高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
英語

Autonomous learner を目指した指導

長崎県立長崎北陽台高等学校 福田 ゆり子・濱栗 啓吾

1.はじめに

普段英語を使用する必要のない中で,外国語として英語を習得するには,授業ではもちろんのこと,毎日継続的にある一定量,家庭などでの学習も必要であることは言うまでもない。しかし実際には継続することは非常に難しい。続けられない要因は様々だと思うが,少なくとも本校の生徒にとっては,大きく2つのことが要因としてあげられるのではないかと考えている。1つは内的動機づけがうまくいっていないこと。2つめは,自分に合った学習方法を身につけられていないということである。

ベネッセ教育研究所による「高3生の英語学習に関する調査」(2015−2021継続調査)によると,中学1年時「嫌いで苦手」と答えた生徒は26.4%,高校1年時では36.6%,高校3年時は40.7%と学年が上がるごとに増えている。しかし,同調査内で「分かったり,通じたりすると嬉しい」と答えた生徒はどの学年でも8割を超えている。また,高校卒業時には,これからも教室の外で英語を勉強していきたいと答えた生徒は6割,さらに授業で「話す」+「書く」の活動をしていた生徒たちのうち,今後も英語を勉強したいと答えた生徒は8割ほどになる。一方で,英語を使う力を高める学習方法が分からないと答えた生徒は,「話す」+「書く」の活動の有無にかかわらず,6割にのぼる。このことから,分かる・通じる喜びや楽しさを感じられる機会が増えれば,もっと英語学習を意欲的に行ってくれるのではないか。そして自分に合った勉強方法を身につけられたら卒業後も英語学習を楽しんでくれるのではと考えてきた。

そんな中,令和3年度7月に本県の公立高校生徒に「1人1台」端末が貸与されたことをチャンスと捉え,以来その活用とALTとのティームティーチングなどをとおして,「英語が分かる・楽しい」を目指す授業と,学校と家庭での切れ目のない学習サポートに力を入れてきた。この場をお借りしてその実践を報告したい。

2.読むこと・聞くことが分かる喜び(インプット)

①ALT編集によるJournal

ALTに週2回ほど日本での観光やアメリカの文化について200語程度の短いJournalを書いてもらい,内容把握の問題と共にベネッセのクラウドサービスClassiで配信した。辞書なしでも読めるレベルの語彙で書かれており,写真も添付された読み物なので,生徒たちは興味をもって読んでくれた。

②英語学習者用書籍「Oxford University Press “Frankenstein”」を使った活動

1文1文を解釈することに意識を向けるのではなく,内容を楽しめるように,毎回タスクを準備して行った。まずは,ALTによるチャプターごとの読み聞かせから始まり,その後グループで物語を再度読みながら,タスクに取り組ませた(例:4コマ漫画で何が起こったのかを描こう, 登場人物の気持ちになって手紙を書こう)。タスクを完成させることに集中するので,分からない単語があっても読み進めることができていた。最初は,難しいと感じていた生徒もいたが,ストーリーが進むにつれて,英語で物語を読めることを楽しんでいた。

③CNNニュースのリスニング

Classiを利用して解答させ,音読用にスクリプトも一緒に配信をした。授業ではその確認として,ニュースのスクリプトのディクテーションを行った。自宅でできるメリットは,自分で繰り返し音声を聞けることである。学校であれば理解に関係なく決められた回数を一斉に聞いて答えないといけないが,自宅であれば繰り返し聞いて答えることができるので,より英語の音声になれることができる。また,自宅でオーバーラッピングやシャドーイングも行えるように取り組み方を説明し,音読まで行うように伝えた。

3.定着を実感する喜び(インテイク)

①洋書の読書

Frankensteinの活動を終えた後,生徒一人一人が気に入った洋書を読む活動である。

本校には700冊を超えるCambridgeやOxfordなどのレベル別ペーパーバックが準備されている。1冊の本を選び,15分黙読し,その後読み取った内容を2分ペアで伝えあい,また15分読むという活動である。読むことを目的としていたので,ALTとペアになった生徒以外は,日本語で伝え合うこともよいこととした。

②教科書の内容のリテリング動画提出・CNNニュース音声の提出

どちらもMicrosoft Teamsの課題機能を使って実施した。リテリングはカメラに向かって定められた時間内にレッスンの内容を伝える活動である。手元に持ってよいのは,キーワードが書かれたプリントのみで,ルーブリックを作成して注意すべきポイントを示したうえで実施した。また,CNNニュース音声の提出は,自分の好きなニュースを実際のアンカーパーソンになりきって読んで音声を提出する課題である。リスニング力向上にはただ聞くだけでなく音のつながりや強弱を意識して音読することも必要だが,音読をしたがらない生徒は多い。しかし,アンカーパーソンになりきって読むことで,何度も注意深く練習をし,実際の音声に近い音読ができるようになる。人前では,大きな声で読めない生徒も何度も練習を重ねて上手になりきって読んでおり,リスニング力向上につながったようだ。

4.書くこと・話すことが通じる喜び(アウトプット)

①パワーポイントや動画でのプレゼンテーション

教科書の題材に関連した内容でパワーポイントを使ってプレゼンテーションを行わせた。プレゼンテーション後は,内容についてALTやクラスメイトから英語での質問の時間を設けたので,よりインタラクティブな活動となった。また,地元長崎をPRする30秒ほどの動画もグループで行った。プレゼンテーションではどうしても辞書やインターネットで調べて作成した原稿を棒読みする傾向にあったが,動画カメラ目線で視聴者に分かりやすい伝え方にこだわるよう指示した。生徒たちは習った表現を使ってセリフや説明文を考えたので,聞いているほとんどの生徒が内容を理解でき,楽しめたようだ。また,おすすめしたい場所に出向いて楽しく演じながら英語を話し,笑顔で長崎の魅力をアピールする姿も見られた。

ALTとの質問時間の様子

プレゼン資料

地元紹介動画

②英語交換ノート

興味のあるジャンル(例:K-POPや野球など)ごとに4人ぐらいのグループで毎日1人ずつが英語でそのジャンルについて書いてくる活動である。週に1回ALTがノートに目を通してくれているが,あまり間違いの訂正をせずにコメントを書いてもらうようにしている。

③Microsoft Teamsを利用した英作文の提出

交換ノートとは別に週に1回こちらから出された話題について書いて提出する活動を行っている。授業で制限時間を設けて書き,ピアラーニングでスペルや文法,また論理的に書けているかなどのチェックを行い,その点を改善して自宅で訂正したものを提出する流れにしている。交換ノートとは異なり,自分の英文を添削,訂正してほしいという生徒の要望に沿ったaccuracyに焦点を置いた活動である。

④ALTの出身地の高校生との文通(希望者のみ)

ALTからの提案でスタートしたものである。この時代にあえて文通という手段で海外生徒とコミュニケーションをとるということに最初驚きもしたが,生徒たちはアメリカの高校生の直筆で送られてくる手紙にとても感動していた。教材とは違い,同年代の高校生が書く文章は新鮮なようである。

5.その他学習全般に対するサポート

①テスト終了後のMicrosoft Formsでのアンケートとコメント提出

点数だけでは分からないことを知ることができる機会としている。勉強の方法が分からない,または自分なりに考えているけれどあまり点数に表れない,などその悩みを知ることができるので,毎回テスト後に実施している。個別アドバイスすることができるので,生徒たちも自分のすべき学習内容が明確になっている。

②Classiを使っての演習問題を配付

授業で分かったことが違う問題でも解けるかを確認するために,週に1回復習として配信している。問題を基礎レベルから応用まで選ぶことができるので,様々な英語力の生徒に対応できる。また,結果が個人別に記録され難易度や分野ごとの正解率を確認できるので,自分の伸ばすべきところを確認することもできる。その記録を見ながら,長期休みの自学に役立てている生徒もいた。時には生徒からのリクエストで問題を配付することもある。

③グローバル人材育成事業のオンライン英会話

1,2年生の希望者に対して啓林館のスマートレクチャーコレクションを10月から実施している。月に2回教材のトピックに沿ってライティング課題を提出し,月に1回そのトピックに関する英会話をネイティブ講師とするオンライン学習を行っている。熱心に取り組んでいる生徒は,授業で100語程度のライティングを求めても上手に書けるようになっているし,何より英語で話すことがとても楽しいと喜んでいる。これが自信となり,英検やGTECのスピーキングでも臆することなく英語で話すことができた生徒も数多くいる。

6.おわりに

上述の実践を始めてから,まだ2年ほどしか経過していない。しかし,生徒たちはそれぞれの目標を掲げて,ディベート大会や海外研修,スマートレクチャーコレクションでのオンライン英語学習などに積極的に参加している。そのような生徒たちの取り組みが授業内で他の生徒の刺激となり,自分も英語をもっと勉強してみようという動機につながっていくことを期待している。グローバル社会の中で,英語は学校で学ぶだけのものではなく,多くの生徒にとってこれからの社会で様々な人とコミュニケーションを取り,そして生き抜いていくためにも重要なツールになる。その一助となるようにこれからも実践研究を進めていきたい。

<参考文献>