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英語

理系グローバル人材育成のための英語授業実践

立命館中学校・高等学校 武田 菜々子

1.はじめに

立命館高校は文部科学省の事業である,スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定をその初年度である2002年度から21年間連続で受けています。第Ⅴ期SSH(2020-2023)の先導的改革型における研究開発課題として,「科学教育のグローバルデザインと国際共同課題研究の全国普及を目指すシステムづくり」を掲げており,①これまで得てきた国際科学教育での成果を全国へ普及②本校の最も大きな成果である「国際共同課題研究」の取組を普及③一貫教育の学園ならではの優れた課題研究指導を軸として立命館型STEAM教育の創造④Japan Super Science Fair(JSSF)の継続的開催による高校生の国際的な発表機会の提供,ならびに,海外理数教育重点校との協力関係の強化のための事業を展開しています。
科学教育の国際化は,日本の未来を担う人材を輩出する上で火急の課題です。本校では早い時期から国際科学教育の重要性に着目し,国際的な舞台で活躍できる理系人材の養成に力を入れています。その中で,生徒につけたい国際力を「国や人類の将来のために科学で貢献しようとする使命感」,「世界規模で物事を捉える力」,「異文化の中でのコミュニケーション力」,「世界に通用するリーダーシップとそれを発揮できる語学力」,「未知の分野へ進んで挑戦する積極性」と整理しています。

2.国際科学教育の3つの柱

立命館高校の国際科学教育の3つの柱は「国際科学交流」「課題研究の英語での発表」そして最もシンボリックな取組として,毎年11月に本校が主催・運営を行う「Japan Super Science Fair(JSSF)の開催」があげられます。SSHの主対象生徒であるSSG(スーパーサイエンスグローバル)クラスの生徒たちが中心となって取り組んでいます。

〇 国際科学交流

世界中の様々な国の理数教育重点校と交流するプログラムを積極的に開発してきました。年間10数回,海外科学研修への派遣プログラムを実施しています(2020・2021年度はコロナ禍の影響で海外研修は未実施)。海外校での授業に参加するプログラム,海外校での特別プログラムによる科学研修,数学や理科の課題解決を競うコンテストへの参加等,様々な形態の科学研修を実施しています。また,コロナ禍では積極的にオンラインでの国際交流を行い,オンライン国際科学交流の手段も確立してきました。さらに,近年では,海外校と共同で1つのテーマを持って課題研究を行う「国際共同課題研究」の取組を重視しています。このような場で活躍できるよう,海外の高校生と積極的に会話をする力,議論する力,交渉する力をつけられるような英語授業を意識しています。

〇 課題研究の英語での発表

全校規模で文理ともに課題研究をカリキュラムに取り入れており,中でもSSGクラスの生徒たちは3年生になると全員がその研究内容を英語で発表します。質の高いプレゼンテーションと質疑応答を行えるよう,3年間の英語授業シラバスを作成しています。また,自身の発表と質疑応答だけでなく,課題研究の英語での発表を聞き,それに対して会場内で聴衆として質問する力の養成も英語授業に取り入れています。

〇 Japan Super Science Fair(JSSF)の継続開催

毎年11月に,高校生のための国際科学研究発表会,Japan Super Science Fair(JSSF)を本校が主催・運営して行っています。2003年に海外1校,国内2校が参加した小さなフェアから始まり,2019年には世界22カ国・地域から約300人の高校生が立命館に集いました(2020年,2021年はオンラインで実施)。サイエンスと英語を共通語として,研究発表やチームでのものづくりを行ったりするまさに夢のような5日間です。本校の高校3年SSGクラスの生徒全員が英語で研究発表を行います。生徒の自治が活発な立命館高校らしくこの国際行事も生徒が主体で運営します。この5日間を通して参加生徒たちは課題研究を世界に発信する喜び,達成感,自信,国際チームで共同する楽しさ,そして将来にわたって続く大切な友情を築き上げます。このような国際舞台でのリーダーシップを発揮できる生徒の養成を目指しています。

3.世界の舞台で活躍する理系人材養成のための英語授業実践

本校では毎年Japan Super Science Fairを開催しているという環境を生かし,SSGクラス3年生全員が課題研究の英語での発表を行います。研究発表の前段階として1年次にリテリングプレゼンテーションを,質疑応答の前段階として2年次に様々な形でのディベートを取り入れています。

(1)1年次の授業展開例 教科書の英文を活用したリテリングプレゼンテーションの実践

高校 1 学年の英語科目「コミュニケーション英語」においてRevised ElementⅠを使用し,徹底した音読ののちその内容を再現させるリテリングプレゼンテーションの指導を行いました。

活動 授業数〔50分〕
単語・フレーズの説明・音読 1
単語・フレーズの音読・暗唱 各セクション
×1.5
モデルプレゼンテーション
本文の重要構文説明・内容理解
音読活動
個人・ペアでの発表練習
まとめの発表 (前期はポスター,後期はPPT) 1

教員作成のPPTスライドやポスターを用いて練習させることによって十分なデリバリーを身につけさせ,その後少しずつオリジナルな内容を取り入れていきます。テキストの英文を原稿として使用し,また発表に使用するポスターやPPTスライドを教員が作成することによって,生徒がそれにとられる時間が省略でき,良質の英文を使いながら英語プレゼンのスキルに集中させることができることは効果的でした。
Revised ElementⅠでは,Lesson 3 の“Predictions of the Future”,Lesson 5の“Umami”,Lesson 6の“The Story of PlayPumps”,Lesson 7の”Biomimetics”など,写真やポスターを使用して相手に説明するのに適した英文の場合,クラス全体を聴衆としたリテリングプレゼンテーションをまとめの時間に設定しました。年度の後半になるにつれて,“The Story of PlayPumps”では,「学校内で活用できる新しい発明品+それに対するCriticismを含んだ議論」や,”Biomimetics”では「自然界をヒントとした新しい発明の提案」など,本文内容をもとに生徒の創造性を育む課題も設定しました。

このようなスタイルの授業は当然多くの授業時数が必要になり,毎レッスンで実施できるものではありませんが,1学期に1 Lesson程度,教科書を進めて行く中で説明文やプレゼンテーションの形で書かれている章は極力このスタイルでの指導を行いました。1年次に多くの音読やReproductionに時間を割くことで流暢さを養い,またデリバリーの基礎的なスキルを身につけさせたことが高校3年次での課題研究の英語での発表への良い流れになりました。

(2)2年次の授業展開例 教科書の内容を題材とした変形ディベートの実践

高校 2 学年の英語科目「英語2A」においては,Revised ElementⅡを使用し,英文を読み知識を得た後に,さらに調べた内容を加えて意見をまとめ,発話し,相手の反論や質問に答えるという,より実際の議論や会話に近いと考えるペアやプレゼン形式のディベートの実践を行いました。

【ペアディベート】

Revised ElementⅡの Lesson 5「Space Debris(宇宙ゴミ)」,Lesson 8「Selective Breeding(選抜育種)」に関連してサイエンスをトピックとしたペアディベートをそれぞれ1学期と2学期に実施しました。各レッスンの本文を読んで内容を理解したのち,ペアを組み肯定派・否定派を決めてから準備に1時間とりました。短い時間で効率的に準備できるよう,順に埋めていくと本番の準備ができるよう工夫したワークシートを作成しました。
当日は「1ペア対1ペア+Judge1 ペア」をひとまとまりとして12分間のディベートを42人学級のクラスで7本同時に行い,組み合わせを変えて3回実施するため,1つのトピックに50分間で全員が対戦2回,審判1回を行いました。

Affirmative Negative
Affirmative / Constructive Speech
Student A /1 minute Student B /1 minute
Listen and take notes
Listen and take notes Negative / Constructive Speech
Student C /1 minute Student D /1 minute
Preparation Time /2 minutes(作戦タイム)
Listen and take notes Negative / Rebuttal
Student C /1 minute Student D /1 minute
Affirmative / Rebuttal
Student A /1 minute Student B/1 minute
Listen and take notes
Crossfire /2 minutes(自由討論)

事後に実施したアンケートによると,この活動が難しいと感じた生徒が95%,面白かったと感じた生徒が88%,取り組みが自分の論理的思考力を上げたと感じた生徒が100%,自分の英語力を上げたと感じた生徒が93%でした。どの生徒も意見をすぐに出したり論理的に反論したり的を得た意見を述べる難しさを述べており,論理的思考力への意識付けに効果的であったと感じています。また,同じトピックで相手を変えて対戦を2回できるようなミニディベート形式にしたことから,1回目の反省を直後に生かすことができ,難しい活動ながら達成感を感じさせることもできました。

【プレゼンテーションディベート】

3学期の終わりには ,2学期のミニディベートを発展させてプレゼンテーションと組み合わせた,プレゼンテーションディベートを実施しました。生徒たちが投票で決定した,「Further development of AI (artificial intelligence) will be more harmful than beneficial to humans. (AI(人工知能)の更なる開発は人間にとって有益より有害になる)」や,「All high schools in Japan should introduce flipped classrooms.(日本のすべての高等学校は反転授業を導入するべきだ」など5つの論題で4人ずつの10チームがそれぞれ肯定派否定派に分かれ,舞台上でPPTを使用してそれぞれのトピックのプレゼンテーション形式の主張を行い,質疑や反駁の後,聴衆となっている残りのクラスメイト全員が Judge となり勝敗を決定しました。50分授業に2本のプレゼンテーションディベートを行うため,以下のような時間軸で行いました。

Affirmative Negative
肯定側立論<グループプレゼンテーション>(5分) Listen and take notes
Listen and take notes 肯定側立論に対する質疑<一問一答>(反対尋問)(3分)
否定側立論<グループプレゼンテーション>(5分) Listen and take notes
Listen and take notes 否定側立論に対する質疑<一問一答>(反対尋問)(3分)
作戦タイム (2分)
Listen and take notes 否定側反駁 (3分)
肯定側反駁 (3分) Listen and take notes

事後に実施したアンケートでは,この活動が楽しかったと感じた生徒が97%,難しかったと感じた生徒が95%,この活動が自分の英語力を上げたと感じた生徒が86%,論理的思考力を上げたと感じた生徒が95%,英語学習のモティベーションを上げたと感じた生徒が95%でした。記述感想では,「英語で質問したり質問に答えたりするのは多くの準備が必要だと思った。今回しっかり準備したので発言することができたが,その場で考えて発言できるような英語力を身につけたい。」「大変難しかった。特に質疑応答の時に,相手の質問を聞いてそれに沿った回答をしなければならないのが大変だった。ある程度予想はしていたけれど,やはり自分の考えていないことも質問された。こういう場面で自分と違う観点からの意見を交換しあえるというのはとてもよかった。」などと述べており,プレゼンテーションや質疑応答の力を伸ばすだけでなく,主体的に学習する姿勢も養うことができたと感じています。相手の質問を聞いて理解し,即座に応答するという活動が,3年次の課題研究発表後の英語での質疑応答におけるよい流れとなりました。

(3)3年次の活動 課題研究の英語での発表と質疑応答

3年次では前述したように,本校主催のJSSFにおいてSSGクラスの生徒全員が課題研究の英語での発表,また質疑応答を行います。2年半,教科書の英文を題材として英語授業内で培ってきたプレゼンテーション力,ディスカッション力,質疑応答力を毎年生徒たちがいかんなく発揮してくれています。

近年課題研究をカリキュラムに取り入れる高校が増えていますが,課題研究と英語授業というのは質の高いコラボレーションが可能であり,生徒自身の課題研究は英語プレゼンテーションにおける最高のコンテンツだと感じています。生徒それぞれに異なる内容を持っており,当然発表生徒が一年以上取り組んできた熟知している内容であり,またプレゼンテーションに最も大切な要素と考える,発表者となる生徒が「伝えたい」と思っている内容を素材として扱えるからです。また,聞く側の聴衆が「新しい情報を得られる」時間となることもプレゼンテーションとして大切な要素だと思います。このようなことから,課題研究の英語での発表というのは非常に有意義なものであり,今後,高等学校において課題研究をコンテンツとする英語発表活動がますます盛んになってくることと期待しています。

また,英語での質疑応答をこなすためには,「質問を聞き取る力」「多様な語彙力」「聴衆とのコミュニケーション力」「自分の言葉で自由に表現する力」そして「研究内容についての十分な理解」などが必要となります。高いゴールを置いて,3年間,戦略的に段階的に日々の授業において生徒たちが将来につながる英語運用力を得てほしいと願っています。

4.おわりに

本校での国際科学教育に携わる中で,多くの大学の先生方からも理系グローバル人材の育成が日本の将来のための最重要課題の一つであると伺います。初等・中等教育においても重視していく必要がある課題だと考えています。残念ながら世界の中で日本の高校生の英語運用力は高いものとはいえず,まずは,国際舞台で自信を持って伸び伸びと活躍できる英語力が育つ授業が求められているのだと認識しています。今後も多くの先生方と連携してより良い英語授業の開発を続けていきたいと願っています。