共通必履修科目としての「情報Ⅰ」の授業実践

元福岡県立福岡高等学校教諭 跡部 弘美

1.はじめに

平成28 年12 月の中央教育審議会答申で共通教科情報科における平成21 年改訂の学習指導要領の成果と課題の中で「情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し,受け手の状況等を踏まえて発信・伝達できる力や情報モラル等,情報活用能力の充実」と「情報の科学的な理解に裏打ちされた情報活用能力の育成1)の重要性が指摘された。それを受けて今回の学習指導要領の改訂が行われ,共通教科情報科の共通必履修科目として「情報Ⅰ」が設けられた。
情報Ⅰの内容としては以下の4分野(1)情報社会の問題解決(2)コミュニケーションと情報デザイン(3)コンピュータとプログラミング(4)情報通信ネットワークとデータの活用があげられている。また,共通教科情報科の学びによって身に付けた能力や態度を他の教科・科目等の学習や様々な生活の場面でも積極的に活用していくことが重要であると記されている。そのため,ここに示す実践例は情報の教科にとどまらず様々な場面での実践を紹介している。

2.授業等での実践

(1)情報社会の問題解決

A.情報技術の適切な活用

現代はインターネットの普及で情報があふれている。情報活用能力を身に付けることが情報の目標であるが,そのためには先ず,情報社会の問題点を知ることが重要である。先ず問題点を知り,それを踏また上で初めて情報は活用できる。大きく2つの側面,セキュリティと情報モラルがあげられる。
授業でも最初に情報セキュリティと情報モラルから始めるとよい。情報の授業の中では情報活用の促進や個人を守るための法規や制度等を学び,実際にどのようにしたら自分のプライバシーを守ることができるかを各自で考え,共有するようにする。企業や国等の行政においても情報を守らなくてはいけないし,漏えいさせてはいけない。コンピュータウイルスの感染やサイバー攻撃等からどのように情報を守るかについての実際の対策を学ぶ。また,自分が情報を発信するにあたって気を付けなければいけないことを考え,グループ,クラスで共有する。これらは,ネット社会だけではなく,実際の生活の中でも常々気を付けなければいけないことであり,情報の授業以外の教科や学校行事等でも繰り返し触れるとよい。以下に人権学習等で取り上げた例を紹介する。
SNSでの誹謗中傷がどのような影響をもたらすかについては人権学習として取り上げた。グループチャットの会話でどのように個人が追い詰められていくか具体的に提示した。何が問題だったのか。自分だったらどんな発言が有効だと思うかをグループで話し合って発表した。SNSの怖さや他人ごとではないことが実感できたようだった。
また,コロナ禍においてはコロナに罹った人に対する誹謗中傷やコロナに関連する間違った認識等がSNSで広がっていることに対して,何が正しいのか,1次情報等情報の信頼性についてもグループ討議を行った。
薬物乱用防止やインターネットでのトラブルについては警察等の外部の方に話していただき,個人情報や位置情報に関する注意点,SNSの公開範囲等のアクセス制御,トラブルに巻き込まれた時の対処法について教えていただいた。それをもとに感想を述べ合った。
このように,情報の授業以外でも様々な時間を通して情報社会の中で生きる心構えについて考える機会になっている。

B.問題解決プロセス

情報社会の問題点に触れた後に実際に問題解決のプロセスを通して,情報活用を体験する。ここではグループでPDCAサイクルを何回も回すことで,「主体的,対話的で深い学び」につなげる。情報発信で気をつけなければいけないマナーをもう一度確認する。特に著作権や肖像権等には注意しなければいけないこと。他人の論文や書籍等の著作物を引用するときには引用したことがはっきりわかるように書いたり,出典を明らかにしたりすること等を確認した。そして,より主体的になるためにはアウトプットを予告することが大切である。そうすることで初めて主体的になることができる。
先ず,この問題解決のプロセスは調べ学習から始めるとよい。調べ学習をどのようにまとめるかは(2)コミュニケーションと情報デザインの「情報の構造化」とも関連がある。文章の構造を考えることで内容の理解につながり,アウトプットにも生かすことができる。アウトプットはグループの代表が発表する形式ではなく,全員が1回は発表するポスタ―ツアーがよい。ポスターツアーで全員にアウトプットさせることは一人ひとりが学びの責任を持つことにつながる。そうすることで主体的になる。
ルーブリックを準備して到達目標を明確にした。ルーブリックは評価の基準であるが,高評価はこちらが意図する到達点でもあるので,生徒に目標をはっきり示すことになる。
総合的な探究の時間の「課題研究」等はその後に行うことで,探究のサイクルが回り思考を深めることができる。情報以外の教科でも,調べたり考えたことをまとめて発表したりする機会を多く作ることは,生徒が主体的に学ぶ態度が養われ,達成感も得やすい。
私は生物の教員でもあるので生物の題材を使ってポスターツアーを行った。その前に,繰り返しになるが,情報発信時の注意点(著作権,肖像権,個人情報の注意,引用について)についての説明も行った。

【生物基礎「生態系」のポスターツアー】

エキスパート活動課題(番号はエキスパートグループ)
①⑥針葉樹林・ツンドラ・砂漠,②⑦夏緑樹林・照葉樹林,③⑧熱帯多雨林・亜熱帯多雨林,④⑨硬葉樹林・ステップ,⑤⑩雨緑樹林・サバンナ
①~⑩の4人一組のエキスパートグループで,それぞれのバイオームについて調べてポスターにまとめていく。ポスターはA4用紙を単位として,グループ内で手分けして作成し,それを貼り合わせ1つのポスターにする。それぞれの課題のエキスパートになる。

発表の様子

ポスター

ポスターが完成するとポスターツアーグループにグループを編成し直す。ポスターツアーグループはエキスパートグループ①~⑤,⑥~⑩を2つに分けて編成する。①~⑤から1人ずつ5人で1グループを作る。①~⑤までのメンバーが1人ずつ入って5人のa~dのグループができる。a~dのグループはポスター①~⑤を順に1つずつずれながら巡っていく。そして自分が作ったポスターの前に来たとき,自分のポスターを説明していく。同様に⑥~⑩からe~hグループができ,ポスター⑥~⑩を順に巡っていく。必ず1回は自分のポスターのプレゼンテーションをすることになる。

(2)コミュニケーションと情報デザイン

A.アナログとデジタル

アナロジー思考について講義を行った。未知なことを理解するためには,アナロジー思考が役に立つ。未知のもの,抽象的なものと類似した既知のもの,具体的なものとを対比させることで未知のものの理解が深まる。時間の概念を理解していくときに日時計の影の動きと対応させていくこと等を例にあげた。さらにそういう経験について,グループで意見を出し合った。
その後,アナログ表示とデジタル表示についてどちらの方が精度が高いか,何故そう思うか等について考えさせた。
体重計や時計等のデジタル情報はどのようにして求められているのかを考えさせて,デジタル情報はアナログ情報の四捨五入したものであり,アナログ情報の方が自然界に存在するものをそのまま示していること,よってデジタル情報は誤差を含んでいることに気づかせる。視点を変えて便利さから見るとどちらの情報が使い勝手が良いかについて考えてさせた。値を読む時やコピーする時はどちらの方がやり易いか等の質問を投げかけた。
誤差についても深めていく。有効数字の意味について考え,その後有効数字の四則演算後の有効数字がどうなるかを誤差から考えさせた。便宜上加減のときは,有効数字を位の高い方に合わせ,乗除のときは桁数の少ない方に合わせている。これは何故なのかを誤差を含む数値から考えさせた。
また,ノギスでものを測る体験を通し,主尺と副尺のしくみについて説明した。アナログで最小メモリの次の細かいメモリまで正確に測る方法について理解を深めさせた。

B.プレゼンテーション

プレゼンテーションはコンピュータとプロジェクターを用いて行うと思いがちだが,紙芝居風にアナログでプレゼンテーションを行うこともできる。気軽に紙と鉛筆を用いて行うことができるので,時間も手間も削減できる。川嶋直氏の考案したKP(紙芝居プレゼンテーション)法2)があるが,これをさらに1枚にまとめて皆川雅樹氏3)が活用したKPシートを用いた。スライドを漫画のコマの感覚で捉えて描くことができるので自分の考えがコンパクトにまとまりやすいし,発表も少人数で行うことができ,時間の短縮にもなる。いくつかの課題に対してエキスパート活動でKPシートをそれぞれが作成し,これをもとにジグソー活動で全員がアウトプットを行う。このKPシートをスマホで写真を撮りプロジェクターに映し出して,クラス全員に共有することもできる。進路志望動機についてのプレゼンにも使ったし,教科の内容理解にも使った。以下生物の実践を紹介する。

【生物基礎「免疫」のKPシートを用いたジグソー法】
免疫の病気との関連のところで「A免疫不全」「Bアレルギー」「C自己免疫疾患」「D免疫の利用」の4つのテーマで行った。

4つのテーマのKPシート

(3)コンピュータとプログラミング

私は大学,大学院とショウジョウバエの集団遺伝の研究を行っていた。そこでFortranを使ってプログラムを組み,データを解析した。この経験は他の言語でプログラムを組むのに役に立った。ScratchがMITメディアラボから無償公開されて誰でもプログラミングができる環境があるので,プログラムを組んでみた。コロナ禍だったのでオンラインで公開講座を開いた。ただScratchでプログラムを組むのではプログラミングに興味を持ってもらえない。そこでフェルトボール算数4)を考案した上野真弓氏からScratchで目付字をプログラミングしてはどうかとアイデアをもらった。目付字は江戸時代に広まった和算である。目付字を取り入れることで,ゲーム感覚でプログラミングに興味を持ってもらうことができるのではないかと考えた。
目付字はトランプの数当てゲームと同じ仕組みである。2進法の考えが基本にある。目付字を取り入れることで同時に2進法についても学びを深めることができる。2進法はコンピュータが使っている数字として(2)コミュニケーションと情報デザインのところで学んでいるが,2進法を活用することによってこのようなゲームができること,また江戸時代にこのようなゲームを楽しむ文化があったことも知ることができる。
今回はトランプの代わりにいろはかるたを用いた。47枚の絵札を「い」から順に並べる。
先ず,47枚の絵札のどれか1枚を心の中で決めてもらう。そしてこちらが準備した6つのステージごとにその絵札があるかどうかを答えてもらう。1ステージ目にあったら1を,2ステージ目にあったら2を, 3ステージ目にあったら4を, 4ステージ目にあったら8を,5ステージ目にあったら16を, 6ステージ目にあったら32を,そしてそれぞれになかったら0を足していく。合計の数字が決めた絵札の番号になる。なぜ心の中で決めた数字を当てることができるのか。不思議がる生徒は必死でその仕組みについて考え,そのプログラムに興味を持つ。高校でのプログラミングの導入に用いることができると思う。

Scratchで作ったプログラム

47枚の絵札から1つ心の中で決めてもらう

筑前今宿歴史かるた

6ステージのうちの3つ

6ステージのうちの3つ

(4)情報通信ネットワークとデータの活用

A.データの尺度水準を知る

データを数値で示した場合,その情報の性質により①名義尺度,②順序尺度,③間隔尺度,④比例尺度に分類される。それぞれの尺度の定義を理解した後,身近なところで4つの尺度の例をグループで考えさせる。時刻と時間やサッカーの勝ち点等はどの尺度なのか等身近な数値について可能な計算はどのようなものがあるのかについても考えさせる。データがどの尺度であるのかを理解することで,データの扱いが異なってくるので注意が必要であることに気づかせる。

B.ヒストグラムとパレート図の作成

先ず,度数分布やヒストグラム,パレート図について説明をする。階級の幅によって度数の取り方が違ってくることや適当な階級の幅について考えさせる。次にあるクラスの身長のデータから度数分布とヒストグラムを作成する。手書きで度数分布を作成し,平均値や最頻値,中央値等のデータの代表値を求める。それをもとにパレート図を作成する。
パレート図はどのような意味があるのか,どのようなときに役に立つのか考えさせる。

C.テキストマイニング

テキストデータの分析のときに用いた。カフェのようなリラックスした雰囲気で対話を行うワールドカフェで模造紙に自由に言葉を書いてもらう。その文字データをテキストマイニングすることで統計データとして分析することができる。この文字を書き込んだ集団がどのような傾向になるかを知ることができる。
フリーソフトのテキストマイニングを使用した。以下は生物共通テストの振返り。

模造紙に自分の意見を自由に書き込む

フリーソフトによるテキストマイニングの結果

3.終わりに

情報活用能力は,あらゆる場面で役に立つ。その基礎基本を担うのが共通教科情報の情報Ⅰであるが,真に身に着けるためにはそれをいろいろな場面で活用することだ。また,デジタルに固執することなく,アナログの活用等柔軟に対応することが望ましいと思う。

<参考・引用文献>