高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
数学

自分で発見する喜びを意識した漸化式の授業実践

千葉県立佐原高等学校  下山 周悟

1.はじめに

同じ教材を用いても,その教え方によってその輝きは全く異なる。アクティブ・ラーニングという言葉の登場以来,授業の在り方への注目が高まっている。 さて,この授業実践報告では「ハノイの塔」や「ニュートン法」といった定番の教材を,生徒が興味・関心をもって主体的に学ぶように工夫を凝らした授業実践を報告したい。以下に本校での授業実践を2つ紹介する。

2.授業実践事例1 トランプを利用しての「ハノイの塔」

教科書では,数列の導入として「ハノイの塔」がよく取り上げられる(啓林館『詳説数学B―改訂版―』p.33,40)。実物のモデルを人数分準備することは難しいが,トランプによって簡易に代替できる。授業では生徒の主体的活動を取り入れながら,ハノイの塔をn=5まで自分たちで完成させてみた。

(1)トランプの利用

いまの生徒たちは昔ほどトランプ遊びをしないかもしれないが,それでも身近な玩具であり,生徒たちもゲーム感覚で取り組める。遊び方はハノイの塔と同じく,置く場所を3か所(上図のA~C)設定して,数が小さいカードの上に数が大きいカードを置くことなく,AからCへ全てのトランプを移動することを考える。なお写真では,トランプを置く場所A~Cを3冊の教科書の上と設定している。置く場所が明確になっている方が生徒も作業がしやすいようである。


  

(2)授業の様子

カードが1枚,2枚の場合はC地点への移動がすぐできる。3枚になって少し考えるが,まだ易しいようである。

3枚スタート

①と②を移動
(ここまで3回)

③を移動

①と②を移動(さらに3回)

トランプが4枚になるとすぐに最小手数15回での完成とはいかず,17回や19回で完成という生徒も出てくる。3枚までの場合の回数から最小手数を予想する生徒がいたり,回数の公式を知識としてすでに知っている生徒もいたりする。ただし,実際にできるかは別の話であり,現場の教室で脚光を浴びるのは15回でできる生徒である。

4枚スタート

①~③を移動
(ここまで7回)

④を移動

①~③を移動(さらに7回)

トランプが5枚になると生徒たちもどう手を付けていいかわからなくなってくる。そこで,「ハノイの塔」の構造を考えると,この場合,上の4枚を移動できれば,5を移動して,もう一度4枚を移動すればよいことに気付かせる。このことから漸化式 n+1 = 2n + 1も立てられるのだが,やはり生徒は「本当に31回で移動できるのか」の方に夢中である。

5枚スタート

①~④を移動
(ここまで15回)

⑤を移動

①~④を移動(さらに15回)

「ハノイの塔」は教科書の導入教材として(啓林館『詳説数学B―改訂版―』ではColumnとしても)掲載されてはいるものの実際に生徒たちに取り組ませることは,時間的にも予算的にもあまりないのではないだろうか。実際に取り組んでみて感じられることは,遊びこそ学びであるということである。生徒の漸化式への興味・関心を高めるにはうってつけの教材である。

また,トランプが4枚の場合で,「回数の公式を知識としてすでに知っている」生徒がいると書いた。この授業の中では「一般項が2n-1であるという予想」「漸化式がn+1 = 2n + 1であるという問題の構造理解」「実際にトランプを動かしてハノイの塔を完成させるというミッション」が同時に押し寄せる(本時の生徒たちの興味が「実際に完成させること」にあるのは先述のとおりであるが)。本時は導入であるから,生徒のそうした気持ちも大切にしながら,「漸化式を(立てて)解いて,一般項を求める」という今後の学習の流れももちろん押さえておきたい。その上で,n+1pan型の漸化式の話題に自然に入っていきたい。

これとは反対に,もう一つの実践事例は一般項が求められないタイプの数列を題材にした授業実践事例である。

3.授業実践事例2 漸化式の導入としての「ニュートン法」

数列は,自然科学や社会科学などの分野においてしばしば取り扱われ,数学の他分野とも密接に関連する重要なものである。小学校,中学校段階でも簡単な数列に接する機会はある。そこでこの単元では,具体的な例を通して数の並びの規則性を考えながら,その一般的な性質に着目することにより,一般化の“よさ”が分かるようにしたい。特に,漸化式や数学的帰納法は帰納的な思考を用いるため,一般化の“よさ”が体感しやすい教材であると考える。生徒に帰納的思考を促しながら,教材の効果的な活用を試みた。

教科書では(最終的には)一般項が求められるタイプの漸化式を例題や問いで扱うことが多い。ここでは,数学Ⅲで扱う「ニュートン法」(啓林館『詳説数学Ⅲ―改訂版―』p.89)を漸化式の導入として扱った授業例を紹介する。ここでは極限を求めず,生徒が実際に手を動かして初めの数項から近似値を求める。

(1)授業の目標と流れ
具体的な問題解決を通して,初項と漸化式を決めると次々と次の項が決定することを確認させ,一般項の有用性を理解させる。
ニュートン法を利用して平方根の近似値を求めることを通して,数列と社会とのつながりを実感し,学びを自身の将来に活かそうとする態度を養いたい。

内容としては数学Ⅱの微分法を用いるので,未習の場合は注意が必要である。そこさえクリアできれば,漸化式の導入としての第2項,第3項,……と求めることが単なる計算に終わることなく意味のある数値が現れることで生徒の興味・関心をひく教材になると考えられる。

<実際の板書>

 Step 4  第5項の割り算は手計算では困難であるため,電卓やスマートフォンの使用を許可する。数式を入力させ一斉に「=」キーを押させると,生徒たちからはニュートン法の精度の高さから歓声があがり教室は盛り上がる。

(2)興味をもった生徒への発展資料「√Nの近似値」

今回の方法は N を変えても成立し,グラフ化すればグラフが縦方向に動くだけのものである。参考までに実際に計算してみた表を見せる。

上の表の初項a1で計算した場合,操作を5回繰り返すと小数点第8桁までほぼ一致する。ニュートン法は有名なアルゴリズムの一種であり,これを題材にした入試問題も多くみられる。
高校生のうちは基本的に「解ける」問題にしか出会わない。しかし,実際の世の中には解けない問題が(数学や自然科学に限らず)数多くあるため,社会では知恵を振り絞って「解らしきもの」を出して物事を進めることが多くなる。

2年生のうちはその練習のために「分からないから解き方を覚えよう」という姿勢ではなく,自分で試行錯誤するという習慣づけをできるといいかもしれない。


  

4.おわりに

論理構造がわからずに大人からただ教わって覚えて使っていることは,生徒にとって面白くもなければ身に付きもしない。また,今回扱ったハノイの塔やニュートン法は大人や専門家からしたら当たり前のことでも,その当たり前のことを自分で発見する過程が生徒にとって喜びなのである。教わった公式を使うのではない,“ゼロから発見する喜び”である。

本校には理数科の課程もあり,2年生で「課題研究」を履修している。数学のような基礎を積み上げていく学問において,高校生で扱える新しいテーマを見つけることには毎年のように苦慮している。しかしながら自ら学び続ける生徒を育てるといった視点で考えれば,我々大人には結末が見えてしまっていても,それを見守って育てる姿勢が大切なのであろう―先人たちがすでに登ってきた山に挑戦する若者を見守るように―。本で見て知っている山頂からの景色であっても,自分の足で登って見える景色は格別なのだから。