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英語

ELEMENTⅠを用いたCLIL型授業(世界史✕英語)

埼玉県西武学園文理中学高等学校教諭  土屋 進一

はじめに

  近年,「内容言語統合学習法」(Content Language Integrated Learning, 以下CLIL)が注目を集めている。CLIL とは,教科内容と第二言語を合わせて学習する言語学習法であり,学習者が教科内容などを学習することを通して,第二言語も習得し,合わせて思考力や文化・共同体への意識なども養う包括的な学習法である(飯島, 2017)。具体的には,社会や理科などで扱われる内容と言語(英語)学習を統合したアプローチであり,1つの題材に対し,さまざまな言語活動を行うことで,英語の4技能を高めることが期待されている。筆者は,教材研究を進める中で,特定分野を専門としている教師の支援が授業内で行われれば,学習者をより深い理解へと導くことが可能ではないかと考えた。英語の文法・語彙・表現などをより高い水準で運用する能力を養う授業を実践するため,筆者は,世界史の教員とのCLIL型の協働授業を行うに至った。

1.使用教材:『Revised ELEMENTⅠ』(啓林館) Lesson 10 Playing the Enemy

〔本文の要旨〕
  ネルソン・マンデラは,27年間の投獄生活から解放された後,1994年に南アフリカ大統領となった。同年にアパルトヘイトは終焉を迎えたが,黒人と白人の溝は埋まらなかった。そのため,マンデラは,国民を一つにまとめるためにラグビーを活用した。南アフリカ代表チームスプリングボクスは,マンデラが投獄生活を送った独房を訪れ,マンデラの真の思いを知る。スプリングボクスが自国開催のワールドカップで次々に勝利を上げると,国民の雰囲気も徐々に変化を示した。決勝でニュージーランドを延長戦の末,勝利すると国民は一つとなり,マンデラの思いは結実した。
〔本文省略〕

2.指導生徒

高校1年生英語科21名 (男子5 名 女子16名)

3.指導手順・指導内容

  本授業は,一通り本文全体 (Lesson 10 Playing the Enemy) の指導を終え,Post-readingとして本文のより深い内容理解を南アフリカの歴史的観点から図る目的で行った。
  まず,導入として,既習内容の確認をクイズ形式でペアの協働で行った。
次に,展開として,南アフリカの1961年から1994までの国旗(図1)を見せ,国旗の中に別の3つの国旗があることに気づかせた後,それらがなぜ描かれているか話し合わせた。その上で,その3つの国旗が南アフリカの歴史とどのような関係があるかを世界史の教員に次のように説明してもらった。


(図1)

「まず,オレンジ,白色,青色で構成されている図1の国旗の色には意味があります。これらは,オランダ独立の父と言われる指導者,オラニエ家の旗を表しています。中心に描かれている3つの旗は,左からそれぞれ,イギリス国旗(ユニオンジャック),オレンジ自由国,トランスヴァール共和国です。真ん中と右側に共通する国旗が描かれていますが,どこの国の国旗が分かりますか?(複数の生徒が「オランダ」と発言)-そうです。つまり,イギリスとオランダによる植民地の歴史がこの国旗には描かれているのです。」(以下,大航海時代から南アフリカ戦争までのイギリスとオランダによる植民地化の歴史を概説)

  このような世界史の概説を可能にした背景には,本年度の高校1年の世界史の授業で,あえて第一次世界大戦以降の20世紀の歴史から入り,古代に戻って授業を展開していたことが理由として挙げられる。それゆえ,セシル・ローズの絵をスライドで投影した時の生徒の表情から「つながった」という気づきの瞬間を垣間見ることができた。
  さらに,世界史の教員が,図2左のアパルトヘイトに対抗した先住民の組織であるアフリカ民族会議(African National Congress, ANC)の旗と図2右のオランダ国旗,英国旗が統合して図3のような新しい南アフリカの国旗ができたという説明を行ったとき,教室全体が沸き,喚声の声が上がった。この時の生徒が見せた気づきの表情は,世界史の授業による既存情報と英語の授業で得た新情報が結びついた瞬間でもあった。


(図2)

(図3)

  その後,図3の南アフリカの新しい国旗について黒,白,赤,青,緑,黄色の6色がそれぞれどのような意味を持っているかを英語の教師が,次のように英語で生徒に問いかけを行い,生徒から英語で答えを引き出した。

Q. What do the six colors of the flag mean?

A. Black means black people. Red means blood. Yellow means natural resources, such as gold. Green represents nature. Blue represents the sea and the sky. And white represents white people and peace.

この活動を終えた後,Reading活動として世界史教員が行った解説を踏まえ,南アフリカの歴史について教科書ELEMENTⅠの英文(Speed Reading)を読み,内容理解を深めた。
  最後にSpeaking・Writing活動として,世界史の教員から得た南アフリカの歴史に関する背景知識と読んだ英文の表現の統合化を図るべく,南アフリカのアパルトヘイト制度を表した4枚の写真を提示し,ペアでSpeaking活動を行った。背景知識を踏まえた内容を英語で表現することがかなり難しいことを生徒にあえて最初に体験させた上で,Speaking活動後に,話せなかった,あるいは,話したかったことをWriting活動として辞書や教科書本文を用いながら写真を英語で描写させた。
  Writing活動に入る前にも世界史と英語の教員による協働授業が行われた。世界史と英語の観点から,写真を描写する際に背景知識に関する質問がある生徒は,世界史の教員に,英語表現に関する質問は英語教師に質問するよう促した。すると,双方の観点からの質問が飛び出し,両教員は机間巡視をしながら個別指導にあたった。この時,筆者が感じたのは,PPP(presentation, practice, production)とCLILの関係性である。このことに関して,Ball, P., Kelly, K., & Clegg, J. (2016)は,次のように述べている。
  In CLIL, by reversing the old ‘PPP’ notion (presentation, practice, production) and treating learners as if they have something to say, ‘supporting output’ is surely facilitated. (p.186)

  このように,内容と言語を同時に学び,使用することが生徒の動機付けを高め,理解や定着を促進させるのである。
  最後にもう一度ペアで写真描写のSpeaking活動を行い,授業全体の振り返りを行ってこの授業を終えた。

【Writing Taskの模範例】

This picture shows the racial discrimination between white and non-white in a public place. In South Africa during the Apartheid era, in public facilities such as beaches, black and white were clearly separated from each other.
(太字の下線部は,使用させたいターゲット表現)

このような世界史教員とのCLIL型授業は,学びと定着に関して,「学びと定着は,外から入ってくる新情報と,学習者が既に持っている既知情報を密接に結びつける結果として起こる。」(和泉2016, 78)と言えることを再確認することができた。さらに,以下の生徒の振り返りシートからも分かるように,定着には知識の広さや深さがつながりをもってなされることが改めて実感できた。

【振り返りシートより】

「背景をよりよく学んだことで,ネルソン・マンデラの偉大さがより理解できました。そして,古い国旗と新しい国旗の違いとそれらを国民が使うことの意味の重大さも知ることができてとてもおもしろい授業でした。」

「南アフリカにはとても悲しい歴史があったことがよく分かりました。世界史と合同で授業することによって内容理解がとても深まったと思いました。」
「このような授業でも普段やっている授業の内容が全部つながっているのがおもしろかった。」

4.おわりに

  今回,世界史✕英語のCLIL型授業を実践してみて感じたことは,1学期に世界史の授業で学んだ内容を3学期に英語の授業で応用したことで,生徒の理解がさらに深まったことである。教科の枠を超え,時間軸にしたがって適切な時期に関連した内容を学ぶことは,生徒にとって個々の知識が「つながった」と思える瞬間であり,ひいてはそれが,その後の「主体的・対話的で深い学びの実現」につながるのではないだろうか。このようなCLIL型の授業を成功させるためには,無論,教科の枠を超えたカリキュラム編成や各教科の教員同士の綿密な打合せなど様々な課題もあろう。しかし,まずできるところから始め,生徒の心に火をつけることが何より大切ではないだろうか。

謝  辞
  本授業を行うにあたり,本校社会科の釣井史子先生には,授業当日の指導のみならず,指導案作成から授業実施に至るまでの打合せにおいて多大なるご協力をいただきました。 ここに心より感謝申し上げます。

◆参考文献

Ball, P., Kelly, K., & Clegg, J. (2016) Putting CLIL into Practice. Oxford: Oxford University Press. 飯島 淑江(2017)「高等専門教育におけるCLIL 実施の検証-3種のパイロット授業を通して-」沖縄工業高等専門学校紀要 第11号:p. 9-24, 2017
池田 真 (2011)「CLILと英文法指導--内容学習と言語学習の統合」『英語教育』October, pp.34-36
和泉 伸一(2016)『フォーカス・オン・フォームとCLILの英語授業』(アルク選書)
泉恵美子・門田修平編著(2016)『英語スピーキング指導ハンドブック』(大修館書店)