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理科

電子の流れをイメージさせながら展開する「電流」の授業

滋賀大学教育学部附属中学校 多田 尚平

1.はじめに

理科の学習内容は,エネルギー・粒子・生命・地球の4つの柱で構成されている。この中で,エネルギーの分野(物理分野)の学習内容は子どもたちにとって,苦手意識を持ちやすいものである。科学技術振興機構 理数学習支援センターが平成24年度に行った調査でも,理科の学習が好きかどうか尋ねた質問に,「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と答えた子どもが60%を超えるのに対し,物理(つまりエネルギー分野)の勉強は好きかどうか尋ねた質問には,「そう思う」,「どちらかと言えばそう思う」と回答した子どもは約45%にとどまっている。この違いの理由として,エネルギー分野の学習は,現象を通して学ぶもので,具体的な実物が存在しないためであると考えられる。内容を身につけるためには,何が起こっているのか想像する力が求められる。

「電流の性質とその利用」の単元は,二年生におけるエネルギー分野の学習として扱われる単元である。子どもたちは,小学校で豆電球と乾電池や手回し発電機を用いて電流の初歩的な内容について学習をしている。中学校では,豆電球を電熱線に,乾電池を電源装置に変えて,電流や電圧を測定しながら,オームの法則を学習する。また,電流が作り出す磁界や,電流が磁界から力を受けること,また,電磁誘導を学ぶ。いずれも導線を流れる電流をイメージすることが求められる。

2.単元展開の工夫

現行の学習指導要領から,電子線の学習が再び学習内容に盛り込まれた。電子線は,放電管を使って観察できる。誘導コイルや放電管を使ったときだけ,目に見えなかった電子の流れ,すなわち電流が目に見えるようになる。この点に着目し,通常は単元の後半に扱われる電子線の学習を一部分だけ,単元の始めに扱うことにした。導線の中を流れる電子(粒子)を強くイメージさせることがねらいである。導線を流れる電子をイメージできるようにしておくと,電気抵抗を理解させやすくなる。電子の通りにくさが抵抗であるからである。電圧を大きくすれば,それだけ電子がたくさん流れるので,電流が大きくなることも想像しやすい。

実際に行った単元の展開としては,次の通りである。まず,誘導コイルや放電管を使って,電圧を上げると電子の流れが見えるようになることを確認した。次に,中に羽根車が封じ込めてある放電管を使い,電子が-極から+極へ流れていることを確認した。そして,電熱線を用いた電流と電圧の関係を調べる学習へと進んだ。その後は教科書の単元構成通りに学習を展開していった。

3.授業実践事例

(1)2年生「電流の性質とその利用」(全30時間)

第一次 電流の正体
主な実験
ストローとティッシュペーパーで静電気の性質を調べる。
誘導コイルを用いた放電の観察。
放電管を用いた放電の観察。
3時間
第二次 電流の性質
主な実験
豆電球に流れる電流の大きさを調べる。
直列回路や並列回路を流れる電流の性質を調べる。
直列回路や並列回路で色々な区間の電圧を調べる。
電熱線にかかる電圧と流れる電流の大きさの関係を調べる。
電流と発熱量の関係を調べる。
16時間
第三次 電流と磁界
主な実験
磁石のまわりの磁界のようすを調べる。
コイルのまわりの磁界のようすを調べる。
電流が磁界から受ける力を調べる。
放電管を用いた,電子線が磁界から受ける力の観察。
モーター作り。
電磁誘導を調べる。
直流と交流の違いを調べる。
11時間

(2)具体的展開事例 (第一次 3/3時間)

目標
放電管を用いた電子線の実験を通して,電子が-極から出て+極へ進んでいることを理解する。

学習内容・学習活動 指導上の留意点
導入 誘導コイルによる放電を観察する。

演示実験で見せる。

放電しているとき,電子の線がギザギザになっていることに注目させる。

空気の粒に電子が当たっているため,ギザギザになることを説明する。

誘導コイルの+極と-極を入れ替えても,同じような放電現象が見られることを確認させる。

展開 本時の課題
電子(⊖)はどちらの極から出ているのだろう。
本時の課題は黒板の決まった位置に書き,最後まで消さずに残しておく。
課題に対する自分の考えをノートに書く。

・-極は電子が集まっているからそう呼ぶのだろう。そうだとすると,+極から出ていると考えられる。

・両方の極から出て,飛び交っていると思う。

根拠のある自分の考えを書かせる。
<評価>根拠を明らかにしながら自分の考えをノートに書いている。(思・実)

放電管を知る。

ガラス管の中の空気を抜いていくと,電子が飛び出しやすくなってくる。

中に蛍光板しか入っていない,単純な放電管を使って説明する。
実際に電子線を見せる。

中に羽根車が入っている放電管を用いて,電子が飛んでいる方向を調べる。

演示実験で見せる。
電子が当たると,羽根車が回転し,さらに,押されて端まで進む。

実験結果をノートに書かせる。

結果から言えることを考察させる。
<評価>
電子の流れの方向を考察できる。(思・表)

結果
-極をつなげた方から,+極をつなげた方へ動いている。
十字形の金属板の方を+極にすると,放電管に十字形の影が映る。逆にすると映らないことを確認させる。
考察
電子は-極から+極へ飛んでいる。

中に十字形の金属板が入っている放電管を用いて,再確認する。
まとめ 本時の学習内容をまとめる。
電子は-極から出て,+極に移動している。



次時の予告を聞く。
乾電池と豆電球をつないだ簡単な回路でも,導線の中を電子が動いて,豆電球が光っている。
次時は実際に回路を作って回路に流れる電流を調べる。

4.おわりに

電流の性質とその利用の単元を指導するときにいつも苦慮する点があった。それは,オームの法則を子どもたちがなかなか理解できないという点である。電熱線や抵抗器を使って,何度実験しても,「分かった」と声をあげる子どもはそれほど多くならない。回路に流れる電流を水の流れで説明しても難しい。色々と試行錯誤するうちに,何かこれまでと違う,別の角度から学習させることを考えた方が良いのではないかと考えるに至った。ちょうどそのとき,電子線の内容が復活した。そこで,電流を電子(粒子)が移動していく現象だとすれば分かりやすいのではないかという発想を持った。実際に電子線から授業を始めると,色々な回路に流れる電流の大きさを平易に説明することができた。そして,オームの法則の理解が進んだ。

一方,電子線から学習を始めたことによる弊害もあった。それは,電子の粒一つ一つが動いていくものが電流だという間違ったイメージを持たせてしまうところである。実際の電流は導線中の自由電子が一度に同じ方向へ動く現象であるので,学習がひととおり終わってから,改めて,実際の電流について,概念を再構築する必要があった。今後は,この点について,解決できる指導の仕方を考えていきたい。

新しい実験・観察を組み入れるのでは無く,単元の展開の順序を検討することでも,子どもの理解を深めることができる。他の単元でも,検討を進めて行きたいと考えている。