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理科

中学校理科(エネルギー分野)における実験授業の記録(2020年-2023年)

岡山白陵中学校・高等学校 安原 晋介

1.はじめに

科学的に探究する力と態度の育成のためには,観察や実験が極めて重要な活動であることが,中学校学習指導要領に記述されている。また,新しい時代に必要となる資質・能力(3つの柱)の育成のための,主体的・対話的で深い学びには,見通しをもって観察,実験を行い,得られたデータを分析して解釈し,適切な判断を行うような活動を経験させることが重要であることは言うまでもない。

本稿では,上記の内容をにらみつつも,生徒の実情に軸足を据えて行った,中学3年間のエネルギー分野の授業実践を紹介する。学校や学年によって,生徒が抱えている課題,育みたい能力はさまざまであると思うが,ご指導の参考になれば幸いである。

2.本校の中学校のカリキュラム(授業進度)

本校の授業は1コマ50分の7限授業であり,週単位の授業コマ数は,中学1年5コマ,中学2年5コマ,中学3年6コマと,現行課程の標準授業コマ数(中学1年3コマ,中学2年4コマ,中学3年4コマ)に比べて余裕があるため,実験や観察授業を行いやすいカリキュラムとなっている。また,各学年とも各科目(物理,化学,生物)を専門とする教員が各分野を担当して授業を行うため,高校範囲まで内容を深めた授業を行うことも可能である(地球分野については,学年担当で相談して授業を実施)。さらには,中高一貫校であることから先取学習を実施しており,中学2年間で中学校内容を終了させ,中学3年生より高校の基礎科目に入る進度を基本としている。しかし,進度については,生徒の現状を踏まえて,各担当教員で柔軟な対応をしている。

3.2020-2022年度の授業実践報告

私がエネルギー分野を3年間担当した学年(2020-2023年度)の授業実践記録を,実験を中心に紹介する。

(1)2020年度入学生の授業方針

2020年度入学生は,新型コロナウイルス感染症の流行のため,入学時期が6月であった。また,学習活動も感染拡大防止の観点から,実験室の利用について制限を設けていたため,1年次は演示実験や教室での対面授業が中心となった学年である。

授業進度については非常に悩んだが,これまでの経験をもとに,生徒の発達段階を踏まえた学習内容の理解度および定着度を十分に考慮し,1年次は地球分野のみを進め(サイエンス1,2の地球分野をすべて学習),2年次よりエネルギー分野の学習に入ることとした。

※サイエンス3の地球分野については,中学2年時に生命分野担当の教員が授業を行った。

(2)エネルギー分野の実験授業記録

以下は,中学2年~3年生(2021-2022年度)のエネルギー分野の授業進度を,実施した実験項目でまとめたものである。2021年度より中学校新課程が全面実施されているが,サイエンス1につては旧課程の教科書を用いて学習を進めたため,現行課程と学習内容が若干前後している。

①エネルギー分野の実験授業記録

:教科書に掲載されている実験項目のうち実施した実験
:教科書に掲載されている実験項目のうち実施できなかった実験,または追加で実施した実験

学年 考査 実施実験(19項目) 教科書掲載実験(22項目)
2年 1中間 光の反射と直角合わせ鏡の見え方
光の屈折と全反射

サイエンス1

1-1 光が鏡ではね返るときの進み方
1-2 空気と水の間での光の進み方
1-3 凸レンズによってできる像
1-4 音のちがいと振動のようすの関係
1-5 力の大きさとばねののびの関係
1-6 2力がつりあうための条件

サイエンス2

2-1 回路に流れる電流
2-2 回路に加わる電圧
2-3 電圧と電流の関係
2-4 電流による発熱量
2-5 静電気による力
2-6 電流がつくる磁界
2-7 電流が磁界から受ける力
2-8 発電のしくみ

サイエンス3

3-1 水中の物体にはたらく力
3-2 角度をもってはたらく2力の合成
3-3 台車に一定の力がはたらき続けるときの運動
3-4 斜面上での台車の運動
3-5 道具を使った仕事
3-6 物体のもつエネルギーと高さや質量の関係
3-7 物体のもつエネルギーと速さや質量の関係
3-8 エネルギーの変換

1期末 凸レンズの光の進み方
凸レンズによってできる像
音の大小と高低,オシロスコープの
  • 波形
2中間 フックの法則
力のつり合い
  • [演示]作用反作用の法則
2期末 浮力の大きさを決めるもの
浮力による物体の密度測定
3学年末 直列回路の電流と電圧
並列回路の電流と電圧
オームの法則
3年 1中間
  • 回路全体の電気抵抗
1期末 ジュール熱
  • [演示]静電気による力
  • [演示]クロス真空計とクルックス管の陰極線
放射性崩壊と半減期
2中間
  • [演示]手回し発電機のエネルギーの変換
2期末 角度をもってはたらく2力の合成
一定の力がはたらく台車の運動
斜面を下りる台車の運動
3学年末 仕事の原理
位置エネルギーと運動エネルギー

(啓林館「未来へひろがるサイエンス1~3」)

※高校範囲まで学習内容を深めた項目

②実験授業の実施の選定について

教科書は,学習課題の解決の課程や思考のつまずきを非常によく考えた構成となっている。そのため,基本的に教科書掲載の実験は行うようにした。しかし,サイエンス2の電流と磁界の分野では,実験器具が十分にそろっていなかったことに加え,定性的な側面が強いため,映像を見せて実験の代替とした。

(3)実験授業の進め方

①実験の頻度

授業時数に余裕がありながらも,学習課題の解決のもととなる知識を学ぶ時間(教科書内容の理解)を考慮すると,生徒実験は定期考査ごとに2~3回が限界である。

②1時間の流れ

経過時間 活動内容・指示
10分

《生徒》・班(1班4名,10班)ごとに準備された実験道具と実験プリントを取る。
・実験プリントの本時のねらいを読み,黒板に書かれた実験の注意点を書き写す。

【教員】・注意点を確認しながら,実験内容や手順,役割分担を説明する。
※全員の生徒が活動できるように,役割分担を指示する。

20分
~30分

《生徒》・実験開始。
 ※実験が終了した班ごとに片付けを行う。

【教員】・実験上の注意点を,机間巡視をして確認する。
 ※生徒の協働的な活動・課題解決能力の向上を大切にするため,指示を与えすぎず見守る。
・実験の進捗状況を見ながら,残りの活動時間の指示。

10分

《生徒》・実験結果の共有と確認,データ処理。

【教員】・まとめと考察をする。

ホワイトボードで座席の指示や役割分担の指示

黒板には実験上の注意点や実験結果を記録

実験の様子(物体のもつエネルギー)

実験プリント

③その他の留意点

役割分担などで,ある程度行動を制御することで,実験中の安全,安心を確保している。

4.実験授業の成果と課題

実験授業における生徒の成長と今後の課題(指導上非常に苦労した点)を以下にまとめておく。

[成果]

①実験スキルの向上
実験手順の把握や実験精度を保った上での作業スピードは,実験を重ねるごとに確実に向上した。特に,電気回路の実験では,回路の作成や電流計や電圧計の接続,電源装置の操作など,作業量が多く十分な手順の理解が必要なので,放課後の補講も覚悟をしていたが,そのようなことは全くなく,結果の共有や考察,片付けも含め時間内に終えることができたことは,非常に驚きであった。また,実験結果をグラフにまとめ,定性的な理解につなげる力も向上した。

②科学に関する興味関心の向上
実体験をともなう学びの実践が実験である。目の前の不思議な現象に感動し,それを科学的に理解する課程を経験することは,偉大な法則が生まれたプロセスの追体験であり,科学への興味関心を高める貴重な機会である。中学生は,素直な反応をみせてくれるので,教員も科学の魅力を再認識することができる。

③協働的に学ぶ力やコミュニケーション能力の向上
役割の分担を指示しているが,互いの作業を確認し合いアドバイスをしながら理解を深め,より正確で精度の高い実験を行おうとする姿が,各班で見られた。この姿は,主体的・対話的で深い学び,つまりアクティブ・ラーニングの基本であり,今後の学びの土台となるものである。

[課題]

①然るべき結果(定量的・定性的が当たり前)を求めてしまう
授業で生徒が行う実験は,大抵意図した結果を得やすいものである。実験がうまくいかない場合の原因のほとんどは,実験の段取りが悪かったり,注意不足やスピーディーさに欠ける場合が多く,教員もそれについて生徒にシビアに指導してしまいがちである。そのため,生徒たちもそれを察して,周りの班の結果にアンテナを張り,自らの班の実験がうまくいっているかどうかを判断している。しかしながら,実験結果のゆらぎの部分の考察にこそ,実験本来の面白さや,学習の深まりがあるはずである。教員側も含め,定量的,定性的であることばかりに注力せず,結果のゆらぎにこそスポットライトを当て,原因や解決策を考えて再実験をさせたり,新たな学びにつなげていく余裕をもたなければならない。

②複雑なデータを整理する能力の育成
実験で,変化させた値に対する変化した値の数が1対1の対応関係であれば,結果をグラフにまとめたり,定性的な関係を見出すことを容易にできるが,それ以上になった場合の処理を苦手とする生徒が非常に多い。つまり,どの要因が結果に影響を与えたかを考え,条件制御により正しく実験結果を比較する能力が不足していることを意味する。今後,学習内容が進むにつれて,複雑な設定の実験やグラフの読み取りが増えてくるので,早急に身につけさせたい科学的思考の一つである。

③実験レポートの作成
現在,実験のまとめは,私が作成した実験プリントで行っているが,実験テーマについて理解を深めたり,表現力を育成したりするためにも,生徒自ら実験レポートを作成させたい。提出されたレポートの点検や書き方の指導を考えると,相当な苦労が予想されるが,主体的にデータの扱い方や表現方法,科学的な考察を経験することで,大学進学後の高度な研究活動の基礎となる技能と態度を養えることには大きな意味がある。

5.まとめ

私が実験授業を通して思うことは,実験授業が生徒の能力の向上や科学的思考の育成など,学習効果として非常に高いものであり,やはり直接体験が基本であるということである。しかし,その準備の大変さ(実験プリントの作成,器具の調整・準備,予備実験,片付け,プリントの点検など)や授業進度を気にするあまり,実施が見送られるケースが多い。また,最近ではICTの活用の観点から,観察や実験の代替えとして,安易に動画を活用する場面も見られることは,非常に残念である。

実験授業は,科学的思考の土台づくりの時期である中学生において,非常に重要な役割をもっている。実験至上主義に陥ってはいけないが,目前の生徒の科学的に探究する力や態度を育む活動は大切にされなければならない。私自身の理科の指導力の向上にもなるので,今後もより一層の観察,実験授業の充実を図りながら指導していきたい。

<参考文献>