴うし管理上の問題も考えられる。一例挙げるだけでも様々な要因が絡み,なんとも「難しい」のが現状なのではないだろうか。

本校では前述の通り,週2回で1クラス40名の文系生徒のみに授業が開講されている。もちろん時間は足りず,フィールドワークはおろか,偏光顕微鏡を用いた鉱物薄片の観察や天体観察,解析実習などに時間を取ることは難しい。多くは自身で撮影したものや解析したもの,ネット上で共有可能な映像教材などで生徒が実感を得られるよう狙っているに過ぎない。この現状を変えたいがため,今の私を取り巻く環境を工夫する中で,反転授業を用いた授業を展開し,「本物の」自然を扱う時間を確保したく思っている。

最後になるが,文系の生徒にとって理科の関心は比較的低い。それを認めた上で,生徒の力になるワークとして最近は論理的な文章作成,いわゆる「論述」に力を入れている。扱うタイトルはごくシンプルなもので,火山噴火のプロセスや異常震域の発生機構,夕立のメカニズムなど,授業で理解した内容を扱って人に伝わる論理的な文章を構築するノウハウを授業に取り入れている。以上,私が理科教員として生徒に授けたい地学のねらいを授業実践という形で記述してきた。なんとも力にならないない内容かもしれないが,私と似た境遇におられる教員の皆様の,ほんの少しの力になれば幸甚である。

図6 出題した定期考査の論述例

【参考文献】