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理科

成長のメタ認知と問い -教科書とOPPAの併用-

奈良育英中学校・高等学校 原條 靖之

1.はじめに

教育実践において「問い」が極めて重要であることは言うまでもないが,果たして私は効果的な「問い」を設定できていたであろうか。また,生徒たちは「問い」から十分な学びを得ているのであろうか。そのような不安から,2025年4月から教科書の問いをOPPAという手法を用いて活用し,生徒のメタ認知と学習の調整について実践することにした。今回はその結果について報告する。

2.OPPAとは

OPPA(One Page Portfolio Assessment)では,OPPシートの「問い」を活用し,生徒が学習後に自己の成長をメタ的に認知し,学びを調整するための補助を行う。活用するOPPシートは次の4つの要素で構成されている(図1)。
(a) 単元タイトル
(b) 学習の変容が見える「学習前後の本質的な問い」
(c) 学習過程で適宜記録する「学習履歴」
(d) 学習後に全体を振り返る「自己評価」
生徒は学習前に「本質的な問い」に解答した後,毎回の授業の最後に学習履歴の「問い」に解答する。そして最後に学習後に再び「本質的な問い」に解答するようになっている。さらに学習後には「自己評価の問い」に解答する。この自己評価こそがメタ認知の能力育成にきわめて重要な役割を果たす。

図2にOPPシートを介した学習者と教師の情報共有のイメージを示す。OPPシートを活用する利点は以下の4点にまとめられる。

図1 (a)単元タイトル,(b)「学習前後の本質的な問い」,(c)「学習履歴」,(d)「自己評価」

図2 OPPシートを介した生徒と教師の認知構造

3.OPPシートを活用した授業展開とその結果・考察

3-1.授業展開

中学生を対象とし,理科一分野の授業でOPPシートを活用した授業を展開した。授業時間は45分であり,大まかな内訳は次の通りである。

3-2.結果と考察

〇3-2-1.理解の明確化と深化

下の図1は生徒(中学1年生) が記入したOPPシートである。学習単元は「身のまわりの物質」であり,学習前後の問いは教科書の「学ぶ前にトライ!」の問いを利用した。第1章1節「物質の区別」では,物質には特有の性質があり,性質を調べることで物質を同定することができると学んだ。第1章1節学習後の解答では「銀の性質を調べるとともに,銀メダルの性質も調べる必要がある」と解答し(図1(b)),その一方で「銀の性質がまだわかっていない」とも解答していた(図1(d))。このことから,生徒は「学習によってわかったこと」と「まだわかっていないこと」が明確に区別できるようになっている様子が伺える。さらに,第1章1節学習後にまとめたノートには「物質には特有の性質があること」や「磁石につくことは金属共通の性質ではないこと」が記載されている(図1(e))。さらに第1章2節「重さ・体積と物質の区別」を学習した後には,密度により物質を区別する方法が書かれており,問いに対して十分に回答することができるようになっている。

〇3-2-2.アンケート結果

中学2年生と3年生を対象に,理科の学習に対する認識と自己の成長に対する認識を問うアンケートを2025年4月と7月に行った。その結果を下に示す。

質問① 理科の学習に対する認識
「理科が得意かどうか」という問いに対して「とても得意」「少し得意」「少し苦手」「とても苦手」の4項目の中から回答させた。

質問② 自身の成長に対する認識
「授業を通して,自分自身の理科への理解が深まったと感じますか」の問いに対して「とても実感する」「すこし実感する」「あまり実感しない」「まったく実感しない」の4項目の中から回答させた。

アンケートから,「理科一分野が得意かどうか」という問いに対して肯定的な回答(とても得意,もしくは少し得意)をした生徒の割合が4月時点で44.5%であったの対して7月時点では41.3%に減少していた。一方で,「自身の成長を実感するかどうか」の問いに対して肯定的な回答(とても実感している,もしくは少し実感している)をした生徒の割合は70.3%から74.7%に増加していた。
また,中学1年生を対象にOPPシートを活用したクラスとOPPシートを活用していないクラスにおける自己の成長に対する認識を調査した結果を下に示す。

アンケートの結果,自身の成長を強く実感している生徒の割合がOPPシート非活用クラス(9.4%)に対してOPPシート活用クラス(28.6%)が大きく上回っていた。
さらに,OPPシートを活用した授業展開に対する是非を問う質問(自由記述形式)に対する回答を一部抜粋したものを下に箇条書きで記す。

(肯定的な回答)

(否定的な回答)

〇3-2-3.考察

中学2年生と3年生に実施したアンケート結果から,学習の難度が上がっていることを実感している一方で,「理解が深まっている」と自己の成長を認識している生徒の割合が増加していた。また,中学1年生のOPPシート非活用クラスと活用クラスに対して実施したアンケートからも自己の成長を強く感じている生徒が多くいることがいた。これらはOPPシートを活用した結果であると考えられる。同様のことが自由記述のアンケートからも読み取ることができる。
また,成長のメタ認知以外にも,生徒の学習に臨む姿勢が向上したことや,OPPシートを通して,教師と生徒とのコミュニケーションが増え,生徒がどんなことを疑問に思っているかを確認できたことはOPPシートを活用して得られる良い側面であると考える。
しかしながら,アンケートの結果からOPPシートの成果や活用そのものに否定的な回答があったことも否めない。問いの設定や授業の展開を工夫し,一層効果的なOPPシートの活用が求められるであろう。

4.おわりに

今回の取り組みが生徒自身の成長に貢献できているという,一定の確信を得ることができた。特に「問い」自体は教科書の問いを利用し,OPPAを活用することで,問いの内容や活用方法を考える時間を削減しつつも,成果を得られた点は大いに評価できる。
一方で,時間不足による生徒へのコメントの不十分さや発問の内容・伝え方等まだまだ課題は残っているため,一層の工夫が求められるであろう。

【参考文献】